第133話 新たなる試練
新章、戦神極祭編スタートです。
今までで一番長くなるストーリーになるかもしれません。
皆さん、よろしくお願いします。
side雫
天聖学園から少し離れた場所にある山に私と迅は訪れました。
目的はその山で時折修行をしているある人に会いに行く為です。
幸いにもその人は川の近くで釣りをしていたのですぐに見つかり、ゆっくり近づくと私と迅の気配に気付き、竿を置いて立ち上がりました。
「……雨月と御剣か」
「お久しぶりです。“会長”」
「会長……そう呼ばれるのは久しぶりだな。だが、俺はもう会長ではない。今の会長は雨月、お前だろ?」
「あ、すいません。つい癖で……」
振り向いたその人は筋肉質のある大柄の人で、野性味のあるお方だ。
この方は私の先代にあたる天聖学園関東校の元生徒会長で名前は『藤堂剛毅』さんです。
「さて、ここに来た理由は何と無く推測出来る……戦神極祭だな?」
流石は藤堂先輩、私達の目的をすぐに察するなんて。
「仰る通りです」
「是非藤堂先輩には……俺達のチームで一緒に戦って欲しい」
「ふむ……俺としては一緒に戦いたいが、相棒がな……」
藤堂先輩の相棒……つまり契約聖獣は去年の戦神極祭で大怪我をしてしまい、未だにその大怪我が癒えていないのだ。
私は神医のお母様に治療を頼もうとしましたが、藤堂先輩の契約聖獣はこの日本の国作りの神の一柱で、お母様やアスクレピオスの力でも治すことが出来ないらしく、自力で回復するしか手段がありませんでした。
藤堂先輩は契約聖獣の怪我を機に会長職を引退して後継を私に任命したのです。
「まだ、傷が癒えていないのですか……?」
「ああ。神が受けるほどの傷だ。そう簡単に治らんよ。契約が出来ない俺が戦神極祭に出ることは叶わん。すまないが、諦めてくれ」
「ん……待てよ……」
藤堂先輩は申し訳なさそうに謝りますが、隣にいた迅があることを思いついたように呟きました。
「迅、どうしました?」
「もしかしたら……藤堂先輩の神の傷を癒せるかもしれない……」
「何?本当か!?迅よ、その手段とは如何なるものだ!?」
お母様やアスクレピオスには出来ない治療を一体誰が出来るのか……私と藤堂先輩は迅の言葉に耳を傾けました。
「藤堂先輩……蓮宮天音と言う男を知っているか?」
「蓮宮、天音……?」
☆
side天音
おじいちゃんのところに蓮煌を預けてから数日後。
俺は新しい蓮煌に相応しい男になる為に修行に明け暮れていた。
放課後にすぐにアリス先生の星界に向かい、余りある時間の中、そこで蓮宮歴代当主達にご指導を頂いている。
剣術は初音様と剣音様、霊操術は雷音様と詩音叔父さんからご指導をして貰っている。
実際に指導を受けて、やっぱり同じ剣士として初音様と剣音様はとても強く、小さい頃から剣術をやっていた俺でもなかなか敵わなかった。
流石は数々の戦いを潜り抜けた歴戦の剣士だなぁ、と改めて実感した。
また、雷音様と詩音叔父さんの霊操術指導はとても丁寧で少し苦手な霊操術の使い方が上手くなって行く気がする。
ちなみに相棒の白蓮と黒蓮は……。
『ピィ……ピィ……』
『がぅ……がぅ……』
「えへへ……可愛い」
歴代当主最年少の朱音様とずっと遊んでいて、今は朱音様の膝の上でスヤスヤと眠っている。
朱音様は現在風音よりも幼い体で復活したので性格も幼くなっているらしく、可愛いものとかには目が無いらしい。
「おお、朱音。どうだ?鳳凰と冥界獣と遊んだ感想は?」
「しぃーっ。父上、寝ているんだから静かにして」
「お、おう。悪いな……」
うーん、剣音様と朱音様が親子なのがちょっと未だに信じられないな。
何と言うかあまりにも似てないと言うか……。
「どうした?あの二人がどうかしたのか?」
「は、初音様!いえ別に……」
「剣音はな実は……とある一国のお姫様と結婚したんだぜ」
「ええっ!?い、一国のお姫様と!?」
「ああ。戦国時代……ある国の城主が一人の姫に目を付けて妻にしようとした。その姫は花のように美しく、優しい心を持っていた。しかし姫はその城主に嫁ぎたくない、自由に暮らすことを望んでいた」
戦国時代……よくある話だった。
力を持つ国が綺麗な姫君を自分の妻にする為に戦を仕掛けようとすることを。
「そんな時にその姫の話し相手だった剣音が立ち上がり、その姫の自由の為に戦うことを決めた。そして……剣音は他の力を借りずに国を滅ぼし、姫を手に入れる為にけしかけた数千の敵をたった一人で全て倒し、敵将である城主を倒したんだ」
「たった一人で、数千の敵を……?」
歴代最強の戦闘能力を持つ剣音様ならそれは可能かもしれないけど、その光景を想像出来なかった。
もしかして、そのお姫様を守る為に……その数千の敵を倒す為に霊煌伍式が生まれたのか……?
