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燕二人  作者: K+
六暦618-619
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01 エン

 ルウの民の大多数が住まう、正方形に近いメイフェス島。

 四隅が東西南北に当たるから地図にも記し易いだろうが、大陸製の物には載っていない。


 六暦六一八年四の月、島民の多くは昼の休憩時刻を迎えていた。

 首都の中枢を担う、ラル宮殿の者達も同様だ。


 後宮が、黄金(こがね)色に包まれた。

 毎度毎度、つくづく大袈裟だ。

 本当に必要なことなのか疑問でもある。

 それなりに、役には立っているが。

 皇妃付き女官の柴希(さいき)が、色彩の変化に気づいた。黒檀の椅子に座らされていた幼い皇子(みこ)に微笑む。

(てい)が、お戻りです」

(とう)しゃま」

 二歳半の高い声を皇子はあげる。はい、と柴希が笑みを深めると、オムカイ、と幼子は椅子から降りた。

 莫大な術力を備えているところからしてルウの民の筈なのだが、この皇子はどうも結界が見えていない。見えていたら、父親の色が辺りを包めば気づくだろう。

 今は誤魔化せようとも、結界も見れずに、ゆくゆく皇帝は名乗れまい。

 広い後宮にしては小ぢんまりとした食堂から、皇子は長暖簾を分けて駆けだした。覚束ない足運びだけれど、だいぶ転ばなくなった。この辺は、ルウの民らしい成長速度だ。

 長い石造りの廊下には、中央に臙脂色の絨毯が真っ直ぐ敷かれている。それに沿うでもなく、ひたすら皇子は父親に向けて走る。

 ラル家四十一代目当主にしてルウの民を統べる若き皇帝は、無表情ながらも息子に合わせるように長身を屈めた。

「父しゃまー」

 嬉しそうな声で、皇子は父親の腕の中に飛び込んだ。おかえりなしゃあい、と言いつつ、小さな手でしがみつく。

 帝は、皇子を抱き上げた。やたら整った顔ではあるが、表情は動かない。こんな父親に何故こうも皇子は懐いているのか、いまいち理解に苦しむ。

「母上と(ねえ)様と、たくさん遊んだ?」

 低声の問いかけに、うん、と皇子が応じると、ようやく帝は微かに口の端を上げた。息子を肩車すると歩き出す。

 中庭に面した壁には、後宮にだけ等間隔で小窓がある。結界で金に縁取られた窓から、春の陽光が足元にも届いていた。帝は、のんびりとした風情で窓外の草花を眺めつつ歩を進める。

 二人が食堂に入ると、食卓の所に居た柴希が笑んだ。

「ちゃんとお迎えできましたのね、皇子」

 できたよぅ、と皇子は胸を張る。

 厨房から、鈴を鳴らすような笑い声がした。そちらにも掛かっている長い暖簾を分け、皇妃が姿を見せる。

 結界は後宮に保管されている重要書類の為とされているが、実際のところは皇妃の為だろう。

 皇妃は、ここ翠界(すいかい)とは別世界、碧界(へきかい)の出身である。当初は、大気の穢れた邪界からの妃と言われていたらしい。最近は、清浄の女神タハーラの化身ではないかという噂が流れているそうだ。

 人心が変化してきたのか、単に情報を操作しているのかは不明だ。その辺は皇帝や柴希が秘密裏に動いているようだった。

 妃は黒目がちの瞳をこちらに向け、澄んだ声を薔薇色の唇から紡いだ。

「お天気がいいから、中庭で食べない? お弁当にしてみたんだけど」

 あぁ、と帝が応じると、皇子が、わぁい、と喜声をあげた。

 弁当包みを抱え、皇帝一家と柴希は揃って食堂を出た。出た所で、柴希はこちらのよりひと回り小さな包みを軽く掲げた。

「じゃ、また後で」

 うん、と皇妃が目元をほころばせると、柴希は一礼し、廊下の突き当たりにある境界の扉から出ていく。

 彼女には去年から恋人ができ、先日、婚の誓いを立てられ、それを受けたそうだ。相手は和斗(わと)と言う名で、ラル宮殿書庫役の代表補佐をしている。お互い、宮で顔を合わすうちに魅かれたらしい。

