第150話 白龍神姫、降臨!
レイが遂に白龍神姫として覚醒します。
さて、天音とどうなるでしょうか?
side天音
戦神極祭二回戦……女体化したままだが、暗い気持ちを切り替えて勝利し、準決勝に駒を進めようとした矢先。
「だーかーらー!どうして僕を出してくれないんだ!?」
「あのね、ハクちゃん。この世界にはね、あなたの世界とは違うルールがあってね……」
どうしてか俺の契約聖獣になりたいとやって来たレイ。
流石に選手登録されてない契約聖獣を試合に出すわけにはいかないため、メンバーの中で唯一お母さん属性を持つ千歳が諭している。
なんだかんだで千歳の前世の天羅の存在が大きく、時折見せる母性が傷ついた俺を癒すことがある。
約五分の説得によりレイは頬を膨らませながらとりあえず納得してくれた。
「むぅ……」
「とりあえず、契約の話は後でな?」
「契約媒体は絶対に綺麗な道具を所望するぞ!」
「あの、まだ契約するとは言ってないよ……?」
レイの子供のように頑固な反応に思わず苦笑を浮かべてしまう。
でも何だか少し風音に似ていて可愛い所があるからそこもレイの良いところだと感じる。
「まあここまで来ちゃったんだし……とりあえず近くで試合を見るか!」
「うん、そうさせてもらう」
今から風音の所に戻るのはレイにとっても面倒なので、試合を近くで見てもらうことにした。
「天音達の戦い、この目に刻ませてもらうぞ」
「あはは。それは気合を入れなくちゃならないな」
「これを勝てば準決勝進出……みんな、頑張りましょう!」
千歳の言葉に全員が気合を入れて戦いの舞台となるAGアリーナのフィールドへと足を運んだ。
☆
side璃音
戦神極祭を行っているその裏で複数の影が蠢いていた。
「やるのか?」
「ああ。今回の任務は場をかき乱して、混乱に乗じての暗殺だ」
「この“タスク”を使えば……」
クククと不気味な笑いを浮かべる男達。
しかしそこに、男達を裁く四人の断罪者が近づいた。
「へぇ、そいつが聖獣殺しの兵器か……世も末だな」
「そうねぇ。どうしてそんな下らないものが生まれるのか不思議ね」
「簡単な話だ。聖獣を快く思ってない奴もいるって話だ」
「でもそう言う愚者に裁きを下すのが僕達の役目だよね」
四つの声に男達は
「だ、誰だ!?」
「ひ、氷帝に星姫!?」
「それに、桜花の断罪者に首斬りの斬罪者!?」
男達の言う氷帝はこの俺、蓮宮璃音で星姫は姉の花音。
桜花の断罪者と首斬りの斬罪者は言わずもがな冥界の申し子とソロモン73体目の悪魔であるサクラとイチだ。
本来なら相容れない俺たちがどうして結託して男達……犯罪者達と対峙しているのか。
その理由は至極簡単。
全ては天音達の邪魔をさせないことだ。
せっかく天音が楽しみにしている戦神極祭をこんな馬鹿な奴らに邪魔されたくない。
そこで俺たち天星導志は冥界の断罪者であるサクラと同盟を組んで戦神極祭に近づく犯罪者を片っ端からぶっ潰す事にした。
イチちゃんはサクラが無茶をしないようにと明日奈ちゃんがお目付役として寄越した。
「こんな奴らにアーティファクト・ギアはいらないな」
「速攻で決めるわよ」
「イチ、遅れるな」
「そっちこそ」
男達が何かする前に速攻で瞬殺する。
俺は皇蓮を抜いて聖獣を殺すために作られた兵器を破壊しながら男達を気絶させていく。
花音は蓮月で弓を引き、何か行動をしようとする男達の手や足を正確に射抜いて行動を不能にしていく。
サクラは卓越した冥界仕込みの体術を繰り出し、イチちゃんは卓越した居合い(峰打ち)で叩き伏せていく。
はっきり言うとここまで楽に仕事ができるのは素晴らしい。
是非とも天星導志に欲しい人材だが、二人には既に大切な人や居場所があるのでこの事は口にしない。
僅か数分で犯罪者達を全て片付け、警察に通報して後は任せるために携帯を取り出す。
「待って!その前にパソコンのデータをコピーするわ」
花音は犯罪者達の使っていたパソコンを開き、フラッシュメモリーを差し込んでデータをコピーする。
僅かな情報でもそれを元に他の犯罪者達の悪巧みを暴けるかもしれない。
そうやって襲撃してきた犯罪者達の持つパソコンのデータは常にゲットして天星導志の情報担当の奴らに渡してきた。
「さーて、このデータを渡したら天音の応援に……」
Prrr……!
