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アーティファクト・ギア  作者: 天道
第8章 日常編
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第97話 体育祭開幕!

体育祭が遂に開幕します。


天音の運命は如何にです(笑)

体育祭の種目決めと追いかけっこ、そして七海瑠璃華さんとの出会いから一週間が過ぎた。

俺は男なのに何をやっているんだ?と大きな疑問を持ちながら応援合戦のチアダンスの練習を心を必死に抑えながら行った。

それと並行して雷花さんは出来るだけ露出度が低い俺達のチア衣装を頼んで作ってもらっている。

放課後に行っているチアダンスの練習が終わり、汗をタオルで拭いてスポーツドリンクを飲んでいると同じくダンスをしている千歳が話しかけてきた。

「天音、ダンスを覚えられた?」

「まあ、神楽舞に比べれば楽だよ……」

神楽舞は一つ一つの動作が難しいのでそれに比べればダンスはまだ楽で踊りやすく、覚えやすい。

すると、こっちに桜髪の少年が歩いてきた。

「おーい、天音」

「サクラ?帰ってきたのか?」

断罪者として一週間近く天聖学園に不在だったサクラが帰ってきた。

「おかえり」

「ああ。さっき明日奈から聞いたが、本当にチアガールをやるんだな……」

サクラは哀れみの目で俺を見つめて肩にポンと手を置いた。

「おう。やる事になっちまったんだ……」

「確か来週だったな、体育祭。頑張れよ」

「頑張ります……」

ライバルに励まされ、自分の生まれ持ったものの厄介さに俺は大きなため息を吐いた。



side千歳


「ふふふん、ふんふんふーん♪」

チアガールの練習が終わった後、私は家庭科室でちょっとした料理をしていた。

「レモンとハチミツに炭酸水〜♪」

それは練習で疲れた天音の為にハチミツ漬けにしたレモンと炭酸水を使って疲労回復の特製ドリンクを作ってあげている。

スプーンで軽く味見をするとレモンの酸っぱさとハチミツの甘さが炭酸水といい感じに混ざり合って美味しかった。

「うん!Delicious!今すぐ天音に飲ませてあげよう!」

特製ドリンクを水差しに入れて天音がいる部屋に持って行こうとしたその時。

「愛しの天音さんに特製ドリンクですか。やりますね、千歳さん」

「えっ?あなたは……七海瑠璃華!?」

家庭科室の壁に寄りかかっていたのは天音を狙う人魚の女の子、七海瑠璃華だった。

私は水差しを置いて瑠璃華を警戒すると、瑠璃華さんは小さく笑みを浮かべた。

「そんなに警戒しないでください。私はあなたと争うつもりはありません」

「どうかな……あなたは天音を狙っているじゃない!」

「ええ。あの時言ったように私は天音さんを慕っております。少なくとも、あなたよりは……」

「ふざけないで。天音を世界中で誰よりも愛しているのは私よ」

「ですが、あなたは天音さんを本当に愛しているのですか?」

「どう言う意味よ……」

瑠璃華は何を言いたいのか分からず、そのまま話を聞くことにした。

「あなたは生まれた時から虚弱体質で、幼い頃から天音さんが側に居てあげた……それからあなたはずっと天音さんを愛していますね?」

「そうよ。それがどうしたの?」

そして私はこの時話を聞かずに行けば良かったと後悔した。







「もしかしてあなたは……天音さんの人生の大半を奪った“罪滅ぼし”の為に愛しているのではありませんか?」







それを聞いた瞬間、私は言葉を失い、絶句した。

「罪、滅ぼし……?」

私の天音に対する思いが偽物だと言うの……?