 扉が閉まるまで見送ってから、帝は皇子を肩に乗せたまま、中庭の出入口へ足を向けた。

「婚の儀は、いつにするんだろうな」

 妃が、可憐な笑みを見せた。

「一緒にするんだって」

 帝の声音にやや驚きが混じった。

「十一の月十日?」

 妃はえくぼを浮かべた。覚え易いよね、と白い歯をこぼす。

 帝はそんな妃を見るや、微かに耳を赤らめた。今年で結婚三年目になろうというのに、未だに頭の中が花盛りのようだ。

 水を差すように、ぽふぽふっと皇子が父親の頭を叩いた。

「婚の儀、エンも出るの」

 皇子の名前の真名は、燕。読みは、本当は〝つばめ〟。

 最近〝エン〟と自称するようになって、両親は不思議がった。どうやって〝つばめ〟の他に〝えん〟と読めると知ったのか。

 母親は、天才かもよ? とおどけた顔つきで言っていた。父親は名付けた意地もあってか、かなり粘り強く、お前の名前はツバメだ、と訂正していた。

 しかし結局、真名が変わるわけじゃないし、いいんじゃない? と妃が息子に合わせたので、帝も合わせるようになった。

「おめかしして出ようね、エン」

 妃が笑いかけると、おめかししゅる、と皇子は舌足らずに繰り返す。

 ルウの民は名付けの古い習慣が残っていて、真名の字数で地位や能力を寿いできた。現皇帝はその典型で、栩麗琇那(くりしゅうな)という四字を贈られている。

 その息子に、たった一字。何を意味しているのかと周囲は憶測を飛ばしまくったようだ。

 皇帝の公式発表は〝因習と判じた為〟だった。

 真実かどうか、当人しか知らない。

 皇子が、父親の視界を小さな手で覆った。帝は立ち止まる。エン、と重低音が紡がれた。

「危ないだろう」

 クスクスと母親に似た笑い方をして、皇子は父親の眼前から手をどける。帝は肩車をとき、息子を床に下ろした。「二度とやるな」

 皇子は母親の後ろに隠れた。長い筒衣の陰から、丈高い父親の無表情を見上げる。

「父しゃま、ぱかぱか」

「…………」

「……ごめんなしゃい」

「…………」

「もう、しましぇん」

「…………」

「……あぷないから……?」

「そう。おいで」

 そろそろと皇子が出ていくと、帝は再び肩に乗せる。横で、妃が微笑んだ。

 一家は再び歩き出す。

 帝がぼやいた。

「この島で、コトミ以外から面と向かって馬鹿と言われるとは思わなかった。他には伝染(うつ)さないでくれよ?」

 妃は、やや瞳を上向けた。

「わたし、そんなに言ってるかしら」

「……俺は、まぁ、それほど耳にしてる印象は無いけど」

 夫妻は揃って首を傾げる。

 深夜の闇の中で、夫の囁きに妻は、馬鹿馬鹿、とはにかんでいたりするのだが、無自覚の模様。


 皇子は一人、再び視界が高くなり、はしゃいでいた。



 五の月中旬の気持ち良く晴れた日、エンは中庭で絵本を見ていた。たくさんの動物が、いろんな色で描いてある。誕生日に〝姉〟から貰った物で、大のお気に入りだ。

 近くで洗濯物を干していた母が、綺麗な声をかけてきた。

「エン、御本はあんまりお日様の下で見ない方がいいわよ? 目が、つらいつらいってチカチカしちゃうから」

