第104話 近付く出会い
天音が梁山泊に来てからの日々から……文化祭への始まりとなります。
side天音
狂魔さんとの決闘が終わったその直後、疲労困憊で倒れてしまった俺が目を覚ますとそこには白蓮と黒蓮、そして璃音兄さんと花音姉さんの姿があった。
「天音、よく狂魔に勝ったな。流石は俺の弟だ!」
璃音兄さんは満面の笑みで俺の頭を撫でてくれた。
少しくすぐったけど、璃音兄さんに褒められてとても嬉しかった。
「天音、起きられる?」
「え?うん、もう大丈夫だよ」
「それじゃあ歓迎会の続きを始めましょう。さっきは狂魔の所為で始まらなかったからね」
花音姉さんがそう言うと俺は寝かされたベッドから降りて食堂に向かった。
食堂に入ると、天星導志のメンバーが集まっており、初めて入った時と同じように拍手がわき起こった。
そして先ほど俺が戦った相手の狂魔さんが今度は笑顔で俺に近づいてきた。
「いやー、負けたぜ。流石は璃音と花音の自慢の弟と言うべきか?」
「ありがとうございます。それで、俺の事を……」
「ああ、認めるぜ。多分さっきの決闘で他の奴らもお前の事を認めているはずだ」
「はい。では……」
俺は狂魔さん達、天星導志のメンバーに向けて挨拶をする。
「日本から来た蓮宮天音と申します。しばらくの間、こちらでお世話になります。よろしくお願いします」
『ピィー!』
『『『わうっ!!』』』
白蓮と黒蓮も俺と一緒に頭を下げて挨拶をすると、再び拍手がわき起こった。
その後、俺達の歓迎会が始まった。
メンバーのみなさんは璃音兄さんと花音姉さんの従兄弟の弟である俺に興味津々で俺や白蓮と黒蓮の事、後は趣味とか色々聞かれた。
趣味でお菓子作りをしていると言うと、璃音兄さんと花音姉さんが俺のお菓子は絶品だと口を揃えて言ってしまった。
すると、メンバーのみなさんの目の色が変わり、是非ともお菓子を作って欲しいと頼み込んできた。
こちらにお世話になっているわけだし、特に断る理由も無いので喜んで二つ返事をした。
そして、歓迎会を楽しんで一日が終わろうとすると、俺は携帯電話を持ってテラスに出た。
外から見る夜空はとても綺麗で月と星が金色に輝いていた。
今まで電源を切っていた携帯電話の電源を入れて、千歳の携帯電話の番号の画面を開いて千歳に電話する。
Prrr……Prrr……ガチャ。
「あ、千歳。もしもし?」
『天音!?天音なの!?ずっと心配したんだからね!!今どこにいるの!!?』
「ご、ごめん……何も言わずに消えちゃって。今俺は白蓮と黒蓮と一緒に天星導志のアジトの梁山泊にいるんだ」
『梁山泊!?じゃあ義姉様と義兄様と一緒?』
「ああ。それで、天星導志のみなさんに認められてしばらくこっちに滞在することになったんだ」
『……やっぱり、文化祭で女装させられるのが嫌なの?』
流石は俺の事を誰よりも分かっている幼馴染で恋人の千歳だな。
「……ああ、そうだよ。もう女装なんてやりたくないからこうやって行動に移したんだ。嫌だって言っても無理やりさせるんだから逃げるしか無いだろう?」
『天音……』
「悪いな、千歳。勝手に行ってしまって、寂しくしてしてしまった埋め合わせは後で必ずやるからな」
『うん……でも、毎晩電話をしてくれたら嬉しいな……』
「分かった。毎日時間がある時に電話をするよ」
『ありがとう。体に気をつけてね』
「ああ。それじゃあ、お休み」
『うん。お休み、天音……』
千歳との電話を切り、大きく息を吐いて夜空を見上げる。
千歳、元気がなかったな……やっぱり、俺達だけじゃなくて千歳と銀羅も連れて行くべきだったかな?
