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アーティファクト・ギア  作者: 天道
第1章 召喚と契約編
13/172

第13話 運命の契約

お待たせしました。

ようやく天音と白蓮との契約が始まります。

長かった……ここまで来るのに本当に長かったです。

 俺と白蓮に向かって投げ飛ばされたユニコーン・ザ・グングニールの必殺技のようなものだと思われるセイント・オーバー・ザ・グングニールの一閃が光り輝きながら飛んでくる。

 横に回避する暇もないと一瞬で悟った俺は蓮煌で真正面から受け止め、すぐに捌いて大きく横に倒れるように回避する。

「あ、危ない……」

『ピィー! ピィー!!』

「どうしたんだよ、白蓮――えっ?」

 騒ぎ出す白蓮にふと手に持っている蓮煌に目を向けると衝撃が走った。何故なら、蓮煌の刃がさっきの攻撃を受けた際に刀身全体に大きなヒビが入って既にボロボロで、あと一振りをしたらすぐに崩れそうになるまで壊れていた。

「蓮煌……」

 親父に貰った大切な蓮煌の無残な姿に唖然とするしかなかった。俺の唯一の武器である蓮煌がこの様じゃもうこれ以上戦うことはできないかもしれない。悔しいけど、俺はここまでなのかもしれない……。

「天音! しっかりしなさい!!」

 折れかけた心に喝を入れたのは千歳だった。千歳は清嵐九尾に力を込めて蓮煌を失った俺を援護しようとする。しかし、雫先輩はそんな千歳の姿を見た瞬間に、

「千歳さん、あなたは少し眠っていてください」

 まるで瞬間移動のような素早さで千歳の前に現れてユニコーン・ザ・グングニールの刃を千歳の腹に添える。

「セイント・オーバー・ザ・グングニール」

 次の瞬間、ユニコーン・ザ・グングニールから閃光が迸り、千歳は吹き飛ばされる。

「があっ!?」

「千歳ぇっ!!」

『大ダメージ確認、緊急防御システム起動! エネルギー急速チャージ!』

 千歳のGAから音声が流れ、大気中から何かを取り込んで結界の力を強くし、吹き飛ばされた千歳はそのままAGアリーナの壁に叩きつけられる。

 土煙が辺りに舞い、千歳は地面に倒れて意識を失っていた。

『天堂千歳、結界エネルギー、オーバーダウン。エネルギー残量、0パーセント。結界を解除します』

 千歳の体からGAの結界が解除され、腕輪からカードの形に戻って地面に落ちる。あれだけの凄まじい攻撃を受けたが、千歳の体には一切の傷は無い。その理由はGAの“緊急防御システム”が発動したからだ。バトル中に残った結界エネルギーで防ぐことのできない強力な攻撃を受け、起動者の命の危機がさらされた際に起動する。起動者か周囲の空間から結界エネルギーに使用できる気力や魔力などの力を強制吸収してエネルギーをチャージし、結界を強化して起動者を守る。だが、起動者の身を守ると言っても零距離で雫先輩とユニコーン・ザ・グングニールの強力な攻撃を受けたんだ。精神的なダメージが大きく、その所為で意識を失ってしまっている。

『千歳!!』

 意識を失った千歳に清嵐九尾から銀羅が飛び出し、千歳に寄り添って介抱する。

 そして、AGバトルの公式ルールではバトル中にこのシステムが発動してしまったときは敗北となってしまう。つまり、千歳はこの時点で敗者となってしまいこのバトルではこれ以上戦うことができなくなってしまった。

「さあ……後はあなた達だけですよ。天音さん、白蓮さん」

 まるで死刑宣告を受けたような気分だった。今の雫先輩は穏やかで優しい生徒会長ではなかった。この天聖学園の全生徒の頂点に君臨するAGの使い手、“天聖の神槍”がそこにいるのだった。

「神槍乱舞、スパイラル・ストリーム」

 次の瞬間、ユニコーン・ザ・グングニールが俺の横を掠るように横を通り過ぎ、結界エネルギーを奪っていった。

「なっ!?」

 俺の横を通り過ぎて飛んで行ったユニコーン・ザ・グングニールの向かう先にはいつの間にか雫先輩の姿があり、投げ終えたユニコーン・ザ・グングニールを持ち、再び俺に向かって投げた。雫先輩はその繰り返しの攻撃を何度もしていく。

