第15話 更なる高みへ
前半は白蓮に関する事実について話されます。正体については多分皆さんお気づきだと思いますが。
後半は雫と迅のイチャイチャ話です(笑)
タッグバトルで意識を手放してからどれくらい時間が経過しただろう。俺は疲労感が残る体を無理やり覚醒させるように目を覚ました。瞳には白い天井や壁が映り、ここが保健室だとすぐにわかり、今まで眠っていたベッドを起き上がろうとすると、腰を何かによって締め付けられる違和感があった。この感じは前にも一度味わったことがあり、俺は無言で毛布を剥がすと、そこには予想通りの光景があった。
「ぅん……ん……」
「千歳……またかよ……」
入学初日の翌日の朝にも同じような光景があったことを思い出し、ため息をついてしまう。ここは拳骨で制裁を与えたいところだが、今日はタッグバトルでずいぶん世話になったから優しく起こしてあげることにする。軽く手で体を揺すりながら優しく耳元で囁く。
「千歳、起きて……」
「んっ……天音……?」
俺の声に反応して千歳はすぐに目を覚ました。
「もう、起きても大丈夫……?」
「ああ。体に少し疲れはたまっているけど、大丈夫だよ」
「よかった……」
千歳は目を手で擦りながら体を起こして俺に向かい合う。
「そういえば、あの後どうなったんだ?」
「タッグバトルの事? あれは私達の負けよ。私が結界エネルギーゼロで、天音が意識を失って戦闘不能になったからね。でも、雫先輩が両腕を怪我して二回戦はとても戦える状態じゃなかったから先輩たちはリタイアしたんだよ」
「そうか……雫先輩、大丈夫かな? 両腕から血が噴出していたし……」
「ご心配いりませんわ。私はもう大丈夫です」
保健室の扉が開き、制服姿の雫先輩と迅先輩が入ってきた。
「雫先輩! 腕、大丈夫ですか?」
「はい。ソフィーのお蔭で無事に完治しました。一角獣の角には癒しの力がありますので」
そう言うと、雫先輩は完治した両腕を見せる。
「そうですか……良かったです」
「はい。ところで、二人に少しお話があるのですが、よろしいでしょうか?」
「あ、はい。何の話でしょうか?」
「それは……」
『ピィー!』
『旦那、無事に目覚めたか!』
成長した姿からいつの間にか雛の姿に戻っていた白蓮を頭に乗せた銀羅が保健室に入ってきた。二人は恐らくさっきまで聖霊樹の元に行っていたと思われる。聖獣の力の源である魔力や神力が聖霊樹からほぼ無限に放出されており、力を使った聖獣がそこで休みを取ると数時間で失った力を回復することが出来る。
白蓮はいつものように俺の頭の上に乗り、銀羅は頭を千歳の膝に乗せてこちらもいつものように頭を撫でてもらっている。
「こほん。では、改めてお話させてもらいます」
話を言いそびれた雫先輩は咳払いをして改めて話を始める。そして、初めから驚くべき真実を語りだした。
「天音さん。今まで不明だった白蓮さんの正体が判明しました」
「「ええっ!?」」
今まで謎だった白蓮の正体がわかったと聞いて俺と千歳は声をそろえて驚いた。
「先ほど、図書館で白蓮さんの覚醒した姿とほぼ一緒の資料を見つけまして、それをお伝えするためにここに参りましたの。迅、あれを出してください」
「ああ」
雫先輩が命ずると迅先輩は懐からいかにも古そうな本を取り出して雫先輩に渡した。
「図書館の司書さんにお願いして借りてきました。お二人とも、このページをご覧ください」
本を丁寧に開いて目的のページを俺と千歳に見せる。ページがとても古かったが、そこに描かれた絵はしっかりと綺麗に残っていた。
「これ、成長した白蓮に似ているな……」
「うん。色は赤っぽいけど……」
そのページに描かれていたのは一匹の鳥の絵で、白蓮に姿形がとても似ていた。ただ、白蓮と比べて鳥の体の色が特に赤が目立っていた。
そして、雫先輩は白蓮の正体を教えてくれた。
「白蓮さんは……聖獣の中でもかなり希少な存在で、動物の長とも言われる伝説の霊鳥。その名も――“鳳凰”。それが白蓮さんの正体です」
鳳凰。それは日本や中国で有名な聖獣の一つでもある存在だった。古来より縁起のよい鳥であることから、多くの美術品や建築物にもその意匠が使われているほどである。また、一説によれば、天下泰平や皇帝の吉事の前に姿を現すともいわれている。俺は頭に乗っている白蓮を下ろして手に乗せる。
