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アーティファクト・ギア  作者: 天道
第9章 文化祭編
139/172

第120話 魔を断つ月の刃

色々お話が急展開します。


いっちゃんに色々起きます。

混沌の使徒、ライラとグランとの戦いが始まると同時にグランは星の力を使った魔法を発動する。

「星の欠片よ、地に降り注げ……スターダスト・レイン」

夜空の星々の欠片が燃え上がり、それが雨のように降り注いで来た。

「任せろ……」

イチは刀を逆手に構えると同時に抜刀し、空間を切り裂いて真空の刃を作り、すぐさまその真空の刃を細かく切り裂いて分裂させ、無数の真空の刃を生み出した。

「居合い……無月連斬」

無数の真空の刃は空に向かって拡散するように飛び、降り注いできた星の欠片を切り裂いて消滅させた。

「やるわねぇ、それじゃあお相手を願いましょうか」

「シャドウ・クエイク!」

ライラが近付くと同時に俺は地面を叩いて大きな地割れを起こし、それに驚いたライラの動きを一瞬止まらせる。

「シャドウ・テンタクル!!」

その一瞬の隙を狙い、地割れの影から闇の触手を作り出してライラの体を縛る。

「くっ!?グランちゃん!」

「星よ、闇を打ち消す流星となれ……シューティング・フラッシュ」

グランは星の杖から聖なる光を放つと闇の触手を打ち消してライラを解放した。

「無駄だ……私の星の光は闇を照らす……貴様の闇の力は通用しない」

「そうか……それなら……」

流石は混沌の使徒と言ったところか、俺の闇の力を無効にするとは……ならば、『あれ』を使うしか無いか。

右手を強く握って念じると、右手が少し光って掌に一つのものが現れる。

「りんご……?」

隣にいたイチが首を傾げて見る。

俺が取り出したのはりんごだが、ただのりんごではない。

赤色や緑色が一切ない真っ黒な不気味なりんごだ。

「あれ?あのりんごはもしかして……」

「まさか……冥界の果実か!?」

ライラとグランはこのりんご……冥界の果実を見て驚いた。

これは俺の故郷でもある冥界の木々に実る果実で、闇の力が詰まっている。

俺は冥界の果実のりんごを皮ごとかぶりついて一口食べた。

仮にこの冥界の果実を普通の人間が一口でも食べたら死者となってしまい、強制的に冥界に行ってしまう危険な果実だが、冥界の断罪者である俺が食べても問題ない。

むしろ、この果実を食べることで……。

『『『グォオオオオオッ!!』』』

「よし、力が湧いて来た……」

ツバキと俺自身の闇の力が増幅されてトライファング・ケルベロスの闇のオーラが一回り大きくなる。

俺にとって冥界の果実を口にすることは闇の力を一時的に増幅させることが出来る……簡単に言えばドーピングをするようなものだ。

普段は絶対に使わないが、相手があまりの強敵の時に使う俺の禁じ手だ。

「イチ、俺が先行する……後に続け!」

地を思いっきり蹴り、走り出すと同時に闇の火球を放って攻撃する。

「……グランちゃん、危なそうだから大きな魔法をお願い」

「分かった」

ライラは槍を振り回しながら接近する俺と激しい打ち合いをする。

「魔の使徒・ライラが命ずる……」

ライラは打ち合いながら何かの詠唱を始めた。

すると、周囲に邪悪な魔の力が漂って来てただでさえ気味が悪い黒い霧が更に色を濃くして行った。

「古より仕えし我が下僕の悪魔よ……常世の深き暗闇より現世に出でて、生きとし生けるものの欲を喰らいつくせ!!デビルズ・アーミー!!」

ライラが詠唱を終えると、黒い霧の下にある地面から何かが這い上がって来た。

それは京都の戦いで見た妖怪達とは違う異形のもの……人間の欲を喰らう悪魔だった。

