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アーティファクト・ギア  作者: 天道
第9章 文化祭編
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第125話 欠けた剣士の魂

混沌の使徒との戦いはひとまずこれで終わりです。


次の戦いはしばらく先になるかもしれません。

蓮宮歴代当主の持つ真の霊煌霊操術でキメラとクライシスを一気に追い込み、このままフルボッコタイムに突入しようとしたその時、この世界の空にヒビが入った。

「空に、ヒビが……」

ピシッ、ピシッ、パリーン!!!

ガラスが割れたような派手な音が鳴ると、空が割れてこの異空間が一瞬で崩壊した。

そして、元の天聖学園に戻ると、離れ離れになっていた仲間達と合流した。

「サクラ!委員長!」

「天音!」

「無事だったんだね!」

明日奈委員長をよく見ると手には不思議な扇子があり、その隣にはサクラと同じ桜色の髪をした美女が立っていた。

その美女の顔には見覚えがあるけどもしかして……。

「あら?もしかして、ペルセポネ?」

「ええ。久しぶりですね、アリス」

やっぱりそうだ!

冥界の女王でサクラの育ての母親であるペルセポネさんだ。

だけど、黒髪のペルセポネさんがどうして桜髪になっているんだ?

しかし、そんなことはともかく、その向かいには混沌の使徒のライラとグランが少しボロボロになって立っていた。

一方、もう一人の混沌の使徒、ジークと戦っているのはセシリア達で、俺達と同じく天聖学園に戻ったが……。

「ふはははは!楽しいぞ、楽しいぞ!セシリア!!」

「いや、楽しいと言うか、どうしてお前は俺だけに執着しているんだよ!?」

龍の剣士の姿となったジークは狂ったように笑いながらセシリアと剣を交えている。

刃と刃が激しくぶつかり合うその剣戟の応酬にシルヴィアさん達が割り込めないほどだった。

そんな時にふと俺は思った。

誰がこの異空間を解除したのだろうか?

普通ならこの手の魔法や術は使用者を倒した時に解除されるのが一般的だ。

俺達を三つの異空間に分けた転移魔法を使ったのはグランで、そのグラン本人はまだ倒れていない。

誰が異空間を解除したのか考えていると上に不思議な気配があるのを察知し、すぐに上を見上げた。

そこにいたのは驚くべき存在で、隣にいた千歳は思わずその存在の名前を口にした。

「天使……?」

そう、空から現れたのは真っ白な翼を持ち、頭に金色の輪っかを付けた……人々がイメージする紛れもない天使だった。

天使には性別がないと聞いたことがあるが、その天使は綺麗な金髪の女性の姿をしていた。

天使は俺達を見下ろしながら口を開いた。

「妾は混沌の使徒が一人、天の使徒・ヘヴンと申す」

とても高い声が響き、天使が混沌の使徒の一人と言うことに驚きだった。

ヘヴンは金色のハープを召喚して弦を弾くと、地上にいた五人の混沌の使徒を半透明の球体の結界にいれてそのまま自分の元へ持ってきた。

「妾はそこにいる子供達を連れ戻しに来た。さあ、帰るぞ」

ヘヴンは五人の混沌の使徒を連れて帰るだけで俺達とは戦う意思はないらしいが、一人だけ未だに戦おうとする者がいた。

「おい待て、ヘヴン!俺だけでも置いていけ!」

それはジークだった。

ジークは球体の結界の中でジタバタと暴れている。

「……何故じゃ?」

迎えに来たヘヴンはジークに聞いて見た。

すると、ジークから予想外の答えが帰ってきた。

「そこの女……セシリアともっと戦いたいんだよぉっ!そして、セシリアを俺のものにしてぇんだ!!」

「「……はぁ?」」

偶然にもセシリアとヘヴンは同時に疑問符を浮かべて首を傾げた。

何でそんな事を言うのか不思議で仕方なく、言われたセシリアは唖然としている。

「お主……もしやジークに魅了の術でも使ったか?」

疑惑の目で思わず他人を虜にすると言われる魅了の術をセシリアが使ったのではと疑うヘヴンだった。

「いや、私魔法とか使えないし、ってかそんな術を持ってても戦いで使わないぞ」

そんな疑惑をセシリアはブンブンと首を左右に振って違うと答える。

するとヘヴンはギロリとジークを睨みつけると

「……ジーク、後で混沌の使徒を集めて家族会議をするのでそのつもりで」

か、家族会議って……ヘヴンは混沌の使徒を家族と考えているのか……?

