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女神の食堂 ―どうやら神の末裔の私ですが、ここが私の居場所です―  作者: 瀬戸


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第八話 あなたの料理が食べたくて来ました

少しだけ初夏の気配が混じった朝。 

リリアはいつものように、店先を箒で掃いていた。 


「ふう~なんだか今日は暑くなってきたかも?

 暑かったり、寒かったり、春はよく分からないな…」


そうリリアは独り言を言いながら、数日前に来た客である

公爵レオニス・クラウゼルのことを思い出していた。


(私のことを神の末裔って言っていた…女神とも…

 あの人、おとぎ話や伝承の読みすぎなのかしら…)


すると。


『リリア、レオニス公爵のこと考えてたの?』

フレアがニヤリとしながら言う。


「ちょっと考えてたけど、ニヤリじゃないし!」


『分かる!ワタシ、あの人、なんか一方的でリリアには合わない気がする。

 私はアルヴィン・ヴァルディア派かな』

とエアリスが頬を染めて言う。


「いや、勝手に私を求めているライバル公爵みたいな構図作るのやめてくれる!?」


精霊とリリアは二大公爵家の来訪を受けて、最近はこのやりとりを続けている。




――食堂ルミナリエ、まもなく開店。


リリアはキッチンでモーニングの準備をしていた。

すると外で足音がする。


野菜を切っていたが、足音の方へ顔を上げた瞬間、リリアの心臓が跳ねた。

そこに立っていたのは――


王国騎士団副団長にしてヴァルディア公爵家当主、

“冷徹の騎士”アルヴィン。


「先日はご馳走様になった」

淡々と、だが丁寧に頭を下げる。


「今日は客として来たのだが……まだ開店前のようだ…では、これで」


「えっ!? あ、ちょっと待ってください!」

思わず声が出た。


「もう開けます! どうぞ、こちらへ!」

慌てて扉を開ける。


なんだか、ほっとしている自分がいた。

(レオニス様じゃなくて良かった……あの人はちょっと落ち着かないから……)


アルヴィンの静かな空気は、安心する。


店内に入り、彼は椅子に腰かけた。

アルヴィンは、ふと、思う。

(気づいたら、この食堂に来ていた…

 彼女に会いたくなっていた…)


一方、リリアは、モーニングの準備に忙しくしていた。


アルヴィンはリリアに何か話しかけようとしたが、

その時に気づいた。

(……女性と雑談など、したことがない)


騎士団は男社会。

戦術、報告、訓練。

それ以外の会話はほとんどない。


話題が思いつかない。

だが、そんなことは途中からどうでもよくなっていた。

(話など不要。この店は落ち着く…それでいい)


木の香り。

やわらかな朝の光。

そして――彼女の出す透明感、オーラ。


自覚してしまう。

(俺は、彼女を意識している…こんなことは生まれて初めてだ…)


一方リリアはモーニングの準備が整ってきたが、

アルヴィンへの話題に困っていた。

(えーと、話題……話題……!

 レオニス様はこっちが考える暇もなく、ずっと話しかけて来て困るけど…

 アルヴィン様は何か私から声をかけなきゃって思っちゃう…)


相手は公爵閣下。

何を話せば正解なの!?


最近、急に偉い人が来るようになったのも謎だ。


再び脳裏に浮かぶレオリスの言葉。

『あなたは神の末裔です』


(まさかね……)


何か話題をと考えてリリアが口を開く。

「そういえば……アルヴィン様と同じ公爵の、レオニス様がこの前うちにいらして」


 ぴくり。

「レオニスが……?」

(……王はレオニスにも食堂と娘の調査をする密命を?

 いや、それはないはず。騎士団にも魔術師団にも依頼を出すなら、

 表立って命じるはずだ…)


アルヴィンの瞳がわずかに鋭くなる。


リリアがアルヴィンの反応を見て、質問する。

「お知り合いですか?」

(あ、変なこと聞いた!?二大公爵家なんだから、お知り合いだよね、たぶん…)


「知り合いというか……仕事仲間というか」

曖昧な答え。


(やっぱり困らせてる!なんか他のことを話さなきゃ!!)

焦るリリア。

そして、思いついたことを口走った。


「レオニス様、変なこと言うんですよ? 私が神の末裔だって。しかも妻になってほしいって…」


はは、と軽く笑うリリア。


しかし。

アルヴィンは笑っていなかった。

むしろ、静かに震えている。

「……神の末裔……妻……」


空気が重い。

焦るリリア。

(ど、どうしよう!?話すことすべてが失敗している気がしてならない…ピンチ!)