明日奈のソロモン72柱の悪魔達とは違い、本物の化け物みたいな姿形をしていて、全ての悪魔が俺やイチを見てよだれを垂らしていた。

「さあ、この悪魔達を相手にどうするのかな?」

「舐めるな……伏兵を呼べるのはお前だけじゃない。来たれ、亡者の操り人形……ゴースト・マリオネット!!」

俺の体から闇のオーラを放って空間を歪ませ、冥界と一時的に空間を繋ぎ、中から武装した骸骨の姿をした幽霊達を呼び寄せる。

これは天音との決闘の時にも使った冥界に送られた罪人の魂達で、冥界で決められた罰の一つとして一時的に俺の操り人形として冥界召喚出来る。

俺が操る冥界の魂とライラが操る悪魔達……それがお互いを数秒間睨み合うと……。

「やれ」

「行きなさい」

『『『クケケケケッ!!』』』

『『『ウォオオオオオ!』』』

俺とライラの合図で動きだし、合戦のような激しい戦いを始める。

「何、これ……?」

そのあまりの光景に目が見えないイチでさえその混沌と化した状況に呆然としていた。

「イチ、ぼぉっとしている暇はない。この混乱に乗じて一気に攻めるぞ」

「あ、ああ!」

俺とイチは合戦の激闘を潜り抜けながらライラに接近すると、イチが俺の前を走り出して先にライラに近付く。

「サクラ、お前が決めろ!」

「イチ!?」

「居合い、無月!」

イチは間合いの外からの居合いで真空の刃を放つ。

「おわっ!?」

避けたライラだが、その隙に一気に間合いに入ったイチは再び刀を鞘に戻し、ライラの首を狙って更に居合いをする。

「孤月!」

「ちょっ、まっ!?」

惜しくも刀の切っ先がライラの首の皮一枚を切って血が垂れ、素早くライラは刀を鞘に納めた。

そして、イチは一瞬だけ全身の力を抜くと次の瞬間には全身の力を込めて再び刀を解き放った。

「奥義……月華終焉!!!」

鞘から解き放たれた刀の刃は無数の斬撃を放ち、それはまるで咲き誇る花の如き綺麗な太刀筋を描いて行く。

天音の蓮宮流の乱撃とはまた違う斬撃に流石のライラも受け止め切れず、体のあちこちに切り傷が出来ていく。

俺は今が絶好のチャンスだと思い、一気に攻め立てる。

「シンズ・チェイン!!」

トライファング・ケルベロスから数多の黒い鎖が現れ、ライラを縛り上げて罪の数だけ痛手を与える黒い電撃が放たれる。

「うがぁっ!あああああああああああああっ!!」

ライラが封じられている間に両腕のトライファング・ケルベロスを交差させる。

「終わることのない、冥界の永遠の裁きを受けよ」

トライファング・ケルベロスから一番強い輝きを持つ闇のオーラを放ち、三つ首の牙が巨大化させて、闇のオーラが結晶化された刃を展開する。

「ライラ、これで終わりだ!!エターナル・ジャッジメント!!!」

ライラの魂を狩り、直接冥界に送って明日奈の両親を殺させた裁きを下す!!







「狂い、乱れし全ての理を零へ滅ぼせ……ホーリー・ディザスターライト!!!」







裁きの刃がライラに突き刺さりかけたその時、視界が光に包まれて真っ白になった。

そして……気付いたその時には俺とイチは地面に倒れていた。

「一体、何が……」

「分からない……」

倒れている俺とイチは何が起きたか全く分からなかった。

「もう!グランちゃん!私まで巻き込むつもり!?」

「騒ぐな。ちゃんと結界魔法で守っただろ……」

「あと少し遅かったら私の力が無くなりかけたわよ!!」

力が無くなる……はっ!?

気が付くと、さっき冥界の果実でドーピングした闇の力が弱くなっており、俺とライラが召喚した魂と悪魔達が全て消えていた。

まさか……グランは闇の力を一掃する魔法でも使ったのか!?

