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女神の食堂 ―どうやら神の末裔の私ですが、ここが私の居場所です―  作者: 瀬戸


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第五話 急に抱き上げられて……恥ずかしい

アルヴィンは、倒れかけたリリアを迷いなく抱き上げた。


「――っ」


ふわりと身体が浮く感覚のリリア。


(え……!?)

次の瞬間、リリアの顔は一気に赤くなる。

(きゅ、急に抱き上げられて……恥ずかしい……!)


カイルは開けた口が閉じられなくなっていた。

(ふふふふ、副団長が・・・・・お姫様抱っこ!?)


アルヴィンは、軽々と彼女を抱えたまま、店の椅子へと運ぶ。

「ここで大丈夫か?」

低く、落ち着いた声。


「は、はい……ここで、大丈夫です……」

耳まで赤いリリア。


その様子を見て、三体の精霊が大騒ぎしていた。


『お姫様抱っこーーー!!』とフレア。

『素敵……』とうっとりするエアリス。


精霊たちの騒ぎ声は、もちろんリリアにしか聞こえない。

(お願いだから静かにしてぇ……!恥ずかしいっ)


リリアは必死に平静を装いながら言った。

「あの……お昼にいらした方ですよね? 剣をお忘れになっていたので、お預かりしています。いま、お持ちしますね」


立ち上がろうとした瞬間。


「いや、まだいい」

アルヴィンが静かに制する。


「落ち着くまで、そのままで……」

その目は、噂に聞く“冷徹の剣士”のそれとは違っていた。


(本当に、この人が……冷徹の剣士?

 冷徹な人がこんなに私の体を気遣ってくれるかしら?)


王都で恐れられる副団長。

氷のように感情を見せない男。


けれど今は、優しげに見える。

精霊たちがひそひそ声でささやく。


『なんか、いい雰囲気じゃない?』


『冷徹の騎士って呼ぶの、ちょっと違うかも』


『リリア、名前聞こうよ』


背中を押されるように、リリアは姿勢を正した。

「わ、私は、リリア・ルミナスと申します。もしよろしければ……お名前を伺っても?」


一瞬、アルヴィンは視線を落とした。

(調査対象と親しくなるな…)


これは、任務の基本である。

彼女は“調査対象”だ。


それに、あの白い光――あれは偶然ではない。

だが。


今さら名乗らぬ方が、不自然か。

「……アルヴィンだ」


低く、簡潔に。

「アルヴィン・ヴァルディア」


その名に、リリアはすぐ反応した。

「やはり……剣にお名前が刻まれていましたので……」


(剣を忘れた時点で知られていたか…)

アルヴィンは内心で苦笑する。


リリアはぺこりと頭を下げた。

「助けてくださって、ありがとうございました」


「倒れそうになったのを支えただけだ。大したことではない。

 リリア…さんも包帯を巻いてくれただろう…」

無骨な言い方。


だがどこか不器用で、誠実だった。


リリアは言う。

「リリアとお呼びください」


やがてリリアは剣を持ってきて、そっと差し出す。そして笑顔で言った。

「……あの。よろしければ、お礼に晩御飯、召し上がっていきませんか?」


アルヴィンはわずかに目を見開く。

(…召し上がっていきたい…

 いや、違う。白い光の情報が得られるかもしれない、これは調査だ)


そう、これは任務なのだ。

決して個人的な理由ではない。


……決して。


「いただこう」


店はそのまま閉められ、その日はそのまま、アルヴィンの貸し切りとなった。


少し離れたところから様子を見ていたカイルは思った。

「アルヴィン副団長…さっき顔が明るかったのは、こういうことか…

 副団長にも意中のお相手がいらっしゃったんだ…

 良かったですね、先輩」


冷徹の騎士と呼ばれていた尊敬する騎士の先輩。

そんな先輩を受け入れてくれている女性がいるようだ。

自分以外にもアルヴィン副団長を理解してくれている人がいる。


勝手にそう思ったカイルは暖かい表情でその場を去った。


パンとサラダ。

そして、湯気の立つクリームシチュー。


「あの……騎士様のお口に合うか分かりませんが……」


アルヴィンは無言でスプーンを運ぶ。

ひと口。


とろりとした舌触り。

クリームの深いコク。

野菜の甘み。


そして――


胃に落ちた瞬間、身体の奥から広がる温かな多幸感。

(なんだ……これは)


心の奥の硬い部分が、静かにほどけていく。

「……うまい」


一瞬間を置いて。

「……です」


ぎこちない敬語。


リリアの顔がぱあっと輝いた。

「良かったです……!」


精霊たちが顔を見合わせて微笑む。


――これはもう、運命の出会いでは?


やがて食事は終わった。


アルヴィンは、あの白い光について尋ねようとする。

「あの……」


リリアが耳を傾ける。

「あの…?」


しかし、アルヴィンは白い光について確認することを止めた。

そして、代わりに言った。

「その歳で一人で食堂を営むのは大変だろう…

 もし、困ったことが合ったら、俺を尋ねるとよい。

 王国騎士団のアルヴィンと言ってもらえれば伝わるようにしておく」


白い光については、なぜか、聞けなかった。

この穏やかな空気を壊したくなかった。


そして、リリアだからということはなく、

アルヴィンは、困った人を放っておけない性格なのだ。

だから、これは彼にとっていつものセリフだった。


冷徹の騎士とは、彼と関わりのない人間が広めた噂。

そして、噂の元は…


アルヴィンは、店を出る支度をする。


「あの……また、来てくださいますか?」

不安と期待が入り混じったリリアの声。


アルヴィンは一瞬考える。

(白い光……あれは王家への報告案件だ)


これは調査だ。

任務だ。

決して、個人的な感情ではない。


「……また来る」


その言葉に、リリアは花のように微笑んだ。

「お待ちしていますね」


アルヴィンは店を後にする。


振り返らない。

だが背中には、温かな視線を感じていた。



少し離れた場所。

暗がりの中で、水晶が微かに輝く。


「……やはり反応している」


王家の水晶。

始めてみる強い“神の反応”。


「強い光が一瞬……神の能力なのか?」

白銀の髪をした男は目を細めた。


「食堂ルミナリエ……。

 あそこで何かが起きている」


物語は、静かに動き始めていた。

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