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女神の食堂 ―どうやら神の末裔の私ですが、ここが私の居場所です―  作者: 瀬戸


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第二十六話 今夜、孤児院を抜け出すらしいの

朝。


ふんふんふーん♪


軽やかな鼻歌が、小さな食堂の厨房に流れていた。

窓から差し込む柔らかな朝日。パンの焼ける香ばしい匂い。


そして、その中心でリリアはとてもご機嫌だった。


そんな様子を見て、火の精霊フレアが腕を組む。

「なんか今日、リリアご機嫌だね?」


するとカウンターの上をふわりと漂っていた風の精霊エアリスが、くすっと笑った。

「アルヴィンとチューでもしたのかしら?」


「ちょっ!? そんなわけないでしょ!」

リリアは真っ赤になって叫ぶ。

「い、いきなり何言ってるのよ!」


エアリスは面白そうにくるくる回る。

「じゃあ何かしら?」


リリアは胸を張った。

「新メニューを今日から提供するのよっ!」


「し、新メニュー!?」

フレアがぴょこんと跳ね上がる。

「え、なに!? フレア気になるかも!」


エアリスが目を細める。

「もしかして…公爵家のメニューに影響されたとか?」


リリアは一瞬きょとんとしたあと、にやっと笑った。

「あ、分かっちゃった!?」


ふふっと嬉しそうに肩を揺らす。

「その名前も――葡萄シチューよ」


「ぶ、葡萄シチュー!?」

フレアが目を丸くした。


「そ、それ……おいしいの?」

不安そうにこちらを見る。


リリアは自信満々にうなずく。

「もちろんよっ」

「公爵家で食べたのは、お肉の赤ワイン煮込みだったけどね。

 うちは町の食堂だから、もう少しリーズナブルに仕上げるの」


鍋を軽く叩きながら続ける。


「赤ワインは少しだけ。お肉も少し薄め。

 でも―味は保証するわ」


リリアは人差し指を立てた。

「今日のディナータイムで出すの」


「へぇ〜!」

フレアの目がきらきら輝く。

「他にもあるの? 新メニュー!」


「ええ」

リリアはうなずく。


「公爵家で食べたのは野菜の冷製スープ。

 複雑だけどコクがあって、でもさっぱりしててね」


少し考えてから言う。

「でもうちは色んな野菜を使うのは難しいから――

 シンプルにじゃがいもの冷製スープよ」

「最近暖かくなってきたでしょ?

 だからこれはランチに出そうと思って」


「いいねいいね!」

 フレアが楽しそうに宙をくるくる回る。


リリアはさらに胸を張った。

「そして極めつけ」

「子供たちへの特別メニューも用意しました!」


その時だった。


外から元気な声が響く。

「リリアー!!」


聞き慣れた声。

リリアはハッとした。


「あ…もうこんな時間」


慌てて扉へ向かう。

ガチャッとドアを開けると――


「おはよう、レン。今日も一番乗りね」

リリアがそう言うと、少年は少し照れくさそうに笑った。


「おう、リリア」

その後ろには、いつもの四人。

「ミーナにトーマにノアとサラもおはよう!」


リリアはぱっと笑顔になる。

「みんなー!今日は遠慮せず中に入っておいで!」

「今日のパンは温かくなると、あまりおいしくなくなるからさ!」


いたずらっぽく笑う。

「デザートパンなのよ。ふっふっふ」


「え……」

 トーマが少し戸惑う。

「入っていいのかな?