「そして、姫は自由を手に入れたが……予想外にも姫は剣音に惚れてしまい、そのまま蓮宮に嫁ぐことになったんだ」
「あ、やっぱりですか?」
何と無く話を聞いて行くうちに簡単に予想出来ていたがやっぱりお姫様は剣音様に惚れていたのか。
「まあ剣音は姫を手に入れるつもりはなかったんだけどな。まあ、本人も満更じゃなかったしな。そして、二人は祝言をあげて生まれたのが朱音だ。朱音は姫の忘れ形見で、姿や性格もけっこう母親似だからな……」
なるほど、剣音様が朱音様を溺愛していたのはそう言う理由か。
今はもう会えない最愛の妻の忘れ形見の娘なら尚更大切にしたいよな……。
「天音、お前にもいずれ千歳との子供が出来る時が出来るが、その時はちゃんと大切に愛せよ?」
「はい……って、千歳との子供!?ま、まだ早いですよ!!」
「ははは!照れるな照れるな。楽しみにしているぞ、“十四代目”をな?」
「初音様!!!」
まだまだ先の話なのにもう決まっているかのように言われて思わず声を荒げた。
た、確かに千歳とは婚約して結婚する約束をしたけど、まだ子供なんて考えてないのに……欲しいのは否定しないけど。
そして、今この場に千歳が居ないことに感謝した。
もし千歳がこの場にいたら間違いなく子作りしようと馬鹿なことを言うに違いないからな。
「助かった……」
「何が助かったの?」
「……うわぁっ!?ち、千歳!?」
いつの間にか背後に千歳がいて首を傾げながら俺を見つめている。
「何を慌てているの?まあ、別に良いけど。天音、雫先輩達が呼んでいたよ」
「雫先輩が?」
「うん。何か大切な話があるって」
「大切な話ね……今日の修行も終わったし、行くか」
「私も行くよー!銀羅はどうする?」
銀羅は眠そうな顔をしていて朱音様の隣で伏せて目を閉じた。
『私はこの世界で寝てる……少し眠い』
「わかった。じゃあ行ってくるね」
「朱音様、白蓮達をお願いします」
「うん、任せて。責任を持ってこの子達のお世話をするから」
朱音様は目をキラキラと輝かせながら白蓮達の世話をする。
俺と千歳は星界から出て急いで雫先輩に会う為に境界輪廻を使って生徒会室に向かった。
「失礼します」
「失礼しまーす」
「お待ちしておりました。天音さん、千歳さん」
生徒会室に入ると雫先輩と迅先輩、そして……。
「誰?」
千歳がそう呟き、生徒会室にもう一人、見たことない屈強な肉体をした男が立っていた。
「ご紹介しますわ。彼は藤堂剛毅さん。天聖学園の先代生徒会長ですわ」
「天聖学園の先代生徒会長……!?」
「つまり、三年生の先輩……」
始めて会う先代生徒会長にドキッと緊張が走る。
「藤堂先輩。こちらは一年生の蓮宮天音さんと、学園長のお孫さんの天堂千歳さんです」
「は、始めまして。蓮宮天音です」
「天堂千歳です。始めまして」
「うむ、俺は藤堂剛毅だ。よろしく頼む」
先代生徒会長、藤堂先輩は手を差し出して来て、俺と千歳は握手を交わして挨拶を済ませる。
「蓮宮、いきなりで申し訳ないが一つ頼みがある」
「頼みですか?」
「うむ。雨月と御剣から聞いたが、お前は霊力を使って他の者に癒しの力を施すことが出来るな?」
「それって……霊煌参式の治癒ですか?ですが、今は使えません」
「む?何故だ?」
「実はその力の源が今は俺の体から離れていて使えないのです」
「そうか……」
藤堂先輩はガッカリした様子だった。
察するに藤堂先輩の大切な人の傷を癒したかったみたいだ。
「あ、でも大丈夫ですよ。俺の代わりにその治癒を使える人がいますので」
「何!本当か!?」
「ええ。すぐに呼んで来ます」
霊煌参式・治癒を使える人は今、蓮宮神社にいるはずだ。
俺は再び境界輪廻を使い、今度は蓮宮神社へ向かった。
☆
「あのー、私に何か御用ですか?」
突然蓮宮神社から連れて来られてキョトンとして椅子に座っているのは蓮宮三代目当主の魅音様だ。
やはりどこと無くおっとりとした感じが母さんに雰囲気が似ているのは気のせいじゃ無かった。
「すいません、魅音様。実は魅音様の治癒の力をお借りしたいお方がいて……」
「まあ、どなたですか?」
「俺です……」
「あなた……は、何処も怪我をしていませんね?寧ろ健康状態は良く、体はとてもよく鍛えてますね。食事の管理もキチンとしてますね」
魅音様は藤堂先輩の健康状態を一瞬で解析してしまった。
現代に蘇ってから魅音様は現代医学の勉強をしているらしく、そのお陰でいろいろと知識が身についたらしい。
「いえ、俺ではなく、俺の相棒……“ダイダラボッチ”です」
「ダイダラボッチ……?それって日本の山や湖を作った巨神ですよね?」
ダイダラボッチ。
それは日本の神の一柱でその大きな巨体で日本各地の山や湖を作ったとされる巨神で、霊峰富士山もダイダラボッチが作ったとされている。