「ちょっ、待て!どうして家族会議をするんだ!?」

「問答無用じゃ。お主は先に帰っておれ」

「うぉおおおおお!セシリア!俺は諦めないからな!必ずお前を手に入れてーー」

ビュン!!

ジークはヘヴンによって何処かに転移してしまった。

恐らく混沌の使徒のアジトか何かに飛ばされたのだろう。

「さあ、帰るぞ。“クリア”が心配しているからの。それと……」

ヘヴンは蓮姫様に肩を借りているアリス先生に目を向けた。

「無限神書の魔女、アリスティーナ・D・クレイプスコロ。お主は“まだ”、不老不死として生きるつもりなのか?」

ん……どう言うことだ?

アリス先生は千年前に魔法の儀式で不老不死の魔人となり、その魔法が解けないから千年も生き続けたのにヘヴンのその言葉は意味が分からなかった。

「お主は既に不老不死の術を解き、人間に戻る術を得ているのではないか?」

「……ええ、そうよ」

不老不死の術を解く方法だって!?

じゃあ、何でアリス先生は自分の不老不死を解かないで……。

するとアリス先生は苦笑を浮かべながら小さくため息をついた。

「ふぅ……大切なものがいると、心配で死にたく無くなるのよね……例えそれが人の道を外れようとね」

アリス先生は蓮姫様や俺達を見てそう言った。

「家族がいない私にとってここにいるみんなは私の大切な家族同然。だから、それを守る為なら私は魔人のままでいいのよ」

家族……俺達の事をアリス先生はそう思ってくれたことに対し、嬉しさやが込み上げてきた。

そんなアリス先生に対し、ヘヴンは蔑むような目で見つめて口を開く。

「……時が来たら、妾がそなたを天へ返してやろうぞ?」

「やれるものならやってみなさい。私は……世界最強の魔女よ?」

アリス先生に事実上の宣戦布告をするヘヴン……そして、そんなヘヴンに対し舌を出してあっかんべーをするアリス先生。

二人はいつの日か必ず生死をかけた戦いをする……そう物語っていた。

「さて、そろそろ妾達も帰るかの。“クリア”が待っている」

ヘヴンと残りの混沌の使徒達の姿が透明になり、気配が薄れていく。

「さらばじゃ、人間と聖獣達。次に会うのを楽しみにしておるぞ……」

そう言い残し、ヘヴン達は一瞬で何処かに消えてしまった。

あっけなく終わってしまった混沌の使徒との戦い……だけど、俺達にとって得るものは大きかった。

それは、ここに蓮宮の十三人の歴代当主が一同に揃ったことだ。

そして、戦いが終わったことで璃音兄さんと花音姉さんは詩音叔父さんの元に近づく。

「親父……」

「お父さん……」

二人は体を僅かに震わせ、唇を噛み締めながら呟くと詩音叔父さんは目尻に涙を浮かべながら二人をそっと抱きしめた。

「璃音、花音。 会えて良かった……」

「親、父……うっ、くっ……」

「お父、さん……うっ、うっ、うぁああああああん!!!」

詩音叔父さんの優しい温もりに今まで溜め込んだものが全て放出され、璃音兄さんは声を殺しながら一筋の涙を流して泣き、逆に花音姉さんは大量の涙と声を出しながら大泣きした。