でも、璃音兄さんがあまり部外者の人間を梁山泊に招き入れられないと言っていたからな。
俺自身は璃音兄さんと花音姉さんの従兄弟で、詩音叔父さんの跡を継いだ蓮宮十三代目当主だから喜んで迎えてくれたけど、千歳はちょっと難しいからな。
そう言えば久しぶりだな……千歳とこんなに離れ離れになるのは。
幼馴染の俺と千歳は今までほとんどの時間を一緒に過ごしてきた。
だけど、こうして遠く離れた国で長い時間を一緒に過ごさないのは本当に久しぶりだった。
千歳に本当に申し訳ないと思い、帰ったら目一杯甘やかしてあげようと思い、俺用に用意された部屋に戻った。
☆
side千歳
失踪してしまった天音からの電話の後、私は大きなため息をついて天音が使っているベッドに転がった。
「天音の匂いがする……天音ぇ……会いたいよぉ……」
天音が天聖学園から使っていてすっかり匂いが染み付いたベッドで天音の匂いに包まれながら悲しみを僅かに紛らわせる。
『既に禁断症状が出ているな……どうにかして旦那を見つける方法があればいいんだが……』
銀羅は若干呆れながらテレビを見て寛いでいた。
「見つけようにも天音は梁山泊って何処か分からない所にいるし、アリス先生は無理だし……」
アリス先生ならすぐに天音の居場所をわかると思うけど、あらかじめ先手を打った天音によって使えない状況だ。
「あー!もう!天音に会いたいよー!!文化祭でデートしたかったのにぃ!!」
『せめて、旦那の居場所が分かれば良いのだが……千歳よ、誰かの居場所を突き止めるアーティファクト・ギアは無いのか?』
「うーん、そう言うアーティファクト・ギア使いはよく警察とかに所属しているって聞いたことがあるけど、この天聖学園にはいないと思う……」
『それか、場所を特定できる占いを出来る人間でもいれば良いんだけどな……』
「占いねぇ……」
アリス先生に代わる人、誰かの居場所を突き止める、占い……そんな事を出来る人間は……。
「んっ?」
『千歳?どうした?』
頭の中に三つの浮かぶ単語が組み合わさり、一つの答えが浮かび上がった。
「いる……アリス先生以外で、天音が何処に居るのかを特定できるかもしれない人間が……!!」
『本当か!?』
「うん!今日はもう遅いから明日、その人にお願いするよ!」
『そうか。では刹那と麗奈も呼んで天音を探しに行こう!!』
「そうね!もしかしたら時間はかかるかもしれないからお祖父ちゃんに頼んで数日間休学してもらうわ!銀羅はこの事をせっちゃんとれいちゃんに伝えてくれる?」
「分かった!任せろ!!」
私と銀羅は部屋から出て、それぞれ学園長室とせっちゃんとれいちゃんの部屋に向かった。
居なくなった天音を見つけるために、学園から消えた天音と同じく私達も行動に移した……!!
☆
side天音
梁山泊に来てから早くも約一週間が過ぎた。
しかし、ただ単に梁山泊に泊まりに来たのでは申し訳ないので、極力自分に出来ることをしていった。
まずは朝・昼・晩のごはん作り。
これは料理が得意な俺がごはんを作ったら、メンバーのみなさんが揃って美味しいと言ってくれて滞在期間中ずっと作ってくれと頼まれたからだ。
やっぱり自分の作った料理を美味しいと言ってくれるのは嬉しいから喜んで作っている。
そして、ごはん作りと並行して行なっているのがお菓子作りだ。
これはみなさんの三時のおやつや食後のデザートのお菓子を作っていて、これも美味しいと言ってくれる。
璃音兄さんと花音姉さんを除く、天星導志のメンバーの大半が俺の料理のファンになってしまったので、このまま梁山泊の料理長になってずっと料理を作り続けてくれませんかな?と、天星導志のボスの皇さんに言われてしまうほどだった。
みなさんも賛同して俺に頼み込んだが、流石にそれは色々と無理なので、やんわりと断った。
趣味の料理以外に俺がやることは資料整理と模擬戦だ。
天星導志は世界中を股に掛ける正義の組織なので、悪の組織のデータやそれに関するお金関係のデータが膨大にあり、その資料を整理する仕事を手伝った。
基本、そう言う資料は部外者には見せられないものだけど、資料の中身は俺の苦手な事で全く理解が出来ない英語でビッシリと書かれていたので、特に問題は無かった。
だから、俺に出来ることは資料を番号順や種類別に分ける簡単な手伝いが精一杯だったけどね。
もう一つの模擬戦は狂魔さんと戦って勝利をした俺と是非とも戦いたいという人が殺到して、簡単なAGバトルの模擬戦を行うことになってしまった。
俺としても世界を相手にする天星導志のメンバーと戦えることは光栄な事なので喜んでお相手をした。
天聖学園での勉学を中心とした普段の日々とはまた違う充実な日々だった。
ちなみに、休憩時間には白蓮の体を撫でてやったり、黒蓮の毛皮にブラッシングをしてやったりしながらまったりと過ごしていた。
「気持ちいいか?白蓮、黒蓮」
『ピィ〜♪』
『『『がぅ〜っ♪』』』
二人の表情はとても穏やかで、気持ちいいと声を漏らしていた。
「そうかそうか。よしよーし、もっとやってあげるからな〜」
二人とのコミュニケーションを兼ねたこの行為は俺にとって心が安らぐ大切な時間なのだ。
天聖学園に居た時みたいな騒がしい出来事はなく、このまま平和な時が続けばいい……そう思った。
ドガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!
