第11話 燃えるフィールド
AGタッグバトル遂に開幕です。
まだまだ天音君のAGが発現するにはもう少し時間が掛かりそうです……。
生徒会長の雫先輩と副会長の迅先輩の契約執行を見た千歳は気持ちで負けないように対抗し、レイジングを構えて銀羅に呼びかける。
「むむむ……私達も契約執行よ、銀羅!」
『ああ!』
「契約執行! アーティファクト・ギア、清嵐九尾!!」
レイジングと銀羅が契約執行により一つとなり、妖銃・清嵐九尾となる。
雫先輩と迅先輩のユニコーン・ザ・グングニールとイージス・オブ・ペガサス。そして、千歳の清嵐九尾……。仕方ないとはいえ、俺のAGはまだ発現してない。
「……何だか、俺だけ本当に場違いな気がする」
「しっかりして、天音。この試合は蓮煌と白蓮ちゃんとのAGを発現するためのものなんだから!」
「そうだったな……」
紅袴の縛った紐の左腰に差した蓮煌の鞘を左手で持ち、右手で柄を持って鞘に納められた刃を抜いた。蓮煌の刃と、刃に刻まれた蓮の紋様が太陽の光に反射して淡く輝く。
「こうなったらもう、やるしかないからな!」
両手で蓮煌を構え、気合いを入れた。
『ピィーッ!!』
俺の気合いに応えるように頭に乗っている白蓮は俺の髪の毛を口にくわえて羽ばたく――って、痛い!!?
「いたっ! いたっ!? 白蓮、髪の毛食べないで! 痛いから!」
「ぬぉおおおおおっ!? 白蓮ちゃん、ストップ! 天音の天然国宝級の黒髪ロングを食べないでぇっ!!」
千歳がかなり意味のわからない事を言っていたけど、何とかテンションが上がっている白蓮に俺の髪を食べるのを止めさせた。正直、何十本も抜けるかと思った……。
そして、その光景を見て笑っていた雫先輩は、
「そろそろ、試合を始めましょうか。あまりアリーナの皆さんを待たせるわけにはいきませんし」
今の状況でごもっともな事を言ってくれました。俺と千歳、雫先輩と迅先輩はフィールドに引かれた指定の位置に立ち、それぞれの獲物を構えると、空中に映像ディスプレイが現れて電子音と一緒にバトルスタートのカウントダウンを始める。
『5……4……3……2……1……』
こういう時に、千歳の言葉を借りるなら……。
「さあ、イッツ・ショータイムだ!」
『AGバトル、ファイト!!!』
バトルが始まった瞬間、千歳は清嵐九尾をホルスターに仕舞うと、ロングコートの下から大量のダイナマイトを取り出した。
「千歳さん!? 何を――」
「スタート・ザ・クレイジー・パーティー!!!」
導火線に銀羅の狐火が着火され、雫先輩と迅先輩に向かって投げ飛ばすと、導火線の火が火薬に引火され、大爆発を起こした。
「おいいいっ!? 千歳、いきなり大爆破は無いだろ!?」
「天音、クレイジー・パーティーの始まりよ!!」
「何がクレイジー・パーティーだ! クレイジーなのはお前だけだ!!」
バトル開始早々これはやり過ぎだ……って、あれ? そう言えば、先輩達は!?
「ダイナマイトとはまた派手な武器を使いますわね」
心配を打ち消すかのように雫先輩の透明な声は正面からではなく上から聞こえ、上を振り向くと、そこには……。
「流石は学園長の孫娘……やることがどこか壊れている……」
迅先輩が雫先輩を抱きかかえて無茶苦茶な高さで飛んでダイナマイトの爆撃から回避していた。
「「高っ!?」」
並外れた迅先輩の跳躍力に千歳と一緒に驚いてしまう。そして、フィールドに降り立った迅先輩は雫先輩を降ろして天馬の神楯を構え直す。
「突然のダイナマイトに少々驚いてしまい、雫を抱きかかえてジャンプするしか回避する方法が無かったが……雫には手を出させんぞ」
カ、カッコイイ……! 迅先輩の無駄のない動作やぶっきらぼうな口調の一つ一つに俺は感動してしまう。
「あの……迅先輩、聞きたかったんですけと、迅先輩って雫先輩の執事ですか?」
右手を小さく挙げて俺も同様に聞きたかった質問を千歳がしてくれた。
「……ああ。俺は雨月家に仕える雫の専属執事だ。それがどうかしたか……?」
自分が執事だとあっさり認めた迅先輩。
「そんな質問は後でいくらでも聞いてやる……それより……」
ゾクッ……!?
まるで、暖かい空気に大量に冷たい冷気を流し込まれたような感覚が俺と千歳に襲いかかり、身震いをする。
迅先輩は右腕の間接を鳴らし、右手の指を力を入れながら自分の顔の前に持って行く。
「俺は雫と違って戦いの手加減は出来ねぇ……だから、お前達も……」
ビュン!!
