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【第二章】侍女が王女に転生?!英雄と結婚して破滅の国を救います!  作者: カナタカエデ
第二章

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三十六話 届かない愛

「ねえ、テティ。

私にはわからないの。子どもの頃から一緒に育って、ずっとマリアに仕えてきたあなたが、どうして彼女を裏切るような真似ができるのか」


「ふふっ……」


小さく笑うと、テティは呆れたようにアメリアを見た。


「それは、あなたが愛される側だから、そんなことが言えるんです。

私は……マリア様がずっと疎ましかった。

私の母なのに、いつもマリア様が優先されていたから」


テティは、遠い記憶をなぞるように言葉を続ける。


「一緒に遊んでいて転ぶと、母は真っ先に走ってきてマリア様を抱きしめるんです。

そして、怪我はないか確かめる。

その様子を見上げる私には、こう言うんです。

『テティ、大丈夫。あなたは自分で立ち上がれるわ』って……」


一瞬、言葉が詰まる。


「……そのたびに私は、痛みと涙を抑えて立ち上がって、笑うんです。

そうすれば、母が『あなたは凄いわ』って声をかけてくれるから」


一度言葉を切り、テティは視線を伏せた。


「マリア様は実のお母様から愛情をもらえないから、それは私たちが分け与えなければならない、と母はいつも言っていました。

でも……私は?

戦場で死んだ父と、他の子を優先する母。

マリア様のお母様は生きているし、お父様はすべての愛情を注いでいるのに……そう、幼い頃から思っていました」


テティは部屋を見渡し、置かれていた椅子に腰を下ろす。


「だけど、マリア様と一緒にいると……フィリップ様に会えたんです。

幼い頃のフィリップ様は、本当に愛らしかった」


どこか懐かしむように、続ける。


「公爵邸を訪れる時、マリア様はお母様が怖いからと、私の手を離しませんでした。

だから、いつもお二人が遊ぶ時は、私も一緒だったんです」


歪んだ微笑が浮かぶ。


「小さい頃からあまりお喋りじゃないあの方の代わりに、いつも私が話していて……

フィリップ様が笑顔を向けてくださるたび、胸が跳ねたのを覚えています」


部屋の中にゆっくりと煙が入り込み、焦げた匂いと薬品の匂いが立ちこめる。

それでもテティは、淀みなく話し続けた。

まるで、ずっと誰かに聞いてほしかったかのように。


「ある時ね、フィリップ様があなたの話をしました。

王女アメリア……婚約者候補ではあったけれど、それほど彼の興味を引いていたわけじゃなかった。

でも、ヴァルク・ストーンが領地を得て伯爵位を賜ると、あなたが会ってくれなくなった、と」


「どこの誰かもわからない人間が領地や爵位を持つことも、ましてや王族を妻にすることも、許されるはずがない――」


「あんなに怒った彼を、私は初めて見ました」


テティは細く息を吸う。


「あの人の怒りの原因を取り除きたかった……

そして、私を愛して欲しかった。」


一拍置き、続ける。


「だから、マリア様とともに王宮へ行ってから、ずっとその機会をうかがっていました」


それが、どんなに愚かな行為かわかっていても――

彼女の顔は、そう言いたげだった。


「テティは、馬鹿よ……」


アメリアは静かに言った。


「あなたの母上がマリアを大切に育てたのは、仕事だったから。

でも、一番は娘のあなただったはずよ。

あなたを育てるために、マリアを育てたんだから」


そして、はっきりと告げる。


「それに……マリアがどれほどあなたを大切にしているか、あなたはわかっていない。

彼女はきっと、何かがおかしいと気づいていたはずよ。

だから誘拐事件の時も、必死であなたを庇い続けた」


「どうして……その愛に気づけないの?」


テティは顔色ひとつ変えず、アメリアを見つめ返した。

その瞳には、かつての愛らしさも明るさも、もう残っていなかった。


煙が目に染み、テティの顔が霞んでいく。

アメリアは扉から離れ、煙を吸わないよう身を低くする。

命の危機が迫っているのを感じた。


「ほらっあなたも屈んで!このままじゃ危ないわ!」


無理矢理椅子から立たせた後に同じように床に伏せるように屈ませた。


「こんなことをしても無駄ですよ……

まさか、アメリア様と一緒に死ぬことになるとは思いませんでしたけど」


「あなたを失ったヴァルク様を見て、フィリップ様の自尊心も、少しは和らぐでしょうか」


「あのねぇ! 勝手に殺さないでよ!

私は……まだ死ねないんだから……!」


「……アメリア様って、本当に王女らしくないですよね」


(う、状況が状況だから、つい自が出過ぎたわ……)


「……だから、憎めないんですよね」


静かにそう言うテティに、アメリアは「私も」とは言わなかった。

境遇は違っても、侍女として主人と共に幼少期を過ごした点は、少し似ている。

そして――考えたくはないが、彼女の「羨ましい」という気持ちが、今ならわかってしまう。


その時、地響きのような音が轟いた。

同時に部屋が大きく揺れる。


「なっなに?!」


壁が叩きつけられるような音とともに亀裂が走り、小さな穴が開いた。


「アメリア!!」


その声を聞いた瞬間、アメリアは心から安堵した。


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