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残響詩篇  作者: 宗一郎
プロローグ:白の頁
2/20

第1話-2:空白の少女

【1】


夜の静けさが集落を包んでいた。

薄い布の天幕を透かして月明かりが差し込み、アマネはその光を見つめていた。



「あれ、起きてたのか」


幕をくぐって入ってきたカズヤ。


アマネは膝の上の小さな白い花をそっと握りしめながら、申し訳なさそうに微笑んだ。


「ごめんなさい。考え事をしていたら……眠れなくて」


「謝ることじゃねえよ。

そりゃまあ、落ち着ける状況でもねぇしな」


カズヤは近くの木箱に腰を下ろし、手に顎を乗せた。



少し迷ったあと、アマネは口を開いた。


「……カズヤさんも、外典なんですよね?」


「ああ、まぁな」


「外典は危険だと教わってきました。

記憶に呑まれて暴れたり……人格が変わったり……」


カズヤは否定しなかった。


「……そういう奴もいるな」


短く、それだけ言った。

その言葉に嘘はなかった。



アマネは手に持った白い花を見つめる。


「この花、ミーシェちゃんっていう子がさっき置いていってくれて。

よく考えたら私、花をもらったの初めてだな…って」


その目は、光を映して柔らかく揺れていた。


「……ここの人達はみんな優しい。どうして……?」



カズヤは少しだけ笑った。


「優しいっていうか……同じなんだよ」


「同じ?」


「世界に捨てられた連中、って意味でな」



外で、焚き火がぱちりと弾ける。

カズヤは視線を遠くに向けたまま語った。


「俺さ、ガキの頃に外典って判定されて。

親も死んでて……生きるのに必死だった」


アマネは息を呑む。



「助けてくれって頼んでも、誰も見向きもしなかった。

外典だからって理由だけでな」


遠き日の焚き火の橙が、カズヤの瞳の奥でちらつく。


「全部恨んでたよ。

世界なんか壊れちまえって思ってた。

でもジジイに拾われて、ここに来て……同じような奴らが沢山いるって知った」



カズヤは肩をすくめる。


「ここでやっと分かったんだよ。

誰かひとりでも、ほんの少しでも手を伸ばしてくれたら、人は救われる」


その言葉は、驚くほど静かだった。


「俺と同じ思いをしてほしくねえし……。

大丈夫か?って声かけてやりてえんだよ」



アマネの胸の奥が、じんわりと熱くなる。


この人は――優しい。


そして同時に、とても重いものを背負っている。

だからこそ、聞かずにはいられなかった。



「……カズヤさんの残響は、なんですか?」



空気が止まった。

カズヤはわざとらしく頭をかき、視線をそらす。


「それは……まぁ……そのうち話すよ」


軽く笑ったが、彼の言葉は故意に曖昧で、その奥に影があった。


言えないほど重い何か。

アマネはそれ以上踏み込めなかった。




【2】


夜が深まるほどに静寂は濃くなり――そして、あまりに唐突に破られた。


白い探照灯が闇を裂く。

冷たい金属の靴音。軍靴の列。影が十を超える。



その中央に立つ金髪の青年。

胸元には大書院監査局の紋章。

彼が、氷のような声で命じた。



「対象はこの付近に潜伏中。捜索と“保護”を開始しろ」




集落は一瞬で緊張に包まれた。


「カズヤ! 起きろ!!」


怒声と共に幕が開く。


「大書院の連中だ!」



カズヤは跳ね起きて、アマネを見る。

彼女の顔は青ざめていた。


「動けるか!?」


「なんとか……!あの、もしかして……」


「ああ、追っ手だ。すぐ出るぞ!」



二人は荷物を掴み、夜へ飛び出した。

遠くに見えるダンの背中に、カズヤはしばしの別れを投げかける。


「ジジイーー!!

気をつけろよ! 行ってくる!!」



ダンは煙草を噛みながら、大声で激励を返す。


「お前らもな!行ってこい!

最後まで責任持って救え!!」


その声に背中を押されるように。



カズヤとアマネは、闇の中へ走り出した。




【3】


人気のない廃墟を、カズヤとアマネは足早に抜けていく。

だが――監査局はもうすぐそこまで迫っていた。



逃げる二人の背後に。


ひとつの影が降り立つ。




「――動くな」




冷たい声。雨が降り始める。

否応なく、戦いの幕が上がろうとしていた。

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