慌ててパンとシチューを出す。

料理でごまかす作戦に出たのだ。


「ど、どうぞ!」


アルヴィンは静かに食べ始める。


やがて呼吸が落ち着く。


ほっとするリリア。


食事を終え、彼は言った。

「リリアは神の末裔……なのか?」


「い、いえ!? そんなわけないじゃないですか!」

(そこ覚えてる!? 流すところだよね!?)


だが彼は真剣だった。

「ただ……俺も気になっていることが」


包帯をほどく。

現れた腕は、完全に治癒していた。


その様子にリリアも驚く。

「もう治ってる!?」


アルヴィンは言う。

「リリアが老紳士の手を握ったとき、白い光を見た。

 その後、老紳士は再生したように見えた。

 俺もこの店と関わりを持ったことで早く治癒したのではないのか?

 この傷も、本来ならもっと時間がかかるはず…」


リリアは言葉を失う。

(私にそんな能力があるの…!?)


アルヴィンは続けた。

「小さな奇跡。偶然かもしれない。だが……あなたがどうも関係している気がする。

 心当たりはないのか?」


沈黙。


心当たりならある。リリアには精霊が付いている。

父と母に言われるまでは、人にみんな精霊が付いていると思っていた。

だが、精霊が付いているのは、リリアだけだと幼き日に知った。


しかし、それは亡き母と交わした、言ってはいけない約束である。


「……では私も聞いていいですか?」

リリアが問い返す。


「どうしてアルヴィン様やレオニス様は、急にうちに?」


アルヴィンにとっては痛いところだ。

(王からの密命……とは言えない)


「レオニスは分かりませんが……私が来た理由は、言えません」


少し曇るリリアの表情。

でも、アルヴィンの言葉に嘘はない。

誤魔化すこともできただろうに、誠実に話しているのは伝わる。


「そう、ですか……」


だが。


「ただ――」と言ってリリアを見つめるアルヴィン。


「ただ?」とリリアが聞き返す。


アルヴィンはまっすぐに言った。

「今日は、あなたの料理が食べたくて来ました。

 あなたに会いたくて、あなたのことが気になって…」


リリアは途中で止めた。

「ちょ…ちょっと落ち着いてください」


リリアの心臓、爆発。顔を赤くして、思わず声を発した。

「ちょ、ちょっと何ですか、それ……!?

 それはちょっとズルいです…」

 (キュンと来ちゃったかも…)


精霊たちも反応した。もちろん、その声はリリアにしか聞こえない。


『あなたの料理が食べたくて来ました、キリッ』

フレアがふざけてモノマネ。


『リリアにきっと会いたかったんだね』

エアリスが目をつぶり、若い二人の恋路に頬を勝手に赤くする。


精霊たちはリリアを茶化しているのだ。


一方、アルヴィンは恋事には鈍感であり、リリアが赤くなった理由が分からない。

ただ、リリアにズルいと言われ、何かまずいことを言った気がした。


「……す、すまない。

 来ては迷惑だったか?」と慌てて一言。


リリアの顔は真っ赤。ごまかすように返事をする。

「そ、そんなこと… また来てくださったのは…嬉しかったです……」


アルヴィンもその返事に驚く。そして、初めて口元を緩くした。

「…!?

 そうか。なら、よかった」


それは、リリアから見て笑ったようにも見えた。

少し暖かい気持ちになったリリア。


その二人のやりとりの裏で、二体の精霊フレアとエアリスはこう考えていた。

(店に来た最初の動機が言えないっていうのは、王や騎士団絡みってことかな…

 ってことは政治が関係している。リリアが神の末裔だと知ってて、近づいて

 来ているなら、これからは注意しないといけないね)


一方、アルヴィンは真顔に戻る。レオニスの存在が気になっていた。

(神の末裔…レオニスが求婚……王の密命と無関係ではないだろう

 リリアは何かに巻き込まれそうになっている…?

 ローエン騎士団長に聞いてみよう…団長なら何か知っているはずだ)


真顔になり、黙りこくったアルヴィンを見つめるリリア。

(アルヴィン様は、何を考えてるんだろう……)


やがて彼は立ち上がる。

「ごちそうになった。おいしかった」


「あの……また、よかったら……ぜひ」

 少し勇気を出してリリアが言った。


アルヴィンは少し考えてから言った。

(この気持ちが何なのかはまだ分からないが、

 彼女を守りたい。王の密命とは関係なく…

 また、ここに来よう、次からは俺の意思で)


「また来る、では。」


チリン。

扉が閉まる。


店内に残るのは、春の光と、少し甘い余韻。


そして――

政治の影。


アルヴィンは、実際にまた来ることになる。


しかし、それは今後の不穏な出来事と関わってくることを

アルヴィンは知る由もなかった。

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