「ん?誰だ?蒼燕?」
俺を弄るのが好きな天星導志の仲間、中国人の蒼燕からだった。
まーた俺を弄るための電話だな?
全く物好きな男だなぁ。
とりあえず俺は蒼燕からの電話に出るが悪戯心を丸出しにして出る。
「おかけになった電話番号は現在使われておりません。数秒後に切らないとあなたに氷塊が降り注ぎます」
『そんなふざけた事を言っている場合ではありません!』
「え?どうしたん?」
『今戦神極祭のフィールドに強力な結界が張られていて、フィールド内にいる天音君たちが危機に晒されています!』
「何だと!?」
『どうやら天音君たちの対戦相手は操られているようでしかもその手には対聖獣用の兵器や魔法具が握られています!』
「っ!?すまん蒼燕、後で掛け直す!」
「イチ、急いで戻るぞ!天音達が危ない!」
サクラも携帯を握り締めながらそう叫んだ。
多分アリーナにいる明日奈ちゃんがサクラに連絡をくれたんだろう。
「花音!流星を呼んでくれ!」
「分かったわ!」
花音は指笛を吹いて天翔る高速の足を持つ麒麟の流星を呼び出す。
「サクラ、僕は一足先にアリーナに戻っているよ!」
「ああ。とりあえず結界破壊を頼んだ!」
「うん!」
明日奈ちゃんと悪魔として契約しているイチちゃんはソロモンの魔法陣で明日奈ちゃんの元へ戻った。
そして俺たちはすぐに来てくれた流星の背に乗って急いで天聖学園へ戻った。
前々から薄々気付いてはいたがやはり天音には数々のトラブルを引き寄せる……もはや呪いを通り越した運命や因果のようなものを背負っているに違いない。
だが天音は俺にとって命よりも大切な弟……絶対にこの手で守ってやる!!
☆
side天音
一体何が起きたのか数秒間理解出来なかった。
二回戦の対戦相手である中国校の下級生チーム『鬼神隊』。
今回出場チームの中でも特に癖のある荒くれ共の集いと言われているチームが現れた瞬間、いきなり銃器を構えて撃ってきた。
しかしその撃ってきた弾はかなり特殊な弾だった。
球体型の結界を作り出すもので俺以外の鳳凰紅蓮団のみんなを閉じ込めてしまった。
「みんな!?」
「な、何これ……力が出ない……」
『力が、妖力が吸い取られていく……』
千歳と銀羅は結界を破ろうと試みるが力の元である妖力を吸われて動けなかった。
他のみんなも同じような状態で動けるのは俺一人だけだった。
「何で……?何でこんな事を!?」
蓮神を鞘から抜いて鬼神隊の奴らを睨みつけた。
鬼神隊の五人はニヤリと不気味な笑みを浮かべてリーダー格の男が口を開いた。
「俺たちの仕事は蓮宮天音、貴様にこれまでにない屈辱を与えることだ!」
「俺に……?お前達になんの得がある!お前達に会うのはこの戦神極祭で初めてだろ!?」
「あるお方からお前を狙うよう依頼されたのだ。幸いにもお前は女になったからその力は男の時よりも半減している」
「っ!?」
まずい……確かに女体化したことで俺の能力は男の時よりも半減している。
霊力と霊煌紋は変わりないけどそれでも今のままじゃ……。
「さあ、大人しく俺たちに下れ!」
「やるしかないか……」
あいつらの仕業かどうか分からないけどこのフィールドを包み込む強力な結界で外から侵入が不可能になっている。
このままじゃ……俺たちのが……。
「撃てぇっ!!」
「天音逃げてぇっ!!」
「霊煌弐式ーー」
強化で身体能力を向上させようとしたその時。
「我、光の化身となりて天を駆け抜ける!光神化!!」
眩い白き閃光がフィールドを包み込み、何かに体を包まれる感触がした。
「僕の出番みたいだよ、天音」
「えっ……?」
目を開くと目の前には聖なる光を纏い、両手と両足が龍の力を解放して聖獣化したレイだった。
レイは俺を抱きかかえて瞬間移動をして弾丸から回避してくれたみたいだ。
「天音、このままじゃ君が奪われてしまう。僕の力を使え」
「レイ……」
「まだ邪魔者がいたか。あいつも封印しろ!」
「そうはさせない!」
レイをみんなと同じように封印しようとしたが、その前にレイはその身に宿る神力を解放して足元に見たことない陣を描く。
「悪しき力を退き、神王の血筋を守りたまえ!神霊天陣!!」
陣から強力で大きな結界が現れ、弾丸から俺たちを守ってくれた。
「これで少しは防げる。天音!」
「レイ、本当に良いのか……?」
レイの言いたいことはもうわかっている。
俺と契約をして新たなアーティファクト・ギアを生み出し、この場を乗り切れと……。
でも、それで良いのか?
