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「きゃあああっ!?ゆ、幽霊よ!幽霊の声が聞こえたわ!」


「落ち着いてください会長」


ビシッ


「痛いっ…」


不意に聞こえた声に取り乱す会長をチョップで黙らせ(誰か来る事を信じてたんじゃなかったのかこの人…)、声の主へと視線を巡らせる。

そこには生徒会室の入り口に立つ女子生徒が一人…はて?どこかで見た気が…


「よく来てくれたわ!さぁさぁそんな所に立ってないで早く中に入って…あ、ユウ君お茶をお願い♪」


先程までの怯えた表情など何処吹く風で、有無を言わさぬ勢いで女子生徒を引っ張り込んだ会長を見て我に返った。


「あー…コーヒーと紅茶があるんだけど、どっちにする?」


「は、はぃっ!?え、えとあの…こ、紅茶でお願いします…」


上履きの色からすると1年生なのだろう。肩の辺りで切り揃えられた黒く艶のある髪に色白の肌、何よりも小学生と見間違うかのように小柄な体躯は、何処か小動物を彷彿とさせるような愛らしさを持った少女だ。


「それにしても本当に嬉しいわ!貴方のような可愛い女の子が生徒会に興味を持ってくれるなんて!ああんっもう食べちゃいたいわ!」


「さて、この変態の事は無視してもらうとして」


「ユウ君、ヒドイ……」


涙目になって「の」の字を書いている会長は無視して話を進めよう。


「今日来てもらえたのは、生徒会について興味があるという事でいいのかな?」


「え?」


『え”っ!?』


いきなり頓挫しました。






きょとんとした表情の彼女にどうしようもない不安を感じるのだが…


「えっと、今日ここに来たのは昼休みの放送を聴いたからなんだよね?」


「ご、ごめんなさい…わたし、今日は体調が悪くて午前中の授業からずっと保健室で休んでいたので…」


『………………』


あーまずい、会長の口から魂が抜け出てきている。


「えっと、会長?理由はどうあれここに来てもらえたのはその…チャンス!話を聞いてもらえる機会が得られたんだからチャンスですよ!」


「そ、そうよね!?」


どうやら無事にこっちの世界に帰ってこれたらしい。


「そうそう、自己紹介がまだだったわね。私は生徒会長の如月咲耶、こっちは副会長のユウ…悠人君よ」


「は、はいっ…わ、わたしは1年A組の卯月綾瀬ですっ…よ、よろしくお願いしまちゅっ!」


「あ、噛んだ」


「あぅぅ……」


「ユウ君!」


いかん、つい言葉に出してしまった。

いやいや、この愛くるしい少女の怯えた表情というのを見ているとこう、こみ上げてくるものが…じゃなくて、この表情を何処かで見た気がするのだが…うーん?


「それで…綾瀬ちゃんは生徒会に何か用があったみたいだけど、よかったら話して貰えないかしら?」


見る人を安心させるような微笑を浮かべて語りかける会長。

己の事柄よりもまず他の人のことを考えられるというのは、やはりこの人が生徒会長たる素質持っているという事なのだろう。


「あ、あの…その、えっと…っ」


何故か俺の方をチラチラの覗き見る卯月さん。

…あ、なるほど。


「俺、ちょっと外に出てますね」


女同士でしか話せない事柄もあるのだろう。

そう思って俺は外に出ようと思ったのだが…


「っ…ま、待ってください!」


そんな静止の声と共に、俺の制服の裾が引っ張られた。





それはきっと、臆病な彼女が精一杯の勇気を振り絞っての行動だったのだろう。



そんな彼女の行動に小さな驚きと微笑ましさを感じた運動神経0の俺は…



ズガシャァアッ!