『蓮宮天音、結界エネルギー、15パーセントダウン! 17パーセントダウン! 13パーセントダウン!』

 ユニコーン・ザ・グングニールで俺の体全体を掠るように痛めつけていき、決して一撃で仕留めないで少しずつ、少しずつ俺の結界にダメージを当てていく。

『11パーセントダウン! 13パーセントダウン! 10パーセントダウン! エネルギー残量、9パーセント……』

 遂に結界エネルギーが一桁にまで消耗し、後もう一撃を食らったら確実に負ける。すると、雫先輩は厳しい表情から悲しそうな表情を浮かべていた。

「……ここまでやっても、まだ覚醒しないのですね……」

 目を閉じてユニコーン・ザ・グングニールを握りしめる。そして、これ以上やっても意味はないと判断したのか、再び投擲の構えをする。

「これで今度こそ終わりにします。天音さん……私を嫌っても、構いませんからね……」

 まるで、猟人が獲物を狙い、少しずつ痛めつけてから最後に仕留めるような攻撃だったが、その攻撃をしている雫先輩本人は本当に悲しそうだった。もしかして、自分の心を必死に抑え込んでこんな惨い攻撃をしていたのかもしれない……。

「ごめんなさい、さようなら……」

 謝罪と別れの言葉を送り、最後の攻撃となるユニコーン・ザ・グングニールの一撃を放つ。今度は俺に一直線で向かって飛んでくる神槍に流石の俺も戦う気力を失い、迫りくる止めの一撃を覚悟してその場で待った。

「ごめんな、白蓮……」

 決めていたはずなのに……。

「お前を、守ってやれなくて……」

 幼い頃からの自分が決めた誓い。自分には大きな力はないけど、せめて……大切な人達を守れるぐらい、強くなりたいと願い、そして誓った……。しかし、その願いが、誓いがどれほど難しいものなのか思い知らせた。

「ちくしょう……」

 悔しさを胸に秘め、瞼を閉じて視界を暗くした……。




『ピィーッ!!!』




 頭から重さが消え、バサバサと飛んでいく羽音が聞こえ、閉じた視界を開けた。

 なんと白蓮が小さな羽を一生懸命羽ばたかせ、向かってくるユニコーン・ザ・グングニールに立ち向かおうとする。

「止めろ……無茶をするな、白蓮! 逃げろ!!」

 俺が逃げるように言っても白蓮は俺の言葉を無視した。このままじゃ、白蓮が……!!

「白蓮!!!」

 諦めて止まっていた体を無理やり動かし、必死に手を伸ばした。

『ピィ……ピィイイイーッ!!!』

その時、白蓮の体から眩い閃光が輝いた。

「白蓮!?」

『ピィーッ!!!』

 そして、その閃光が白蓮と俺を包み込んで、向かってきたユニコーン・ザ・グングニールを吹き飛ばした。

「な、何ですの……!?」

「これは……!?」

 目の前の不思議な光景に雫先輩と迅先輩は目を見開いて驚く。壁に叩きつけられて意識を失っていた千歳は目を覚まし、閃光を見て呟いた。

「天音……白蓮ちゃん……?」

 俺を包み込んだ閃光が少しずつ止んでいき、俺の目の前に小さな白い鳥の雛はいなかった。その代わりに別の存在がそこにいた。ここで一つ問いたい……。

もしも、自分の目の前に巨大な光の鳥が現れたらどんな反応すればいいのだろうか?

「お前、何だ……?」

 他人はどんな反応するかなんてわからないが、少なくとも俺はこんな安直な反応しかできない。そこまで自分は器用ではないからだ。しかし、どうしてだろう……自然に足がその鳥の元へと歩んで行ってしまう。一歩一歩近づくにつれ、その鳥がこの世のものと思えないほどとても美しいものだと確認できる。

 白く輝く羽毛に包まれた体に、その体を包み込むように大きく美しい左右対称を象っている双翼。白く輝きながらも黒・白・赤・青・黄の五色が羽を淡く、綺麗に彩っており、その鳥の美しさをより華やかにしている。そして、すぐ目の前まで近づいた俺はそっと自分の右手を鳥の顔へと伸ばしていく。

