日曜日のライオン
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東京へ上京して2年目の大学生、山形正俊は授業帰りのコンビニに居た。
そして、週刊誌を立ち読みしている。
最近、お気に入りのアイドルのグラビアを見ていた。
グラビアが見終わると、次のページを開く。
開いたページには、この週刊誌の売りである毎週、様々な志向を施した特集が。
今週の特集は、消えた芸能人特集だ。
一時的に、持ち芸が売れて人気が出たが、ある程度経ってTVで見ることのなくなり、もはや影も形も無くなった方々の特集である。
雑誌には、真っ先に「モッコリ谷屋」が挙げられている。
「モッコリ谷屋」は、2年前、持ちネタの一発芸、自分の鍛えられた両腕を上げて「カスピ海!」と叫ぶ、訳のわからないネタがヒットした芸人だ。
このネタが売れた時は、かなりTVに出演。
学園祭などのイベントに、引っ張りだこ。
だが、時間が経つにつれ、このネタは干され、彼も干された。
彼には、「カスピ海」しか芸がなかったのだ。
トークでも、特に面白いことは言わなかったし、大御所の芸人に弄られても面白くはなかった。
当然、干される訳だ・・。
しかし、山形正俊青年には、この「モッコリ谷屋」に思い出がある・・。
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あれは、彼が、ちょうど2年前に上京して数ヶ月した時・・。
彼は容姿の良さで、大学で彼女が出来た。
その彼女とは、気が合い上手く関係を重ねていた。
このまま、ずっと、彼女と居られたら幸せだと、あの時の彼は思う。
しかし、運命は残酷だった。
「大学の学園祭のゲストトークショーに、モッコリ谷屋が来るんだってー」
「へぇー」
付き合い始めて、数ヶ月経った秋に、彼女がそう言う。
この時期は、大学で学園祭が開かれようとしていた。
山形青年は芸能人に興味がなかったので、別に、彼についてはどうでも良かった。
「楽しみだねー」
と、彼女が、無邪気にはしゃいでいる。
それを可愛げに思う山形青年は、学園祭当日に起こる出来事を予想出来なかった。
学園祭当日。
山形青年は、愛しの彼女と「モッコリ谷屋」のトークショーの会場に居た。
会場は、満員だ。
そして、会場のスポットを浴びて、彼は芸をしている。
「カスピ海!!」
最初、有名な持ちネタで、会場を沸かせた。
「ははっ!」
彼女が、それで無邪気に笑った。
だが、山形青年には、どこが面白いか解らない。
だから、苦笑いした。
それから、彼の新ネタが披露された。
しかし、どれも面白くはない。
観客の反応も冷めている。
山形青年は、だんだん、ここに居るのが辛くなってきた。
あまりにも、つまらないのだ・・、モッコリ谷屋は・・。
なのに、隣に居る彼女は、大爆笑だ。
どこが面白いか解らないネタなのに、彼女は爆笑してる。
笑いの価値観が、彼女は人とズレているのか・・。
モッコリ谷屋が、ギャグをやればやるほど、観客が減っている。
なのに、彼女は、この場に居続けている。
しかも、大爆笑だ。
山形青年は、去りたくて仕方ないというのに・・。
結局、最後まで見てしまった・・。
そして、ライブが終わった後・・。
「あのさ・・、別れましょ・・」
「えっ・・」
いきなり、前触れもなく彼女の口から告げられた。
山形青年は、絶望の淵に落とされる。
こうして、理由も解らないうちに、恋は終わった。
後日、彼女は大学を辞めた。
現在、彼女とは連絡取れない。
何故、モッコリ谷屋のトーク終了後に別れを告げられたのか、未だに解らない・・。
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そんなことを、モッコリ谷屋の記事を眺めて思い出していた。
くだらない事だけど、ほんの少しの甘酸っぱい思い出に浸る。
「ふっ・・」
そして、雑誌を戻した。
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弁当とジュースを買って、コンビニから出ると・・。
「山形君!?」
急に、懐かしい声がした。
この声は・・。
そして、思わず、その声の方向に振り返ると・・。
「あっ・・」
山形青年は驚く。
意味の解らない別れ方をした彼女が、コンビニの前に居た・・。
まさか、こんな所で出会うなんて・・。
彼女は、大人びていた。
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二人は出会ってから、その場で話し込む。
彼女は、大学を辞めてから、すぐに、意中の人と結婚したそうだ。
そして、現在、専業の主婦をやっている。
もう時期、子供も生まれるそうだ。
確かに、山形青年には別れるのは辛かったが、彼女が元気そうでなによりだった・・。
そして、自分の思いを伝えた。
「君と別れてからの僕は・・、空白だったよ・・」
いきなり、口から思いが出てしまった。
少し、彼女も戸惑っている。
「だけど、君が幸せそうで、なによりだよ・・」
少し涙ぐんで、彼は言う。
その言葉に、彼女も涙がこぼれる。
「旦那さんと、幸せに・・」
幸せになった彼女に、もう未練を捨て去るように山形青年は言う。
彼女も、涙ながらに礼を言う。
すると・・。
「おーい、どうした」
と、叫びながら一人の男性が近づいてきた。
「あっ、彼は、主人よ・・」
どうやら、叫んでいる彼が、彼女の旦那さんのようだ。
体が、ガッシリした逞しい男性だ。
彼なら、彼女を守ってくれそうだと、山形青年は思った。
だが、ついさっき、見たような感じがある顔だ。
彼女の旦那が、彼女の傍に来た。
「こちらは?」
と、旦那が山形青年に手を指した。
「僕は、大学時代の彼女の友人です」
と、山形青年は答える。
すると、彼女も旦那さんのことを紹介し始めた。
「旦那の、モッコリ谷屋です」
「どーも、はじめましてー」
山形青年の持ったビニール袋が、地面に落ちた。
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