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【第二章】侍女が王女に転生?!英雄と結婚して破滅の国を救います!  作者: カナタカエデ
第二章

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九話 救出

「さて――何故お前が、他国であるロキアへ無断で侵入し、王女を誘拐したのか。説明してもらおうか。」


「チッ、くそっ!」


後ずさろうとしたアレクサンダーだったが、いつの間にか灰色狼の群れに囲まれていた。


「はーい、もう逃げられないよ。そろそろ大人しく投降したら?」


シンシアの軽い声が響く。

その姿を見たアレクサンダーは、彼女なら勝てるとでも思ったのか、剣を構えた。


だが次の瞬間――狼たちが一斉に跳びかかり、手首と足首に牙を立てる。


「うわあああああああっ!!」


悲鳴は山の上にこだまし、崖下の鳥たちが一斉に飛び立っていった。

やがて静寂が戻り、その中をヴァルクが馬を進めてくる。


「……醜い奴だ。」


低く呟くと、ヴァルクは馬から降り、アメリアの傷ついた脚に手を伸ばした。


「酷い怪我だな。すぐに手当てしよう。」


「ねぇヴァルク、この男どうする?」


「連れて行け。殺すなよ――まだ聞くことがある。」


「了解。ジオ、うちの部隊がそろそろ着く頃だ。引き渡そう。」


「ああ。」


声をかけられたのは、先ほどシンシアとともにいた赤髪の男だった。

長い髪をひとつに束ね、獣の皮をまとっている。

彼は狼に噛まれのたうち回るアレキサンダーの髪を掴み、無造作に引きずっていった。


「少し沁みるかもしれないが、我慢してくれ。傷が腐れば命に関わる。」


ヴァルクは落ち着いた声でそう言い、傷口を確かめながら丁寧に手当てを始めた。


「さきほどの赤髪の方は、シンシアの部隊の方ですか?

ノルディアでは見かけなかったように思うのですが……」


「ああ。あいつは山の民の首領だ。

今はシンシアに協力してくれているが、いつまで味方でいてくれるかは分からない。」


「えっ……山の民って、あの――襲ってきたときの?」


「……ああ。その件についても、シンシアに調べてもらっていたところだ。

それより――」


ヴァルクは話しながらも、迷いのない手つきでアメリアの傷を手当てしていた。

包帯を巻き終えると、馬上の彼女を見上げる。


「大丈夫か? 他に痛むところはないか?」


「あ……はい。何度も放り投げられたので、あちこち痛いですが……でも、それだけです。」


ヴァルクは短く息を吐き、なぜか辛そうにアメリアの手を取った。


「すまなかった。もっと早く……いや、そもそも連れ去られるようなこと、起きてはならなかった。」


「ヴァルクは何も悪くありません!