ガプッ。

 俺の右手が顔に触れる前に、その鳥は嘴を大きく開けて俺の頭をかじる。

「…………痛い」

 若干の痛みが頭を襲うが、この感覚は初めてではなかった。むしろ、最近になっては俺の日常茶飯事に加えられた“甘噛み”であった。

「……お前は……白蓮なのか?」

 その名前は俺と生涯ともに過ごすパートナーになるために生まれたばかりの小さな鳥の雛につけた名前である。

『キュアアアアアアーッ!!』

 白蓮は嘴を俺の頭から離し、俺の言葉に反応するかのように「そうだよ」その大きな翼を羽ばたかせ、俺の持つ刀と手甲、そして体に纏う衣が光を帯びて共鳴する。

「天音!!」

『旦那!!』

 アリーナの壁から千歳と天音が駆けつけてきた。

「千歳、銀羅……」

『ちちうえ……』

 元気な姿にホッとすると、不思議な声に呼ばれた。

「えっ!?」

『ちちうえ……』

 大きくなった白蓮が嘴を開けて言葉を喋っていた。いつもの『ピィーッ!』の鳴き声ではないのでその分余計に驚いた。

「今の声、白蓮、お前なのか?」

『そう、だよ。わたしはまだ、ちいさいから、あのすがただとしゃべれないけど、このすがただったら、なんとかしゃべれるよ』

 喋り慣れてないので片言だが、それでもちゃんと伝わっている。しかし、それよりも一つ聞きたいことがあった。

「どうして、俺が父上なの?」

『わたしにとって、あまねはちちうえだよ。そして、ちとせはははうえ。ぎんらはあねうえだよ』

 どうやら俺と千歳と銀羅は白蓮にとっては大切な家族で、俺を父、千歳を母、そして銀羅を姉として慕っていたらしい。確かにそう言われれば妙に納得できてしまうのだった。

『ちちうえ、わたしと、けいやくしよう?』

「白蓮、お前……」

『ごめんなさい、ちちうえ。いままでわたしのために、ずっとがまんして……でも、こんどはわたしも、いっしょにたたかう。ちちうえとははうえとあねうえ、わたしもたいせつなひとをまもりたい……』

 白蓮の幼いながらも俺たちを守りたいという強い思いに千歳と銀羅が便乗して行動に移した。

「流石は、白蓮ちゃん。私たちの自慢の娘ね。銀羅、例のあれをやるわよ!」

『任せろ! 旦那と妹の晴れ舞台だからな、しっかりやらせてもらう!!』

 千歳が銀羅の九本の尻尾の内の一本を軽く握ると、銀羅が狐火を出して地面に何かを描いた。

「これは、召喚と契約の魔法陣!?」

 一か月前の四月に行われた契約の儀の時の聖霊樹の下に描かれた魔法陣が狐火によって地面にしっかりと描かれていた。

「即席だけど、私の頭の中にしっかり覚えている魔法陣の形を銀羅の記憶読みを利用して、妖力が含まれた狐火で描いたのよ。これなら、すぐにでも契約が出来るわ」

『さあ、旦那と白蓮よ。念願の時が来たぞ!!』

 白蓮との契約。確かに俺にとっては念願の時には違いない。だけど、いざその時となると正直緊張してしまう。それに……契約媒体にするつもりだった蓮煌は今壊れかけている。契約して大丈夫なのか正直不安だ。

『だいじょうぶだよ……れんおうは、よみがえるよ』

 まるで俺の心を読んだように白蓮が優しく言ってくれた。

「蓮煌が……蘇る?」

『わたしを、しんじて……』

「白蓮……わかった、お前を信じるよ。そして、これからもずっと一緒だ!」

 銀羅が描いた魔法陣が輝き、俺はその上に立って壊れかけた蓮煌を掲げる。

 契約の呪文はすでに頭の中に叩き込んだ。いつでも契約をできるように練習してきたからな。後は、呪文をこの場で詠唱するだけ!

「我が名は“蓮宮天音”……我は汝と契約を望む者也! この万物に連なる器具に汝の肉体と魂を一つに!! 汝と我が魂を繋ぎ、新たな姿となれ!!!」

 白蓮の体が光の粒子となり、その粒子が蓮煌の中に入り込み、光と魔法陣を帯びる。しかし、それだけではなかった。白蓮の粒子は俺の体に纏っている手甲と神子装束の中にも入って、そちらにも光と魔法陣を帯びた。これは一体どういう事なんだ? アーティファクト・ギアは一つのものにしか契約できないはずなのに……。

「こ、これは……」

「天音、早く!!」

「あ、ああ!!」

 ここまで来たらもう迷っている暇はない。今まで支えてきてくれた人たちの為にも、白蓮の思いに応える為にも、今ここで契約を果たす!

