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女神の食堂 ―どうやら神の末裔の私ですが、ここが私の居場所です―  作者: 瀬戸


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第二十五話 なんだか物騒でね……

リリアが王都の城下町へ戻ってきたのは、お昼前だった。

目の前にあるのは――


自分の食堂。


「……わぁ」

思わず小さく声が漏れる。


窓も、ドアも、壁も。

すべてがきれいに修理されていた。


それも、ただ直したというレベルではない。

むしろ――


ゴブリン騒動の前よりも、綺麗になっているのでは?

と思えるほどの見事な仕上がりだった。


「王国騎士団の方々……」

リリアは胸の前で手を組む。

「こんなに綺麗に修理してくれるなんて……」


もちろん実際に作業したのは城下町の大工たちだろう。

だが、それを手配してくれたのは騎士団だ。


その丁寧な仕事ぶりに、リリアの胸は温かくなった。


実は修理の進み具合は、ヴァルディア公爵家に滞在していたときに一度聞いていた。

騎士団のカイルが知らせに来てくれたのだ。


もっとも――

「店の修理状況を伝える」というのは、半分は口実だったらしい。


カイルはヴァルディア公爵家を訪れたことがなく、

どうしても一度見てみたかったのだとか。


そのため、アルヴィンに正式に許可を取り、

堂々と公爵家を訪れたのだという。


そのときのカイルは、妙に嬉しそうだった。


「任務ですからね!」

などと言いながら、目が輝いていたのをリリアは思い出す。


くすっと笑いながら、リリアは店を見上げた。

「ただいま」


扉を開けて中に入る。

店の内装はほとんど変わっていなかった。


カウンター。

テーブル。

壁の棚。


そして――


壁に飾られた一枚の写真。

リリアと両親が並んで写っている写真だった。


それは無事だった。


「よかった……」

胸の奥が、じんわり温かくなる。


やっぱりここが――

自分の居場所だ。


リリアはぱんっと手を叩いた。

「よし!」


声を張る。

「明日から営業再開!」


そう決めると、すぐに掃除を始めた。


床を磨き、テーブルを拭き、窓を開ける。

空気を入れ替え、棚を整える。


それから市場に行き、食材を仕入れた。


鍋やフライパンの準備。

食器の確認。

材料の下ごしらえ。


気づけば――

時間はあっという間に過ぎていた。


そして。


翌朝。

まだ朝日が昇る前から、リリアは店に立っていた。


「さて……」


腕まくりをする。

「久しぶりにパンを焼こうかな」


その言葉に、ぱっと声が弾んだ。

フレアだ。

「任せて!」


小さな炎の精霊は元気いっぱいだった。

「いい感じに焼いとくね!」


くるくる回りながら言う。

「久々だから、ちょっと張り切っちゃう!」


一方、エアリスは落ち着いた様子でカウンターの上を整えていた。


塩。

胡椒。

砂糖。

スプーンとフォーク。


「調味料、配置完了です」


カラトリーもきれいに並べる。


「これでお客様をお迎えできますね」


そして――

リリアは店の扉を開いた。


朝日が差し込み始めた頃。


その瞬間だった。

「リリアーー!!」


元気な声が響く。

「帰って来たんだね!!」

「待ってたんだぞ!」

「俺たちを放置していい度胸してんじゃねえかよ!」

「なんだ、お前、寂しくて泣いてたろ?」

「ば、ばか!言うんじゃねえ!」


孤児の子どもたちだった。

久しぶりの騒ぎに、リリアは思わず笑う。


「ごめんね」

優しく言う。

「寂しい思いをさせちゃって」


すると、男の子の一人が顔を赤くした。

「ば、ばーろーが!」


腕を組みながらそっぽを向く。

「べ、別に気にしてねーし!」


少し間を置いてから、ぽつりと続けた。

「……と、とにかくよ」

「みんな無事で良かったなって話だよ」


リリアは微笑んだ。

「そうだね」

「私もそう思う」


そして聞いた。

「私がいない間は、カイルさんが食事をくれたんだよね?」


子どもたちは頷く。

「ああ」

「リリアに頼まれたって言ってた」


少し照れながら言う。

「……俺たちのこと、気遣ってくれてありがとな」


リリアは首を振った。

「ううん」

「しばらくいなくてごめんね」


そして、焼きたてのパンを差し出す。

「はい、今日のパンだよ」


その瞬間――

「俺が一番だ!」

「ちょっと私よ!」

「いや俺だ!」

「みんな落ち着いて食べようよ」

「って言いながらお前ちゃっかりパン持ってんじゃねえか!」

「やっぱりリリアのパンが一番だな」


久しぶりの喧騒。

その声を聞きながら、リリアは嬉しそうに笑った。

(やっぱり……いいな)