「無意識のうちにあなたは自分を支えてくれた天音さんを愛さなければならない。側にいなければならない。身を捧げなければならない……そう思ったんじゃありませんか?」

「ち、違う……私は、私は天音の事が大好き!!愛している!!この気持ちは罪滅ぼしとは絶対に違う!!」

「でも、少なくとも心のどこかで罪の意識を感じているのではないですか?天音さんの人生を奪ったという罪の意識を……」

次々と並べられていく瑠璃華の言葉に心が鎖で締め付けられるように痛く、苦しくなり、息が荒くなっていく。

「違う……私は……私は……」

昔の天音との思い出が次々と頭の中で走馬灯のように映し出されていく。

その中で、私は黒く塗られた『罪』の文字が思い出を埋めて行く。

私の天音に対する初恋の恋心から愛する心……それは全て罪の意識から生まれた偽物じゃないのかと錯覚し始める。

「天、音……」

体から力が抜けて崩れ落ちた瞬間。







『この醜き小娘が……』







突然私の体から妖気が溢れ出し、金色の九本の尻尾が現れた。

「な、何ですの……!?」

『よくも……よくも千歳を言霊で苦しめたな……』

「金羅……?」

それは私の中にいるもう一つの契約聖獣で銀羅の姉の九尾の妖狐……金羅だった。

金羅は私の体を一時的に支配してアーティファクト・ギア、絢爛九尾を発動させて魔剣・九魔之魔剣を呼び出し、その切っ先を瑠璃華に向ける。

『小娘。これ以上千歳を苦しませるなら、貴様をこの場で斬り殺してやる……それが嫌なら今すぐ去れ!!』

殺気と共にドスの効いた声を発する金羅に瑠璃華は危険を察知して一気に下がった。

「千歳さん……今度の体育祭で勝負しませんか?」

「勝負……?」

「ええ。体育祭でどちらが天音さんに相応しい人なのか……では、ごきげんよう」

そう言い残すと瑠璃華は家庭科室から消えるように去って行った。

『千歳、大丈夫か……?』

「金羅。うん、大丈夫。ありがとうね、助けてくれて……」

『お前は私のもう一人の母だ。助けるなんて当たり前だろう?それから……あんな小娘の言う事を目の当たりにするな』

「うん。でも……瑠璃華の言っていることは、あながち間違いでも……」

『京都での戦いを思い出せ。天音は命をかけて私から千歳を救おうとし、千歳は天音のために私の支配を打ち破ろうとしたではないか。あの時の二人の絆は本物だ。自信を持て!』