視界から一瞬で迅先輩の姿が消え――、
「逃げて!!」
千歳の言葉にすぐさま反応して横に回避した。
バゴーン!!
さっきまでその場所にいたフィールドの地面が粉々に砕かれ、その中心には右拳を地面に撃ち込んだ迅先輩がいた。
「全力で掛かってこい!!」
脚力だけでなく、腕力も無茶苦茶な先輩だった。アーティファクト・ギアではなく己の肉体で地面を粉砕したのだから本当に無茶苦茶だった。
「迅。お二人のお相手、よろしくお願いしますね」
「ああ、任せろ……!」
驚くことに雫先輩は迅先輩に戦いを全て任せて、自分はユニコーン・ザ・グングニールを肩に担いで休むように立っていた。二人で同時に掛かれば俺達をすぐに倒せるはずなのに、一体どういうことなのだろうか?
「試しているのよ、私達を……」
「千歳?」
「学園最強の二人が同時に戦えば一年生で未熟な私達を倒すなんて動作もないこと。だから、雫先輩は休んで、手加減が出来ない迅先輩だけで私達を追い詰めようとしているのよ……」
「だったら……」
この状況で今やることは決まった。
「俺達の力を示して雫先輩を引きずり出せば良い話だ……!」
「そう言う事よ! 天音は前衛をお願い。私と銀羅で後衛を担当するわ!」
「イエス、サー! 白蓮、かなり揺れるけどしっかり掴まっててな!」
『ピョー!!』
白蓮はビシッと翼で敬礼して俺の頭にしっかり掴まる。どこで敬礼のやり方を覚えたのか知らないけど、取りあえず戦闘に集中しよう!
「レディ……ゴー!!」
千歳の合図と同時に俺は走り出して迅先輩に近付く。
「シュート!!」
発射の言葉と共に清嵐九尾が火を噴き、連射された狐火の弾丸が迅先輩に目掛けて飛ぶ。
「ふっ……クラウド」
迅先輩が左腕に装着したイージス・オブ・ペガサスの楯の中心部分からペガサスを象徴する美しい双翼が現れ、迅先輩を守る半円形の結界が出現する。狐火の弾丸はその結界に弾かれて消滅する。
「清嵐九尾の弾丸が……」
いとも簡単に弾丸を弾かれた千歳は清嵐九尾を握りしめる力が無意識に強くなった。
「その程度の威力では……俺の鉄壁の楯を貫くことは一生叶わない……」
「今よ、天音!」
「何……?」
千歳の声に反応した先輩は直感的に振り向いた。振り向いた目の前には千歳が囮になってくれた間に迅先輩の背後に回ることができた俺と白蓮がいた。
「蓮宮流、紅蓮裂刃!」
左肩に担ぐように構えた蓮煌を右斜め下に勢い良く振り下ろす。
「ちっ……!」
天馬の楯では防御が間に合わないと知ると、舌打ちをして右腕を前に出した。
ギイィーン!!!
蓮煌と迅先輩の右腕が激突した瞬間、金属がぶつかり合う独特な音が鳴り響いた。
その不可思議な音に耳を疑い、思考が一瞬だけ停止してしまった。
「えっ……!?」
「ふぅ……はっ!!」
迅先輩は右腕を上げて蓮煌の刃を弾き返し、右脚で俺を蹴り飛ばした。
「ぐうっ……!?」
思考が一瞬停止した所為で僅かな隙を作ってしまい、迅先輩の蹴りをまともに喰らってしまった。蹴り飛ばされた俺はフィールドの地面に叩きつけられ、目の前に小さな空中ディスプレイと電子音声が流れる。
『結界エネルギー、12パーセント低下。エネルギー残量、88パーセント』
この空中ディスプレイと電子音声は俺の髪を纏めて縛っているガーディアン・アクセサリーから流れたものだ。体中に展開された結界に攻撃でダメージが受けたらこのように起動者にエネルギーの残量を表示してくれる。結界のお陰で蹴りの痛みはないが、12パーセントも結界エネルギーを消費したのはかなり痛い。
「やっぱり一筋縄じゃ行かないな……」
それにさっきの攻撃で迅先輩は右腕で防御して、その時に金属がぶつかり合う時の音がした。ダメージは受けてないはずだから、燕尾服の右腕の裾の下に手甲のような何か別の防具を付けているかもしれない。
怪力から放たれる凄まじい攻撃力、瞬発力のある脚の速力、そして鉄壁を誇るAG……流石は天聖学園の副会長。戦闘能力が非常高くて、凄いとしか言い言葉が見つからなかった。さて、どうやって戦うかと考えていると……。
《天音……》
突然、千歳の声が頭に響いた。
「千歳?」
《今、銀羅に頼んで直接天音の頭に話しかけているの》
「そ、そうか……」
九尾である銀羅にはテレパシーに似た能力を持っていた事が判明した。しかも、契約者である千歳の声を届ける事も可能みたいだ。
