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「それで、不良に返り討ちにされたわけ?」
「…ちゃんと女の子は無事に逃がしました、戦略的勝利です。」
ここは当砕学園の生徒会室。
体育館裏での顛末を報告する俺に対して、呆れた表情で見返しているのは、
容姿端麗に頭脳面積、スポーツ万能にして人望も厚い、完璧超人(でも天然)である生徒会長の如月咲耶。
噂では彼女のファンクラブ会員数は本校の在校生徒数の8割を超えるとか。
「ちょっとユウ君、ちゃんと聞いてる?」
「はいはい、聞いてますよ。何度も言うとおり、平和的な話し合いにて解決したので安心してください。」
「どう平和的に解決したら、顔がアン○ンマンみたいに膨れるのかしら?」
「…もとからこんな感じですよ。」
まぁ間に割って入ったら問答無用で殴られたとか、その後も話を聞いてくれなくてサンドバックにされたとかもちょっぴり関係あるかもしれないけど気のせいだ、うん。
「まったく…その程度の怪我で済んだから良かったけど、無理はしちゃダメよ?」
そう言って俺の頬を包み込んだ会長の手は、とても暖かかった。
俺は悠人。『当たって砕け散れ♪』を校訓とする当砕学園に通う、ごく普通の高校二年生だ。
どれくらい普通かというと、
容姿→人並み
学力→人並み
運動神経→人並み以下
趣味→盆栽
とまぁ、どこにでもいる高校生である。
そんな村人A程度の存在である俺が何故生徒会室にいるのかというと、答えは簡単…副会長をやらされているからだ。
「さてユウ君、今日の議題だけど…わかってるわよね?」
「はい、今年こそ帰宅部にも活動予算を…嘘ですゴメンナサイふざけたこと言って本当にスミマセン」
笑顔でシャープペンシルの投擲体勢に入った会長を宥めつつ、回りを見回す。
教室と同じくらいの広さの室内にはテーブルやパソコン、各種資料が収められた本棚など、生徒会を運営するための施設が揃っている。
そんな中で定例の会議を行っているのは生徒会長と俺の二人だけ。
つまり議題とは…
「あー…生徒会役員の新規獲得ですか?」
「そう!それよっ!」
身を乗り出して力説する会長…うん、やっぱり大きい…ゴホゴホ。
当砕学園の生徒会は本来、生徒会長1名、副会長2名、書記2名、会計2名の合計7名で運営される。
しかしながら、現在の生徒会は生徒会長と副会長(俺)、書記1名の計3人しかいない。
数だけで言っても1人当たりの仕事量は倍以上(実際は会長が6人分、俺と書記で1人分といった感じだが…)である。
そんな現状の中で新規役員の獲得を切望するのはわかる、わかるのだが…
「気持ちは解りますけど、生徒会に入ってくれるような奇特な人間がいるとは思えないんですが…。」
そう、何故に現在の生徒会が3名だけなのかというと、前回の生徒会選挙にて…その、いろいろあったのだ。
何が色々あったのかは割愛するが、もし今の生徒会役員になろうと思う人間がいるとしたら、それは変人か奇人しかいないだろう。
会長も昨年の事を思い出したのだろう。ほんの一瞬だけ表情を曇らせたが、直ぐに笑顔になって言葉を続けた。
「そうね。確かに役員枠が空いているのにも関わらず、今日まで立候補者が現れる事は無かったわ…でもユウ君、今日は何の日だったかしら?」
「何の日って…あっ!」
そうだ、今日は当砕学園の入学式…新入生が入って来たのだ。
「そうよ!在校生はダメかもしれないけど、新入生ならまだ可能性はあるわ!」
「それって、何も知らない純真無垢な新入生を騙して生徒会に入れるという事ですか?」
「人聞きの悪い事を言わないで!私はただ生徒会で学校に奉仕する喜びと、神に感謝する心を皆に広めたいだけよ!」
どこの宗教団体だそれは?
喉まで出かかったツッコミを何とか飲み込んだ。
「大体、募集するといってもどうするんですか?役員選挙は12月ですよ?」
「ふっふっふっ!安心しなさい、方法は考えてあるわっ!」
そう言って不敵に笑った会長の姿を見て、俺は不安の溜息を付くしかなかった。