第111話 蓮宮一族と雪村一族
活動報告にも書きましたが、これから更新スピードが低下しますがこれからもよろしくお願いします。
「雪村……雪乃!」
俺は千歳達を守るようにバッと前に出て俺自身が嫌っている女……雪村雪乃を睨み付けた。
「……自分の祖母を呼び捨てにするなんて、見ない間に随分野蛮になったものだね」
雪乃は目を細めて俺を見下すように言い放った。
「俺はあんたを祖母とは思っていないよ……」
「天音!そんな事を言ったらダメだよ!」
後ろにやった千歳は叱りながら名前を呼んで俺の前に出た。
そして、雪乃に向かって礼儀正しく頭を下げた。
「天音のお祖母様、始めまして。私は天音の婚約者の天堂千歳です」
「天堂家のご息女……!?しかし、何故天堂家のご息女であるあなたが天音の婚約者……?」
「天音は私の幼馴染で、ずっと天音の事を愛していましたので」
「なるほど……幼い頃の天音が言っていた“大切な幼馴染”はあなたの事でしたか……」
「え?」
雪乃の言った言葉にキョトンとしながら千歳は俺の顔を覗いた。
「そ、そんな事は良いだろ!雪乃も余計な事を言うな!」
「だから!天音、お祖母様を呼び捨てにしたらダメだって!!」
千歳は俺を祖母を呼び捨てにしたことに対してもう一度叱った。
確かに自分の祖母を呼び捨てにするのは人として良くないことだ。
だけど……。
「俺は母さんと、親父を蔑ろにする奴のことを祖母と言うつもりは無い!!」
再び雪乃を睨み付け、ギリギリと手に力を込めて指を手に食い込ませる。
幼い頃に雪乃に言われた言葉を思い出しただけで怒りが込み上げて来る。
そんな時だった。
「お母様?」
振り向くとそこにはA組の喫茶店にいるはずの母さん達だった。
それに、親父や風音、雪村のみんなもいた。
「なっ!?か、母さん!?」
「……よくも、まぁおめおめと私の前に顔を出せたものですね」
「まだ……私を許すつもりはないのですね」
母さんは苦笑いを浮かべ、次に親父が前に出て頭を下げた。
「お義母様、お久しぶりです」
「この泥棒猫が……あなたもよく私の前に顔を出せましたね……」
真剣な面立ちで挨拶をする親父に雪乃は顔に僅かな怒りの表情を浮かべていた。
俺はこの場でこのままじゃいけないと察し、隣にいる千歳とアイコンタクトをしてお互いに一つ頷いた。
「止めろ。こんなところで話すのは他の方に迷惑だ」
「少し、静かになれる場所に行きましょう。案内します」
俺と千歳はこの場にいる全員を連れて校舎の屋上に案内した。
本来なら学園祭期間中は屋上は封鎖されているが、千歳は学園長に頼んで学園側から許可をもらって屋上を使わせてもらった。
そして、屋上には破魔術士の蓮宮一族と和楽器演奏の雪村一族が愛向かいに勢揃いした。
『ピィー……』
『『『がうっ……』』』
『な、何だ、この異様な空気は……』
『リーン……』
『まさか学園祭にこんな事になるなんて……』
『時音と六花、大丈夫かニャー……?』
蓮宮の聖獣達はこの異様な空間に息を潜め、少し離れた場所からビクビクと見ていた。
さーて、どうなるかなぁ……特に母さんと親父、そして雪乃との仲はかなり険悪だからな。
険悪って言っても、一方的に雪乃が二人を嫌っているだけだからな。
そもそも、どうしてこんな関係になっていたのかと言うと、それは俺が産まれるかなり前の話になる。
母さんは……六花母さんは雪村家の長女で次期当主になる予定だった。
幼い頃から雪村一族に産まれた人間として恥ずかしくないよう、雪乃から厳しい教育を受けてきた。
しかし、天聖学園で先輩である親父と出会った。
雪村家に囚われた母さんは自由奔放に生きる親父に惹かれ、二人は付き合うようになった。
そして、母さんが二十歳になる頃に親父と結ばれ……俺をお腹に宿した。