しかし、やっぱり俺はトラブルに巻き込まれてしまう呪われた体質らしい。
「な、何だ!?」
『ピィッ!?』
『『『わうっ!?』』』
突然の爆音に驚いて椅子から落ちそうになったのを堪えて爆音が起きた方角に走り出した。
走るその途中で璃音兄さんと花音姉さんを見つけて合流した。
「兄さん、姉さん!さっきの音は!?」
「どうやらこの梁山泊に侵入者が入ってきたらしい!」
「しかも門番のガルトとヘカトンケイルを倒して堂々と正面から突入してきたらしいよ!」
「門番の二人を倒して!?」
あの強固な門番のガルトさんとヘカトンケイルを倒すなんて……一体侵入者は何者なんだ!?
俺達はその侵入者に対抗する為に顕現陣から武器を取り出していつでも戦闘を行えるようにする。
さあ……梁山泊に堂々と乗り込んできた侵入者、その顔を拝ませてもらおうか!!
「……おーい、天音ー!!何処に居るのー!!?Where is My Sweet Honey!!!??」
……………………あれぇ???
侵入者だと思われる人間の声……それは俺が特に聞き慣れた声と同じ声音だった。
いや、声音だけではない。
口調や時折英語が混ざった言葉は俺の知る限りこの世で一人しかいない。
『ピィ……』
『『『わぅ……』』』
「……天音」
「この声……物凄く聞き覚えがあるんだけど……」
みんなもこの声には聞き覚えがあり、顔を引きつっていた。
俺達は走るスピードを更に上げてその侵入者の元に向かった。
そして、梁山泊の正面玄関近くに向かうと……。
「超銃変化、ストームガトリング!Fire!!」
「忍法・影分身の術!!」
「火遁・竜炎弾の術!!」
やっぱり……そこには俺達の知る人物である千歳がいた。
しかも俺達の忍者の刹那と麗奈もいて共に天星導志のメンバーを相手に戦っていた。
そして、もう一人驚くべき人物がそこにいた。
「これが天星導志の戦士達……新選組の連中と互角以上の戦闘能力ね……」
それは数ヶ月前の京都の修学旅行で出会った日本最強の陰陽師・安倍晴香だった。
晴香の周りには式神であり契約聖獣でもある陰陽道の神の十二神将達がそれぞれ武器を持って天星導志のメンバーと戦っていた。
「ああ、もう!次から次へとうっとおしいわ!銀羅、炎帝九尾銃で一気に決めるわよ!」
「それなら、私も天壌十二天で一気に決める!!」
ちょっとぉおおおおおっ!?
ギアーズ・オーバー・ドライブの炎帝九尾銃と十二神将の同時契約執行の天壌十二天で決めるですと!?
