第127話 祭りの終わり
今回で文化祭編も終わりです。
いやー、今回も長かったです。
あれから三十分に近いライブを行い、観客からのアンコールも応えて控え室に戻ると俺は椅子に座ってぐったりとなった。
「つ、疲れたぁ……」
「私もぉ……」
千歳も同じように椅子に座ってぐったりとしている。
始めてのライブで疲れ切っていた。
「だらしないな、二人とも」
「仕方ないよ、あれだけの観客がいたんですから」
サクラと明日奈委員長は何故か慣れたような感じで俺たちに比べて平然としていた。
そして奏は満面の笑みを浮かべて俺たちに頭を下げた。
「今日のライブは最高でした……皆さん、ありがとうございました」
「こちらこそ。とても楽しかったし、良い経験になったよ」
「ありがとう、天音。また、僕と一緒にライブをやってくれますか?」
「時間があったらな」
奏と握手を交わし、またいつかライブをやろうと約束を交わした。
『ピィ、ピィッ!』
『キュルキュル!』
一方、一緒にギターとして演奏していた白蓮と轟雷はこの短時間に友情を深め合ったのか楽しそうにお喋りをしていた。
とりあえず今はこのままライブの余韻に浸りながら少し休もうと思っていた矢先……。
「お兄ちゃぁあああああん!」
「はいっ!?」
扉を壊れんばかりに思いっきり開けて入ってきたのは風音だった。
ここは関係者以外立ち入り禁止なのにどうやって入ったんだと思ったが、手には神龍双覇がある……つまり、強硬手段で突破したのか、我が妹よ……。
「どうしたんだ、騒々しいぞ」
「そんな事より大変だよ!」
「大変って何が?また混沌の使徒か別の敵が来たのか?」
「違うよ!!」
「じゃあ何だよ」
今日一日が濃密だっただけに混沌の使徒との戦い以上に大変な事が想像出来ない。
「お母さんのお母さん……雪村のおばあさんが倒れたんだよ!」
「……えっ!?」
雪村のおばあさんって……雪村雪乃が!?
「雪乃が、倒れた……?」
「早く来て!お母さんや叔母さんが呼んでる!」
風音が俺の手を掴んで連れて行こうとするが俺は足が動かなかった。
いや、動かそうとは思わなかった。
俺はハッキリ言うが、雪乃の事が嫌いだ。
母さんと親父、そして風音を蔑んだあいつを……そんな雪乃の元に俺が行ったところで……。
「天音!!!」
「千歳……?」
突然千歳に大声で呼ばれると、何故か絢爛九尾を発動させて立っていた。
「何をグズグズしているの!早く行くよ!」
「いや、でも俺は……」
「風音ちゃん!案内して、天音は私が運ぶから!!」
そう言うと千歳は俺の答えを聞かずに九尾で俺の体に巻きついて持ち上げた。
「えっ?ちょっ、千歳!?」
「ありがとう、千歳さん!」
「ええ!白蓮ちゃん、おいで!」
『ピィッ!』
白蓮は千歳の肩に乗ると
風音は神龍双覇を構えながら走る体勢を取る。
「しっかりついて来てね!全速力で行くから!」
「大丈夫、絢爛九尾で強化された身体能力は伊達じゃないわ!」
「あ、あの!二人とも?俺は行くなんて……」
「行くよ、疾風の如く!!」
「ええ、疾風の如く!!」
「ちょっ、待っ……てぇえええええええええええっ!!」
文字通り疾風の如く、地を風のように駈ける二人に無理やり連れ去られてしまうのだった。
逃げようにも主力武器の蓮煌は折れてるし、霊煌紋は無いしと絶望的な状況で為す術もなくそのまま倒れた雪乃のいるところまで連れ去られてしまうのだった。
連れて来られたのは天聖学園の保健室で中に入ると母さんと親父と雪村家のみんなが集まっていた。
そして、保健室のベッドには……雪乃がひっそりと眠っていた。
「……何があったんだ?」
俺の問いに蒼氷さんが代表して答える。
「先程、お祖母様と一緒に天音達のバンドを聴いて、終わった直後に倒れたんだ」
「俺達のバンドを聴いて……!?」
蒼氷さん達にはバンド演奏を是非聴きに来てと言ったが、まさか雪乃が聴きに来るとは思わなかった。
「お母様は平然と過ごしているけど、もう長くは無いんですよ……」
「えっ……?」
雪妃叔母さんの言葉に俺は耳を疑った。
雪乃がもう長くない……それって、あまり長く生きられないと言うことか?
