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アーティファクト・ギア  作者: 天道
第9章 文化祭編
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第106話 動き出す歯車

文化祭の準備や色々な事が起こり始めます。

ジャララ……ジャララーン……♪

自室に弦を弾いた音が静かに鳴り響く。

幼い頃に教わった弦楽器の弾き方を思い出しながら奏から借りたギターの弦を鳴らして行く。

『ピィー……』

『『『ばうっ……』』』

俺の隣で白蓮と黒蓮は目を閉じて耳に神経を集中して演奏を聴いている。

『美しい……古の演奏を思い出すぞ……』

銀羅は大昔に耳にした弦楽器の演奏を思い出しながら聴いている。

「もし良ければ今度蓮宮神社で琴や琵琶で演奏してあげるよ」

蓮宮神社には和楽器がたくさんあるからいつでも演奏は出来る。

『しかし、驚いたな。旦那がこれほどの演奏が出来るなんてな』

「まあ、演奏自体は嫌いじゃないけど……たまに思い出すんだよな……」

『何をだ?』

「……雪村家の現当主で、俺の祖母だよ」

『旦那の祖母?』

『ピョー?』

『『『ばうっ?』』』

ギターをケースにしまい、白蓮と黒蓮を膝に乗せて祖母について話をする。

「祖母は一言で言うなら厳格な人でね……雪村家を誇りに思っていたんだ。まあ、俺からしたら融通の利かない煩い人だけどね」

『珍しいな……旦那が人の悪口を言うなんて……』

「俺だって自分の祖母をそんな風に言いたくもないけど、あの人にとって俺は孫じゃなくて母さんを奪って行った親父の息子だからね。他の雪村家の人は優しく接してくれたけど、あの人だけは俺をとにかく厳しく接していたからな。嫌な思い出だけしかないよ……」

脳裏に思い出されるのは笑った顔を見たこともない祖母の厳しい表情の数々……。

「いや、止めよう。こんな暗い話は終わりだ。もっと楽しい話にしよう」

白蓮と黒蓮の頭を撫で、会話の内容を変えた。

「そうだ。奏がアーティファクト・ギア用の特別なエレキギターを用意してくれるんだ。その時に白蓮と黒蓮で契約するか?」

『キュルピィー!?』

『『『がぅるぅ!?』』』

『ほぅ。弦楽器でのアーティファクト・ギアか、それは面白そうだな』

アーティファクト・ギアのエレキギターとは契約して演奏する際に音に色々な効力を与えるのだ。

聴いた人間の精神に大きな活力を与えたり、気分を盛り上げたりと色々ある。

「ただいま〜!」

「あっ、千歳。おかえり」

今まで部屋にいなかった千歳が帰ってきた。

「おじいちゃんの手伝いが大変だったよ〜」

「お疲れ様。お茶を淹れるね」

「うん、ありがとう。あ、そうだ……天音、ちょっとニュースがあるよ」

「んー?ニュースって何だ?」

棚からお茶の葉と湯飲みを出そうとしたその時。







「今年の文化祭で天聖学園は雪村家をゲストに招くみたいだよ」







ズンガラガッシャーン!!!

