表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女神の食堂 ―どうやら神の末裔の私ですが、ここが私の居場所です―  作者: 瀬戸


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/25

第十話 あくまでおとぎ話ですけど

夕刻。

訓練帰りの騎士たちで賑わう食堂の片隅。 


そこへ――

「失礼します、副団長」


軽やかな声とともに、カイルが向かいへ腰を下ろした。

湯気の立つカップを手に取り、ずず、と一口。


そして、にやり。

「どうしたんですか? 最近なんか様子違いますよね」

(ふふ、俺は見ましたよ、団長。食堂の娘と仲良さげでしたね!

 ちゃんと秘密にして応援します!)


アルヴィンは反応しない。


カイルは身を乗り出す。

「……もしかして、リリアさんと恋でもしました?」

(にやり)


ぴくり。

ほんの一瞬、アルヴィンの視線が揺れた。


だが次の瞬間には、いつもの無表情。

「くだらん…団長から聞いたのか?」


「おや……図星ですか?」


「違う」

即答。


しかしその“間”が、もう答えだった。


カイルは心の中でガッツポーズを決める。

(やっぱりか、団長に聞いたら、副団長を応援してやれって言ってたし!)


だが彼は、それ以上は踏み込まない。

この人は、追い詰めすぎると黙るタイプだ。


代わりに、自然に話題をずらす。


「で、本当は何を考えてるんです?」


アルヴィンは一瞬、迷ったように視線を落とし――

やがて静かに言った。


「レオニスのことだが……」


空気が少し変わる。


「私は奴を信用しているつもりだ。あいつは国のために働いている。頭もいい。議会を引っ張れるのは、あいつしかいない」


カイルは黙って聞く。

副団長が、誰かをここまで評価するのは珍しい。


「今、いろんなことがうまくいっていると思っている。

 現状のままが良いと思うのはおかしいか?」


アルヴィンはカップを置いた。


「カイル。お前はどう思う?」


少しの沈黙。

信頼している先輩であり、上司でもある副団長のアルヴィンからの

マジメな問いに、カイルも真剣に答えることにした。


「んー……」

カイルは頬をかく。


「副団長は、そう思ってるんでしょうね」


「なんだ。お前は違うのか?」


「違うわけじゃないです。ただ――」


そこで彼は、声を落とした。

「みんながそう思っているわけじゃない、とは思ってます」


アルヴィンの視線が鋭くなる。

「どういうことだ?」


カイルは少しだけ真面目な顔になった。

「例えば、レオニス公爵閣下。あの人、かなり強い危機感を持ってますよ」


「危機感?」


「この前の会議でも、軍備拡張を提案してましたよね。いつ魔物が襲ってくるか分からないって…

 誰にも響いてない感じでしたが…むしろ行き過ぎた発言との解釈が大半かと…」


アルヴィンは即座に返す。

「それはそうだ。今の守りで十分だからな。俺たちは強い。

 いざとなれば、それこそレオニスたちの魔術師団もいる」


「ええ。でも――魔物だけじゃないと思うんです」

カイルはカップをくるくる回す。

「今は、魔物が多いおかげで、人間同士の争いは起きてない。皮肉ですけど」


確かに。

他国も、魔物対策で手一杯だ。

だから戦争がない。


「でもですよ…もし、こんなときに他国とやり合うことになったら…?」

カイルは視線を上げた。

「対魔物だけじゃなく、対人間。地獄ですよ」


アルヴィンは黙る。

その通りだ。


「レオニスさんはたぶん、そういうことを考えているんですよ。

 何かしら対策をした他国が、魔物に襲われている我が国を襲ってきたら?」

カイルは少し声を落とす。

「レオニスさんは、はっきりは言わない。他国が攻めて来るかもなんて言ったら国際問題になりますから。でも、近隣諸国が動いたら――ってケースを、たぶん全部想定してる」


「……」


「そして、たぶん一番警戒してるのは」


カイルはわざと間を置いた。

「悪魔降臨、でしょうね」


空気が凍る。


「悪魔降臨? 二百年前のおとぎ話だぞ…」

とアルヴィン。


「まー俺も詳しくないですけど」

カイルは肩をすくめる。

「悪魔が、二百年周期で復活して降臨するって説、聞いたことありますよ。

 それをレオニスさんが信じてるとか信じてないとか」


アルヴィンの指先が、わずかに強張る。

「二百年周期……」


「伝説通りなら、ちょうど今がその頃合いじゃないですかね?」

軽く言う。


だがその目は、冗談ではない。


アルヴィンの中で、何かが繋がる。


軍備拡張。

他国警戒。

神の末裔、リリア。


レオニス。

(……まさか)


「ま、あくまでおとぎ話ですけど」


カイルは立ち上がる。

「考え込みすぎないでくださいよ?」


少しだけ心配そうに見て、

「俺、訓練なので」

と言って去っていった。


静寂。

アルヴィンは動かない。


レオニスは、悪魔降臨に備えているのか?


そのために軍備を。

そのために――女神を。

リリアを。


神の末裔を担ぎ、信仰を集め、王の座へ。

そして武力を掌握する。


(そんなことを、あいつが……?)


信じがたい。

だが。


もし、本当に悪魔が復活するなら?

あいつなら、やりかねない。


今の王は軍備拡張に慎重だ。

他国を刺激するからだ。


悪魔降臨のために備えてます、と言ったところで、

他国がそれを信じるだろうか?

否。自国を攻める準備をしていると捉えるだろう。

でなければ、自国は守れない。


だが、その発想は警戒が警戒を呼び、

戦争を誘発する危険な行為になりかねない。


だから王も動かないだろう。

アルヴィンも王と同意見だ。


だがレオニスは、国を守るためなら危険を取る男だ。


(それでも――)


リリアはどうだ?

神の末裔…リリアが悪魔から世界を救う"救済"なのか?

あの小さな食堂で、静かに笑う少女が?


彼女が起こすのは、小さな癒しの奇跡だ。

世界を救う奇跡ではない。


小さな癒しの奇跡でさえ確証がないのが

正直なところだ……。


アルヴィンは立ち上がった。

迷いはない。


「やはり、聞くしかない」


リリアに。

彼女が神の末裔なのか。


本人は知らないと言っていた気もするが、

他に何かを隠しているかもしれない。


アルヴィンは、翌朝、リリアの食堂へと再び歩き出した。

ブックマークと評価について、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