「もっとも、姉さん達には知られたく無いみたいだったけど……」
「そんな大切な事を知られたく無いだって……?どこまで頭の固い頑固なんだよ……」
どうしてそこまで母さんや俺を拒絶するのか理解出来なかった。
いや……理解しようとしても雪乃自身が拒絶するから理解させてもらえなかったと言った方が正しいかもしれない。
「それなら、私の出番かな?」
高い声に振り向くと、保健室の入り口に煙管を持った織音様が立っていた。
「お、織音様……?」
「話は蓮姫様から聞いた。そこのおばあさんはずいぶん人嫌いみたいだねぇ」
いや、年齢からしたらあなたの方がずっと年上のおばあさんなんですけどね、だって親父と叔父さんの祖母だし……。
「天音よ、今何か失礼なことを考えなかったか?」
「いえ、別に」
流石は十一代目……鋭いな。
織音様は雪乃の元に行くと、そのまま眠っている雪乃の額に人差し指をつけた。
「さて、この女はどんな暗い過去を持っているのやら」
「織音様、まさか雪乃の記憶を!?」
「ああ。人を知るには記憶を見るのが一番だからな。私は記憶を見ることで色々な問題を解決したからな」
幾ら何でも勝手に人の記憶を見るのはダメな気がするが、織音様の事だから既に指で額に触れただけで雪乃の記憶を見たのだろう。
すると、織音様は雪乃から指を離すと険しい表情を浮かべる。
「……なるほどな、どうやらこの女は自分の夫に暴力を受けていたらしい」
「えっ!?」
「それって、雪乃さんの夫……つまり、天音のおじいさんからDVを受けていたってこと……?」
千歳は特に衝撃を受けていて口元を手で隠した。
俺も衝撃を受けていた……まさか雪乃が俺の祖父に当たる人から家庭内暴力を受けていたなんて……。
「……お母様は雪村家を大きくするために、両親に無理やり政略結婚をさせられて、好きでもない人と結婚したの。それが私と雪妃のお父様よ。でも、お父様は非常に暴力的な性格で、私達が物心つく前に病気で亡くなったの……」
母さんが思い口を開き、更に大きな衝撃を受けた。
大きな家柄では政略結婚はよくある話だが、まさか雪乃もその政略結婚をさせられていて、しかも相手は暴力的な男だったのか。
「この女は……お前や六花に嫉妬していたんだよ」
織音様は煙管から紫煙を吹かせながらそう言った。
「嫉妬……?」
「天音には千歳、六花には時音……それぞれ自分を大切に想ってくれる相手がいて幸せ。だから二人に嫉妬して、つい悪いことを言ってしまうんだよ。まあ、この女の人生を見たら仕方ないと言えなくも無いがな」
「さっきから何を勝手な事を言うのですか……?」
「おっ?」
全員の視線が集中した。
その訳は先程まで眠っていた雪乃が目を覚ましたのだ。
雪乃は目を覚ますと、真っ先に織音様を睨みつけるが、織音様はケラケラと笑いながら煙管を口に咥える。
「悪いな。不器用なあんたに代わって娘と孫の間を取り繕うと思ったんだがな」
「余計なお世話です。こんなところで眠っている訳にはいきません。早く、演奏の予行稽古を……」
「待て!その体で……演奏するつもりなのか!?」
この後の約一時間後に雪村家の和楽器演奏がある。
天繚祭の記念式典の演奏でもあるので、多くの人が聴きに来るのだが……。
「当たり前です。当主である私が演奏しなければ雪村の誇りに傷がつきます」
「確かに誇りは大事だけど、それ以前に命の方が大切だろ!!?」
「……雪村とは関係のないあなたに言われる筋合いはありません。行きますよ、雪妃……うっ!?」
「お母様!?」
俺の言葉を無視して立ち上がろうとする雪乃は急に胸を抑えて苦しみ出した。
