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女神の食堂 ―どうやら神の末裔の私ですが、ここが私の居場所です―  作者: 瀬戸


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第十二話 私が本当に神の末裔なら

――少しだけ、時を遡る。 

朝の食堂ルミナリエは、いつだって賑やかだ。 


「リリア! パンくれ!」

「わたしもー!」

「リリアちゃん、いただきます!」

「リリアさん、ありがとう!」

「うま!」


焼き立てのパンの香りが、まだ冷たい朝の空気に溶けていく。

リリアは笑いながら、次々とパンを手渡した。


「はいはい、順番だよー。ちゃんと並んでね?」


朝はここでパンを食べる。

それが、この辺りの子どもたちの日課。


もちろん――

このあと街を襲う惨事など、誰も知るはずがなかった。


常連客がスープを飲み干し、満足そうに店を出ていく。

子どもたちは邪魔にならないよう、店の外の段差に腰掛けてパンを頬張る。


リリアも外へ出た。


「んーーーっ」


大きく両手を伸ばし、背伸び。

「ふぅ、朝はひと段落。次はお昼の仕込みかな」


もしかしたら、この後、貴族のご婦人たちが顔を出すかもしれない。

最近は、あの甘い香草スープが気に入られている。


リリアは何を準備しようかと考えていた。


「リリアー! 明日は砂糖の甘いパンがいい!」

「はーい、検討しとくね!」

「ごちそうさまー!」


子どもたちの笑顔。

平和な、いつもの朝だった。


――それまでは。


カーン。


カーン、カーン。


そして、


カーン、カーン、カーン。


カーン、カーン、カーン。


カーン、カーン、カーン。


三度。


その音に、リリアの背筋が凍った。


「……この音、は……」


魔の鐘。


しかも、三回。


「リリアちゃん!!」

さっき店を出ていったはずの常連の商人が、血相を変えて戻ってくる。

「逃げるんだ……!」


よく見ると、彼の背中は鋭く抉られ、血が滲んでいる。


「えっ……!」


「外門が破られた! 魔物が……町の中に――」


その瞬間。


遠くから悲鳴が響いた。

「きゃああああ!!」


子どもたちが振り返る。

「リリア! あっち……!」


通りの少し離れた向こう。

巨大な影。


四メートルはあろうかというゴブリンが、棍棒を振り回しながら人を吹き飛ばしている。

石畳に叩きつけられる人影。


一瞬、恐怖が胸を掴む。

足がすくみそうになる。


――怖い。


でも。

(もう大切な人は失わない…)


心の奥で、強く思う。

(こんなことで、失ってたまるものか!)


「みんな、中に入って!」


リリアは子どもたちと商人を店内へ押し込む。

裏口から二階の居住区へ。


「座ってて。動かないで」

震える手で、商人の背を洗い、布で押さえ、簡易的な止血をする。

そして、背を押さえてリリアは祈りを込めた。

(本当に私に力があるなら、癒して…この傷を…)


精霊たちは見守っていた。

フレアとエアリスからは、癒しの白い光が見える。

『リリア…大丈夫、ちゃんとできているよ』


子どもたちは黙って状況を見守るが、その瞳は恐怖に揺れている。

その間にも、外の騒ぎは近づいてきた。


ガシャーン!

何かが壊れる音。


――この地区までゴブリンが来た。


リリアは立ち上がる。

そして、ドアに向かった。


「……みんなは、絶対にここから出てこないで」


「え…」

「リ、リリア!?」

「どこ行くんだよ!殺されちゃうよ!!嫌だよ…」

「一緒にいてよ! 怖いよ!」


胸が締めつけられる。

でも、振り返らない。


「守るって、誓うから」


そして、少し振り返り微笑む。

震えを必死で抑えながら。


「それに……私は大丈夫。大丈夫だから」


嘘だ。


全然大丈夫じゃない。


でも言うしかない。


「私が戻るまで、このドアは絶対に開けない。約束できるね?」


子どもたちは涙目で、うなずいた。


リリアは外に出る。

ドアを閉め、棚を動かして隠す。


「……これで少しは時間が稼げる」


小さく息を吐く。


震えている。

足も、指先も。


「パパ、ママ……守って」


目を閉じる。

「私が本当に神の末裔なら……こんなことで死なないよね」


でも。

(違うよ……私、ただの……)


そのとき。

ふわり、と空気が揺れた。


炎のような赤い光。

風のような淡い光。


『リリア、大丈夫』

『私たちが守るから』


フレアとエアリス。

幼い頃から共にある精霊。


「……ありがとう」


ほんの少しだけ、震えが止まる。

フレアは誰にも聞こえない声で祈りをささげた。

(リリアに勇気を与えたまえ…)

エアリスも誰にも聞こえない声で祈りをささげた。

(リリアに必要な縁を与えたまえ…)


二体の精霊の加護がリリアを纏う。

リリアはそれには気づかないが、もう震えてはいなかった。


「私、子供たちを守るんだ…」


その瞬間。

一階から、重い音。


ガチャン!

何かが、入った。


床板が軋む。

階段の下から、低い唸り声。


リリアはゆっくりと息を吸う。

(来た)


小さな拳を握る。

――ここは、私の場所。


守る。


絶対に。


そして、足音が一段、近づいた。

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