表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女神の食堂 ―どうやら神の末裔の私ですが、ここが私の居場所です―  作者: 瀬戸


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/26

第四話 今の光は、見間違いなのか…

夕暮れの鐘が鳴る頃。

リリアはディナータイムの準備を整えていた。


食堂ルミナリエの夜営業は十七時から十九時までの短時間。


けれど城下町での評判は上々だ。

温かくて、優しくて、どこか懐かしい味がする――そう言われている。


そして、その前の時間。


十六時半になると、決まって小さな影が集まってくる。

城下町の孤児が集まってくるのだ。


「今日もカレーかよ!」


「ま、うまいからいいけどな!」


「文句言うなよ、タダなんだから!」


「何いい子ぶってんだよ。リリアが好きなのか?」


「ば、バカ言ってんじゃねえ!」


「リリアのカレー好きー!」


「おいしいね!」


五人の子どもたちが、いつもの席で騒いでいる。


お金を持たない子どもたちには、カレーを振る舞う。

それはリリアの両親が生きていた頃から続く、食堂ルミナリエの約束だった。


リリアはくすりと笑いながら、その様子を見守る。


(今日も元気ね)


彼らは知らない。

この料理には、ほんのわずかな奇跡(神の加護)が込められていることを。


だから多少体調を崩していても、ここで食べれば、また明日を迎えられる。


このことを知っているのは精霊だけであり、リリア自身も知らないのだ。

自らにそのような能力があること。


やがて十七時前。


「じゃあな! たまにはカレー以外も作れよ!」


「いや、リリアのカレー最高だけどな!」


「ごちそうさま!」


「またね!」


子供達の声に、笑顔で手をふるリリア。

「ふふっ。またおいで!」


元気な声とともに、子どもたちは去っていった。

扉が閉まる。


リリアは、今日のディナー用の鍋を見つめた。

今夜はクリームシチュー。


(あの子たちにも、これを出した方が良かったかしら……)


ふわり、と炎が揺れる。


『リリア、これはお客様用だからね!リリアも生活しなきゃでしょ?

 自分のことを後回しにしちゃダメだよ』

フレアが腕を組む。


『子供たちは満足してたよ、心配はいらない』

エアリスが優しく言う。


リリアは微笑んだ。

「ふふ、ありがとう」


そのとき。


カラン、と扉の鈴が鳴る。


「いらっしゃいませ。お待ちしておりました」


入ってきたのは、いつもの老紳士。

朝も夜も、この店に通ってくれる常連客だ。


だが。

彼はカウンターに辿り着く前に、がくりと崩れ落ちた。


「おじいさま!?」

リリアは駆け寄る。


「大丈夫ですか!? こちらに……!」


急いでテーブル席へ座らせる。

顔色が悪い。息が浅い。


(お医者様を……!)


立ち上がった瞬間。

ぐっと手を掴まれた。


「すまないね……お嬢さん」


震える声。


「今まで、美味しいご飯をありがとう……。婆さんが亡くなってから、ここが楽しみでの……」


細い手が、そっと力を込める。


「たぶん、わしはそろそろなんじゃろう…最後……隣に、いてくれるかね……」


「……!」


リリアの胸が締め付けられる。

「お医者様はすぐそこです。すぐ戻ってきます」


直感が告げていた。

(今、行かないと――)


だが、老紳士の意識はすでに遠のいていた。


脈をとる。

弱い。どんどん弱くなる。

(医者を呼びに行っている時間すら、ない……)


リリアは目を閉じた。

(お父さん、お母さん……)


どうしよう。

また、私の知っている誰かがいなくなるなんて、嫌。


(おじいさまを助けて……)


その瞬間。


――窓の外から、誰かが見ていた。

店に向かっていた王国騎士団副団長アルヴィンだった。

すこし離れて、若手の騎士団員カイルがその後をつけている。


アルヴィンは、忘れた剣を取りに来ていたのだ。

だが、店内の異変に足を止める。


(一体、何が起きている……?)


窓越しに見えるのは、祈るように手を握るリリアの姿。


次の瞬間。

白い光が、こぼれた。


ほんの一瞬。瞬きほどの時間。


アルヴィンは目をこする。

(今……光った?)


アルヴィンを見ているカイルも立ち止まる。

(ん?先輩どうしたんだろう…あそこの食堂を見ている?)


店内。

老紳士の指が、ぴくりと動く。


そして――

ぎゅ、と。


リリアの手を、握り返した。


脈が、戻る。

正常な鼓動が、リリアにも確かに伝わる。


リリアが目を開く。

「……良かった」

力が抜ける。


老紳士はゆっくりと目を開いた。


「信じられんが……信じるしかあるまい」

 かすれた声で言う。

「わしは今……女神様を見た」


それはリリアのことだった。

だが、リリアは死にかけた老紳士の冗談だと思った。


「……ふふ」

リリアは涙をこらえながら笑う。

「いまは、冗談をおっしゃられても笑えません。私、一生懸命だったんですから」


震える声。

「目を覚ましてくださって、本当に良かった……」


そして、老紳士が落ち着いてきた様子を確認してから言った。

「さあ、病院へ行きましょう」


「いや……もう大丈夫じゃよ。不思議とな」

老紳士は微笑む。

「じゃが、病院には行こう。お嬢さんの言うことも聞かんとな

 一人で行ける。お嬢さんには店があるからの、わし一人で大丈夫じゃ」


そう言うと、老紳士は確かな足取りで店を出て行った。


リリアは、ほっとした。


その瞬間。リリアの視界が揺れた。

足元がふらつく。


『リリア!!』

精霊たちの叫び。


――倒れる。


そのはずだった。


だが。

強い腕が、彼女を抱き止めた。


「……大丈夫か?」


低い声。


振り向いた先にいたのは――

副団長アルヴィンだった。


彼の胸に支えられながら、リリアは目を瞬かせる。


そしてアルヴィンは、確信していた。

(今の光は、見間違いなのか…一体何があったんだ?

 それよりも、とっさに体が動いていた…

 彼女に何かあったら…と思ってしまった…)


――王の密命は、間違っていなかった。彼女には何かある。

そして、アルヴィンはそれ以上に、彼女を意識し始めている。

夜の《ルミナリエ》に、静かな波紋が広がり始めていた。


少し離れた場所からカイルは目撃した。

(副団長…と女性!?)

ブックマークと評価について、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