まだ体調が悪いのに、頑固な雪乃は無理をしているんだ。
「やっぱりその体では演奏は無理です。お母様は休んでください」
「何を言うのです。当主が不在で演奏会が出来るはずがありません」
確かにこう言う大きな舞台で当主がいないのは大きな痛手だ。
それを雪乃自身がよくわかっている。
わかっているからこそ無理をしてでも出ようとしている。
だけど、体調の悪い体で無理矢理であら本当に……。
「私がやります」
「えっ!?」
名乗り出たのは母さんだった。
「私が……お母様の代わりに、雪村の当主代理として演奏します」
母さんが何をやるのかはと言うとそれは雪乃の代わりに雪村家の当主として演奏をすることだった。
「な、何を言い出すのですか?雪村を逃げ出したあなたに当主が務まるわけがありません!!」
「確かに私は雪村を逃げ出したかもしれません……ですが、お母様に幼い頃から教えてもらった雪村の演奏、誇りは錆び付いておりません!!」
「でも……姉さんは演奏は出来るのですか?」
雪妃叔母さんは母さんが雪村の演奏が出来るのか心配するが、その心配はいらなかった。
「大丈夫よ、時音さんの元に嫁いでからもちゃんと稽古をしていましたので」
そう言えば母さんは蓮宮神社にある和楽器でよく演奏の練習をしていたから、雪村家の望む和楽器演奏の腕は鈍っていないはずだ。
「お母様は休んでいてください。さあ……雪妃、蒼氷さん、雪兎ちゃん、小雪ちゃん、演奏まで時間が無いので行きましょう」
「わかったわ、姉さん。みんな、行きましょう」
母さんと雪妃叔母さんの指示の元、蒼氷さんと雪兎さんと小雪ちゃんが演奏のリハーサルの為に保健室を出て行った。
「ちょっと、待ちなさい!何を勝手に……」
「病人は大人しくしてろ」
織音様は雪乃の目に手を当てて霊力を出すと、相手を眠らせる霊操術で強制的に雪乃を眠らせてしまった。
「全く……時音、お前も面倒な義母を持ったな」
「あはは……まあ、その覚悟の上で六花と結婚しましたから」
自分の孫である親父にやれやれと言った表情をする織音様に対し、親父は苦笑を浮かべていた。
「そうか……天音、魅音様を呼んで来い。この頑固に治癒をしてやらないとな」
「わ、分かりました!」
「あ、私も行くよ!」
「私も行くー!」
織音様に言われた通りに雪乃の体調を癒す為に、霊煌霊操術の治癒を使う魅音様を呼びに千歳と風音と一緒に保健室を後にした。
☆
銀羅や黒蓮、そして恭弥達と合流して再び天繚祭特設ステージに戻り、演奏者ではなく今度は観客として雪村一族の和楽器演奏を聴く。
ちなみに雪乃は車椅子で運ばれて一緒に演奏を聴くことになった。
始まるまで少し気まずかったが、雪乃に対して気になる事があったので思い切って聴いてみることにした。
「……なぁ、どうして俺達のバンド演奏を聴きに来たんだ?」
蒼氷さんが先程言っていたが、今だに雪乃がバンド演奏を聴きに来たことを信じられなかった。
すると、雪乃は軽く目を閉じてゆっくりと口を開いた。
「……私は、今のあなたがどんな音色を奏でるか知りたかったのです」
「どうして?」
「あなたと喧嘩別れをして早七年……和楽器演奏の才能があったあなたが楽器は違えど、どのような演奏をするのか……」
和楽器演奏の才能ね、俺にそんな才能があるなんて知らなかったけど……。
「で、どうだった?俺の演奏は?」
俺は興味なさそうに雪乃に聞いた。
どうせダメ出しされーー。
「……素晴らしかったです」
「えっ……?」
今の言葉……聞き間違いじゃないよな……?
雪乃が俺の演奏を褒めた……?
