第1話 始まりの入学
初のオリジナル小説です。
学園ファンタジーですが、どうぞ。
もしも、自分の目の前に巨大な光の鳥が現れたらどんな反応すればいいのだろうか?
「お前、何だ……?」
他人はどんな反応するかなんてわからないが、少なくとも俺はこんな安直な反応しかできない。そこまで自分は器用ではないからだ。しかし、どうしてだろう……自然に足がその鳥の元へと歩んで行ってしまう。一歩一歩近づくにつれ、その鳥がこの世のものと思えないほどとても美しいものだと確認できる。
白く輝く羽毛に包まれた体に、その体を包み込むように大きく美しい左右対称を象っている双翼。そして、白く輝きながらも黒・白・赤・青・黄の五色が羽を淡く、綺麗に彩っており、その鳥の美しさをより華やかにしている。そして、すぐ目の前まで近づいた俺はそっと自分の右手を鳥の顔へと伸ばしていく。
ガプッ。
俺の右手が顔に触れる前に、その鳥は嘴を大きく開けて俺の頭をかじる。
「…………痛い」
若干の痛みが頭を襲うが、この感覚は初めてではなかった。むしろ、最近になっては俺の日常茶飯事に加えられた“甘噛み”であった。
「……お前は……白蓮なのか?」
その名前は俺と生涯ともに過ごすパートナーになるために生まれたばかりの小さな鳥の雛につけた名前である。
『キュアアアアアアーッ!!』
その鳥――“白蓮”は嘴を俺の頭から離し、俺の言葉に反応するかのように「そうだよ」その大きな翼を羽ばたかせ、俺の持つ刀と手甲が光を帯びて共鳴する。俺とこの光る鳥、白蓮との出会い。それは、約一か月前まで遡る……。
☆
「おーい、天音! 早く行くよ!」
四月、桜が満開の中、俺は正面にある校舎に向かって歩いている。今日は高校の入学式。
俺にとっておめでたい日であり、新しい生活の始まりでもある。周りにはきっと俺と同じく期待や不安を持った新入生の生徒たちが目的の校舎に向かっている。
俺の隣にいる幼馴染の少女の“天堂千歳”はそんな態度を全く取らずにこの俺、“蓮宮天音”の手を握って校舎に引っ張っていく。千歳の天真爛漫で元気な性格は高校生になっても相変わらずだった。いい加減少しは大人になってくれと願う俺の気持ちはいつも踏みにじられるばかりなのだ。
千歳に引っ張られるように事前に手紙の通知で知らされた1-A教室に入り、自分の名前が書かれたシールが張られた自分の席に座る。それからぼぉーっと窓から外を眺めていると、校舎に響き渡るチャイムが鳴り、それとほぼ同時に教室にスーツ姿の女性が入ってきて教卓の前に出る。
「皆さん、初めまして。今日からこのクラスの担任となった“葛葉焔”です。まだまだ未熟ですが、よろしくお願いします」
優しい態度で挨拶をする焔先生に俺を含めたクラスメイト全員が好感を持つ。すると、焔先生は右腕を横に上げると、突然数十個の青い炎が現れた。クラスメイト達は突然のことにざわざわと騒ぎ出す。焔先生は小さく笑みを浮かべると青い炎が一つに集まり、形を成していくと、それが焔先生の腕に乗る。
それは白銀色に輝き、四つの尾を持つ狐だった。
「驚かせて申し訳ありません。この子は私のパートナー、天狐の“烽火”です」
烽火は俺たちに向かって「初めまして」と言うようにペコリと頭を下げた。なるほど、これが先生の“聖獣”なのだと俺は何度も頷いて納得する。
説明すると、聖獣とは俺たち人間たちの住むこの世界とは全く異なる別世界の住人たちの事を指している。その別世界は“聖霊界”と呼ばれ、そこには神・精霊・幻獣・魔物、果てには妖怪と呼ばれる人間とは全く異なる存在が暮らしている。それらをひとまとめにし、聖なる存在として聖獣と呼ばれている。
古代より俺たち人間の祖先たちは聖霊界の聖獣たちとコンタクトを取っていた。そのため、聖獣の存在は俺たちにとっても身近なものとなっている。少なくとも、俺を含めてここにいるクラスメイトの親や年上の家族には焔先生の蓮華のような聖獣が傍にいる。
それについては、俺が生まれるよりもかなり前である約100年も昔へと遡る。姿形と住む世界の違う人間と聖獣の距離をより縮め、二つの世界のお互いの友好を深めるために、その当時の人間界と聖霊界との代表同士の首脳会談で一つの法が決められた。
それが“人獣契約システム”である。
人獣契約システムとは人間の子供が十五歳になった時に、召喚魔法で聖霊界の聖獣を召喚し、契約の儀式を行うことで生涯共に過ごす“パートナー”となることが出来る。基本的に召喚される聖獣は召喚した人間との契約を望むものが多い。何故なら、人間に召喚され、契約をした聖獣は聖霊界にとってとても名誉な事だとされているからだ。ちなみに、もし召喚された聖獣が人間との契約を望まなかったらそのまま聖霊界の元の場所に送り返して、再度別の聖獣を召喚することが出来るので、聖獣本人の意思も尊重される。
その人獣契約システムが完成されると同時に人間と聖獣のための公立の高等学校が設立された。それが、今俺たちのいるこの国立高校、“天聖学園”。
天聖学園は普通の学業に加え、人間が聖獣や聖霊界について学び、聖獣が人間や人間界について学ぶ場所である。天聖学園は全国の八地方区分の八つの地方に一つずつ設立されており、俺たちのいるこの学園は関東地方にある“天聖学園関東校”である。