 顔を上げたエンは、驚いた。本当だ。

「しゅる。チカチカなってる、母上」

「あらあら」

 母は傍に来ると、しゃがんだ。「チカチカ、治したい?」

「ハイ・エしゅトにお願いしなくても、治る?」

 うん、と母はにっこりした。

「御本、もう少し日陰で見よう? そしたら、きっと治るよ。どっか、日陰あるかな。母様(かあさま)と探そ?」

 エンは顔を巡らせ、新緑の若葉が繁る桜の木を指差した。

「あしょこっ、あしょこ、日陰っ」

「わ。エン、見つけるの速い速い」

 母は立ち上がると、エンの手を取った。「あそこ、いいね。行こう行こう。御本持って、よーい、どん」

 ぱたぱたぱたと木陰に駆け込んで、エンは再び驚いた。母を見上げる。

「母上、チカチカ治った」

「ホント? 良かった」

 嬉しそうに白い歯をこぼすと、母はエンの目線に屈んだ。「ここで御本見ててね。母様、もう少しでお洗濯物干し終わるの。終わったら一緒に遊ぼ?」

 エンは大きく頷いてから、〝姉〟のあだ名を口にした。

「しゃっちゃん、今日来ないの?」

「来てくれるわ。ちょっと御用があって遅れるんだって。エンが母様を待って、後で一緒に遊んでくれたら、きっと来てくれるわ」

 エンは絵本を両手で持ち、母に見せた。

「御本見て、ちゃんと待ってる」

「ありがと、エン」

 ふわふわっと頭を撫でてくれてから、母は身を起こした。急いで済ませるね、と目を細め、洗濯物の入った駕籠の方へ戻っていく。

 エンは桜の根元に座り込むと、絵本を開いた。絵を指しながら、〝とり〟、〝ひつじ〟と、傍に書いてある名前を読みあげる。

 描いてある動物は、本物の殆どを、エンは見たことがなかった。鳥だけ、中庭の上空を通り過ぎるところや、窓の外を飛んでいる様を見る。けれど、それだけだ。

 父も母も、殆どの動物を見たことがあるそうだ。しかも、母は馬に乗ったこともあると言う。景色が流れるように過ぎたと聞いてから、エンは馬に乗ってみたくて仕方無かった。

〝うま〟、と読んで、エンは馬の絵を指でさすった。何度も触っているうち、段々と煤け、今は掠れてきてしまっている。それでもさすりながら、エンは呟いた。

「馬、乗りたぁい」

「乗ってどうするのさ」

 背後から声がかかった。エンと同じ年頃の声。

 急いで振り返ったエンは、こちらを見下ろす相手を瞳に映した。鏡を立てかけられたような錯覚がある。焦げ茶色の髪、黒銀の双眸。全く同じ容姿。着ている服まで。

「ツパメ、いつ来たの」

 瓜二つの幼子は、軽く幹に寄りかかった。謎々のようなことを言う。

「いつでもないよ。ツバメは最初っからエンの傍に居る」

「エン、気づかなかったよ?」

「そうさ。エンが気づかなかっただけだよ」

 エンは口をすぼめた。正直、ツバメの言うことは半分近く理解できない。

 ツバメは今年に入ってから、時折エンの前に現れるようになった。〝つばめ〟と言う名前は本当は自分のモノで、お前は〝えん〟だ。そう彼は主張した。更に、名前を返さないと父母に酷いことが起こると言ったのだ。