母さんは雪村の家を出て親父の元に嫁ぐ決意をし、雪乃に話した。
当然雪乃は大激怒し、雪村家を騒がす大騒動となってしまった。
そして雪乃は母さんを一方的に絶縁させて雪村家から除名させて追い出した。
母さんはその後親父の蓮宮家に嫁ぎ、『雪村六花』改め『蓮宮六花』となり、俺を無事に産んで母となった。
その後は雪村家の遠縁にあたる家の子供である風音を養女として引き取った。
雪村家では母さんの妹の雪妃叔母さん当主には就かず、雪乃がそのまま当主で未だに次期当主は決まっておらず……現在に至る。
そして、雪乃は母さんに厳しい言葉を投げかける。
「六花……あなたは雪村を逃げて幸せですか?」
「……逃げた、ですか。まあそう思われても仕方ありませんね」
「お母様、言い過ぎですよ」
「雪妃は黙っていなさい。これは六花と私の問題です」
雪乃は叔母さんを黙らせると、風音は無垢な表情で尋ねた。
「……お母さんはお父さんが大好きだから蓮宮に来たんだよね?どうしてそれがいけないの?」
「……あなたは十年前に六花が引き取った娘ですね?あなたは哀れな娘ですね……」
「哀、れ……?」
突然雪乃は何を言い出すのかと俺達は驚き、そして風音に対して酷い言葉を向けた。
「十年前に六花が流産したその直後に、両親を失ったあなたを引き取った……所詮あなたは六花の悲しみを埋めるための代わりなのですから」
ザワッ……ブチッ!!!
その瞬間、俺の中の堪忍袋の緒が引き千切られた。
「黙れ……!!!」
俺は怒りから霊力を解放し、蓮煌が眠る顕現陣のある左手を強く握りしめた。
「母さんの風音への想いと愛情を……何も知らないお前が、勝手な事を言うなぁっ!!」
俺達は知っている、夏に霊煌拾壱式・記憶で見た母さんは流産で死んだこの代わりに風音を引き取ったんじゃない……本当に風音を愛し、幸せにすると誓ったあの時の姿を!
許せない……母さんを侮辱した雪乃を、絶対に!!
自らの怒りに任せて顕現陣から蓮煌を呼び出そうとすると、ガシッと体と両腕を掴まれた。
「天音!落ち着いて!」
「気持ちは分かるが止めろ!」
「相手はあなたのお祖母さんなのよ!」
千歳、璃音兄さん、花音姉さんが俺の体を掴んで抑えていた。
離せ!あのババアをぶっ飛ばさないと気が済まないんだ!!
怒りに我を忘れた俺の前に一つの影が降り立った。
「全く。頭を冷やせ、十三代目」
ゴスッ!!
「うぐっ!?」
頭に拳骨を叩き込まれ、頭から走る痛み同時に全身の力が抜けた。
俺の腹に拳を叩き込んだのは……。
「蓮、姫……様……」
「幾ら憎くても直接人に手をかけていない者に刃を向けるな。蓮宮の教えを忘れるな、十三代目よ」
現代風のファッションに身を包んだ蓮姫様は蓮宮初代当主として厳しい言葉を俺に送りながら雪乃の方を向いた。
「さて、雪村の当主よ……お主とて子と孫を持つ母であろう?それなのに、何故そこまで酷なことを言うのかとても理解が出来ないな」
「何処のどなたか知りませんが、あなたには関係ありませんよ」
「残念ながらあるのだよ。私は全ての蓮宮の母だからな。その子供達を侮辱されたら黙っているわけにはいかない。もちろん、風音も六花も、私の大切な蓮宮の娘だからな」
蓮姫様は風音と母さんに向けてウィンクをする。
「師匠……」
「蓮姫様……」
蓮姫様のその言葉に俺達蓮宮一族(一応蓮宮に嫁ぐ予定の千歳も)はとても感動すると、蓮姫様は雪乃に向かって推測の言葉を投げかける。
「もしやお主は昔、誰かへの愛に裏切られたのではないか?だからそのような事を平気に口にするのでは?」
次の瞬間、雪乃は何かを思い出したのか、憎しみの表情を浮かべた。
「っ!?あ、あなたには関係ありません!!!」
ビュウウウーーッ!!