「お前が……鳳凰だって……?」
『ピィ?』
白蓮は「何のこと?」と言っているようなきょとんとした表情をする。まさかお前がそんなにすごい聖霊だったなんて思いもよらなかったぞ。契約者として鼻が高いものだ。
「ですが、少々白蓮さんに問題が……」
「問題?」
「天音さん。普段、白蓮さんはどこに座り、何を食べていますか?」
確認するように雫先輩は白蓮の生活を訪ねてくる。
「えっと、普段は俺の頭に乗って、食べ物は俺が食べているものを一緒に食べて、後はお菓子や鳥の餌を食べてますよ」
白蓮の普段の生活の様子を知ると、雫先輩は悩むようにこめかみを指で押さえた。
「天音さん……鳳凰と言う聖獣は梧桐と呼ばれる樹木に住処を作り、竹の実と霊泉を主食にしているのですよ……」
鳳凰の生態に思わず目が点になってしまい、首を大きく傾げてしまった。
「あおぎり? たけのみ? れいすい?」
梧桐と呼ばれる樹木がどんなものか知らず、当然だが白蓮に竹の実や霊水なんてものは一切食べさせたことは無い。そもそも、竹の実とは一体どんな食べ物なのか聞いたことがないし、霊水がどこにあるかなんて知らない。
「つまり、白蓮さんは生まれてから本来の鳳凰としての生活を送れなかったために、その体質が異常なまでに変化したというわけです。天に近い存在である鳳凰が人間界の食物を食べ、人間の手によって育てられたのですから……」
「もしかして……俺はとんでもない事をしてしまいました?」
「まあ、白蓮さんの体には異常がないのなら良いのですが……しかし、それだけではありません。千歳さんと銀羅さんの描いた契約の陣によってアーティファクト・ギアの契約執行の力にも影響を及ぼしてしまったのです」
「え……?」
『何だと……』
契約の陣を描いた張本人たちである千歳と銀羅は固まってしまった。
「アーティファクト・ギアの契約は本来聖霊樹の魔力を使って契約の陣を描き行うものです。しかし、今回は銀羅さんの九尾の妖力によって描かれました。“化ける”力を持つ“妖力”で描かれた契約の陣で契約執行を行ったことで、私たちのアーティファクト・ギアとはかなり異なる性質に目覚めてしまった訳です。それにより、一つの道具にしか契約できないアーティファクト・ギアの根本的な常識を覆えてしまったのです」
そもそも、どうして千歳と銀羅がAGアリーナのフィールドで契約執行を行おうとしたのかと言うと、千歳がアーティファクト・ギアの歴史について調べたところ契約の陣には聖霊樹などの神聖な魔力だけではなく、妖力などの別の力でも契約の陣を描くことが出来ると書かれていたので、白蓮が覚醒したら強力な力を持つ銀羅の九尾の妖力で契約の陣を描こうという事になったのだ。
まさかそれによってアーティファクト・ギアの性質まで大きく歪むことになるとは予想外だった。
「学園長にもお話を伺ったところ、体質の異常変化と妖力で描かれた契約の陣によって白蓮さんは契約者である天音さんが所有する物、もしくは関わった物と契約執行をし、アーティファクト・ギアにしてしまう能力を手に入れてしまったようです……」
とんでもない事実が発覚してしまった。未知なる物質を化学反応で生み出したかのように俺と白蓮の絆の証であるアーティファクト・ギアが未知なる力を秘めたものとなってしまった。これを喜んでいいのか正直わからなかった。
もし、白蓮に悪い影響が起きてしまうのかと思うと不意に大きな不安に駆られ、心が締め付けられるようになって苦しくなった。
「大丈夫ですよ、天音さん。もし白蓮さんに何かあれば私や迅、いえ……この天聖学園が全面的に協力してくれます。ですから、元気を出してください」
不安な気持ちを瞬時に察した雫先輩は俺を励ましてくれた。少しだけ元気が湧いてきた。
「はい、ありがとうございます」
「では、私たちはそろそろ失礼します。お大事に」
「しっかり休めよ……」
白蓮の重要な話をすべて話し終えた雫先輩は迅先輩を連れて保健室を後にした。
☆
