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俺の不安が的中したのは翌日のこと…午前の最後である数学の授業が終わり間近になった時だった



―ぴんぽんぱんぽ~ん―


『生徒会よりお知らせです。本日の16時より、生徒会役員の新規募集に伴う説明会を行います。興味のある方は放課後に生徒会室までお越しください。繰り返しま…【きーんこーんかーんこーん】…あ、あれ?まだ終礼のチャイムが鳴ってなっ…【きーんこーんかーんこーん】…ちょっ、ちょっとこれどうすれば…【きーんこーんかーんこーん】…』


「なるほど、こーゆーことか…」


スピーカーから聞こえる会長の声に、俺は脱力して机に伏せた。


「ふむ…会長も考えたな。」


そんな俺とは裏腹に、感心したように頷いているのはクラスメートにして生徒会書記の弥生桜花。

その長身に黒く長い髪、切れ長の瞳の美しい顔立ちは、性別を問わずに憧れの的らしい。


「そうは言うけどな、そう簡単には集まらないだろう?」


「さて…しかし、何事もまず行動を起こさなければ始まらないであろう?」


「むぅ…」


何やら笑みを浮かべながらこちらを見ている桜花から逃げるように、俺は弁当持って教室の外へと向かう。


「生徒会室か?」


「ああ、今日の放課後の事もあるからな。」


この半年程、昼食はずっと生徒会室で食べる事が日課となっていたからでもあるのだが、何となく恥ずかしかったのでそれは伏せておく。


「すまない、本来なら私も書記として手伝わなくてはならないのだが…」


桜花は生徒会役員だけでなく、剣道部の部長も兼任している。

この時期は各部活も新入部員の勧誘や指導で忙しく動き回っており、それは桜花にも同じ事が言える。

それでも時間を作っては何かと生徒会の仕事を手伝ってくれているのだから、これ以上を望んだらバチが当たるというものだ。


「気にするなって、どうせいつもの会長の思いつきなんだから俺に任せとけ!」


俺は桜花につとめて明るく返事を返すと、生徒会室へと足を向けた。





「遅いわよーっ私もうお腹ペコペコなんだから!」


生徒会室のドアを開けると、放送室から戻ってきていた会長が飛びついてきた。


「はいはい、そんなに慌てなくても弁当は逃げませんから…」


擦り寄ってくる会長を引っぺがし、テーブルに2人分の弁当を準備していく。

念のために断っておくが、この弁当は俺が作ったものではない。

最初の頃は会長も自分で作った弁当を持ってきていたのだが…ある時にたまたま俺の弁当(母親作)をつまみ食いした会長がその味を絶賛、家に帰ってその事を話したら母親もいたく感激し、それがきっかけで会長の分の弁当まで作るようになったのだ。

母親曰く、


「まったく感謝の意を表さない何処かのバカ息子よりも、あたしの料理を美味しいと言ってくれる娘に作る方が腕が鳴る」


…だそうだ。


「はぁ…このお弁当のために生きていると言っても過言ではないわ…」


「ずいぶんと安っぽい人生ですね。」


俺のツッコミも意に介さず、恍惚とした表情で弁当を頬張る会長。

…この弁当、変な薬でも入っているのではないだろうか?


「ところで会長、さっきの放送の件ですけど…」


一服したところで、先程の放送の件を聞いてみた。


「あ、ユウ君もちゃんと聞いてくれたのね!どうだった?」


「馬鹿みたいでした、特に後半が。」


「ひどっ!?」


自信満々の笑顔であった会長の表情が、一瞬で泣きそうになった。

うーむ、会長の百面相振りは見ていて飽きないなぁ…


「冗談です、桜花も感心してましたよ?」


「ホントに!?我ながらナイスアイディアだと思ったのよっ!」


泣き顔から一転、再び笑顔になった会長…やはり会長は泣き顔よりも笑顔の方が…って、何を考えているんだ俺は?


「しかし会長、今日の放課後というのはちょっと急ぎ過ぎじゃないですか?準備とかもありますし」


「大丈夫よ、説明会に使う資料は昨日徹夜して作ったから。それに、早くしないと他の委員会や部活に入っちゃうかもしれないでしょ?」


当砕学園は一部の特例を抜いて、委員会か部活動へ入る事が義務付けられている。

これは逆に言えば、どちらかに入っていれば良い訳であり、桜花のように部活と委員会を掛け持ちしているのは稀な例といえる。

…ちなみに、入りたい部活や委員会が無い者が比較的楽そうな委員会等に集中するため、図書委員会や手芸部などの人数枠が超過し、抽選になるというアンニュイな光景が見られる事もある。


「さぁユウ君、これから忙しくなるわよ!まずは部屋の掃除と、飾り付けをやって、それから…」


その後、会長の準備と称した大掃除に付き合わされ、2人とも午後の授業に遅刻した事はまぁ…些細な事である。

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