レイは何でか分からないけどアーティファクト・ギアの契約を望んでいる。
聖霊界とは異なる異世界の住人であるレイを契約で縛り付けてしまうこととなってしまう。
俺はこの状況でそのことを考えて迷っていると、レイは俺の頬に手を添えて真っ直ぐ俺を見つめた。
「レイ、僕は君の優しさに救われた……その恩返しをしたい」
「恩返しって、俺はたいしたことをしてないよ」
「僕は人間を信じていなかった……だけど、天音のお陰で人間と聖獣が手を取り合う大きな可能性を知ることが出来た」
「レイ……」
「だから知りたい。人間と聖獣の絆を。そして、結びたいんだ。天音との絆を!!」
レイの瞳には覚悟を決めた強い意思が宿っていた。
最初からわかっていたけど、今俺たちが助かる方法はこれしかない。
だけど、レイの強い覚悟……無駄にするわけにはいかない!
「レイ、本当に良いんだな?」
「ああ!」
「よし……分かった!」
改めてレイの覚悟を受け取り、蓮神を鞘に収めて顕現陣に手を添える。
レイは綺麗な道具の契約媒体がいいと言った、それなら契約媒体はあれしかない!
「来い、氷蓮!!」
顕現陣から氷の神剣、氷蓮を取り出した。
鈍ることがない氷のように透明で美しいクリスタルのような刀身にレイの目は輝かせた。
「綺麗……!」
「これほど美しい刀身を持つ剣はこの氷蓮しかないと思っているよ」
「うん。気に入ったぞ、天音!よし、今度は僕の番だ……」
「レイ?」
レイはスッと目を閉じると体から神力が溢れ、この世界に来た時の異国の服が少しずつ消えて、代わりに体が変化していく。
「僕の、本当の姿を見せるよ」
そして再び光を纏うと、レイは人間の姿から聖獣へと変化した。
その聖獣はあまりその見たことがなかったが、よく知る姿だった。
それは風音の事が大好きな少し暴走しがちな千年の長い年月を生きた伝説の聖獣……!
「白い、龍……!!」
レイは全身が真っ白に輝く白い龍へと姿を変えた。
なるほど、レイのもう一つの名前、『白龍神姫』……名前の由来はこれだったのか!
「……恐いか?僕のこの姿に……」
白龍の姿となったレイは不安そうな表情を浮かべるが、俺は首を左右に振ってレイの顔を撫でる。
「まさか。寧ろとても美しいと思うよ、レイ」
「……ありがとう、天音!」
「よし。行くぜ、レイ!」
「うん!」
氷蓮で地面に円を描き、そこに霊力で契約の魔法陣を刻み、契約の呪文を詠唱する。
「我が名は“蓮宮天音”。我は汝と契約を望む者也!この万物に連なる器具に汝の肉体と魂を一つに!!汝と我が魂を繋ぎ、新たな姿となれ!!」
呪文を詠唱するとレイの体が無数の光の粒子となる。
無数の光の粒子となったレイは契約媒体である氷蓮に入り込んで光と魔法陣を帯びた。
「人獣契約執行。神器、“アーティファクト・ギア”!!」
白龍神姫・白零と神剣・氷蓮が一つになり、現れたのは雪のように真っ白ながら氷のように透明な美しさを併せ持つ細身の両刃を持つ剣だ。
鳳凰剣百式や璃音兄さんの氷帝剣とはまた違うタイプの氷の剣だった。
そう、例えるなら冬の夜に輝く三日月のような剣だ。
「アーティファクト・ギア、氷輪白龍剣!!!」
氷輪は冷たく輝く月、氷の神剣・氷蓮を意味し、白龍剣は文字通りレイを意味する。
氷輪白龍剣を構えるとレイの声が頭に響く。
『これがアーティファクト・ギア……とても不思議な気分だが、暖かい。天音と一つになっているみたいだ』
「そうか。行こうか、レイ!」
『ああ!』
体の力を一気に抜き、足に力を込める。
不思議だ、氷輪白龍剣を持ってから体がとても軽い。
「さあ、It's Show Timeだ!」
.
天音の新たなAG、氷輪白龍剣の誕生です!
次回、天音が暴れまくります。