五年前……詩音叔父さんと弓子叔母さんが瑪瑙に殺されたことで二人の人生は狂い、大きく変わってしまった。

二人は立ち止まらず、天星導志のメンバーになることで前に向かって歩む道を選んだ。

そんな二人だけど、今だけは泣いて溜め込んだ苦しみや悲しみを吐き出している。

詩音叔父さんもそれを分かっているので、父として黙って二人が泣き止むまで抱きしめている。

俺はその光景を微笑ましく思いながら地面から真紅色に輝くものを見つける。

それは……蓮煌の折れた刃だった。

真紅色に輝くその刃を地面から引き抜き、刃に自分の顔を映すととても暗い表情だった。

『ピィー!』

『『『ばうっ!』』』

「白蓮、黒蓮」

魅音様の治癒のお陰ですっかり元気になった白蓮と黒蓮は俺に寄り添う。

「今日はよく頑張ったな。ありがとう」

折れた蓮煌を顕現陣に仕舞い、白蓮と黒蓮を抱きしめて体を撫でてあげる。

そして、泣いたり、笑い合ったりするみんなを背に俺は白蓮と黒蓮を連れ、静かにその場を後にした。



風の声、川のせせらぎが静かに鳴り響いている。

俺は星界にある川の近くの野原で横になっている。

『ピィ……ピィ……』

『『『わぅ……』』』

隣には疲れきった白蓮と黒蓮が身を寄せ合って仲良く眠っている。

そんな中、俺は折れた蓮煌を眺めていた。

「はぁ……どうしょうかな……」

何度見ても折れた事実は変わらない……俺の愛刀、蓮煌が真っ二つに折れてしまい、もう使い物にならない。

蓮煌は俺にとっては大切な武器であると同時に宝物でもある。

その宝物が壊れてしまったショックはとても大きかった。

特に折れた刀は二度と元に戻すことはできないのだから。

大きな喪失感を胸に空を見上げる。

「あ〜まね!」

突然空を遮って俺の顔を覗き込んで来たのは千歳だった。

その近くには銀羅がいるが、疲れたのか白蓮と黒蓮と一緒に寝始めている。

「千歳……」

「もう、何やってるの?もうすぐライブが始まるのに」

「……星界なら向こうの一時間をこっちで一日に出来るから、少し休んでいるんだよ。それと……何でここにいると分かったんだ?」

「ふふふ、伊達に十六年も幼馴染をやってるから天音の考えは何でもお見通しよ♪」

「恐れ入りました……」

蓮煌を再び顕現陣に仕舞いながらぶっきらぼうに言うと千歳は俺の隣に寝転がる。

「やっぱりショック?蓮煌が壊れちゃって……」

「そうだな。この蓮煌は……じいちゃんから貰ったものだから」

「えっ?そうなの?初耳……」

「ああ。爺ちゃんは蓮宮の神器職人で十五歳の誕生日に蓮煌を貰ったんだ。璃音兄さんや花音姉さんの神器も爺ちゃんが作ったんだ」

「そうだったんだ。あれ?でも私、天音のお祖父さんに会ったことは……」

「じいちゃんはばあちゃんと一緒に山奥でひっそりと暮らしているんだ。まあ、会う機会は少ないけどね」

考えてみればじいちゃんとばあちゃんに会ったのは手で数えるぐらいしかない。

「俺は小さい頃から蓮宮の神器が欲しかったんだ。特に璃音兄さんに氷蓮を見せて貰った時は目を輝かせて、早く十五歳になって自分と神器が欲しいと思ったんだ」

俺は蓮煌に対する想いを千歳に語る。

蓮煌を受け取った時の感動は今でも忘れられない。

だからこそ……。

「蓮煌は俺の魂みたいなものなんだ。だから、その蓮煌が失われた今の俺は……」

「大丈夫だよ」

「え?」

千歳は笑顔で俺の言葉を遮った。

何が大丈夫なのかと思う俺に千歳はそっと俺の頬に手を添える。

そして、俺と千歳が好きなあの言葉を口にした。

「Blake The Fate……大丈夫。きっと何とかなるよ」

「根拠は……?」

「無いよ。だけど、そんな気がするんだ……きっと、蓮煌は蘇るよ。天音の為にね」

あまりにも根拠の無い言葉だったが、千歳が言うと何故かそれを信じられて胸にぽっかりと空いた大きな喪失感が少しだけ癒された気がした。

「サンキュー、千歳。お前の言葉で少し楽になったよ」

「うん。じゃあ、一眠りをしたらライブの事前練習をしよう?」

「ああ、そうだな」

混沌の使徒との戦いでドタバタしていたが今日はサクラと明日奈委員長、そして奏とのライブがある。

向こうの世界ではまだライブまでの時間があるので、それまでこの星界で休養を取るつもりだ。

「じゃあ寝ようか。私も疲れたから……」

「おい、寝るのは良いけど、どうして俺を抱き枕代わりにするんだ?」

千歳は俺の体を抱き寄せてからギュウと、抱き枕のように強く抱きしめる。

「気にしないで……」

「いや、気にするよ……」

苦しくは無いけど、その……千歳の胸が目の前にあって……正直心臓がヤバイほと激しく鼓動をしているんだけど。

しかも千歳がだんだん強く抱きしめるから服越しとは言え、顔に胸が当たってるんですけど!?

