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女神の食堂 ―どうやら神の末裔の私ですが、ここが私の居場所です―  作者: 瀬戸


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第七話 私の妻になっていただきたい

「は、はい。ランチですね…準備させていただきます」

リリアはぎこちなく答え、厨房へ逃げ込んだ。


コンロにかけた鍋の中で、ミネストローネがことことと音を立てている。

トマトと野菜の香りが、静まり返った店内にじわりと広がった。


(落ち着いて、私……)


さっきまで奥様方の話題の中心だった人物。


二大公爵家。

アルヴィン・ヴァルディアとレオニス・クラウゼル。


こんな短期間に公爵様が二人も、こんな小さな食堂に来られるなんて!?


“白銀の策士”

レオニス・クラウゼル。


いま――店内には、彼と自分の二人きり。


心臓の音が、やけに大きい。


視線を感じる。


彼は店内を静かに観察していた。

棚、窓、壁、空気の流れまで測るように。


やがて。


「私は、レオニス・クラウゼル」

低く、よく通る声。


「その表情を見るに、私のことはご存じのようだ」

「礼節を欠くつもりはないが、遠回りは好まない。無礼を承知で話そう」


彼は真っ直ぐリリアを見据えた。

「リリア・ルミナス様。あなたは神の末裔です」


間。


「お迎えにあがりました」


――は?


「え……な、何のことでしょう……ご冗談、ですよね……?」


だが彼は笑わない。

「あなた様こそが、かつてこの国を災厄から救った神の末裔です。私が言うのだから間違いありません」


断言。

冗談を言う顔ではなかった。


「わ、私はそのような存在では……」


「二度、私に同じ発言をさせてはいけません」

ぴしゃり。


「私が言うのだから間違いありませんと言ったはずです」

圧が強い。


「……いいでしょう。丁重にご説明いたしましょう」

彼は懐から、小さな水晶玉を取り出した。


「これは王家の水晶。かつて神が王家に託したとされるもの。

 人、悪魔、魔物、そして神を探知できる」


さらりととんでもないことを言う。


「扱えるのは一握り。現在は――私一人」


水晶が、ふわりと空中に浮かんだ。

両手に魔力が集まる。


「神を感じると、白く光る」


――ふわり。


水晶が、淡く白く光り始めた。


「私はこの数年間、神の末裔を探していました。

 一年ほど前から微弱な反応が城下町で現れた。

 私の調査によると、あなたがこの店をご両親から継がれたのが一年前」


光が少し強まる。

「そして最近、強い反応を感じました、この食堂から。

 これは偶然でしょうか?」


ごくり。


「従者に調べさせました。

 最近、老紳士を助けましたね?

 その時、強い癒しの力を使ったんじゃないですか?」


「あ、あれは……お店で休んで頂いただけで……」

と困り顔のリリア。


「他にもある。あなたの店を出る頃には体調が整う、気持ちが晴れる。

 あなたの店に来た客の言葉だ。これらはすべて――女神の加護"癒し"の特徴だ」


リリアの頭が追いつかない。だが、反論した。


「それは、ただの気持ちの問題じゃ…そ、それに…

 仮に私が女神だったとして……なんだというんですか!?」


すると。

レオニスは真顔で言った。


「私の妻になっていただきたい」


沈黙。


『つ、妻!?プロポーズ!?』

フレア絶叫。

『ハッ…でもリリアにはアルヴィンが……』


『いや、アルヴィンとも、まだ何も始まってないけどね?

 っていうか、いきなりプロポーズって!』

エアリス冷静。


その瞬間。

レオニスの視線がわずかに動いた。


「……リリア様、周囲に精霊がいるのでは?」


フレアの心臓停止。

『え?バレた!?』


いや、疑問形。

見えてはいない。


(彼はカマをかけているんだわ…とぼけよう……!)

リリアは、両親から精霊の存在は秘密だと言われて育ってきている。

「せ、精霊って……食べ物ですか?」


『アタシ食べ物じゃない』とフレア。

『とぼけてるのよ、一旦、消えましょう。危険だわ』とフォローするエアリス。

ニ体の精霊が姿を消す。


同時に。

水晶の光が消えた。


しーん。


「……いま、そ、その水晶…光ってませんけど?」

リリア、反撃。

「失礼ですけど、光ったり光らなかったり……ずいぶん適当な魔術ですね?」


一瞬の沈黙。


「なるほど」

レオニス、納得顔。

「女神としての力を消したのですね。制御可能、と。メモしておきましょう」


「メモしなくていいです!!」

耐えきれず、ミネストローネを差し出す。

「ランチ、食べに来たんですよね!? こちらどうぞ!」


レオニスは静かに食べ始めた。


――速い。

気づけば完食。


「……美味い、そしてこの多幸感…これはやはり」


短い一言。

そして立ち上がる。


「私は公爵。私がいると他の客が入りづらいでしょう。

 混む前に去りましょう」


(気遣いはできるんだ……)

リリアの中で、少しだけ印象が変わる。

「ありがとうございました。よければまた……」


「また来てもいいのですね?」

逃がさない視線。


少し困りながらも、リリアは笑った。

「お客様は選びませんから」


レオニスの瞳が細くなる。

「やはり女神だ」


伝承と一致。


誰も拒まない。

精霊と共にある。

人に食と幸福を与える。

そしてこの笑顔。


(私が探し求めた女神だ、彼女こそが神の末裔で間違いない)


ドアへ向かい、最後に振り返る。

「あなたを必ず手に入れます」


宣言。


「では」

チリン、とベルが鳴った。


静寂。


(な、なんなのあの人……)


リリア大混乱。


リリアは今後も王国を巻き込んだ形で、

再び、レオニスに翻弄されることになるが、それはもう少し先の話である。

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