つまりそれはこれだけの闇の力を一掃出来るほどの膨大な魔力を秘めていると言うことだ。

「さて、断罪者のお二人はお眠だから……」

ライラは俺達から別の方向へ視線を向ける。

視線の先には今だ眠っている明日奈が倒れており、明日奈を守っていたアスモデウスが膝をついて苦しそうに息を吐いていた。

闇の力を一掃する魔法をまともに受けてアスモデウスの力も弱くなっていた。

「今のうちにソロモン72柱を奪っちゃいましょう!」

「っ!?明日奈!!」

明日奈を狙うライラは槍を構えて走りだし、すぐさま俺とイチは立ち上がった。

「サクラ!私を殴り飛ばせ!」

「何!?」

「いいから、今だ!」

イチは俺に向かって軽くジャンプをして来て、俺が何をすべきか一瞬で理解できた。

拳を強く握りしめてジャンプしたイチの足の裏を殴り、それと同時にイチは足腰に力を込めて明日奈目掛けて大きく飛んだ。

ライラが明日奈に近付く前にイチは明日奈の前に降り立つと、アスモデウスは倒れてしまった。

『私はもう限界だ……主を、頼む……』

アスモデウスの下に魔法陣が現れ、光の粒子となってソロモンズブックの中に消えてしまった。

「任せろ。明日奈は……私の光だ!!」

イチは覚悟を決めた顔をして刀を構える。

「その光を消してあげるわ!!」

ライラは槍に魔力を込めて螺旋を作り出した。

そして、二人は明日奈を巡って同時に攻撃を繰り出す。

「夢幻斬月!!」

「デス・スパイラル!!」

イチの巨大な三日月のような斬撃とライラの螺旋に渦巻く突きが放たれ、眩しい閃光が迸る。

そして、戦いの行く末は……。

「なっ……!?」

「うっ、ぐぅっ……」

「ふふ、ふ……やる、わね……」

イチの斬撃はライラの胴体を斬ったが、ライラの槍は……。

「いっちゃん……?」

その最悪なタイミングに明日奈は目覚めてしまった。

そして、俺と明日奈の目に映ったのは……。

「明日、奈……」

ライラの槍に胸を貫かれたイチの無惨な姿だった。

「あっ、あっ、あぁ……」

明日奈は目覚めてすぐに見てしまった衝撃的な光景に顔を歪ませてしまった。

「いやぁああああああああああああああああああああっ!!!」

大粒の涙と共に悲鳴を上げ、体から膨大な魔力を爆発させ、ライラを吹き飛ばした。

「いっちゃん!!いっちゃん!!」

イチは槍が突き刺さったまま倒れ、明日奈はそれを受け止めて必死に呼びかける。

しかし、イチは目を閉じていて既に息がなかった。

「あっ、あぁ……ブエル!出てきて、ブエル!!」

明日奈がソロモンズブックに手をおいて名を叫ぶと、魔法陣からライオンの頭部を持つ悪魔が現れた。

「お願い!あなたの治癒能力でいっちゃんを治して!!」

治癒能力を持つ悪魔に頼み込む明日奈だが、ブエルは首を左右に振った。

「ブエル、どうして!?」

『主……その娘の心臓は邪なる魔力を秘めた槍で貫かれて私の治癒能力が効きません。それに……その槍から膨大な魔力が娘の体に流れ込み、やがてその身が朽ちていってもう手の施しようが……』

「そんな……」

明日奈は絶望の表情を浮かべてイチを強く抱きしめる。

膝を地面についてイチの顔に触れる。

俺が、俺が付いていながらイチは……。

「すまない……イチ……」

イチとは同業者で敵同士の関係であったが、昨日の一件から俺にとっては妹みたいな存在となった。

それも全て明日奈の慈愛のある優しさで実現したことだった。

しかし、そのイチを目の前で失い、家族を失った時と同じ悲しみに陥り、乾いていた眼から涙が零れ出た。

「悪いことをしちゃったかな……?」

「これも戦いだ。一々気にしていたらきりが無い。早くお前の望みを叶えろ」

「それもそうねぇ。それじゃあ、早くいただきますか♪」

体の傷を回復させたライラとグランが一歩ずつ近づいて来る。

俺は涙を乱暴に拭い、明日奈とイチを守る為に立ち上がったその時、俺の目の前に大きな黒い扉が現れた。

「あらぁ?」

「この空間に介入してきた……?」

その扉は数多の亡霊やケルベロスの姿が描かれており、その中央に見覚えがある男女が描かれていた。

まさか、この扉は冥界を繋ぐ扉……?