《わかっていると思うけど、さっきみたいな単純な策じゃ先輩を倒せない。だから、奇策ってほどのものじゃないけど確実にダメージを与えられる方法を考えたの。そのために、天音には囮になってほしいんだけど……》
申し訳なさそうな声でいう千歳だった。そんな事、気にする必要はないのにな。
「何言っているんだ。俺とお前はコンビだろ? 協力し合うのは当たり前じゃないか。それで、囮で何すればいい?」
《天音……うん! 30秒だけ、30秒だけ時間を稼いでくれる? 出来れば、先輩の気を天音に完全に向けられた状態で!》
俺の言葉に元気を取り戻した千歳。やっぱり、千歳は元気娘じゃないと俺の方が調子が狂ってしまうからな。
「任せろ。その30秒、必ず稼いでやる!」
『ピピィー!!』
頭の上の白蓮も叫んだ。銀羅の配慮で千歳の言葉が白蓮にも届いたらしい。とにかく、千歳に頼まれた30秒の時間を稼ぐために再び迅先輩に刃を向ける。
「作戦会議は終わったのか……?」
どうやら迅先輩には作戦会議をしていたことはバレていたらしいけど、そんな事は関係ない。
「蓮宮流……」
地を蹴って再び迅先輩に近づき、
「天凛蓮華!!」
囮として、派手な剣技を使って迅先輩と戦う。
「何を考えているか知らんが……」
俺の怒涛の乱撃をイージス・オブ・ペガサスで簡単に防ぎきる。
「この楯の前では、どんな攻撃も無力だ……」
「水蓮天昇!!」
迅先輩の言葉を無視し、体を一回転させて遠心力の威力を乗せた蓮煌で上へと切り上げる。その一撃もイージス・オブ・ペガサスの前に防がれたが、今度は切り上げた蓮煌を右肩に担いで振り下ろす。
「紅蓮裂刃!!!」
上下に放った連続攻撃でさえも迅先輩の持つイージス・オブ・ペガサスはとても堅く、AGではない俺の蓮煌では太刀打ちできなかった。
「ただ闇雲に攻撃してもこの楯を打ち砕くことは出来ないぞ……」
反撃を喰らわせるために為に見せた迅先輩の拳を作った右手。
しかし、反撃はこちらの方が一手先だった。
「だったら、特大の一撃で楯を貫くだけです!!」
突然、熱気を含んだ風がフィールドに広がり、俺と迅先輩は目で熱気の放たれた方を見る。そこには千歳の持つ清嵐九尾の銃口から放たれた九つの巨大な青い炎の球体が千歳の周囲を回っていた。
千歳は空いている左手でその炎の球体を操り、手を大きく開いて前に突き出す。
「妖炎弾、九頭竜炎陣!!!」
炎の球体は千歳の命令と共に膨張し、形を球体から細長い物へと変えていく。わずか数秒で炎の球体だったそれは見事な九つの炎の竜と化してうねりを上げ、一直線に迅先輩に襲いかかった。ちなみに俺は九つの炎の竜の爆炎に巻き込まれないようにその場から全力で逃げて退避した。
「くっ……なんて妖力の塊だ……」
予想外の攻撃に迅先輩も額に汗を浮かべ、イージス・オブ・ペガサスを構えて左手を強く握りしめる。
「クラウド……シールドエネルギー全開だ!!」
『ヒヒーンッ!!』
イージス・オブ・ペガサスの中にいるクラウドの声が響き、迅先輩は右手で印を結んで呪文のような言葉を詠唱した。
「神聖なる天の光と風の力よ、我らを守る絶対なる壁となれ!!!」
九つの炎の竜は牙をむき、口を大きく開けて迅先輩のすぐ近くまで近づいた。そして、慌てる様子を見せない迅先輩の持つイージス・オブ・ペガサスは強い聖なる光を発した。
「セイクリッド・サンクチュアリ!!!」
イージス・オブ・ペガサスから迅先輩を守る球体型の結界が出現し、その直後に九つの炎の竜が同時に結界ごと迅先輩に食らいついて周囲を爆炎で呑み込んだ。
フィールドがまるで炎の地獄絵図のような光景と化し、俺だけでなく遠くから見ていた雫先輩も唖然としていた。
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小説家になろうのラノベ作家大賞になろうに応募しようと考えているので、できるだけ一週間に必ず一話を投稿したいと考えています。
そして、この作品をできるだけ良いものにしたいと考えているので、できるだけ皆さんからの感想をお願いしたいです。
まだまだ未熟なので、どうか皆さんから見てこの作品はどうなのか教えて頂きたいです。
重ね重ね、お願いします。