ただでさえ千歳の炎帝九尾銃は対多数戦闘でその真価を発揮する強力なアーティファクト・ギアだ。
それに加えて晴香の十二神将の力を結集させた天壌十二天……ヤバイ、天星導志とこの梁山泊に多大な被害が与えられる光景しか浮かばなかった。
「「契約ーー」」
「二人共、STOP!!」
二人が奥の手の契約執行をする前に俺は大声で静止しながら前に出た。
「あっ!?天音!!会いたかったわ、My Sweet Honey!!!」
俺の姿を見るなり千歳は全力疾走で俺に突撃するように抱きついてきた。
あまりの威力に危うく倒れそうになったがそこはグッと堪えて千歳を抱きとめる。
「親方様!!」
「旦那様!!」
刹那と麗奈は武器を納めると俺の元で跪いた。
「天音〜!天音〜!!」
「ち、千歳さん……気持ちは分かるけど苦しいから……」
「千歳、天音が窒息死しそうだから離れたら?」
晴香は苦笑を浮かべながら千歳の肩を軽く叩いた。
「分かったわ、はるちゃん」
「はるちゃん言うな」
千歳はすぐに俺から離れてくれると、俺は晴香に視線を向ける。
「久振りね、蓮宮天音」
「ああ。それにしても、何で晴香が千歳達と一緒に梁山泊に?」
どうやって千歳達と一緒にこの梁山泊まで来たのかその理由を聞きたかった。
「おやおや。随分と可愛らしい侵入者ですね」
しかし、その理由を聞くのは少し後になりそうだった。
天星導志のメンバーをかき分けて出て来たのは皇さんだった。
千歳達が派手に正面玄関から侵入して来たのに相変わらずの穏やかな表情でニコニコしていた。
「璃音、花音。彼らはもしや……」
「ああ、彼奴らは俺達の……いや、天音の身内と友人だ……」
「本当、天音と一緒だと退屈しないわねぇ……」
璃音兄さんと花音姉さんは呆れたように笑みを浮かべていた。
多分この自体を引き起こす原因は俺だから、本当に申し訳ありません……。
その後、千歳達によって倒された、または怪我を負ったメンバーを医務室に運ぶと俺は千歳達を座らせて……。
「うちの子達がご迷惑をお掛けしました。すいませんでした……」
「「「「すいませんでした……」」」」
梁山泊に殴り込んできた千歳達を頭を下げて謝らせる。
千歳と晴香が何か言いたそうだったけど、俺は有無を言わせない怒気のオーラを纏って二人を睨みつけて黙らせる。
普通なら理不尽な被害を受けた人は怒ったり、色々不満を口にすると思うが、天星導志のみなさんは違っていた。
「くっ……まだまだ俺達は修行が足りないな……」
「こんな小さな子達に負けるようじゃ、正義の化身である天星導志の名が廃るわ!!」
「よっしゃあ!今すぐに“獄練場”に向かうぞ!医務室にいる奴らも含めて鍛え直すぞ!!」
ちょっとちょっと、何ですかこの前向き思考は……?
怒るどころか自分達の実力不足を指摘して鍛え直すと言って何処かに行ってしまった。
そう言えば『獄練場』って言っていたけど、何か恐ろしい場所に思えるんだけど……。
「ははは!みんなは相変わらず元気ですね」
いやいや、皇さん。
あれをただの元気と称して良いんですか?
「……不思議な人達だね」
「これが天星導志でござるか……」
「私達とは考え方や価値観が異なるのですね」
「彼らに京都の新選組に通ずる何かを感じる……」
目の前の光景に少し呆然とした千歳達は天星導志のメンバーのみなさんに対する感想を述べて行く。
おっと、聞き忘れるところだったけど、千歳達から話を聞かなくちゃ。
「千歳、まずはどうしてここに来たんだ?」
「それを説明する前に……はいこれ」
千歳は顕現陣から一枚の紙を取り出して俺に渡してきた。
その紙には天聖学園の紋章と学園長直筆のサインと判子が押されていた。
「何だこれ?えっと……『天聖学園新規特別校則』?何々……『生徒本人が嫌がる服装を無理矢理着用させる事を禁ずる』??『もし本人の了解無く無理矢理着用させたら関係者全員を一週間の停学処分』!?何じゃこりゃあ!??」
こんな聞いたことも見たこともない無茶苦茶な校則に目を見開いて驚愕する俺に千歳は得意げな笑みを浮かべた。
「つまり、天音に無理矢理女装させたら停学処分になるのよ♪」
「まさか……学園長に頼んで……?」
「うん、まーね。この前の天音の切腹未遂にお祖父ちゃんも考えていてね。いくらイベントでも、本人に大きな心の病を作り出すような事はダメって事で特別校則を作ってもらいました!!」
な、何という権力の暴力……!?
まさか千歳が俺のために学園長に掛け合って校則を作ってくれるなんて……これで俺は天聖学園で体育祭の時みたいな女装をして心を病むことは無くなる!!