「私は和楽器以外の音楽の知識はあまりありませんが、あなたのギター演奏、そして歌にはとても感動しました。他の四人の演奏と見事に調和が取れていて耳に心地よかったです」
「あ、ありがとう……ござい、ます……」
まさか雪乃に褒められる日が来るとは夢にも思わなかったので感謝の言葉が喉で詰まってしまう。
「最初に歌った曲で……あなたは恋人……千歳さんでしたね?その子の事を想って歌いましたね?」
確かに『Infinty zero』の歌詞で『僕の願いはただ一つ。僕のセカイで、君と同じ時を』と言う……明らかに俺から千歳に向けた歌詞がある。
奏は俺と千歳の関係を知っているので、歌詞を考えている時にこの告白みたいな歌詞をどうしても入れたかったらしい。
ライブの時はハイテンションのままだったので告白するように歌ってしまったが、今思うとあれはかなり恥ずかしかった。
大勢の観客の前で告白の歌詞を歌うのはかなり緊張したし、顔が熱くなった。
「ああ、そうだ。千歳は俺の大切な人だ」
「そうですか。私の記憶を読んだあの人の言う通り、私はあなたや六花に嫉妬していました。お互いに愛情を注げることに……私は嫉妬する事で自分の心を抑えていたのです」
「だから、誰かのために演奏する事は愚かだと言ったんだな……?」
「ええ。そうしなければ自分がおかしくなりそうだったので」
「確かにあんた……いや、“あなた”は夫に愛されなかったかもしれないけど……たった一つだけ確かな事があります」
「確かな事……?」
「それは、この演奏を聴けば分かりますよ」
その言葉の直後に雪村家の和楽器演奏会が始まった。
演奏者である母さんは琴、雪妃叔母さんは琵琶、蒼氷さんは竜笛、雪兎さんは三味線、小雪ちゃんは鈴を持っていた。
全員が雪の結晶が描かれた着物を着ており、雪のような白銀の美しさと神聖な雰囲気を漂わせていた。
そして、母さんが琴の弦を弾く琴爪で弦に触れ、大きく弾いた。
弦を弾く音が鳴ると、一斉に全員が和楽器を奏でて演奏が始まった。
雪村の和楽器演奏は久しぶりに聴いたが、母さん達の演奏はただ一言……美しいと言う表現しか見つからなかった。
奏でられた複数の音が一つに重なり、耳から直接心に響くような音色が会場を包み込んだ。
その演奏に誰もが心を打たれ、感動していた。
そして、雪乃も耳を澄ましてその音色を聴いていた。
「あなたが守って来た雪村の心は確実に母さん達に受け継がれていますよ。たった一人で雪村を守り続けて来たその思いも……」
「私は、ずっと一人で抱え込んでいたのですね……私を思ってくれる人がいることを知ろうともしないで……」
雪乃はそっと涙を流し、今まで見せたことがなかった優しい微笑みを浮かべながらジッと母さん達の演奏する姿を見ていた。
俺はその微笑みに雪乃はようやく愛を知る優しい心を取り戻せたのだと実感した。
「ねぇ……“おばあちゃん”」
「……何ですか?」
「今度さ……もし時間があったらまた俺に和楽器の演奏を教えてくれないかな?」
俺の言葉に雪乃は笑みを浮かべて頷きながら俺の手を取った。
「ええ、良いですよ。いつでもいらっしゃい、“天音さん”」
「はい!ありがとうございます!」
長い時間の末、ようやく孫と祖母の関係になれた俺と雪乃おばあちゃんはそのまま母さん達の演奏が終わるまで一緒に聴いていた。
☆
長かった天繚祭も後夜祭で終わりを迎え、それぞれが帰路に着く中、俺達は見送りをしていた。
まずはセシリアとアルティナ様達。
「セシリア、今日は来てくれてありがとう」
「アマネ、お前のライブ姿は最高だったぜ!もしイギリスで大きなイベントがあったら呼んでもいいか!?」
「あ、あはは……みんなが良いって言ったらね」
「チトセ、久しぶりにあなたの顔を見れて良かったわ」
