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【第二章】侍女が王女に転生?!英雄と結婚して破滅の国を救います!  作者: カナタカエデ
第二章

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五話 暗闇の中で

二十二時前、アメリアはマリアの庭園に来ていた。

たとえ王宮の敷地内であっても、各主の許可なく立ち入ることは許されない。

だが、庭園の門番に声をかけたとき、彼らはまるであらかじめ知らされていたかのように通してくれた。


前日にマリアとお茶を飲んだ場所に腰を下ろし、アメリアはテティを待ちながら、シーリーンとの会話を思い返していた。


――結局、彼女と話しても前世の記憶が蘇ることはなかった。

それでも、今世も変わらない彼女と接していると、うっかり自分が“カリナ”のように振る舞ってしまいそうで、少し怖くなった。


アメリアの身体に宿ってから、カリナとして親しくしていた相手と再会したのは、上司だったローラくらいだ。

それ以外の人々には、常に「アメリア王女」として接してきた。

ヴァルクたちのようにアメリアをよく知らない者たちの前では、多少素の自分が出ても構わなかった。

だが、かつて仕えていた本物の王女をよく知るシーリーンの前では、そうはいかない。

親しくしすぎれば、カリナとしての自分が露見しかねない。


自分が本物の王女ではないと気づかれることはないはず。

それでも、アメリア王女としての評判を損なうわけにはいかなかった。


ふと時計を見ると、すでに二十二時を過ぎていた。

見張りの様子から、テティはもう到着していると思っていたが、いつまで経っても姿を見せない。

不安になったアメリアは、庭園の中を探すことにした。


灯りのない庭園では、月明かりだけが頼りだ。

迷路のように入り組んだ垣根の影を覗き込んだそのとき――

そこに、細い足が横たわっているのが見えた。


「テティ!」


駆け寄ったアメリアは、垣根の陰に倒れている彼女の身体を抱き起こした。

ぐったりと力の抜けた身体。

顔は真っ青で、唇の色まで失われている。


「テティ、どうしたの……?」


呼びかけても返事はない。

だが、手を握るとまだ温もりがあった。脈も――しっかりと感じる。


(よかった……生きてる)


安堵の息が漏れる。

次の瞬間、アメリアははっと顔を上げた。


「誰か、門番を――」


声を張り上げようとしたそのとき――

背後から伸びた手が、彼女の口を覆った。


薬品の匂いが鼻を刺した、その瞬間――

視界がぐらりと揺れ、世界が暗転した。


「あ……」と声を出そうとしたが、喉から音は出ない。

全身の力が抜け、アメリアの身体は地面に崩れ落ちた。


月明かりが遠のいていく。

意識は、深い闇の底へと沈んでいった――。


***


目を覚ましたとき、アメリアは暗闇の中にいた。

何も見えない――けれど、身体がゆっくりと、上下に揺れている。


(……揺れてる? どうして?)


ぼんやりとした意識のまま、身を動かそうとする。

だが、腕も脚もびくりとも動かない。息を吸おうとした瞬間、胸を圧迫する縄の感触に気づいた。


(縛られてる……?)


少しずつ、現実が形を持ちはじめる。

自分は簀巻きにされたまま、誰か――男の腕に担がれている。

そのことを理解したとき、背筋に冷たいものが走った。


アメリアはすぐに息を殺した。

――気づかれてはいけない。


男の肩に担がれた身体に力を入れないように気をつけながら、そっと目だけを動かす。

暗闇に慣れはじめた視界の中で、ぼんやりと別の影が浮かび上がった。


もう一人、男がいる。

そしてその男もまた、同じように簀巻きにした“何か”を担いでいた。


(……誰? まさか、テティ?)


冷たい予感が胸を締めつける。


「はああ、おもっ……この女は置いて行っても良くないか?」


「ダメだ。少しでも王女が消えたことがわからないようにしないと。

それに――この道を通ったことは絶対に気づかれるなと言われているだろう。」


「はあ、王女ひとりなら交代で運べたからもっと早く移動できたものを……」


「ぐだぐだ言うな。あと少しで外に出る。

待ち合わせの場所までは荷台で運べるんだから、もう少しの辛抱だ。」


――この道?


視界に見えるのは、煉瓦造りの舗装された道。

だが、男たちの声と靴の音が反響して聞こえることから、おそらく地下道なのだと気づいた。


(どこなの……? 王宮に、外へ通じる地下道なんてあった?)


どのくらい眠っていたのだろう。

どれほどの時間を失い、城からどれだけ離れているのか――見当もつかなかった。


舗装された道が終わると、空気が湿っぽく変わった。

岩の間をくぐり抜け、狭い洞穴のような場所を進む。

背中の岩肌に衣が擦れ、時折小石が足元で転がる音がした。


やがて、外気の冷たさが肌に触れる。

次の瞬間、どさりと地面に放り出された。

荒い息を整えながら、男たちは背後の小さな穴を塞ぎ始める。

岩や木の枝を詰め、外からは見えぬよう念入りに。


「これで見つかりゃしねぇな」

ひとりが笑い、もうひとりが荷車を引き寄せた。


二人は簀巻きのアメリアとテティを順に乗せ、上から麻布を被せる。

光が遮られ、世界がまた闇に閉ざされた。

車輪の軋む音と、土を踏みしめる靴音だけが響く。


***


どれほど時間が経ったのかわからない。

荷車は時折止まり、誰かの声が遠くで交わされる。

やがて、空気が変わった。草の匂い、そして、焚き火の煙。

麻布の外から、重い声が響く。


「ここに依頼の品がある。王女と侍女だ。」


「侍女? 侍女など依頼にはなかったはずだが。」


「気づかれないようにするのに連れてくるしかなかった。このまま持ってけ。」


「……それなら追加料金をやる。その荷台に侍女を乗せたまま、我々と逆方向に行け。

しばらく進んだら荷台は捨てていい。女も――好きにしろ。」


「ああ? こっちは早く金を貰ってとんずらしたいんだ。」


「ったく、これだけやる。どうだ?」


「ちっ、仕方ねぇ。いいか、少し進むだけだぞ。こっちも危ない橋を渡ってるんだ。」


「よし。……じゃあ、王女を見せろ。」


麻布が剥がれた。アメリアは必死に目を瞑った。


「そっちが王女だ。髪色を見たらわかるだろう?」


ざらりとした手が頬を這った。ぞっとする悪寒が体を走る。


「間違いないな。よし、そっちの馬車へ乗せろ。」


再び男に担がれ、今度は馬車の荷台へと放り込まれた。

その瞬間、鈍い衝撃が身体を打つ。


(どこへ……連れていく気なの……?)


馬車の中には、確かに自分以外の“誰か”の気配がした。

微かな呼吸の音。衣擦れの音。

誰なのか、確認することもできない。


ただ、暗闇の向こうで、何かがゆっくりと身じろぎした。


そして――車輪が軋みを上げて動き出す。

闇の中で、アメリアは祈るように目を閉じた。


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