私が油断していたんです。城の中なら安全だと、勝手に思い込んで……。」


「……顔色が悪いな。水を飲んだ方がいい。一旦山を降りて、今日は体を休めよう。」


ヴァルクは腰につけたボトルを取ると、蓋を開けて渡してくれた。

何時間ぶりだろう。ゴクゴクと飲むと、カラカラだった喉が潤っていく。

あまりにも急に飲みすぎたせいか、最後は咳き込むほどだった。


「大丈夫か?」


「はい……すみません。捕まってからずっと飲まず食わずだったので。

でも……本当に、こんなすぐに助けに来てくれるなんて思っていませんでした。」


「……向こうに街が見えるのが分かるか?」


「はい。」


「あの街と、もっと先にある港町――あそこの領主たちの間でいざこざがあって仲介に行っていた。

だから知らせを受けて、すぐに駆けつけられた。」


地平線の彼方で赤く光る太陽が沈んでいく。

攫われてから一日も経っていないのに、永遠のように長く感じられた。

その光を見つめながら、ようやく“助かった”という実感が彼女の中に広がっていく。


「アレクサンダーはあの港へ向かっていたんです。

まさかヴァルクが、その道のりにいるとは思わなかったのでしょうね。運が良かったです。」


「それは……どうだろうな。」


「え?」


「仲裁に向かったのは王宮の人間は皆知っていたはずだ。

それなのに、あいつはなぜあの港を目指したと思う?」


「それは知らなかったんじゃあ……あっ。」


そうだ。アレクサンダーには王宮の――少なくともマリアの宮に侵入を許せるだけの協力者がいたはずだ。


「おそらく、あいつも嵌められたんだろう。

“王女と逃げ仰られる”という悪魔の囁きにな。」


ヴァルクはアメリアを乗せたまま、愛馬の手綱を引いた。

負担がないよう、ゆっくりと歩いてくれるヴァルクに感謝しながら、アメリアは自分を攫った男たちのことを思い返していた。


彼らはマリアの宮殿に忍び込み、王宮の地下道を通じて抜け出した。

そんな道を知っているのは、王族だけなのではないだろうか。


このことを果たしてヴァルクに伝えるべきなのか――。

もし万が一、アレクサンダーと通じていたのがマリアやダリオン王子だったら……。


アメリアは背筋が震えた。

自分が知っている前世は歴史の断片でしかない。

もしかしたら、いま大変なことに踏み込んでしまっているのではないだろうか。


思い悩んでいるうちに、いつのまにかシンシアと彼女の部隊のもとに着いていた。


「アレクサンダーは、先に王都へ送ることになったから、もう出発させたけど、殿下はどうする?」


「アメリアは、近くの村で休ませてから明日王都まで連れていく。」


「領地問題は解決したのか?」


「それならひと段落した。あとはライオネルがうまくやってくれるだろう。」


「ははぁーん、ライオネルに押し付けたね! それでヴァルクはひとりで来たのか。」


「……あの馬鹿どもより優先事項ができたから、それは仕方ない。」


「それはそうか。じゃあ、アメリア! 王都でまた会おう!」


「あっ、待って! シンシア!!」


アメリアは慌てて馬の上でわたわたと手を伸ばす。

ヴァルクがそっと彼女を降ろした。


「そ、その……行く前に、ちょっと……」


「ん? どうした?」


アメリアはシンシアを引き寄せ、こそこそと耳打ちする。


「……トイレに行きたいの。村まで我慢できないかも……」


シンシアは一瞬きょとんとしたが、すぐに笑ってヴァルクに耳打ちすると、アメリアを森の茂みまで案内してくれた。


「ごめんなさい……ご迷惑をかけて。

助けに来てくれたことも、本当に感謝しています。」


どうにか事なきを得て戻ってくると、シンシアはにこりと笑った。


「そんなこと気にしなくていい。王女殿下を守るのは騎士団の務めだ。

それに……最初に助けてあげられれば、そんな怪我をすることもなかったのに、悪かったな。

あのまま捕まえられなくもなかったんだが、ヴァルクが向かっているのは分かっていたから、危険を犯さない方が良いと思って。」


「そうでしたか……。あの、実は侍女が一緒に攫われたんですが……」


「ああ、ノルディアに来ていた子だろ? 無事だよ。

彼女は王都のすぐ近くで見つかったから、もう王都に戻ってる頃じゃないか。」


「そうですか……良かったです!」


ホッとしたと同時に、なぜテティが倒れていたのか疑問が膨れ上がる。

そもそも呼び出したのは彼女だ。

なにか繋がりがあるのか――生きているということは、彼女は駒として使われたのではなく、騙した側である可能性もある。


真剣な面持ちでシンシアとヴァルクのもとへ戻ろうとしたその時、突然シンシアが振り向いた。


「そうだ、言い忘れてた! もう本当にヴァルクのことは諦めたから安心して!」


「えっ?」


「私が“ヴァルクの子が欲しい”って言ってたの、気にしてただろ?

子どもはジオと作ることにしたんだ。」


「は? ジ……ジオ?」


「さっき一緒にいただろ?

あいつ、私のことが昔から大好きなんだよなぁ。」


「えっと……それは、彼も騎士団に?」


「いや~それはないと思う。あいつヴァルクが嫌いだから。

でも私のことは好きだから、もう騎士団にもアメリアにも手出しはさせないよ。」


得意げに笑うシンシアを見て、アメリアは思った。

――この人のことは、一生理解できないかもしれない。


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