 名前を〝えん〟にしないと、父と母に良くないことが起こる。それだけは、エンは理解した。だから、言われた通りにした。〝えん〟と名乗るようになったのである。

 ツバメは、絵本を面白くなさそうに覗き込んだ。さっきの問を繰り返す。

「エンは馬なんかに乗って、どうするんだ」

「んとね、周りを見るの」

 エンは身を乗り出した。「ツパメは乗ったことある? 馬はね、足が速いから、見える物がね、シューて、流れぽしみたく流れるんだって」

 ふん、とツバメは鼻を鳴らした。

「馬なんかに乗らなくても、エンの方が速いさ」

 クスクスとエンは笑った。

「ツパメ、面白いこと言うね。エンは、しょんな風に走れないよぅ」

 ツバメは空を仰ぎ見た。ばーか馬鹿、と口癖を出す。

「走るんじゃない。飛ぶんだ。飛べば、エンは馬より速いよ」

 エンは、きょとんとした。

「飛ぺないよぅ。エンはつぱさ無いもの。飛ぺないよ、ツパメ」

「飛べるね」

 ツバメは断言した。「翼や羽が無くたって、父さんは飛べる。エンも、父さんの血をひいてるから飛べるさ」

「ましゃかぁ。父しゃまが飛んでるのなんて、見たこと無いもん」

「エンが、見たことが無いだけさ」

 ツバメは、さらりと言った。「エンが知らないだけで、大君(おおきみ)の叔父さんや柴希だって飛べる。似たチスジだから」

「ツパメ、叔父しゃまとしゃっちゃんのことも知ってるの?」

 ツバメは同じ年恰好なのに、エンよりずっと物知りだった。感心するエンに、ツバメは呆れたような目を向けた。

「知ってるに決まってるよ。エンの馬鹿馬鹿、言ってるだろ、ツバメはエンの傍に居るんだってば」

 言うなり、ツバメは目の前から消えた。エンは、ぱちぱちっと瞬く。この前会った時もそうだった。ツバメは、登場も退場も突然だ。

「ツパメ? 何処行ったのー?」

 呼びかけたエンに、なぁにー? と澄んだ声が応えた。母が、敷布の陰からこちらを見る。

 エンは慌てて口をつぐんだ。ツバメのことを誰かに話すと、それでも父と母には何か起こるらしいのだ。

「何でもないよ。何でもないの、母上」

 母は、僅かに首を傾げた。

「もう少し待っててね?」

 エンが何度も頷くと、ありがと、と母は優しい笑みを浮かべた。笑顔は敷布の向こうに見えなくなり、その下を細い足がせかせかと動き始める。

 エンは立ち上がり、そうっと桜の木を一周した。

 熱心に見回したが、ツバメは何処にも居なかった。



 就寝前に、皇帝夫妻は茶に興じる。

 皇子の寝息を聞きながら、何か一、二杯飲みつつ語らう。語り手は専ら妃で、帝は聞き役だ。

 今晩は玄米茶を含み、いつものように妃から話し出した。

「サっちゃん、午後から来てくれたでしょ」

 あぁ、と応じ、帝も茶を含む。妃は、えくぼを浮かべて続けた。「昨日ね、蒼杜(そうと)さんの所に行くって言ってたんだけど――」

 リィリ共和国の医術師の名だけで、帝は軽く眉を上げた。ピンときたらしい。妃が続きを口にする。

「オメデタだったんだって」

 妃は、くすくす笑った。「結婚前に赤ちゃんが出来るのまで一緒になっちゃったねって、今日は二人で笑っちゃった」

 帝は、僅かに苦笑を見せた。

「柴希の母御が知ったら、卒倒しそうだ」

「だから今日来てくれたのは午後からだったの」

「なるほど」

 笑みを隠すように帝は口許を覆う。妃は湯呑を両手で包んだ。

「予定日は、来年一の月の初めなんだって。微妙よね、ひょっとしたら、今年に生まれるかも」

「……柴希に帝代理を頼み辛くなったな」

 帝代理は、妃付き女官などとは格違いの役職だ。

 帝は以前から、柴希をそちらに異動させたいと言っている。碧界の醜聞が払拭され妃の周りがもっと安心できるようになったら、という前提付きなので、実現は今少し先となりそうだったが。