千歳のそのニュースに俺は大撃沈した。

「天音!?」

『ピィー!?』

『『『がぅっ!?』』』

『旦那!?』

「ち、千歳……その話は本当なのか……?」

出来ればその話が嘘か冗談だったらいいなと淡い期待を持つが、

「う、うん。今年の文化祭が始まって百回目だからその記念に雪村家を招くんだって……」

その期待は儚く崩れ落ちるのだった。

雪村家が来るということは当然当主のあの人も……。

「すいません、やっぱり俺は梁山泊に戻ります」

やっぱり文化祭が終わるまで梁山泊に泊まっている方が良かったと今更ながら後悔する。

「ええっ!?ちょっと天音!何を言っているの!?」

「ちくしょう!!女装が無くなったと思ったらまた新しい問題がで決まったじゃねえか!!どんだけフラグを作れば気が済むんだよ俺はよぉおおおおおおおおおおっ!!!」

「落ち着いて天音!何を言っているのか全然分からないから!!」

「来るなぁ……絶対に来るんじゃねえ、雪村家ぇええええええええっ!!」

「天音のキャラが崩壊しているよぉっ!?」

次から次へと生まれて行く問題にフラグを作って行く俺……もう呪われているとしか言いようが無いこの体質に俺は不幸を感じざるを得ない気持ちだった。



翌日、学園祭に雪村が来てしまう事実をとりあえず受け止め、奏達とのバンド練習を集中することにした。

奏は俺とかの演奏にインスピレーションを得たらしく、すぐに楽譜と歌詞を書いている。

そして、バンドメンバーの構成だが、メインのダブルギターの俺と奏にベースの千歳。

そして、ドラムのサクラとキーボードの明日奈委員長だ。

この中で一番驚きなのは断罪者であるサクラだった。

しかもその腕はとても上手く、スティックをプロみたいに回したりしながらドラムを叩いていた。

どうしてサクラがドラムを叩けるのか聞いてみると……。

「俺がドラムを叩くようになったのは姐さんが原因なんだ」

「ペルセポネさんが?」

サクラの母親代わりで冥界の女王と呼ばれている彼女がドラムを叩く原因ってどういうことだ?

「姐さんはハデスの親父に誘拐されて、そのまま冥界の女王になったろ?冥界は地上と違って楽しめるものが無いだろ?」

「まあ、そうだな」

「それで姐さんは暇つぶしと言うか、趣味が欲しかったんだ。そこで思いついたのが楽器演奏だ。それから地上から色んな国の色んな時代の楽器を集めに集めて……」

「集めに集めて?」

「下手したら数千種類はくだらない数の楽器が集まっちゃったんだよ」

「す、数千種……マジすか?」

「中には今では数百万はくだらない貴重な楽器から魔法がかけられた素敵な楽器……果てには曰く付きの呪いの楽器まであるぜ」

「なあ、その楽器達で凄い楽器博物館を作れると思うよ」

「ああ、それは俺も思った。まあ、姐さんのその趣味に付き合わされてな。その頃は姐さんはギター演奏にハマっていて、俺はドラムをやることになったんだ」

ギリシャ神話の冥界でバンド……凄い違和感と言うか想像するのが難しい光景だ。

「なるほど、ペルセポネさんの趣味に付き合っていくうちにドラムの腕が上手になったんだな」

「まあ、手先を器用にする訓練と息抜きを兼ねてやっていただけだがな」

そう言う割りには高速でドラムを叩いていますけど?

「でも、そのお陰でこうして俺達でバンドを出来るから良いんじゃないか?」

「……そうだな」

サクラは小さく笑みを浮かべてスティックを手の中で回す。

奏が楽譜と歌詞を書き終えるまで俺とサクラは演奏の練習をする。



side千歳


天音とサクラが奏さんの所で演奏をしている時、私は明日奈と一緒に文化祭の準備のために手続きや荷物を運んでいた。

その際に昨日の天音の出来事を明日奈に話した。

「いやー、昨日は天音が大変だったよ〜」

「聞いたよ、天音君がまた梁山泊に向かおうとしたんだって?」

「うん。天音、今まで雪村家の事を全く話さなかったから変だなと思っていたけど、まさか雪村家の当主のお祖母様に会いたくないほど苦手だったなんて知らなかったよ……」

「人間誰しも苦手な人の一人や二人はいるとは思うけど、天音君は少し意外だったな」

「何でも、雪村のお祖母様は頑固一徹で堅物な性格で、演奏にも厳しかったらしいからね」

「でも、それだけで天音君が嫌がるなんて……」

天音が雪村家で演奏の練習をしていた頃の記憶を手繰り寄せると、一つ気になる事を思い出した。

「あれ?そう言えば……」

「どうしたの?」

「昔、天音が習った和楽器の演奏を聴かせてあげるって言ってくれたんだけど……その演奏の日に何故か天音の頬が少し赤く腫れていたような……まあ、演奏は何事もなかったかのようにやってくれたけど」