天音さんのお見舞いと白蓮さんの正体や異例のアーティファクト・ギアについてお話しした後、私と迅は天聖学園に設けられた私たち生徒会の拠点である生徒会室に訪れました。
今日一日色々なことがあったので、椅子に座るとようやくリラックス出来たので、疲れを含んだ息を大きく吐きました。
「疲れたか……?」
迅がわずかに心配している表情で私を見つめます。
「はい。今日は久しぶりに疲れました。それに、新しい問題も出てきましたし……」
「……“聖霊狩り”か……」
聖霊狩り。それは文字通り聖霊を狩る者たちを示す言葉。
邪な心を持つ人間たちが、聖霊界に住む聖獣や人間界に召喚された聖獣を奪うように狩り、狩った聖獣を裏世界の闇のオークションで売る、もしくは闇の魔法などで洗脳して犯罪に使うなどの極悪非道な行為をする人間たちが世界中に存在する。特に強力な力を持った聖獣や希少価値の高い聖獣は聖霊狩りに狙われやすい。
いつの時代でも自分以外の存在を“道具”として見ていない愚か者がたくさんいます。そして、その愚か者は金儲けや殺人などの自分の欲望を叶える為に平気で道具を消耗品として使う。
「きっと、白蓮さんの事が聖霊狩りの連中に知れ渡ったら間違いなく天音さんに襲い掛かってくるでしょう。ただでさえ聖霊界で希少価値の高い鳳凰で、複数の道具をアーティファクト・ギアに契約できる能力を持っていれば裏世界では相当な価値なはずですから……」
「そうだな……。雫、俺に考えがある……」
「考え、ですか?」
「来週から、俺たちで蓮宮と天堂の二人を鍛える……俺たちの修行も兼ねてな」
迅の突然の提案に私は両手を合わせて深く頷きました。なるほど、その手がありましたか。
「素晴らしい考えですね。聖霊狩りから身を守るためには己の力を強くするしかない。天音さんと白蓮さんの持つ無限の可能性を成長させると同時に私たちも強くさせる。という事ですね?」
「ああ……まだ俺たちは成長段階だ。今より強くなれるはずだ……」
「そうですね。私も、自分の限界を超えたいですから……」
自分の何度も傷ついた両腕を見て決意を固めます。まだ、私とソフィーとの奥義であるアンリミテッド・グングニール・ファンタジアは自分でも完全に会得していません。自分の限界を超えない限り、私の大切なものを守れないかもしれない。
だから……。
「強くなりましょう、迅」
今よりもっと強く、共に更なる高みを目指して。
「元よりそのつもりだ。俺は、お前を守る盾であり、剣でもあるのだからな……」
右手を胸に置き、迅は私に向かって優しく微笑んでくれました。迅は人前では全くと言っていいほど笑みを見せません。それは私だけに見せる笑顔、私だけの……。
「迅……」
私は体が熱くなり、椅子から立ち上がって迅に詰め寄りました。
「雫……? どうした……?」
迅は私の肩を掴んで体調が悪くなったのかと私を心配しているのでしょう。やはり、迅はとても優しいです。
「迅……あなたを私にください……」
「……は?」
「もう、我慢出来ません……」
私は呆然としている迅にキスをし、そのまま押し倒しました。迅はすぐに呆然からいつものように冷静沈着な態度を取り戻し、私を睨むように見上げています。
「……何をしている?」
「押し倒しました」
「……退いてくれないか?」
「嫌です」
「……まさか」
「はい。迅、しましょう♪」
やっぱり……といった表情で迅は顔を青くしました。
「あのな、雫……お前は主で、俺は執事――」
「禁断の恋ほど燃えるものはありませんわ」
有無を言わさず、主である私は執事の迅を襲いました。主と執事の恋は許されるものではありません。ですが、私は……いつも傍に居てくれる迅を心の底から愛しています。
ちなみにこれは初めての行為ではないので、時間の許す限り生徒会室で愛し合いました……。
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というわけで、雫が迅を襲っちゃいました♪
実は二人は主と執事の関係ではなく、恋人同士という禁断の関係でした。
ただ、禁断なので普段は人前ではあまりいちゃつきません。
ちなみに最初は雫が攻めて、中盤から迅が攻めていく感じです。
次回は、このカップルに負けない天音と千歳の話です。