 妃が物問いたげな顔をして、帝は言った。

「代理をやるとなると、子供に接する時間が俺同様に少なくなるのは必至だ。和斗も忙しい身だし、二親共接してやれないのは、あまり良くないだろう」

 現在の帝代理は、首都をまとめている六人の老の(おさ)泰佐(たいさ)が兼任していると聞く。

 妃が尋ねた。

「他に、代理をやれそうな人、居ないの?」

「居ることは居る」

 肘掛に、帝は頬杖をついた。「ここ数年、ラル領は他に比べて人材に恵まれているから」

「でも、頼めるならサっちゃんがいいのね?」

「代理の必須条件は、皇帝の意向を適確に汲み取れることだ。俺の場合、付き合いの長さと密度で、泰佐の次点は柴希なんだ」

 説明を聞いた妃は、少々拗ねたような顔をした。

「いいな、代理って。専任でやるとしたら、秘書みたいな感じで、一日中、琇那さんの傍でお仕事できるんでしょ?」

 低声が笑った。

「違うよ」

 妃は、やや、きょとんとした。

 その様を見やった帝は、濃い紅茶色の目を細めた。

「帝代理は、文字通り、帝の代理として皇領やサージ家とティカ家、大君との間を密にしている。あちこちを代わりに飛び廻る役目だ。だから、兼任といえども、泰佐は日中、週の半分はラル領に居ない。老長が領内に不在なんて他から見たら変わってるんだが、今のところ人材があるお蔭で、何とかなってる」

「そっかぁ。支店長みたいな感じだったのね」

 例えが可笑しかったのか、帝はまた喉を鳴らす。

 と、ふとした素振りで皇帝は湯呑を小卓に置いた。

「飛び廻ると言えば――誰が、俺が飛べることをエンに教えたんだ」

 昼食の席でのことを思い返す様子で、妃が応じる。

「んー……わたし、言った覚え無い」

 昼食時、やにわに皇子が尋ねたのだ、父しゃまは飛ぺるの? と。

 帝は驚いたらしく、眉を上げ、ややの間沈黙した。それでも正直に、あぁ、と言うと、飛んで、と皇子はせがんだ。それには、今日は具合が悪いのでそのうち、と約束していた。

「自分も飛びたいと言い出したらどうなだめようかって、焦った」

 帝は肩をすくめた。「エンの術力は、もうしばらく解放しないつもりなんだ。あの力量を完全に封印してるから、解放するとなると、かなりの反動が来る。今の体力と精神力では耐えられない」

「じゃあ、サっちゃんが言ったんじゃないし、蒼杜さんや琉志央(るしおう)、大君の叔父様でもないわね」

 妃は瞳を上向ける。教えた人物の心当たりを探っているようだ。

 皇子は、ラル宮殿から一人で外に出たことが無い。又、言葉や事物を理解するようになってから、両親以外で話をした相手は限られている。妃が口にした四人だけだが、その四人は皇子が強大な術力を封じられていることを知っている。表面的な事実だけでなく、裏面の事情も解っている。解っていて、下手に術力関連のことを口走る者達ではない。

 茶をあおってから帝が言った。

「エンはまだ、仮名しか読めないよなぁ」

 妃も茶を飲み干し、小卓に湯呑を置いた。

「自分のコトをエンって言い出した時に真名がたくさんの本を見せたけど、チンプンカンプンだったみたいで怒っちゃったもんね。これ嫌、エンはサっちゃんの御本を見るのって」

「柴希のくれた本は、動物の名前が書いてあるだけだったよな」

 妃が頷くと、帝はこめかみをつついた。「書庫で総仮名の術書なんて見たこと無いし……」

「エンは書庫に入ったこと無いんじゃない?」

 忌々しい事実を妃が指摘した。「あそこだけは、鍵がかかってるもの」

 そういえばそうだ、と帝は淡い茶色の髪をかき上げた。

「名前の事といい、今回の事といい、どうなってるんだ」

「やっぱり天才なのかも……?」

 二人は、それぞれ首を捻る。


 当事者ながら何も知らず、皇子は寝息をたてている。

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