「人獣契約執行!! 神器、“アーティファクト・ギア”!!!」

 契約の最後の言葉を紡ぎ、白蓮と俺の契約が完了する。そして、再び俺の体は閃光に包まれた。蓮煌、手甲、神子装束の三つの道具が白蓮の魂と肉体が一つに融合して俺自身のアーティファクト・ギアが完成する。


   ☆


 天音と白蓮ちゃんの絆の結晶であるアーティファクト・ギアを見たとき、私はこれほどまでに美しいものがあるのかと思った。世界中の建築物や絶景の美しさを見ても今の天音の姿はそれさえも比べ物にならないほどに美しかった。

 天音は男の子だけど、綺麗な黒髪ロングを持っていて、見た目は天音のお母さまに面差しがそっくりなため、私が言うのも何だけど美少女と言われても不思議じゃないほど可愛い(本人はとても嫌がっているけど)。見た目に関しては古き良き日本人女性の代名詞である大和撫子の言葉がぴったりと言っても過言ではない。

 それ故、神子装束姿の天音は本当に可愛く、私も羨むほどの美少女巫女だった。そして、その神子装束に何故か白蓮ちゃんが契約執行をしてアーティファクト・ギアになってしまった。どうして複数の道具に契約執行できるのかはわからないけど、この際それは後で考えることにする。

 まずは、天音の愛刀であり刀身に蓮の紋様が刻まれた蓮煌は驚くことに巨大な片刃の大剣になっていた。大剣の刀身が天音の身の丈ほどの大きさで、柄の部分もかなり長い。アーティファクト・ギアは契約媒体となった道具の元の形を余り崩さないようになっているのだが、刀から大剣はあまりにも形が違いすぎる。正直、今まで刀を使ってきた天音にとっては重すぎて扱えないのではないのか? と、思うほどだ。そして、その大剣の刀身は美術品としても通用するほどの美しさを持っていた。刀身の色が銀色ではなく、綺麗な真紅と白銀と黄金の三色によって彩られていた。三色が互いに絡み合うように刀身の中で流動を描き、刀身には更に白蓮ちゃんと蓮を模った紋様が刻まれていた。

 次に手甲はそれほどまで大差はないが、強度は格段に強化され、こちらも美術品としても良いぐらいの色鮮やかな装飾が施されていて、手の甲の部分には大剣と同様に白蓮ちゃんと蓮を模った紋様が刻まれている。

 そして、最後に神子装束は特に異質を放つほどにまで変わり果てていた。言い方が少々悪いかもしれないが、今天音が纏っている装束の形には神子装束の面影は一切ない。白をベースにした布地に大剣の刀身と同じように真紅と白銀と黄金の三色が色鮮やかに彩っていて、その装束に見合う形や色をした様々な装飾が施されていた。その装束は動きやすいように出来ている。そう、それはまるでアニメやゲームで登場する舞を踊る人の装束だった。しかし、露出度はそんなに高くないので本当に神様に捧げる舞を踊るために作られたような装束で、天音に良く似合っている。

 美しい大剣と手甲を装備し、鮮やかな装束を身に纏った今の天音の姿は“舞姫”と称しても不思議ではない。自分で言うのも何だけど、ただでさえ私は天音に対してベタ惚れだ。そんな私は今の舞姫形態(私が命名)の姿に更に惚れてしまった。そして恐らく、このアリーナの会場にいる男子女子生徒たちで今の天音の姿を見て惚れてしまった人も少なくはないと思う。下手をしたらファンクラブが出来てもおかしくないが、取りあえず今は置いておこう。

 そして、アーティファクト・ギアを手に入れた天音は自分の姿に驚きながらも手に持つ大剣と化した蓮煌を、初めて扱うとは思えない動作で簡単に振り回して構え、気合を入れるように叫んだ。

「さあ、第二ラウンドの幕開けだ!!」

 ここからが天音と白蓮ちゃんの反撃の時。そして、天音と白蓮ちゃんの止まりかけていた運命の歯車が動き出したのだった。



.

次回、天音VS雫の決着がつきます!


天音がかなりのチートを使うかもしれませんが、そこは心を広くしてみてください。

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