藤堂先輩の契約聖獣がダイダラボッチと言うことに驚きだが、そのダイダラボッチが怪我をしていることにも驚きだった。
「実は去年の戦いで怪我をしてしまい、今も眠りについているのです……」
「そうですか……分かりました。治せるかどうかわかりませんが、私の全力を尽くします」
「あ、ありがとうございます!」
「では、天音。行って来ますね」
「は、はい!」
魅音様は藤堂先輩に連れられ、怪我したダイダラボッチが眠る場所へと向かった。
「それで、先輩。ご用件はこれだけですか?」
「いいえ。もう一つご用件がありますわ。天音さん、千歳さん……戦神極祭はご存知ですよね?」
「え?はい、もちろん」
「それがどうしたんですか?」
戦神極祭は全国八箇所にある天聖学園の生徒達が集い、同年代の生徒同士がお互いの力を競い合い、高め合う一種の交流戦のようなものである。
特にそれぞれの学園の中で五人の最強メンバーで行う団体戦のトーナメント戦が人気のある競技だったな。
「戦神極祭のトーナメント戦ですが……今年からそれぞれの学校で2チームずつ出場することになったんです」
「2チーム?」
「一つは二年生と三年生のチーム。そして、もう一つは一年生のみで構成されたチームです」
「一年生のみのチーム……!?」
五人の代表に加え、もう五人の代表……しかも一年生のみのチームが参戦するなんて……。
「どうして一年生のチームが作られるようになったんですか?」
「どうやら今年入学して来た一年生の皆さんは何処も力を持つ実力者が揃っているみたいで、トーナメントに一年生チームを出したらどうかと評議会で意見が出たみたいなのです」
「だから今年のトーナメントは前年と違い、16チームによる激しい戦いになる……」
他の天聖学園に一年生の実力者がたくさん……今年はかなり荒れそうになりそうだな。
更に戦神極祭が楽しみになっていき、心を躍らせる俺だがこの直後に雫先輩からとんでもない宣告を受ける。
「そこで、天音さんにはその一年生チームのチームリーダーになって欲しいのです」
全く予想だにしていなかった宣告に俺は一瞬頭が真っ白になった。
「…………はい???」
「天音が、一年生チームのチームリーダーに……!?」
いやいやいや、ちょっと待ってくださいよ……俺が一年生の代表の一人で、他の四人を纏めるリーダーって……。
「ええ。天音さん、頑張ってくださいね」
「ふっ、頑張れよ……」
「頑張れ、じゃなくて!俺がリーダーなんて務まりませんよ!適任者なら他にも……」
「天音さんが一番の適任者ですよ」
「蓮宮は今までどんな逆境をも乗り越えてきた……それは能力でもなんでもない、何か不思議な力だと雫と俺は考えている……」
「だから、あなたにチームリーダーを任せたいのです。天音さんが率いるチームなら優勝も夢ではありませんからね」
「雫先輩……迅先輩……」
二人の先輩は俺に期待の眼差しを向けて微笑んでいる。
こんな顔をした先輩達を見るのは始めてで、これは断る事はかなり不可能に近いようだった。
もう今年何度目か分からない覚悟を決めると言う名の諦めで苦笑を浮かべながら頷いた。
「分かりました……お引き受けいたします」
「はい、頑張ってくださいね!」
「期待している……」
「あ、あの!私は……」
千歳は自分はどうなのかと聞くように少し不安な表情を浮かべると、雫先輩は安心してくださいと言わんばかりに一枚の紙を出した。
「これはチームの登録用紙です。チームリーダーは天音さんは決定で、残り四人のメンバーが必要ですが……」
「既に一人目は決まっている……」
そこには俺の名前ともう一つ、『天堂千歳』の名前が書かれていた。
「先輩……!!」
不安だった表情が輝くような笑顔になっていく。
「千歳さんは天音さんを支えるに必要な存在ですし、何より京都の戦いでギアーズ・オーバー・ドライブを修得しましたから文句の無い実力者です」
「残り三人のメンバーはお前達二人で見つけろ……関東校最強の一年生チームを作れ……」
戦神極祭に参加出来るだけだなく、俺と千歳で天聖学園関東校の一年最強チームを作ると考えただけで体が震えるほど楽しみでゾクゾクしてきた。
「雫先輩、迅先輩!任せてください!」
「天音、出るからには戦神極祭優勝よ!」
「ふふふ。私達も負けませんよ?」
「お前達と戦える事を楽しみにしている……」
最強チームを結成し、戦神極祭を優勝すると言う新たに出来た目標を胸に秘め、俺と千歳は残り三人のチームメートを求めて生徒会室を後にした。
.
次回は天音と千歳が最強チームを作る為にメンバーを探します。
今のところまだ誰にするか考えていません。
既に出ているキャラを使うか、新キャラを使うか迷いどころです。