突然雪と共に風が吹き、雪が雪乃を包むと、その姿が逃げるように消えてしまった。
「消えた!?」
「……近くに妖気を感じる……恐らく、奴の契約聖獣だな」
蓮姫様は雪乃の契約聖獣だと思われる妖気を感じ取っていた。
そう言えば雪村家の人間は雪や氷に関係した契約聖獣が多いって母さんが言っていたな。
実際に母さんにの契約聖獣は雪女の美雪だからな。
その後、すぐに叔母さん達は先程の雪乃の無礼を謝罪してきた。
叔母さん達が悪いわけじゃないけど、雪乃を止めることが出来なかった責任感があるみたいだ。
母さんは気にしてないと言っていたが、やはり少し暗い表情を浮かべていた。
そんな時、風音はギュッと母さんを強く抱き締めた。
「私、お母さんの事が大、大、大好きだよ!」
「風音……」
「お母さんは私の事、大好き?」
「ええ……私も大好きよ!」
母さんは涙を浮かべて風音を強く強く抱き締めた。
雪乃は風音と母さんの心を傷つけようとしたが、逆に二人の絆を深める結果となった。
それにしても、雪乃はどうしてあんな性格なんだろう……やっぱり蓮姫様の言う通り、昔何かあったのだろうか。
「娘か……私も乙音に会いたくなったな」
「乙音って、確か蓮姫様の……」
「ああ。私と波音の娘で、蓮宮二代目当主だ。もう一度会ってあの小さな体を抱きしめたいよ……」
蓮姫様と波音様の娘で蓮宮二代目当主か……じゃあ、霊煌紋を受け継いだ時に俺の精神世界で見たあの十二人の歴代当主の詩音叔父さん以外の誰かってことか。
「乙音はとても体が弱くてな、でも誰かを守りたい意思が特に強かった……そこで霊力で自身の身体能力を大幅に強化・向上させる霊操術、霊煌弐式・強化を作ったんだぞ?」
「そうだったんですか?」
「ああ。霊煌霊操術はその当主の人生や生き様を象徴して作られるものが多い。だから天音よ、お前も自分を象徴させる霊操術を作るのだぞ?」
蓮宮当主は唯一無二の霊操術を作り、それを霊煌紋に刻ませて次の世代に受け継がせて行く……過去から現在、そして現在から未来への希望と言う事なんだな。
「はい!分かりました!」
「天音、せっかくの学園祭よ!気分を変えてみんなで楽しもう!」
千歳は俺の右腕に抱きついてそう言った。
「ああっ、千歳さんズルイです!」
風音は母さんから離れると、俺の左腕に抱きついた。
「お兄ちゃん!私と学園祭デートをしてください!」
「風音ちゃん、それはダメよ!天音は私とデートをするんだからね!」
「千歳さんはいつもお兄ちゃんと一緒なんだからたまには私に譲ってくださいよ!」
「ダメ!天音は私のものなんだから!!」
「お前ら……」
千歳と風音が一緒になる度に発生する俺を巡る争いに俺はさっきの雪乃との一悶着の事をすっかり忘れるほどだった。
そして、俺達はみんなと一緒に天繚祭を楽しんだ。
☆
sideイチ
聖霊狩りの情報を元に私は天聖学園に出現するかもしれない聖霊狩りの首を狩るために訪れたが……。
「人が、多い……」
あまりの人の多さに私は人に酔ってしまった。
学園祭……祭りだから人がたくさん来るのは分かっていたけど、こんなにも人がいるなんて思わなかった。
そして何より……。
グゥウ〜ッ。
「お腹、空いたよぉ……」
とてもお腹が空いて鳴ってしまい、両手でお腹を抑えた。
何か食べたいけど、この国で使えるお金の日本円が無いからそれは無理。
「どうしよう……」