 俺たちが入ったら、お店汚しちゃうかもよ?」


するとミーナが言う。

「トーマ、店主のリリアが言ってくれてるんだから大丈夫よ」

「さ、ノアとサラもおいで」


リリアは腰に手を当てた。

「君たちは本当に……!」

「子供のくせに余計な気を使ってんじゃないのっ」


優しく笑う。

「さ、早くおいで。今日だけでも!ね?」


子供たちは顔を見合わせ――

そろそろと店に入ってきた。


「好きなところ座って」

リリアは奥へ引っ込み――


しばらくして両手で皿を持って戻ってきた。


テーブルに置かれる。

サンドイッチ。


その中には――

赤と青の鮮やかな色。


「な、なにこれ!?」

子供たちが驚く。


リリアは満足そうに微笑んだ。

「ふっふっふ」

「さあ、お食べ!」

「リリア特製ベリーソースとクリームのサンドイッチ!」

(公爵家で食べたベリーソースのデザートがね、

 本当に美味だったのよね…子供達にも食べさせてあげたかった)


そして優しく言う。

「どう?」


レンが腕を組む。

「じゃあ最年長の俺様から頂くとしよう!」


するとミーナが即座に言う。

「最年長は普通、年下に一番譲るもんじゃないの?」

「さあ、ノアとサラ。お先にどうぞ」


「わーい!」

サラが頬張る。

「リリアのデザートパンおいしい!」


ノアは本を机に置き、パンを観察する。

「これ……本に書いてあった」

「貴族が食べるデザートのやつでしょ!?」

いつも冷静なノアが、少し興奮していた。


トーマが感心した顔で言う。

「さすがミーナ姉ちゃん」

「歳は二番目でも実質最年長だね」

「いいこと言う!」


レンはチッと舌打ちしながらも、満足そうにパンをかじる。


「ノアとサラも食べてるから、ほら、次はトーマの番よ。

 トーマもお食べ」

ミーナが促す。


トーマが手を付けたの見てから、

ミーナも、サンドイッチに手を伸ばす。そして、ゆっくり一口。


目を閉じる。

「…」


そして微笑む。

「本当に貴族が食べるお菓子みたい」

「ベリーの香りが鼻から抜ける」

「幸せ…」


トーマは叫ぶ。

「んー!!!うまい!!」

「うまいよリリア!!甘くてうまい!!」


サラが言う。

「明日もこれがいい!」


リリアは苦笑する。

「さすがに明日は無理かなー」

「ベリー高いのよ」


でも優しく言った。

「また今度作ってあげる」


レンが肩をすくめる。

「しょうがねーなー」

「明日はいつものリリアのパンで満足してやるよ」

少し照れくさそうに言う。

「…まあ、いつものパンも最高に旨いけどな」


トーマも叫ぶ。

「ありがとうリリア!」

「これマジでうまい!」


子供たちは満足そうに店を後にした。

―と思ったが。


一人だけ残っていた。

ミーナだった。

「リリア…」


「どうしたの?ミーナちゃん」


ミーナは少し不安そうに言う。

「レンが…」

「何か隠してる気がするの」


「どうしてそう思うの?」


「知らない大人と話してた」

ミーナは声をひそめる。

「今夜、孤児院を抜け出して

変な袋を運ぶらしいの」

「仕事だから大人には秘密にしろって」

「私にも口出すなって言うんだけど…」


リリアは少し考えてから言った。

「分かった」

「今日は早めに店を閉じて

 夜、レンの様子を見に行ってみる」


ミーナの表情が少し明るくなる。

「ありがとう、リリア」


そう言って走って行った。


リリアは小さくつぶやく。

(何の仕事なんだろう……)

(レンが大人から頼まれた仕事なら問題ない気もする)


でも。

(夜に運ぶ……?)


その一点だけが引っかかった。

―そして。


ディナー営業も終わった頃。

「ふう」

「今日も一日よく働いたね」


フレアが得意げに言う。

「うん!今日もアタシ、しっかり焼いたよ!」

「絶妙な火加減でね!」


エアリスがくすっと笑う。

「このあとレンの仕事、見に行くのよね?」


「うん…」

リリアは頷いた。

「何事もなければいいけど……」


その瞬間。


フレアとエアリスが――

ふっと消えた。


人が来たのだ。

扉が開く。


リリアは思う。

(アルヴィン様……?)


だが。


そこに立っていたのは――

もう一人の公爵。


レオニス・クラウゼルだった。

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