しばらくすると、開店時間になった。

最初にやって来たのは、常連の中年の商人だった。


松葉づえをついている。

「いやあ、リリアちゃん」


懐かしそうに言う。

「ゴブリン騒動以来だね」

「その節は助かったよ」


足を軽く叩く。

「リリアちゃんの応急処置のおかげで、こうして歩けるんだ」

「本当に感謝してる」


リリアはそっと傷口に手を当てた。

「まだ痛みますか?」


商人は苦笑する。

「まあね」

「でもさ、不思議なんだけど」

「リリアちゃんに手当てしてもらうと、ちょっと痛みが和らぐんだよ」

「ありがとな」


リリアは静かに祈っていた。

(少しでも痛みが和らぎますように)

(早く治りますように)


誰にも見えないほど淡い白い光が、傷口へ流れ込む。

商人は癒され、朝食を食べて、元気に仕事に向かった。


その後、老紳士が店に入ってきた。

「いやあ」


穏やかな声で言う。

「お互い無事でよかったね」


リリアは笑顔で答える。

「モーニングでよろしいですか?」

「パンとスープをご用意しますね」


老紳士は静かに頷いた。


料理を出しながら、リリアは聞く。

「最近この辺りで何かありましたか?」

「二週間いなかったので……」


老紳士は少し考えた。

何か思い出したような顔をしたが――

「いや」


ゆっくり首を振る。

「特になかったかな」


そして満足そうに食事を終えると、店を出て行った。


朝食の時間が終わる頃。

今度は――


堰を切ったように貴婦人たちがなだれ込んできた。

「リリアちゃん!」

「久しぶりね!」

「無事だったのね!」

「カイルって騎士団の人から聞いたわよ!」

「どこかの宿屋に泊まってるって!」

「大丈夫だったの?」


リリアは一瞬思う。

(ヴァルディア公爵家のこと……隠してるんだ)


カイルの気遣いだった。

噂が立たないように。

(この奥様たちは私を娘みたいに思ってくれてる)

(でも……アルヴィン様に迷惑かけちゃうかも)


だからリリアは、少しだけ言葉を選んだ。

「はい」


にこりと笑う。

「大丈夫でした」

「足も挫いたんですが、この通りです」


すると貴婦人たちは身を乗り出す。

「ちょっと聞いてよ!」

「この前の社交パーティ!」

「アルヴィン様がついに現れたのよ!」

「もう貴族社会はその話題で持ちきりだったんだから!」

「ほら、このお店にも来てたって話だったでしょ?」

「だから、ここにいたら会えるかなって!」


リリアは苦笑いした。

「な、なるほど……」

「会えるかもしれませんね」

(冷徹の騎士のイメージ……なくなってきたのかも?)

(社交界デビューってすごいことなんだ)


貴婦人たちは笑う。

「まあ私たち中級貴族だからね!」

「見かけても声なんてかけられないけど!」


そして話題は、例の少女へ移った。

「アルヴィン様と踊ってた子!」

「女神みたいだったって話よ!」


その瞬間――

リリアはぴくっとした。

(わ、私のこと……?)


どきどきする。


しかし。

「まあ、私たちが参加できるパーティじゃないからね!」

「実物を拝めるなら拝んでみたいわ!」


貴婦人たちは笑い合う。


リリアは胸を撫で下ろした。

(ここにいる奥方様たちは参加していなかったんだわ…)

(よかった……アルヴィン様と踊っていたのが、私とバレてない。

 バレると、アルヴィン様に迷惑をかけちゃうわよね…)


そして帰り際、貴婦人の一人が言った。

「あ、そうそう」

「一つだけ注意してほしいことがあったの」


リリアは首を傾げる。

「注意ですか?」


貴婦人は声を潜めた。

「最近ね……」

「城下町で殺人事件があったのよ」

「しかも動機が分からないみたいで」

「なんだか物騒でね……」

「戸締り、ちゃんとするのよ」


リリアは目を見開いた。

「さ、殺人事件……?」

「そんなの、城下町で今まで聞いたことないですよね」


胸の奥に、冷たいものが落ちた。

(せっかく……)

(ゴブリン騒動で無事だったのに)


老紳士が何か言いかけて止めたのはこの事だったのかしら…

話すと怖がるかなと思ったのかな…


人が人を殺す。

その事実が、

リリアの心に静かな不安を残した。

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