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日曜日のライオン

作者: スグル
掲載日:2006/10/09

……………………


東京へ上京して2年目の大学生、山形正俊は授業帰りのコンビニに居た。

そして、週刊誌を立ち読みしている。

最近、お気に入りのアイドルのグラビアを見ていた。

グラビアが見終わると、次のページを開く。

開いたページには、この週刊誌の売りである毎週、様々な志向を施した特集が。


今週の特集は、消えた芸能人特集だ。

一時的に、持ち芸が売れて人気が出たが、ある程度経ってTVで見ることのなくなり、もはや影も形も無くなった方々の特集である。

雑誌には、真っ先に「モッコリ谷屋」が挙げられている。


「モッコリ谷屋」は、2年前、持ちネタの一発芸、自分の鍛えられた両腕を上げて「カスピ海!」と叫ぶ、訳のわからないネタがヒットした芸人だ。

このネタが売れた時は、かなりTVに出演。

学園祭などのイベントに、引っ張りだこ。

だが、時間が経つにつれ、このネタは干され、彼も干された。

彼には、「カスピ海」しか芸がなかったのだ。

トークでも、特に面白いことは言わなかったし、大御所の芸人に弄られても面白くはなかった。

当然、干される訳だ・・。

しかし、山形正俊青年には、この「モッコリ谷屋」に思い出がある・・。


……………………


あれは、彼が、ちょうど2年前に上京して数ヶ月した時・・。

彼は容姿の良さで、大学で彼女が出来た。

その彼女とは、気が合い上手く関係を重ねていた。

このまま、ずっと、彼女と居られたら幸せだと、あの時の彼は思う。

しかし、運命は残酷だった。


「大学の学園祭のゲストトークショーに、モッコリ谷屋が来るんだってー」

「へぇー」

付き合い始めて、数ヶ月経った秋に、彼女がそう言う。

この時期は、大学で学園祭が開かれようとしていた。

山形青年は芸能人に興味がなかったので、別に、彼についてはどうでも良かった。

「楽しみだねー」

と、彼女が、無邪気にはしゃいでいる。

それを可愛げに思う山形青年は、学園祭当日に起こる出来事を予想出来なかった。


学園祭当日。


山形青年は、愛しの彼女と「モッコリ谷屋」のトークショーの会場に居た。

会場は、満員だ。

そして、会場のスポットを浴びて、彼は芸をしている。

「カスピ海!!」

最初、有名な持ちネタで、会場を沸かせた。

「ははっ!」

彼女が、それで無邪気に笑った。

だが、山形青年には、どこが面白いか解らない。

だから、苦笑いした。

それから、彼の新ネタが披露された。

しかし、どれも面白くはない。

観客の反応も冷めている。

山形青年は、だんだん、ここに居るのが辛くなってきた。

あまりにも、つまらないのだ・・、モッコリ谷屋は・・。

なのに、隣に居る彼女は、大爆笑だ。

どこが面白いか解らないネタなのに、彼女は爆笑してる。

笑いの価値観が、彼女は人とズレているのか・・。

モッコリ谷屋が、ギャグをやればやるほど、観客が減っている。

なのに、彼女は、この場に居続けている。

しかも、大爆笑だ。

山形青年は、去りたくて仕方ないというのに・・。

結局、最後まで見てしまった・・。


そして、ライブが終わった後・・。


「あのさ・・、別れましょ・・」

「えっ・・」

いきなり、前触れもなく彼女の口から告げられた。

山形青年は、絶望の淵に落とされる。

こうして、理由も解らないうちに、恋は終わった。

後日、彼女は大学を辞めた。

現在、彼女とは連絡取れない。


何故、モッコリ谷屋のトーク終了後に別れを告げられたのか、未だに解らない・・。


……………………


そんなことを、モッコリ谷屋の記事を眺めて思い出していた。

くだらない事だけど、ほんの少しの甘酸っぱい思い出に浸る。

「ふっ・・」

そして、雑誌を戻した。


……………………


弁当とジュースを買って、コンビニから出ると・・。

「山形君!?」

急に、懐かしい声がした。

この声は・・。

そして、思わず、その声の方向に振り返ると・・。

「あっ・・」

山形青年は驚く。

意味の解らない別れ方をした彼女が、コンビニの前に居た・・。

まさか、こんな所で出会うなんて・・。

彼女は、大人びていた。


……………………


二人は出会ってから、その場で話し込む。

彼女は、大学を辞めてから、すぐに、意中の人と結婚したそうだ。

そして、現在、専業の主婦をやっている。

もう時期、子供も生まれるそうだ。

確かに、山形青年には別れるのは辛かったが、彼女が元気そうでなによりだった・・。


そして、自分の思いを伝えた。

「君と別れてからの僕は・・、空白だったよ・・」

いきなり、口から思いが出てしまった。

少し、彼女も戸惑っている。

「だけど、君が幸せそうで、なによりだよ・・」

少し涙ぐんで、彼は言う。

その言葉に、彼女も涙がこぼれる。

「旦那さんと、幸せに・・」

幸せになった彼女に、もう未練を捨て去るように山形青年は言う。

彼女も、涙ながらに礼を言う。


すると・・。


「おーい、どうした」

と、叫びながら一人の男性が近づいてきた。

「あっ、彼は、主人よ・・」

どうやら、叫んでいる彼が、彼女の旦那さんのようだ。

体が、ガッシリした逞しい男性だ。

彼なら、彼女を守ってくれそうだと、山形青年は思った。

だが、ついさっき、見たような感じがある顔だ。

彼女の旦那が、彼女の傍に来た。

「こちらは?」

と、旦那が山形青年に手を指した。

「僕は、大学時代の彼女の友人です」

と、山形青年は答える。

すると、彼女も旦那さんのことを紹介し始めた。


「旦那の、モッコリ谷屋です」

「どーも、はじめましてー」


山形青年の持ったビニール袋が、地面に落ちた。


……………………

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― 新着の感想 ―
[一言] 二物衝撃で、思い出が語られるのかと思ったら本人が登場したのはインパクトがあった。 まず、冒頭の文章の使い方が少し変だった。 消えた芸能人特集という伏線は個人的に好きだが、そんなに面白いとは思…
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