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【第二章】侍女が王女に転生?!英雄と結婚して破滅の国を救います!  作者: カナタカエデ
第二章

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八話 逃亡の果て

「はあ……はあ……」


息遣いだけが、森の中に響いていた。


昼のはずなのに、木々が鬱蒼と生い茂り、光はほとんど差し込まない。

背中に剣を突きつけられ、ただひたすら歩かされる。

もうどれほど歩いたのかも分からない。


アレクサンダーの息は荒く、足取りはふらついていた。

だがそれでも、狂気のような執念だけで前に進んでいる。


馬車の中で靴を失い、裸足の足裏は石と枝で裂けていた。

血の跡が後ろへ続く。

それでも止まれば、すぐに剣が背に押し付けられる。


「もう……やめましょう。このままじゃ港になんて辿り着けないわ。

あなたの従者も殺されたじゃない……他にも仲間がいるの……王宮から私を誘拐した協力者みたいに」


「……協力者? ああ、そうだね。

この国は、君が思っているより馬鹿が多い。

おかげで――君をこの手にできた。」


「…ユーラシアはこんなこと、承知しているの? またロキアと戦うつもりなの?」


「ふっ、まさか。僕はもう、国から見放されている。

唯一の価値は“王女の婚約者”だった。それも奪われた。

――もう、帰る場所なんてないんだよ。」


朦朧とする中、アメリアは思考を巡らせる。

(やっぱり……協力者は王宮の中にいる。

彼が従者を二人しか連れていなかったのも……まともな部下がいないんだわ。

最初から、この男は“国”も捨て、“私”だけを連れて逃げるつもりだったんだ……)


「それで……どうするつもりなの?」


木々の切れ間から陽が差した。

森を見下ろせる小高い丘に出ると、アメリアはその場に崩れ落ちた。


遥か遠く、霞む地平線の先に港の白い帆が見えた。

だが――とても歩ける距離ではない。

もう、足は動かない。体中が痛みで軋んでいた。


(こんなところで……死ぬわけにはいかないのに……)


アメリア王女に託された「国を救う」という使命。

それよりも、今は“生き延びる”ことさえ危うい。

――十年先の死を知っていたから、未来を変えたと思っていたのに。

むしろ、自分が引き寄せてしまったのかもしれない。

“アメリアの死”を。

この男の狂気を甘く見ていたのだ。


アレクサンダーは崖際に立ち、あたりを見渡した。


「……あいつらも追ってきてなさそうだな。

ねえ、アメリア――ここで一緒に死のうか?」


「は……?」


思わず顔を上げる。

彼の声は穏やかで、まるで恋人に語りかけるようだった。


「僕はずっと不思議だったんだ……君がヴァルクを選んだことが。」


(今さら何を……?)


アレクサンダーは遠くを見つめながら、ぽつりと続けた。


「ねえ……君は、本当にアメリア・ド・ロキアなのかい?」


ドクン――心臓が大きく跳ねた。



「僕らの関係は……悪くなかったと思っていた。

なのに、婚約者を選んだ時、君は僕をまるで知らない人みたいに拒んだ。

その後に再会した時もそうだ。あの目……まるで“別人”を見るようだった。

以前の君なら、そんな表情はしなかった。」


ゆっくりと、彼がこちらを振り返る。

その瞳は、まるで底の見えない湖のように揺れていた。


「……誰なんだい? 君は、僕の知っている“アメリア”じゃない。」


アメリアは息を呑む。

頭の中が真っ白になった。

誰も気付かなかったことを言い当てたのがこの男だとは…それでもそれを認めるわけにはいかない。

アメリアは唇を噛み、睨みつけた。


アレクサンダーの口元が、ぞっとするほど優しく歪む。


「でもいいよ。どんな君でも構わない。

“今の君”を、僕が手に入れられるなら――」


「こっちは嫌!!

いいかげんにして!!

私にはやるべきことがあるのよ!!」


絶対にこいつを殺さないと。

人生で初めて、人を殺す決意をした。

アレクサンダーの手にある剣をどうしたら奪えるのか、頭を回転させる。


「アメリア、大丈夫。僕と一緒に旅立とう?」


「近づかないで……!

私は――ヴァルクと生きるの!!」


アレクサンダーの瞳に怒りが浮かび上がった瞬間、

狼の遠吠えが森に響いた。


(――シンシア?)


アメリアはその声を合図に立ち上がる。

限界を超えた脚をどうにか動かして走り出した。

慌ててアレクサンダーが剣を振り回し追ってくる。

必死で走り続けるが崖の端に足を取られ、地面が崩れる。




落ちる――








そう思った瞬間、体がふわりと浮いた。


「アメリア!!」


耳を裂くような怒鳴り声。

あの低く、力強い声――。


気づけば、馬の背に乗せられ、硬い胸の中に抱きとめられていた。

腕の中の温もり、焦げたような匂い。

抱きしめられたいと、何度も夢見た感触だった。


「……ヴァルク……ヴァルク!」


確かにヴァルクだった。

アメリアは確かめるように、彼の胸にしがみつく。


「はあ……間に合ったな……」


ヴァルクは片腕で彼女を抱きしめ、低く呟いた。

その声は確かに――震えていた。


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