「金羅……」

『さあ、早くその飲み物を天音の元に持って行け。話は後で幾らでも聞いてやる』

「……うん!ありがとう!」

金羅から元気を貰い、私は特製ドリンクの入った水差しを持って天音のいる自室に向かって走って行った。



side瑠璃華


千歳さんに宣戦布告をしに言っただけなのについ口が過ぎてしまい、彼女の中に眠る逆鱗に触れてしまいましたわ。

「あれが、噂に聞く千歳さんのもう一人の九尾の妖狐……」

先月の修学旅行中の京都の現れ、京都を妖怪の国にしようとした九尾の妖狐。

その九尾の妖狐の憎しみや恨みを千歳さんが受け止めて自らの契約聖獣にした……噂には聞いていましたが、あれ程千歳さんを慕い、大きな力を持っていたのは驚きでした。

確か二人の九尾の妖狐は双子で、千歳さんは二人のお母さん的な存在であると……お互いに双子の契約聖獣を持つとは不思議な接点がありますね。

「負けませんからね、千歳さん……」

天音さんは今まで私が出会った殿方の中でも一番素晴らしいお方です。

そんなお方に千歳さんは相応しくありません……ですから、私が必ず奪って見せます。



瑠璃華との一悶着が終わり、自室の扉の前に戻ると天音に暗い顔を見せないように気を付けながら部屋に入る。

「ただいま〜」

「んっ?千歳、お帰り」

部屋に入るなり、上半身が裸の天音の姿が目に映った。

上半身から湯気が出て若干顔が赤く、バスタオルで長髪を拭いていた。

チアのダンスで流した汗を洗い流すためにシャワーを浴びていたのだろう。

シャワー上がりの天音はとても色っぽく、鍛えた肉体とそれに刻まれた霊煌紋が更に色っぽさを出していた。

その姿に私はドキッとし、今すぐに襲って抱きしめたいと思ったがそれを堪えて特製ドリンクの入った水差しを差し出す。

「天音、これ……手作りのドリンクだよ」

「おっ?本当か?」

私はコップを用意してドリンクを注ぎ、それを天音に渡す。

シュワシュワと炭酸の泡が美味しそうな音を出し、ハチミツとレモンが混ざり合ったオレンジ色が綺麗に彩る。

「美味そうだな。それじゃあ、いただき……あっ」

コップに口をつけた瞬間、天音は何故かすぐにコップを離した。

「どうしたの?」

「千歳……このドリンクに、媚薬を入れてないよな……?」

「い、入れてないよ!何でそんな疑いをするの!?」

「いや……千歳ならやりかねないと思って……」

「酷ーい!!そんな事を言う天音には後で本当に媚薬を飲ませて一日中エッチをしてあげるからね!!」

「止めろ。飲むから許してくれ」

天音は軽く頭を下げて謝ってからコップに口をつけ、ドリンクを一気に飲んだ。

「ゴク、ゴク……ぷはぁ!レモンとハチミツと炭酸水で作ったドリンクか……疲労回復と水分補給に良いな。千歳、美味しいよ」

「うん、良かった良かった。では、ご褒美に……」

「ご褒美に?」

「ドリンクの口移しを所望します!」

「嫌だ、断る、断固拒否」

「ガーン!?そんな嫌がらなくても……」

「節度を保て、阿呆が」

「シクシク……じゃあ、代わりに簡単なお願いを……」

「何?」

「その、肌にある霊煌紋を触っても良いかな……?」

「は?」

実は前々から天音の体に刻まれている蓮宮神社の当主の証である蓮の花や波のような刻印の霊煌紋をちゃんと触って見たかった。

触る機会は何回もあったけど、それは『別の事』に意識が行っているために触ることは出来なかった。

「ダメ、かな?」

「……良いよ。別にそれぐらいだったら」

「良いの!?」

ダメ元で聞いたが天音の答えは意外にもオッケーだった。

私は天音の隣に座り、霊煌紋をじっくりと観察するように見る。

改めて見ると本当に不思議な形をした刻印だった。

幾つもの蓮の花や葉が描かれていて、中には波のような形や剣みたいな不思議な形をしたのもある。

そして、この刻印には蓮宮初代当主の蓮姫様から十二代目当主の詩音叔父様の十二人の歴代当主の霊力と天音だけが使える十二の秘伝の霊操術が込めらている。

「触るよ?」

「どうぞ」

天音の許可をもらい、私は恐る恐る霊煌紋をそっと指で撫でるように触れた。

触った感触は天音の肌と同じだけど、霊煌紋の線から冷たいような温かいような感じがする不思議な力……恐らく霊力と思われる力を感じた。

そして、目を閉じながら触ると脳裏に一つの光景が浮かんだ。

それは、一面に広がる綺麗な蓮の花が広がる畑に蓮宮神社の巫女装束を身に纏い、蓮の刻印が刻まれた武器や道具を持った十二人の男女がその蓮の畑に座ったり、立ったりしていた。

穏やかで優しそうな人から顔が怖そうな人達が色々いるその中には蓮姫様と詩音叔父様の姿があった。

ということは……もしかしてみんなは、蓮宮の歴代当主?

すると、その当主達の姿が霧のように消えてしまい、私は目を開けて自分の手を見つめた。

今のは光景は一体……?

霊煌紋に触れただけなのに、どうして私に当主達の姿が見えたんだろう……?