「ふにゅ……すぴぃ……」

って、寝るの早っ!?

俺の気も知らないで千歳はすぐにスヤスヤと気持ち良さそうに眠ってしまった。

このままずっと起きていて、緊張のし過ぎで疲れるのも馬鹿らしいので俺は大人しくそのまま寝ることにした。

目を閉じると学園祭と戦いの疲れが一度に来てすぐに睡魔が襲って来てそのまま千歳に抱きしめられながら眠りについた。



星界でしっかりと休養を取り、体力を回復することができた。

蓮煌のことはまだ喪失感は大きいけど、少し気持ちの整理をつけることができたのでとりあえず今はライブに集中しようと考えた。

一旦サクラと委員長と合流しようとクラスに戻ったが、

「何だコレ……?」

クラスの喫茶店には目を疑う人たちがお茶をしていた。

「まあ、美味しい……お父様に似てお料理が上手なのね」

「霊煌紋から見ていましたが、本当にお料理の手際も良くて心もこもってますね」

「美味っ!?こんな美味い菓子を食ったのは始めてだぜ!」

「ああ!十三代目は本当に料理が上手だな!」

「こんなに美味しいと女として何か悔しい……」

「それに……男としても……な」

「うんめぇ。戦いの疲れが取れるな」

「うーむ、このお菓子はお茶と良く合いますね」

「このお菓子なら毎日でも食べたいくらいね」

「本当に腕を上げましたね、天音」

先程復活したばかりの蓮宮の二代目から十二代目の当主が喫茶店で美味しそうにお菓子とお茶を楽しんでいる。

よく見ると璃音兄さん達やセシリア達も一緒に食べていた。

そして、みんなが食べているそのお菓子は全部俺のお手製のだった。

「な、何をしているのですか?先代の皆さん……」

「おや?来ましたね、天音。いや、せっかく蘇ったので先代達が食べたがっていたあなたの作ったお菓子を食べていたのですよ。どれも絶品でとても美味しいですよ」

「あ、ありがとうございます……詩音叔父さん……」

詩音叔父さんは昔のように俺に優しい笑みを向けてくれた。

「そうだ、さっき時音と六花さんに会いましたよ」

「親父と母さんに……?」

「そしたら最初はとても驚いていましたが、時音は涙を流して“お帰り”と言ってくれましたよ」

突然死んだ兄が蘇ったら普通パニックになると思うが、親父はお帰りって言ったのか……やっぱり親父らしいな。

「そうでしたか」

「まさかまたこの世に蘇るとは思いませんでしたが、成長した子供達に会えて良かったです。アリス殿には感謝してもし切れませんよ」

「……あれ?そのアリス先生は?」

「……私達の肉体を作る為に魔力を使い果たして今は休んでいます」

そうか……確かに十一人分の人間の肉体をあの短時間で作るのは相当大変そうだからな……よし、学園祭が終わったらアリス先生にお菓子を作ってあげよう。

そう思っていると、喫茶店に新たな来客が訪れた。

「あ、いたいた。天音!千歳さーん!」

「この声……」

「奏さん!」

それは人気絶頂の歌手、KANADEこと轟鬼奏だった。

「急いで音楽室に来てください。ライブ前の最終調整をしましょう!サクラと明日奈さんは既に先に行ってます!」

「わざわざ迎えに来てくれたのか?」

「ありがとう、奏さん。行こう、天音!」

「ああ!すいません、先代達。これからライーー楽器の演奏会をしに行くのでまた後で!」

先代達とは一旦別れ、お菓子を隠れて食べていた白蓮と黒蓮を抱き上げて千歳と奏達と一緒にライブの本番前の練習をしに音楽室に向かった。







「ほぅ、天音のライブですか……先代の皆さん。十三代目の歌と演奏……聴きに行きませんか?」








そして、満面の笑みの詩音叔父さんのこの一言を聴き逃すのだった。




次回はいよいよ天音のライブです。


歌詞は頑張って私が考えるので楽しみにしてください。

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