そして、扉が開くと中から一人の女性が俺の前に降り立った。

「……私の息子を……サクラを泣かせたのは貴様らか!!?」

それは、冥界の王・ハデスの妻で冥界の女王の異名を持つオリンポスの女神の一柱、ペルセポネの姐さんだった。

姐さんはいつもより露出度の高い派手な黒いドレスに身を包んで、手には冥界の闇の力を操ることが出来る『冥王の杖』を持っており、その冥王の杖を振り下ろして闇の衝撃波を放ち、ライラとグランを吹き飛ばした。

「ね、姐さん……!?」

「サクラ、私が来たからにはもう大丈夫よ」

姐さんは俺を見て母のような優しい表情をして頭を撫でて来た。

少しくすぐったかったが、姐さんの撫では昔から妙に心地よくて嫌な感じはしない。

「あなたが、霧夜明日奈さんですね?」

「は、はい!」

姐さんは明日奈が抱きしめているイチの状況を見るなり、イチの頬に触れて悲しそうな表情を浮かべる。

「可哀想に……明日奈さん、あなたに覚悟があるなら、一つだけこの子を蘇らせる方法があります」

「本当ですか!?」

イチを蘇らせる方法!?

姐さん、そんな方法があるのか!?

「あなたのソロモン72柱の悪魔達に願いなさい。そうすれば、新たな道を開くことが出来ます」

「ソロモン72柱に……?」

明日奈は空いている手でソロモンズブックを握りしめてイチと一緒に抱きしめると、ソロモンズブックから半円球の光が放たれ、そのまま明日奈とイチを包み込んだ。

「さぁ……あの二人が帰ってくるまで頑張るわよ」

「ね、姐さん……どうしてここに?」

「ん?サクラのバンドを見に来たのよ。それに、あなたのお嫁さん候補の明日奈さんに会いに♪」

「ちょっ!?明日奈は俺のじゃ……」

「明日奈さんのこと、好きなんでしょ?お母さんには全部お見通しです」

「違うから!!色々誤解しすぎだ!!」

姐さんが絶賛誤解中のさなか、ライラとグランが強く警戒して姐さんを睨みつける。

「あなた、何者よ!?」

「その闇の力……ただものじゃないな……」

「私は冥界の女王・ペルセポネよ。混沌の使徒たち」

「ペルセポネって、あのハデスに次ぐ冥界ナンバー2の!?」

「これはかなりの大物だな……しかし、冥界の女王と言っても所詮は闇の眷属!私の闇を打ち消す星の力には勝てない!!」

グランは星の光を集わせて砲撃を放つが、姐さんは冥王の杖を離して宙に浮かせた。

「ふん」

そして、光の砲撃を手で叩いて逆に打ち消してしまった。

「なっ……!?」

「闇の力を持っているのに、グランちゃんの攻撃を叩いた……!?」

俺だけではなくグランとライラも姐さんの行動に驚いており、再び冥王の杖を握り直した姐さんは不敵の笑みを浮かべた。

「……冥界の女王・ペルセポネ。それは冥界の王・ハデスから与えられた名前……私の本当の名前は春花の女神・コレーよ。そんな光の力は私には意味をなさないわ」

姐さんはハデスの親父に地上から無理やり冥界に連れさらわれて冥界の女王になったが、まさか二つの名前があるとは知らなかった。

そう言えば姐さんのお母さんは豊穣の神・デメテルと聞いたことがある……デメテルは大変な親バカらしいが、やっぱり娘の姐さんも同じみたいだ。

そして、姐さんのもう一つの名前を聞いたグランは更に驚いて大きく目を見開いていた。