「私もよ、アルティナ。あんまり無理しちゃダメだよ」
「ええ、ありがとう!」
次に風音と母さんも親父。
「お兄ちゃん、またねー!」
「天音、たまにはちゃんと家に帰って来てね」
「待ってるニャー」
「ああ、わかったよ」
ちなみに、蘇った蓮宮の歴代当主達はしばらくの間生家である蓮宮神社に住んでこれからのことを考えるらしい。
その次に雪村家。
「天音さん、いつでも来てくださいね」
「ふふふ、私達も楽しみにしていますわ」
「天音、必ず来いよ!」
「楽しみにしているよー!」
「兄様!待ってまーす!」
憑き物が取れたような雪乃おばあちゃんの態度に驚きつつ、雪村家を見送った。
そして、璃音兄さんと花音姉さん。
璃音兄さんはただ見送るだけじゃなく、梁山泊に帰る前に渡すものがあった。
「璃音兄さん……これ」
「天音……?お、おい、これは氷蓮じゃないか!?」
渡したのは璃音兄さんが元々所持していた蓮宮の氷の神剣・氷蓮だ。
「璃音兄さんの蓮牙は詩音叔父さんに返したんでしょ?武器が無いのは大変だから、氷蓮を使って」
「そういう天音はどうするのよ?だって蓮煌は……」
「俺は大丈夫。こいつがあるからさ」
そう言って俺は顕現陣からセシリアが誕生日にプレゼントしてくれた大魔法使いマーリンお手製の魔法剣・銀蓮を取り出す。
とりあえずこの銀蓮があればとりあえずは戦えるから問題はない。
まあ、今日は混沌の使徒と戦ったし、しばらくの間は戦う機会が無いことを祈るだけだが。
「ほら、早く受け取らないと璃音兄さんを鳳凰剣百式で氷漬けにしちゃうよ♪」
「さりげなく兄を脅迫するな!?」
「璃音、早く受け取りなさい……じゃないと本当に氷漬けにされるわよ……」
「お、おう……」
璃音兄さんはようやく氷蓮を受け取ってくれた。
これで俺の考えうる当面の問題はあらかた片付いた。
後は折れた蓮煌を何とかするか、代わりを見つけなくちゃならないけど……まあそれはまた後で考えよう。
天繚祭に来てくれたみんなを見送り、千歳と一緒に学生寮に戻る。
「いやー、疲れたな……」
「みんな盛り上がっていたからね」
「そもそもこの学園の生徒が祭り騒ぎが好きだからな」
「そうだね。良い意味でも悪い意味でもそれがこの天聖学園関東校の一番の魅力だね」
「あはは、確かに」
改めて天聖学園の一番の魅力を実感すると、俺はそっと隣を一緒に歩いている千歳の手を握った。
「天音?」
「その……ありがとうな、千歳」
「え?何が?私何かしたっけ?」
千歳は何のことだか分からずきょとんとしている。
「何かって、おばあちゃんが倒れた時に行くのを躊躇っていた俺を無理矢理連れて行ったじゃないか。もし行かなかったら俺はおばあちゃんと仲直りをできなかったからな……」
「ああ、その事ね。別に大したことはして無いよ」
「そんな事無いよ。千歳が連れて行ってくれたお陰でおばあちゃんと話し合う事が出来たんだから」
「そう?まあ、私としては天音の心の闇を晴らす事が出来たから良かったよ」
千歳は俺の手を握り返して笑みを浮かべた。
俺の心の闇か……確かに幼い頃から抱えていた晴らす事が出来たな。
「本当に、ありがとう……千歳が側にいてくれて俺は幸せだよ」
「うん!私も天音の側にいられて幸せだよ!」
千歳は俺の腕に抱きついてきて、俺達はそのまま学生寮まで歩いていく。
大変だったけど、この天繚祭は俺にとってとても大切な経験だったと思う。
今回の天繚祭の経験を糧に俺は新たな一歩を踏み出すことができる。
そして、明日からまた普通の日々にに戻る……一番気がかりなのは折れた蓮煌の事だけど、頑張っていかなきゃな。
.
次回は日常回として、七不思議編が入ります。
天聖学園の七不思議を天音たちが調査します。




