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残響詩篇  作者: 宗一郎
序章:綴られぬ者達の夜明け
13/20

第9話:安らぎの朝、覗く歯車

【1】


――翌朝。


ガンッ!ガンッ!

金属を叩く乾いた音が、薄闇に残る眠気を一瞬で吹き飛ばした。


「……っ、な、なんだ!?」



カズヤとアマネは同時に跳ね起き、音の方向――作業部屋へ向かう。


白い煙と火花が漏れる中、ゴーグルを額にずらしたカムイが、

装置にレンチを叩き込んでいた。


最後の調整を終えたらしく、満足げに手を離す。


「終わったっすよ〜」


ちょうどその背後から、アインが欠伸をしながら現れた。


「やっとか。おはようさん」



振り返ったカムイは、カズヤ達の姿を見るなり満面の笑顔。


「昨日は集中切らしたくなくてつい。ごめんなさいっす!

――カムイっていいます!

カズヤさんとアマネさんっすよね。よろしくお願いします!」


勢いのまま、両手でカズヤとアマネの手をガシガシと握る。

油と汗の混じったぬるりとした感触に、カズヤは引きつった笑みを浮かべた。


「……あ、ああ、よろしく」



アインが乾いた笑いを浮かべる。


「まあ、そういうわけだ。

で、カムイ――何か掴めたっぽいな?」


「ふふーん、もちろんっす!ビンゴだったっす」


カムイは机の上の端末を指差し、嬉々として説明を始めた。




【2】


カムイは端末を操作しながら、上機嫌に振り返った。


「じゃ、さっそく本題いくっすよ。

ふたりとも――“七綴り”って知ってます?」



カズヤとアマネが同時に首を傾げる。


「なな……?」

「聞いたことあります。伝承の話……」


「表向きにはそっすね。でも、ちゃんと実在する」


アマネが目を丸くする中、カムイは続ける。


「感情・声・形・存在――とか。

“記録”を構成する七つの要素で、この世界は作られている、って話っす」


カムイは端末の画面を指す。


「で、今回おかしくなってるのが、そのひとつ――

リムランドにある“存在の綴り”っす」



カズヤが眉を上げた。


「存在の……?なんだそりゃ」


「簡単に言うと、“そこにある”って事実を世界に定義する装置みたいなものっすね」


カムイは手早くデータを呼び出す。


「消えた人達の周辺を観測してて気づいたんすけど――

そこにいるのに、世界がその人を認識し損ねてる。

電球がチカチカするみたいに、“ない”と“ある”を行き来してるかんじっす」


アマネが小さく息を呑む。


「……だから、人が消えたように見える」


「そういうことっす!」



だが、アインが眉をしかめる。


「んな重要なもんなら、大書院が真っ先に気づくだろ」


「ところがどっこい。

七綴りは機密中の機密で、筆聖クラスの権限がなきゃ知らんっす。

うちも昔、《《たまたま》》調査の中ですこーし知れただけっすもん」


カムイは、机に置かれた装置をトントンと叩く。


「うちがここまで辿り着けたのも、

この《観測くん3号》のおかげっすから」


アマネが眉を上げてヘンテコな見た目の装置を覗き込む。


「観測くん?」


「うち好みにチューニングした、エーテル反応を可視化してくれる観測装置っす。

これで“存在が消えた地点”のエーテル位相を観測してたんすけど――

通常ありえないエーテルのノイズを検出したんす。

しかもそのノイズ、存在が消えた人達の残響データと同一位相で反転してるんすよ!!」



捲し立てるような早口の説明に、アインが頭をかきながらぼやく。


「……半分も分からねえ」


「うちだけ理解してればいいっす。要するに!」


カムイは胸を張る。



「消えた人はずっと“そこにいる”。

そして、残響の残滓も一切なし。

こんな説明がつくのは――“存在の綴り”の異常だけ、ってわけっす」




【3】


理解が追いついたわけではないが、状況の輪郭だけは掴めた。

アインが腕を組む。


「じゃ、とりあえず――“存在の綴り”をなんとかすればいいってことか」


「そういうことっす!」


カムイがパチっと指を鳴らす。



だが、すぐに表情を曇らせた。


「……ただ、問題が二つあって。

“存在の綴り”をどう直すか分からない。

んで、そもそもそれがどこにあるかも分からない」


アインが苦笑する。


「つまり、何も分かんねぇってことだな」


「まあまあ、それをこれから調べるんすよ!」



カムイはアマネへ向き直る。


「アマネさんには、うちと一緒に調査をお願いしたいっす。

消えた残響も、無関係じゃないはずっす」


「……!分かりました。私でよければ」


アマネが頷くと、カムイの表情がぱっと明るくなる。



次いでアインとカズヤへ向き直り、小型装置を差し出した。


「でー。アインとカズヤさんは――これ!」


なんだこりゃ?と、アインが怪訝な顔をする。


「新型の《観測くん4号》っす。

この街で消えた人達の観測データ、片っ端から集めてきてください!

今はとにかくデータが沢山欲しいんで」


カズヤは力強く頷き、アインも笑みを見せる。


「いいねぇ。ようやく本格的に動けそうだ」


その瞬間、拠点の空気が一気に明るくなる。



カムイがパンッと手を叩いた。


「んじゃっ!まずは朝ご飯にしましょー。

腹が減ってちゃ頭も働かないっす!」


「あ、私も作ります!」


「俺も手伝うぜ!」


カズヤもアマネも、笑顔で台所へ駆けていく。


赤橙のランプがゆらゆらと揺れる拠点の中で、

小さな笑い声が、初めて穏やかに響いていた。



――嵐が過ぎ去った後、ようやく得た一時の静けさ。

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