私は天音にどうしたのと聞いたけど、何でもないよと言われてしまい、それ以来その事については何も聞かないでおいた。

「頬が赤く腫れて……もしかして、天音君のお母さんに叩かれたとか?」

母親が悪い事をした子供にしつけとして頬を叩く事はよくある事だが、天音の場合は……。

「ううん。天音は昔からいい子で叩かれるような事はしないし、お義母様の六花さんはあの性格だから天音を叩かないし……」

「……もしかしたら、幼い頃に頬を叩かれた事と、雪村家のお祖母さんを苦手になったことに何か繋がりがあるかもしれないわね」

幼い天音が雪村家で何かトラブルを起こした可能性が浮上してきた。

私は天音の幼馴染として、婚約者としてその事を知りたがったが……天音の嫌な過去をほじくり回して苦しめるのは私も嫌だ。

「明日奈、この事は天音に黙っていてくれないかな?」

「うん。私も天音君に嫌な事を思い出させたくないからもちろんだよ」

「ありがとう、明日奈」

「いえいえ」

「あの、天堂千歳さん!」

「ほぇ?」

突然名前を呼ばれて後ろを振り向くと、そこに中性的な感じの女の子が立っていた。

「天堂千歳さんですよね?天音さんの恋人の……」

「そうだけど、あなたは?」

「初めまして。僕は1年C組の小野宮翡翠です」

「翡翠……ああ、あの“生霊探偵”の小野宮さんね!」

小野宮翡翠の名前に真っ先に反応したのは明日奈で初耳の単語を口にした。

「生霊探偵?」

「生霊探偵はね、天音君が使う魂の力である霊力で術を発動させる霊操術とは違う魂自体を使う不思議な技を持つ探偵の一族の総称なのよ」

へぇー、自分の魂自体を操る術ね……面白い探偵の一族ね。

「それで、翡翠さんは私に何の用なの?」

「いえ、千歳さんではなく、天音さんに用があるのです。それと天音さんに関わる男性全員に……」

「天音に関わる男性?それって、せっちゃんと恭弥……」

「それにサクラ君?」

三人の名前を出すと翡翠はコクリと頷く。

そして、翡翠がポケットから取り出した携帯電話のある画面を私達に見せた。

「「AFC文化祭マーケット?」」

それが翡翠が私を尋ねた理由であり、天音の逆鱗に触れるものであった。



放課後の文化祭準備時間が過ぎ、生徒全員学生寮に戻った後、私は小野宮翡翠さんの要請で天音達を部屋に集めた。

「AFC……一体何の略だ?」

「天音さん……この略は“Amane Fan Club”ですよ」

「ああ、そうか……」

天音ファンクラブの会長である雷花さんがそう言い、天音は落胆した。

雷花によると今度の文化祭で天音ファンクラブによるマーケットが開かれるらしい。

そのマーケットの商品には……天音の同人グッズが売られるらしい。

写真から抱き枕、更には同人誌が売られる。

そう言えばバトルロワイヤルの時に天音と恭弥のカップリングの同人誌を書いていたし、修学旅行で判明したけど、天音ファンクラブにはBL好きの女子がたくさんいたな……。

つまり、天音ファンクラブのみんなが天音関連のグッズ限定で夏と冬に行われるアニメや漫画の二次元のマーケットみたいに販売されるらしい。

「でも、翡翠はどうしてその事を教えてきたの?」

「僕はファンクラブの人達を許せないんだ。天音さんが嫌がっている事……特に無理やり女装をさせたりする事とか……」

何故か翡翠は拳を握りしめて体から黒いオーラを滲み出している。

それはまるで翡翠自身の私怨が混ざっているみたいな感じだった。

「あの、翡翠……昔何かあった?」

「……実は僕、中学の時に文化祭とかでクラスメイト達に男装をさせられた事があって……」

「だ、男装……」

なるほど、天音が女の子に見えるに対して翡翠は男の子に見えるから男装を……確かに男装すれば貴公子みたいな感じで凄く似合いそう。

ただそれを口にしちゃうと翡翠の私怨が私に向けられそうだから黙っていた。

「僕はこんな顔をしているけど、本当は可愛い服が大好きなんだ。ワンピースとか、ミニスカとか着たいのに……みんなは僕をカッコイイ女の子としか見てくれないんだ……」

何かこの前の体育祭の天音を彷彿させるような言葉を翡翠は言っている。

この子も自分の生まれ持った顔で相当苦労したみたいだった。

それに共感するのはもちろん……。

