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【第二章】侍女が王女に転生?!英雄と結婚して破滅の国を救います!  作者: カナタカエデ
第二章

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四話 長閑な朝


朝日が昇り、アメリアの私室に朝食が運ばれてきた。

食が細いアメリアのために用意されるものは、いつも決まっている。


小麦のロールパンひとつに、ポーチドエッグ。

温かなスープ(今日は野菜たっぷりのトマトスープ)、そしてミルク。


配膳する女性を見た瞬間、アメリアは心臓がどくんと鳴るのを感じた。

――昨日の夜、ふと思い浮かべていた侍女・シーリーンだったのだ。


アメリアなら、どんなふうに声をかけるだろう?

そう考えても、言葉がまるで出てこない。


アメリア王女とカリナは姉妹のように親しかったが、王女は他の侍女に関しては興味を示さなかった。

それは冷たいからではなく、幼い頃から仕えるカリナと侍女頭のローラがいれば、何も困らなかったからだ。

だがそのせいで、カリナは他の侍女たちから少し距離を置かれていた。

唯一、シーリーンだけが普通に話してくれた――そんな記憶が蘇る。


「こっ、この……」


「はい?」


どうにか声を出すと、シーリーンは驚いたように首を傾げた。


「このスープ、美味しいわ。何が入っているのかしら?」


「ええと……今日はトマトコンソメで煮込んだスープです。アメリア様のお好きな香菜をたっぷり入れたと、料理長が申しておりました。」


「そう……あなたはシーリーンだったわね。」


「はい。」


「今日はローラが祝宴の準備で厨房につきっきりと聞いたわ。代わりにあなたが、私の手助けをしてくれないかしら?」


「えっ、わ、私がですか?! はいっ、光栄でございます!」


「良かったわ。婚約の儀では花をたくさん飾りたいと思っているの。

私の庭園から、一番素敵な花を選びたいの。」


「まあ……アメリア様の庭園は国一番ですから、選び放題でございます!お食事が終わりましたらお供いたします!」


シーリーンの声が弾み、部屋に明るさが戻った。



朝食を終えると、ふたりはアメリアの所有する庭園へと向かった。

入口には、深紅のダリアが咲き誇っている。


朝の光が降り注ぎ、露をまとった花々がきらめく。

門をくぐると甘い香りが漂い、シーリーンは思わず深呼吸をした。


「わあ……やっぱり、ここはいつ来ても見事ですね!

アメリア様のお庭が一番だって、みんなが言う理由がわかります!」


「ありがとう。季節ごとに花を入れ替えているのよ。

でも、これほど見事に咲かせてくれているのは庭師たちのおかげだわ。」


その時、近くの植え込みから若い庭師が顔を出した。

褐色の髪を後ろで束ねた青年――ワトソンだ。


「アメリア様、おはようございます。お足元にお気をつけください。」


「まあ、ワトソン。朝早くから働いているのね。」


「はいっ。花の手入れは朝が一番でして。露を吸う花の顔が、一番きれいなんです。こちらの花を見てください。これは――」


その真面目な口調に、シーリーンが小さく吹き出した。


「また始まった。ワトソン、アメリア様はあなたの花講義を聞きにいらしたんじゃないのよ!」


「花講義だなんて……! アメリア様に一番素敵な花を選んでいただきたくて……」


顔を真っ赤にして慌てる彼を見て、アメリアは思わず笑みをこぼした。


「ふふ……花に真剣な人、私は好きよ。ありがとう。」


「えっ、アメリア様! そんなこと言ったら、また調子に乗りますよ!」


シーリーンが頬を膨らませると、ワトソンはさらに困ったように俯いた。


「の、乗りません! その……ありがとうございます!」


「ふふ……二人は仲が良いのね。」


アメリアの言葉に、シーリーンが慌てて手を振った。


「そ、そんな!ワトソンなんて弟みたいなものです!ね?」


「えっ?あ、はい。弟……です。シーリーンより年上ですが…」


ぎこちない二人を見て、アメリアは心の中でそっと微笑んだ。

――この二人、こんな風に言い合ってるのに、将来結婚するなんて世の中どうなるかわからないものよね。

でも案外お似合いだわ。


「さあ、花を選びましょう。婚約の儀を彩るには、どの色がいいと思う?」


「やっぱり赤でしょう!」とシーリーン。

「白も良いかと……落ち着いて見えます」とワトソン。


ふたりの意見が真っ向から割れ、アメリアは思わず笑い声を上げた。

明るい朝の光が、三人の頭上に降り注いでいた。



***


花を選び終え、庭園から戻る途中、見覚えのある女性が駆けてきた。


「あの、アメリア様!」


「あら、テティじゃない? ついこの間まで毎日一緒だったのに、なんだか久しぶりね。」


ノルディアまで共に旅した侍女・テティが、気まずそうにお辞儀をした。

王都に戻ってすぐ、彼女は本来の主人である義姉マリアのもとへ戻ったのだ。


「あの……ご相談したいことがありまして……」


「まあ、なにかしら?」


テティはシーリーンを一瞥すると、そっと綺麗な封筒を差し出した。


「こちらを……

では、よろしくお願いいたします!」


深々と頭を下げると、小走りで去っていった。


「アメリア様。差し出がましいようですが、侍女からの手紙など……お受け取りにならぬ方がよろしいかと。」


シーリーンの忠告はもっともだった。

いくらノルディアで共に過ごしたとはいえ、侍女が王女に手紙を出すなど、ありえないことだ。


だが、元が侍女である自分には――それを無視して捨てるなど、できるはずもなかった。


「そうね……でも、一応中を確認してみるわ。」


「……かしこまりました。何かありましたら、すぐお知らせください。」


もしローラがそばにいたら、この手紙はアメリアの手に渡ることもなかっただろう。

だが今、彼女の手の中にそれはある。



部屋に戻った後、封を切り手紙を開いたアメリアは、首を傾げた。


――そこにはこう書かれていた。


「リンクのことでご相談したい。

毎夜、マリア様の庭園でお待ちしています。

少しの時間でも、どうかお越しください。」


リンク・メルディ――それはノルディアで、テティが恋をした青年の名だった。

帰りの馬車の中で、彼はノルディアに残り、ふたりの関係は友人止まりだと話していたはず。


――けれど、いったい何があったのだろうか。



不思議に思いつつも、アメリアはこの後の予定を頭に浮かべた。

22時ごろならこっそり抜け出せそうだ。その時間でもテティはいるだろうか。


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