「まず初めに皆さんが楽しみにしている、明日の“契約儀式”について簡単に話します」
焔先生の言う契約式とは天聖学園が行う国家公認の人獣契約システムの儀式のことである。基本的に聖獣との契約は全国の天聖学園で行われ、ここに入学する生徒の誰もがそれを楽しみにしている。もちろん俺もその一人だ。
「十五歳を迎えた皆さんは人獣契約システムに基づいて、自分のパートナーになるかもしれない聖獣を聖霊界から呼び出すための召喚を行います。そして、お互いの同意を得て初めて契約を行うことが出来ます。儀式は明日の一時間目に“聖霊樹”の前で行います。ちゃんと愛用の媒体を持ってきてくださいね。それから、遅れることは絶対にだめですよ? もし遅れたら契約できませんからね」
釘を刺す先生の言葉にクラスメイト一同息を呑み込んだ。自分の相棒になる聖獣との儀式が無くなるなんてたまったものじゃないからな。それにしても、前から思っていたが、俺と契約する聖獣はどんなのだろうか? 今から楽しみで仕方ない。
「では、まずは一人ずつ自己紹介をしてもらいます。初めに出席番号一番の浅木君からお願いします」
もはや恒例と言ってもいい新しいクラスでの自己紹介が始まった。勢い良く立ち上がったのは赤い髪に少し陽気な雰囲気を漂わせる男だ。自分を親指で指さしながら自己紹介を始める。
「俺の名前は“浅木恭弥”! 夢は冒険家になってこの世界と聖霊界を旅すること!」
恭弥は俺の中学時代からの友人だ。お調子者な性格で俺と千歳と一緒に他愛もないバカ話をする仲でもある。冒険家になることを夢見ており、この世界と聖霊界を余すことなく旅して、たくさんの人や聖獣と出会いたいと本人が言っていた。俺を旅仲間として連れて行こうと目論んでいるが、何故かいつも千歳が全力で阻止しようとしている。
「俺はこの学園で最高の仲間を見つけて、両世界を一緒に旅をすることが目的だ。みんな、よろしくな!」
爽やかな感じで恭弥の自己紹介が終わると、次の人が自己紹介に入るが、俺は物覚えが少々悪いのでそんなにすぐに名前と顔を覚えられるわけがないので俺が知っている奴以外はぼんやりと聞くことにする。名前と顔なんてこれから一緒に過ごしていけば自然と覚えていくから問題ないだろう。そう思っていると、千歳の自己紹介の番となり、俺は耳を傾けた。
「私は天堂千歳です。趣味はアニメ観賞です。それと、私の将来の夢は……」
千歳は両手で頬を軽く覆うと、何故か俺のほうをチラッと見る。
「ある人の素敵なお嫁さんになることです!」
「ぶふっ!?」
大胆にもクラスメイトの前でそんな夢を言ってしまう千歳。俺はまったく関係ないぞ。千歳がじぃーっと俺を横目で見つめてくるが絶対に関係ないからな!
俺は千歳の視線を避けるために瞬時に窓の方を向いて校庭に咲いている桜を見る。やっぱり桜はきれいだなー。…………千歳が若干不満そうに頬を膨らませて俺を一瞬睨んだが、気にしない、気にしない。
「よろしくお願いします……」
軽く会釈をして椅子に座り直す千歳の視線はずっと俺を向いている。
緊張するな……手短に終わらせよう。深呼吸を一回行い、俺は椅子から立ち上がり、自己紹介をする。
「えっと、初めまして。俺は蓮宮天音。好きなことはちょっとした料理と実家で習っている剣術。それと……」
俺は自分の生えている長い黒髪に触れてクラスメイト達に見せるようにする。これだけは言っておかないと……。
「俺の実家は神社で、その家に生まれた子は男女関係なく髪を長くしなければならない古い仕来りがあるのでこんな髪をしている」
俺の髪の毛は女性でも珍しいと思えるくらい長く、腰のあたりまで伸びている。どうしてそんなやかましくて男にとって迷惑極まりない仕来りがあるかどうかは知らないけど、その仕来りの所為で俺は生まれた時から整える時以外、一切髪を切っていない。その所為で、昔から同級生の男子にはからかわれ、女子には面白半分に髪を弄られるなど大変な思いをしている。そして、極め付けは多くの人に女の子に間違われることだ。男にとってこれほど屈辱的なことは無い……。
「だから、この髪の毛についてはあまり触れないでくれれば幸いだ。……よろしくお願いします」
出来れば、あまりこの髪の事でこれ以上弄られたくない……。俺はそう思いながら自己紹介を終わらせ、会釈をして椅子に座る。
「なるほど~、家庭の事情なら仕方ないですね。蓮宮君、後でその綺麗な長髪を切らなくてもいいように免除するための書類を作成してあげますね」
蓮華の体を撫でながらそう言う焔先生。もともと学園に申請するつもりだったが、そう言って頂けると凄いありがたかった。だけどね、先生。綺麗な長髪って言わないでください。
「ありがとうございます。先生」
「はい。では、次の人、お願いしますね」
それから数十分時間をかけて、クラスメイト全員の自己紹介が終わり、その後に学園の事に関する資料や明日の授業から使う教科書を貰うと、その日の授業が終わった。
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まずは主人公達の紹介でした。
物語はまだ始まったばかりですが、よろしくお願いします。
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m(_ _)m