第十四話 副団長のご実家に行けば静養できますよね
リリアが意識を失ってから、数時間後。
太陽は空高く昇り、昼過ぎ。
城下町は、勝利と引き換えに傷を負っていた。
通りのあちこちに、簡易布が敷かれている。
その上に横たわる人々。
動かない者。
うめき声を上げる者。
臨時の炊き出しの湯気が、重たい空気の中で揺れていた。
その中の一枚の布の上に、リリアは眠っていた。
その傍らには、心配そうに浮かぶフレアとエアリス。
『まだ起きないね……』
『力を使いすぎたのかもしれないわ』
そのとき。
「副団長、こちらです!」
カイルの声。
アルヴィンが振り向く。
そして――
リリアを見つけた。
「……!」
次の瞬間、駆け出していた。
膝をつき、彼女の肩に触れる。
「大丈夫なのか!? リリア! リリア!」
「副団長、落ち着いてください」
カイルが静かに言う。
「医者が診ました。目立つ外傷はありません。幸運にも、大きな怪我はないそうです」
アルヴィンは深く息を吐く。
「……良かった。本当に……」
だが、すぐに表情が曇る。
周囲には、亡くなった人々。
苦しむ人々。
(良かったなんて、軽々しく言うべき言葉じゃないな……)
「被害は……想像以上だな」
小さく呟く。
カイルがフォローする。
「少なくとも、リリアさんは無事です。副団長の"良かった"は、
その点においては間違っていませんよ」
そのとき。
「……う……」
小さな声。
リリアの指が、ぴくりと動く。
「リリア!」
アルヴィンがそっと上体を抱き起こす。
「気が付いたのか!?」
「……ア、アルヴィン様……?」
ぼやけた視界に、見慣れた焦げ茶の髪。
「頭が……痛い……」
「アルヴィンでいい。今は何もしなくていい。安静にしてくれ」
リリアは周囲を見渡す。
(どういう状況……? ゴブリンは……?)
アルヴィンは動かない。
ずっと傍にいる。
「良いのですか……? 王国騎士団副団長様が、私にかかりきりになるなんて」
「仕事は終わった。だからいい」
短く、きっぱり。
アルヴィンの顔が近い。
リリアは少し照れる。
「あの…ちょっと近いです…」
アルヴィンは言う。
「あ…すまない」
カイルが笑顔で手を挙げる。
「改めまして、カイルです」
「カイルさん……無事で良かった」とリリア。
「リリアさんもですよ!」とカイル。
リリアは周囲を見る。
「ゴブリン達は……?」
「追い払いました。それに外門のやばいやつ…グラトゥスも――」
カイルは誇らしげに言う。
「副団長が討伐しました! 英雄ですよ!」
リリアは目を見開く。そして表情が和らぐ。
「……すごい。ありがとうございます。町が救われました」
アルヴィンは視線を逸らす。
「礼はいらない。それより君の回復が先だ」
その瞬間。
「子供たち!!」
リリアが慌てる。
「商人のおじさまも……!」
「もう救出済みです」
カイルが答えた直後。
「リリアー!!」
子供たちが駆け寄ってくる。
「心配したんだよ!」
「一人でゴブリンのとこ行くんだもん!」
アルヴィンが固まる。
「……なに?」
ゆっくりと、リリアを見る。
「本当なのか?」
「……は、はい」
うなづく。
アルヴィンの声が強くなる。
「なんてことを! 君がどうにかできる相手じゃない! カイルだって命がけだ! 俺だって――」
リリアは驚く。
(こんなに……心配してくれていたの……?)
「ご、ごめんなさい……」
アルヴィンは言葉を飲み込む。
「……だが、本当に無事でよかった」
そしてカイルを見る。
「守ってくれてありがとう」
「いや、俺、途中で吹っ飛ばされて……その後記憶ないんですよ」
頭をかくカイル。
そうなのか?とリリアの方を見るアルヴィン。
「私も……カイルさんの側に行ってから覚えていなくて……
私たちのところにいたゴブリン、私たちを殺さずにどこかへ行ったってこと?」
(確か、私は、カイルさんに神の力?治癒を試そうとして祈った……?)
ふと気づく。
そして、カイルの額の方を見る。
(あれ……カイルさんの額の傷、消えてる?
私、本当に神の力があるのかしら…)
アルヴィンが眉をひそめる。
「子供たちは、何か覚えていないか?」
子供たちが言う。
「途中から静かになったんだよ。外が白く光って」
「白い光……?」
アルヴィンが反応する。
(以前、俺が見た…あの老紳士を再生したときの白い光か…?)
子供達は続ける。
「ゴブリンがいなくなってて、二階から呼んだんだ。そしたらカイル兄ちゃんが先に気づいてさ」
アルヴィンは考える。
(あの白い光は、魔物を追い払う力もあるのか?
リリア自身の意思なのか、それとも偶発的に起きたのか?それともまた別の?)
リリアは胸に手を当てる。
「とにかく、みんな無事でよかった……」
そしてカイルを見る。
「カイルさんが無事で良かった」
その瞬間。
アルヴィンの表情が、ほんの少し曇った。
慌てて付け足す。
「アルヴィン様も……ご無事でよかったです」
アルヴィンは静かに言う。
「様はいらない。アルヴィンでいいと言ったはずだ」
「そ、そういうわけには……騎士団の幹部様ですし…」
そのとき。
アルヴィンはもう決めたという表情で話を切り出した。
「まだ顔色が悪い。リリア、俺と来い。
安静にできる場所で静養したほうがいい」
「え!? 騎士団の官舎ですか!?」とカイル。
「あんな、むさ苦しい場所には連れていかん。カイル、馬を一頭頼む」
「了解っす!」とカイル。
「私は本当に大丈夫です!」とリリア。
リリアは元気だということを示そうと立ってみせた。
――瞬間。
「痛っ……!」
足がぐらり。
どうやら捻っていたらしい。
アルヴィンがリリアを支える。
「ほら見ろ。他にもあるかもしれん。無理はするな」
リリアが言う。
「でも……食堂が……」
アルヴィンが壊れた店を指す。
「……あれで営業できるのか?」
ドアも窓も、無残だった。
カイルがにやりと笑う。
「騎士団が復興支援します。リリアさんの店も直します」
そして、何気なく爆弾を投下する。
「副団長のご実家に行けば静養できますよね?」
リリアが首を傾げる。
「ご実家……?」
数秒。
そして。
「……まさか」
目が見開かれる。
「ヴァルディア公爵家……!?」
アルヴィンは、何も否定しなかった。
ただ、静かにリリアを見つめていた。
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