「千歳!!」
「えっ?ひゃあん!?」
俺は嬉しさのあまり千歳を抱き寄せてギュッと強く抱きしめる。
「あああ、天音!?」
「ありがとう、千歳……本当にお前は最高の恋人、いや……最高の妻だ」
「ふぇええええっ!?つ、妻だなんて……わ、私は天音の為なら何でもするからね……」
「ああ……本当にありがとう……」
「ふ、ふにゃあ〜……」
千歳は俺の胸の中で気持ち良さそうに猫のような声を上げて俺を抱きしめた。
『ピィー』
『『『ばうっ』』』
『久々に見たな、旦那のデレは』
白蓮と黒蓮と銀羅は半分呆れた表情になり、璃音兄さん達は苦笑を浮かべた。
後から冷静になった俺は珍しく恥ずかしいことをしたなぁ……と思ったが、愛を込めて千歳を強く抱きしめたことに後悔はしなかった。
そして、千歳が梁山泊まで来られた理由は晴香にあった。
千歳は刹那と麗奈を連れて境界輪廻で京都に向かい、晴香に俺がいる場所を占いで突き止めたのだ。
だが、梁山泊は中国大陸の何処にあるか分からない秘境にある。
場所はだいたい分かっても普通に行っても梁山泊には辿り着く事は出来ない。
だから、晴香が千歳達に付き添い、陰陽術で梁山泊への道標となって一週間近い時間をかけて辿り着いた。
しかし、梁山泊に辿り着いたのは良いが、梁山泊には門番のガルドさんがいて入りたくても追い出されそうだったのでそのままバトルに突入して門を破壊し……今に至る訳だった。
そして、俺が天聖学園で女装する心配が無くなったので璃音兄さんは……。
「天音、天聖学園に戻ったらどうだ?」
「えっ?でも……」
「やっぱり人生で学生生活は楽しい時間なんだぜ。その時間を無駄にしちゃダメだ。お前は俺達みたいに後悔する必要なんかねえんだよ」
「璃音兄さん……」
璃音兄さんと花音姉さんは天聖学園に一年も満たないうちに退学して天星導志のメンバーとなった。
だからこそ俺に学生生活を楽しんでもらいたい気持ちがあるのだ。
「梁山泊にはいつでも来い。待ってるからよ」
「うん。ありがとう……」
璃音兄さんの後押しもあり、俺は予定よりも早く天聖学園に戻る事になった。
そして……。
「みなさん、お世話になりました」
「天音君、また来てくださいね」
「はい!」
俺は荷物を纏めて梁山泊を出ることとなった。
もう少し滞在したかったが、学生は学校に通ってこそ性分だと皇さんに言われ、すぐに天聖学園に戻る事になった。
「天音!次会ったらまた俺と勝負しようぜ!」
「はい!狂魔さん!」
狂魔さんと再戦を誓い、お互いの拳を軽くぶつけ合った。
「またな、天音」
「何かあったら連絡してね」
「ありがとう!兄さん、姉さん。それじゃあ、またね!」
「おう!行って来い!」
「行ってらっしゃい!」
璃音兄さんと花音姉さんに別れを告げて、境界輪廻で天聖学園に戻った。
天聖学園に戻ると、千歳を手伝ってくれた晴香を京都へ送り届ける。
「はるちゃん、手伝ってくれてありがとう」
「はるちゃん言うな。まあ、京都で迷惑をかけたからな。そのお詫びだ」
「私と銀羅はもう気にしてないけどね」
「私の気がすまないんだ。また何かあったらいつでも連絡しろ」
「ありがとう、はるちゃん」
「だから……はるちゃん言うなぁっ!!」
「あはは〜!」
「もう……あ、そうだ。天音、お前に忠告しておく事がある」
「忠告?」
いきなり何だ?と思うと、占いが得意な晴香は目を細めて俺に伝えた。
「近い将来にお前や千歳、天聖学園の仲間達に色々な出会いが待っている……」
「それは占いで知ったことなのか?」
「そうよ。それから、あなたは特にトラブルに巻き込まれる体質みたいだから気を付けてね」
「ああ、わかったよ」
晴香を京都へ送り届け、晴香から聞いた忠告の言葉を深く胸に刻んだ。
「出会いね……」
どんな出会いがあるかどうか分からないけど、まあ何とかなるだろうと思って千歳と一緒に一週間振りの学生寮の自室に戻った。
☆
晴香が伝えた天音が出会う者……それは異なる道を歩む者達である。
人々の心を響かせる音楽の道を志す者。
「さーて、文化祭までに僕とバンドを組む相手は見つかるかな?」
悪を憎み、悪を斬る断罪者と同じ道を歩む者。
「次は……こっちか……」
蓮宮とは異なる不思議な霊の力を継ぐ者。
「ふわぁ〜、よく寝た……」
それぞれの出会いが天音や仲間達にどんな影響を与えるのかは、誰にも分からない……。
そして、
「天聖学園……次はそこにいるかもしれないな……」
混沌を司る使徒の一人が天聖学園に近付こうとしていた。
.
最後の三人の新キャラ、その内の二人はオリキャラとなっています。