頭に疑問符をたくさん浮かべながら首を傾げて霊煌紋を見つめると、天音が心配そうに私に顔を近づける。

「どうした?千歳」

「え?ううん。何でもないよ」

「そうか?もう霊煌紋はいいか?そろそろ上を着たいからな」

「あ、そうだね。ありがとう、天音」

「ああ」

天音は立ち上がって着替えのシャツを着て、腕とかをグイッと伸ばした。

私が霊煌紋を触った時に見たあの光景はまだ天音には話さないでおこう。

蓮宮の血を継いでない私が霊煌紋を通して歴代当主の姿を見たって事はその事に何か意味があるのかもしれない。

その意味がはっきりと分かるまではこの事は私の心の中にしまっておこう。



それからまた一週間が過ぎ、色々な思惑が交差する体育祭当日となった。

本日は雲一つ無い晴天なり。

絶好の体育祭日和だった。

『レディース&ジェントルメン!これより第100回天聖学園関東校体育祭を開催します!』

天聖学園の名物実況者の神楽坂当夜先輩が開催を宣言し、生徒達が「「「オォーッ!!」」」と声を上げる。

『実況は私、放送部部長の神楽坂当夜と天堂厳武学園長がお送りします!学園長、一言お願いします!』

『えー、ごほん!皆さん、この体育祭を通じて仲間達やライバルと切磋琢磨をし、自分の心を磨き、一つの思い出を作ってください』

『ありがとうございました!では、体育祭の簡単なルールを説明します!』

『チームは三学年を一つにしたA組からJ組の10チームに分かれて競技を行います。ですので、自分のクラスだけでなく同じチームの先輩や後輩達をちゃんと応援してくださいね』

ちょっと分かり難かったがつまり、私達は1年A組と2年A組と3年A組の三学年を一つにしたチームって事だ。

幸い2年A組には頼れる先輩で生徒会長と副会長の雫先輩と迅先輩がいる。

それだけで私達のチームはかなり有利で優勝も夢じゃなかった。

『それでは、体育祭最初の競技は天聖学園の名物競技とも言える一年生による応援合戦です!一年生の皆さんは準備をお願いします!』

来た!

体育祭の最初を飾る応援合戦だ。

この応援合戦で色々あって大変だったけど、みんなで練習を頑張ったチアダンスを見せる時がーーーー。

「天音!逃げようとするな!大人しく準備をしろ!!」

「体育祭を頑張るんじゃなかったのか!?ここは男らしく頑張れ!」

「離せぇえええええっ!俺は絶対に嫌だぁあああああっ!!」

「天音!?」

振り向くとそこには恭弥の如意棒とサクラのトライファング・ケルベロスで暴れまくる天音を抑える光景があった。

昨日までチアダンスの練習を真剣にやっていたのに急にどうしたんだろうと思ったらすぐにその答えがわかった。

それは雷花が作ったチアガールの衣装が原因だった。

天音はチアダンスに出る条件として簡単なダンスと露出度の少ない衣装を出した。

チアダンスは神楽舞をしている天音だから簡単じゃなくてもすぐに覚える事が出来たからクリアだけど、雷花が作った衣装に大きな問題があった。

赤や白の二食を基調にしたよくあるチア衣装だが、天音の要望に反して露出度がかなり高かった。

ヒラヒラの付いたミニスカにお腹や両腕がしっかり見えるチア衣装の中でも露出度がかなり高いけど可愛い衣装だった。

チア衣装の製作者の雷花曰く。「やっぱりチア衣装は露出度が高くないと可愛くない。天音さんには申し訳ないけど、これを着て出てもらう」……という事だった。

雷花の服に込めた熱い気持ちはまさに本物だった。

「離せぇ……俺は絶対に出ないぞ……そんな露出度が高過ぎる衣装でチアダンスに出ないぞぉおおおおおっ!!」

「おわっ!?」

「くっ!?霊操術か!?」

当たり前だけど、そんなチア衣装でチアダンスをやりたくない天音は抗い、霊煌紋の霊操術をフル発動をして二人の拘束をぶち破って逃走を計った。

だけど、それは難しい問題だった。

クラスメイトや天音ファンクラブのみんなが僅か数秒で天音の周囲を囲み、更には契約聖獣の白蓮ちゃんと黒蓮ちゃんがお菓子で遠くに既に連れられており天音にはもはや逃げ道が存在しなかった。

「ち、千歳!助けてくれ!!」

「ごめん、天音。これじゃあ無理だよ……」

天音を助けたいのは山々だけど、流石にこの人数を相手に戦うのは無謀なので諦めた。

「うわぁあああああっ!助けてくれぇえええええっ!璃音兄さぁあああああん!!」

恐らくこの状況で世界中の誰よりも天音の味方になってくれるであろう璃音義兄様の名前を叫びながら天音はチア衣装を着替えさせるために着替え室に連れてかれてしまった……。

天音、無力な私を許して、本当にごめんなさい……。





哀れ、天音は結局露出度の高いチア衣装を着るのであった(爆笑)


これは天音のトラウマベスト10に入ってもおかしくないですな。

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