このままじゃ聖霊狩りを狩る前に私の力が尽きてしまう……。
「痛っ!」
私はその場につまずいて転んでしまい、そこに倒れてしまった。
戦う時の私は目が見えなくても俊敏に戦うことができるけど、普段は何故かこうして転んでしまう。
「ううっ……」
視力を失った両目から小さな涙を流した。
そんな時だった。
「君、大丈夫かな?」
私の前に大きな本を持った不思議な力を秘めた一人の女の人が座って手を伸ばしていた。
☆
side明日奈
「サクラ君とツバキ君たら、どこに消えたのかな?」
喫茶店の休憩時間となり、私はサクラ君とツバキ君と一緒に天繚祭の出店などを回ることになった。
最初は一緒にいたんだけど、あまりの大人数の来園者のお客様にいつの間にかサクラ君とツバキ君と離れ離れになってしまった。
「携帯は……って、サクラ君、携帯の電源を切っているわね。どうしようかな……」
携帯電源が使えない代わりにおもむろにソロモンズブックを取り出してサクラ君とツバキ君を探してもらおうと思ったが、こんな人の多いところでソロモン72柱の悪魔を召喚するわけにはいかない。
一旦教室に戻ろうかなと考えていると……。
「あれ?何だろう?」
人混みの中に一際目立つ女の子がいた。
白い布に包まれた長い物を抱きしめるように持ち、布帯で目を隠している不思議な女の子だった。
目が見えていないのか、何もないところで転んでしまった。
「あっ!」
私はソロモンズブックを抱えてその転んだ女の子の元に走った。
そして、腰を下ろしてその女の子に向けて手を伸ばした。
「君、大丈夫かな?」
「うっ……?誰だ?」
「私は霧夜明日奈。立てる?」
「あ、ああ……」
女の子は私の手を掴んで立ち上がり、私は転んだ際に女の子の服についた砂埃を手で払った。
「怪我はしていない?」
「だ、大丈夫だ」
「お父さんとお母さんは?迷子になっちゃったの?」
目が見えていなさそうだから誰か保護者がいるはずと思ってそう聞いたが、女の子からは意外な答えが返ってきた。
「……お父さんとお母さんはいない……死んだ」
「えっ!?あっ、ごめんなさい……」
「別にいいよ……ここには一人で来たんだ。じゃあね」
女の子は立ち去ろうとするが、
グゥウ〜ッ!
「えっ……?」
「あうっ!?」
女の子のお腹から豪快な音がなった。
今の音は紛れもなくお腹の虫の音……と言うことは。
「ぷっ!ふふふふ……」
「わ、笑うなぁ!」
女の子は顔を真っ赤にして腕をブンブンと振り回していた。
ああ、もう、凄く可愛いなこの子は。よし、ここは一つ私が一肌脱ぎますか!
「ふふふ。ねぇ、君の名前は?」
「な、名前!?私は……イチだ!」
「イチか。じゃあ、“いっちゃん”って呼ばせてもらうね」
「い、いっちゃんだと!?」
「ええ。ほら、いっちゃん。こっちにいらっしゃい」
私はいっちゃんの手を握って引っ張った。
「あ、明日奈よ!私を何処に連れて行く!?」
「ん?ちょっと私とのデートに付き合ってもらうよ♪」
「デ、デ、デート!?」
「そう、デートよ♪」
私はいっちゃんが目が見えていないけど、いっちゃんに向けて優しい笑みを浮かべた。
そして、私はこの謎の小さな盲目の女の子と学園祭デートを始めるのだった。
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次回は明日奈とイチのデートです。
明日奈とイチがどんな感じになるか必見です。