「春花の女神・コレー……!?まさか、黄道十二宮の処女宮はお前のことだったのか!?」

「そうよ。一応黄道十二宮の処女宮を司るけど、あまり私自身は自覚は無いけどね」

姐さんは指を鳴らすと手から桜の枝が現れ、それが一瞬で大きな桜の杖になる。

そして、黒髪だった姐さんの髪が徐々に俺と同じ桜色の髪に変化した。

「姐さん、その髪……」

「この桜色の髪が私の本当の髪色なのよ。冥界にいる時は黒髪になっちゃうけど……似合っている?」

「あ、ああ……俺と、お揃いだな……」

俺の桜髪と姐さんの桜髪……本当に同じ髪色でまるで親子みたいだった。

「そうね。それじゃあ、春花の女神・コレーと冥界の断罪者のタッグで行きましょうか?」

「ああ。姐さんの足を引っ張らないように頑張る」

「期待しているわ、サクラ」

明日奈がイチを蘇らせるまで、俺と姐さんでライラとグランの相手をする。

第二ラウンドの幕開けでもあったが、隣に姐さんがいると何故か心が安らいでいて、負ける気がしなかった。



side明日奈


眠っているいっちゃんと一緒にソロモンズブックの光に包まれて視界が開くと、そこは何もない真っ暗な空間で、その空間の中に展開された巨大な魔法陣の中央に私といっちゃんがいた。

そして、その魔法陣を囲むように私が従えている72の悪魔達……ソロモン72柱が勢ぞろいをして私を見つめていた。

『主よ、その娘を助けたいか?』

ソロモン72柱の誰かがそう聞いてきた。

「ええ、もちろんよ!」

『しかし、その娘の心臓は貫かれている』

『もう既に死んでいる』

『その槍のせいで治すことは出来ない』

『それでも助けたいのか?』

次々と言葉を紡いで行くソロモン72柱。

それでも私はいっちゃんを助けたい……。

いっちゃんと一緒に暮らして幸せにして行きたいんだ……その為にも。

「助かる可能性があるなら、私はそれに賭けたい。いっちゃんを死なせたくない!!」

『……では、方法はただ一つ』

『主とその娘にとって最悪の選択かもしれない』

『それでも構わないのか?』

「私の、覚悟は出来ている!!」

いっちゃんを助ける為なら、たとえこの身を捧げても……!

『主よ、その少女を蘇らせる方法とは、これだ』

私の覚悟を聞いたソロモン72柱は手を前に出して魔力を放出してそれが私の真上で一つに合わさる。

そして、魔力が圧縮されて手のひらサイズのモノになると、鼓動をしながら私の前に落ちてきた。

「心臓……?」

それは黒い心臓のようなものだった。

何故ソロモン72柱は魔力を集めてこんな物を作ったのか分からなかった。

しかし、この後のソロモン72柱の言葉によって私は耳を疑う。

『その娘に我らの力を一つにして生み出したその悪魔の心臓を貫かれた心臓の代わりに与える。』

『悪魔の心臓によってその娘をソロモンの73体目の悪魔として、転生させる』

『そして、悪魔として蘇った娘で契約し、主の神器を創り出す』

「えっ……?」

耳を疑った私は一瞬何を言ったのか理解が出来なかった。

そして、十秒近くの時間で落ち着き、ゆっくり整理するとこうだ。

つまり、いっちゃんに悪魔の心臓を移植してソロモンの73体目の悪魔として蘇らせて、その後に私の契約聖獣にしてアーティファクト・ギアを創るってこと……?