「分かるよ、分かるよ!翡翠さんのその気持ち!!」

言わずもがな、翡翠とは言わば同じで対を為す存在の天音だった。

「俺も母さん譲りの女みたいな顔だけど、従兄弟の璃音兄さんみたいに男らしくなりたい……性別は違えど、翡翠さんの気持ちはきっと誰よりも分かるよ!!」

「ありがとう、天音さん!あなたならそう言ってくれると信じていました!!」

天音と翡翠はガシッとお互いの手を強く握って握手をした。

それはお互いの気持ちが一つになって、大きな繋がりにより共鳴し合う瞬間だった。

私と天音は恋人として婚約者として心と体、両方に深い繋がりがあるけど、二人のこの繋がりには多分私は一生繋がれないなとすぐに悟った。

「なあ、話がちょっと変わるけどさ。雷花、お前のファンクラブ会長権限でそのマーケットを中止させることは出来ないのか?」

恭弥がもっともな事を言うが、雷花は首を左右に振った。

「それは無理。私は確かに会長だけど……天音ファンクラブは既に幾つもの派閥が生まれて独立していて、最早私の会長としての権力は何の役にも立たない……」

過激派による独立ね……私や天音が知らない間にそんな事になっていたなんて。

雷花もただ天音を応援するためにファンクラブを作ったのに面倒な事になったわね。

これも全部、天音が持つ男女の心を狂わせる沢山の魅了の所為なのかもしれないわね。

「じゃあ、どうするのでござるか?」

「このままだと旦那様達の如何わしい商品が広まってしまいますし……」

「教師の中にもファンクラブの会員がいそうだしな……」

「もはや天音君は芸能界トップアイドル並みの人気だね……」

せっちゃんとれいちゃん、サクラと明日奈はマーケットをどうするか一緒に悩んだ。

私もどうしようか考えたけど、その答えは天音と翡翠がすぐに見つけた。

「そんなのは簡単だ。ねぇ、翡翠さん?」

「ええ。天音さんの怒りをぶちまけて、奴らを一網打尽にする方法をね」

天音と翡翠は相談もしていないのに、まるで心が繋がっているかのようにこの問題の答えを見つけた。

ただし、その二人の答えは……。







「「文化祭のマーケット当日に襲撃して殲滅させる」」







私達が思わず身震いをしてしまうほどの恐ろしい答えだった。

そして、聞いてしまった私達もその作戦に参加を強制させられるのだった。



sideイチ


暗闇に支配された夜の闇の世界……。

数年前に両親とこの目を失ったあの日から、私は闇に生きることを誓った。

この世に蔓延る全ての悪を憎み、そしてこの刀で悪の首を斬り落とし、刃に血を吸わせる事で復讐に飢えている私の心を満たしていた。

しかし、そんな私の目の前にかつてないほどの強大な『悪』が立ち塞がっていた。

「っぅ……はぁ、はぁ……!」

逆手に握った刀を強く握り直して鞘に納め、急いで荒れた息を整えようとする。

私と対峙している悪は私を見るなり拍手をしてきた。

「……鍛え抜かれた視力以外の五感と闇の世界で生まれた第六感……素晴らしい!流石は“首斬りの斬罪者”、イチだ!!」

首斬りの斬罪者……誰かがつけたか分からない私の異名だ。

「今すぐにお前を“喰らいたい”ところだが、私はすぐに行かなければならない……さらばだ!」

悪は足元に魔法陣を発動させてこの場から立ち去ろうもする。

「ま、待て!居合い……無月!!」

刀から刃を解き放ち、高速の斬撃で空間を斬り裂いた際に真空の刃が生まれた。

悪の首を斬り落とすために真空の刃が飛んで行ったが惜しくも刃が届く前に魔法陣の力で何処かに消えてしまった。

「逃げられたか……いや」

寧ろここから立ち去った事は私にとって幸いだったのかもしれない。

あのまま戦っていたら私は奴に『喰われて』いたかもしれない。

何故ならあいつはただの人間ではない……かつて世界を混沌に陥れた伝説の使徒……。







「……“混沌の十二使徒”。獣の使徒……“キメラ”か」








私は刀を鞘に収めて闇の中に溶けるように消えて行った。




アーティファクト・ギアの最大の敵の一人が判明いたしました。


これからストーリーに大きく関わると思います。

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