「きゃああああああああっ!ご、ごめんなさい!ごめんなさい!」


「ユ、ユウ君の耳から変な色の液体が!?」


バランスを崩して机の海へとダイブした。






「……つまり、卯月さんは俺に用事があったわけ?」


「は、はい…」


倒れた机や椅子を片付けた後、皆で席について話を再開したのだが…卯月さんはどうやら俺に用事があったらしい。


「(ちょっとユウ君…)」


隣に座っている会長が、アイコンタクトで話しかけてきた。


「(トイレなら一人で行ってください。もう会長も子供じゃないんですから大丈夫でしょう?)」


「(ち、違うわよ!…ユウ君と葉月ちゃんって、知り合いだったの?)」


「(いえ、違うと思うのですが…)」


「(ですが?)」


「(何処かで会った事がある気がするんですよね…)」


「(ユウ君…そのナンパの仕方は古いわよ?)」


「(……………)」


とりあえず、会長はチョップで黙らせました。


「あ、あの…ありがとうございました!」


突然そう言って頭を下げる卯月さん。


「えっと、それは…【さっきは身体を張ったボケをありがとう】って意味?」


「何処のお笑い芸人ですかわたしっ!?」


「む、なかなか鋭いツッコミだな…会長、この子は即戦力になりそうですよ!」


「はいはい、いきなりお礼を言われたからって照れちゃ駄目よ?副会長なんだからちゃんと話を聞いてあげなさい。」


…とりあえずニヤニヤと笑う会長がムカついたので、再びチョップで黙らせておいた。


「あ、あの…その、昨日の入学式の後に…体育館裏で助けて頂いたのに、あの時はお礼も言えなかったので…」


「あーあの時の…」


何処かで見た事があると思っていたのだが、ようやく合点がいった。


「昨日の体育館裏って…じゃあ不良に絡まれていた女子生徒って、綾瀬ちゃんだったの?」


「は、はい…いきなり二人組みの先輩に体育館裏まで連れて行かれて…ら、乱暴なことをされそうになったときに…悠人先輩が身を挺して助けてくれて…」


あの時は『平和的な話し合い』をするのに必死だったから、女子生徒の顔まで気が回らなかったんだよね。


「へぇ…身を挺して、ねぇ?」


「なんですか会長…その、陸に打ち上げられたクジラが苦しさを通り越して快楽に辿り着いたかのような笑顔は?」


「それどんな笑顔!?そもそもそれは笑顔っていうの!?」


「まぁ、そんな会長はどうだって良いんですけど」


「えぇ…それは本当に凹んじゃいそうなんだけど…」


「冗談ですよ、会長の事は深爪した指くらいにいつも気にしています。」


「浅い!深そうで浅いよそれ!全然気にしてないじゃん!」


ふぅ、会長で遊んだらイライラもずいぶん収まったな。


「それはイライラじゃなくて照れ隠…」


「会長、明日からお弁当は自分で作ってきてくださいね?」


「ひ、酷い!横暴よ!ユウ君(の母親作)のお弁当が無くなったら、私は何を頼りに生きていけば良いの!?」


「なら会長、どうすれば良いのか…わかりますね?」


「…私、如月咲耶は悠人様の言う事をなんでも聞きます…だから、だからどうかお弁当を!」


「くっくっくっ…よぉし、ではまず忠誠の証として…」


「あ、あのぉ…」


「……はっ!?俺は一体何を!?」


卯月さんの遠慮がちな声によって俺は目を覚ました。

何故か会長は虚ろな表情で俺の目の前に跪いているし、卯月さんはよりいっそう怯えた表情を浮かべているが…一体何があったのだろう?


…そうか、きっと会長が変なことを言ったんだ。うん、そうだった事にしよう。


「大丈夫だよ卯月さん、会長は時々こうやって変なことを言うけど、本当はとても良い人だから。」


「ひぃっ!?ご、ごめんなさい!ごめんなさい!」


卯月さんを安心させようと満面の笑顔で話しかけたのだが、会長が怖くてトラウマになっているのか泣き出してしまった。


「どうしたんだい卯月さん?もぉぉだぁぁぁぁいじょぉぉぉぶだよぉぉぉっ?」


「い、いやぁああああ!!こ、こないで!お願いだから来ないでぇ…!」


おかしいな、俺はこんなに素敵な笑顔を浮かべているのにどうしてそんなに怖がるんだろう?

きっとそれだけ会長が怖かったんだね、可哀想に…


「さあ…僕の胸に飛び込んでおいでぇええええええっ!!!!」


「きゃぁああああああああっ!!」


ドゴォォォォォッ!!!


「ごるばちょふ!?」


俺が一匹の飢えた狼となった瞬間、入り口から颯爽と現れた人影によって発せられた殺人的な衝撃に吹き飛ばされ、俺は意識を手放した…





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