「そんな……いっちゃんを悪魔にするなんて……」

そんなことは出来ないと口にする前にソロモン72柱が言葉を紡ぐ。

『これしか方法はない』

『主は覚悟を決めなかったのか?』

『確かに辛い選択でもある』

『人間が、人間を悪魔にするのは大きな罪だ』

『このまま人間として死なせるのも一つの救いかもしれない』

私の勝手な決断でいっちゃんを悪魔にするなんてこと……許されるわけがない。

いっそのこと、悪魔に転生させるよりも、このまま静かにいっちゃんを人として死なせた方が幸せなのかもしれない……。

そんな考えが私の頭の中で何度も過った。







『主よ……あなたはまた愛する者を失うのか?』







その言葉に私はハッと気付かされた。

私の大好きだった両親はもうこの世にはいない……私の家族は両親以外いなかったが、小さい頃から私はずっと妹が欲しかった。

しかし、そんな夢はとうの昔に捨ててしまったが、昨日偶然出会ったいっちゃんのことを私は何でか知らないけど、とても愛おしく思って本当の妹のように大切に感じていた。

だからこそ、いっちゃんに喜んで欲しかった、何かをしてあげたかった。

そんないっちゃんに対する思いがどんどん溢れていった。

もしも、今ここでいっちゃんを失ったら私はもう立ち上がることは出来ないかもしれない。

それに、いっちゃんには両親の敵討ちと自分の目を取り戻す為にまだ戦うことを辞めたくないはずだ。

これが、正しいかどうかなんて私には分からない……だけど、私はもうこれ以上大切な人を失いたくない。

私自身と、いっちゃんが未来を進む為にも……。

「みんな、ありがとう……私の覚悟を、見ていて!」

私はどんな罪でも背負う!!!

悪魔の心臓を掴み、それをいっちゃんの胸に強く押し当てた。

すると次の瞬間、いっちゃんを貫いていた槍は弾け飛んで砕け散り、悪魔の心臓はそのままいっちゃんの体の中に入った。

悪魔の心臓がいっちゃんのものになると、いっちゃんの体に一瞬だけ不気味な黒い文様が現れてすぐに消えると……。

「うっ、うぅん……」

「いっちゃん……」

「明日、奈……?」

さっきまで息すらしていなかったいっちゃんの意識が一気に回復して、傷口も既に無くなっていた。

「いっちゃん。あのね、私は……」

「いいんだよ、分かっているから……」

いっちゃんは起き上がると私を強く抱きしめる。

「私、もっと明日奈と一緒にいたい……悪魔でもいいから、ずっとそばに居てもいい……?」

「いっちゃん……いっちゃん!!」

いっちゃんは全てを分かっていた。

私の思いと覚悟を……それを承知で私と一緒にいたいと願ういっちゃんを私は強く抱きしめた。

たとえ、悪魔に転生してもいっちゃんはいっちゃんだ。

私の大切な……妹のいっちゃんだ!

「明日奈……私と契約してくれ」

「いっちゃん……」

「混沌の使徒を倒す為にはアーティファクト・ギアが必要だ。悪魔になった私なら明日奈の契約聖獣として契約をすることが出来る!」

「アーティファクト・ギア。でも契約媒体が……あっ」

私は思い出したように制服の内ポケットに手を伸ばした。

内ポケットに入っていたのはお気に入りの扇子だった。

この扇子は死んだお母さんの形見でいつも大切に使っている。

アーティファクト・ギアの契約媒体は契約者の特に思い入れのあるモノを使う……これなら契約媒体として充分なはず。

扇子がどんなアーティファクト・ギアになるか予想は出来ないけど、私にはこれしかない。

「行くよ……いっちゃん!」

「来い、明日奈!!」

いっちゃんは準備完了で、私はソロモン72柱に頼んで契約の魔法陣を引いてもらい、神経を集中させて契約の呪文を詠唱する。

「……我が名は“霧夜明日奈”。我は汝と契約を望む者也!この万物に連なる器具に汝の肉体と魂を一つに!!汝と我が魂を繋ぎ、新たな姿となれ!!」

契約は初めてだったが、意外にもスラスラと言えた詠唱の後いっちゃんの体が光の粒子となり、契約媒体である扇子の中に入り込んで光と魔法陣を帯びた。

「人獣契約執行……神器、“アーティファクト・ギア”!!」

いっちゃんと扇子が一つとなり、私のアーティファクト・ギアが誕生した。

私の手に現れたのは扇面に月の満ち欠けが描かれた扇子で、風を仰ぐ部分に無数の刃があった。

扇子の骨組みが鉄製になっていて、それは護身用の武具として使われる鉄扇だった。

私はいっちゃんと一つになったこの鉄扇に名前を付けた。

「アーティファクト・ギア。魔を断ち切る、夜空に光り輝く月光の刃……“魔刃斬月まじんざんげつ”!!!」




いっちゃん、悪魔に転生して明日奈のアーティファクト・ギアになりました。


さあ、反撃の時です!

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