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【第二章】侍女が王女に転生?!英雄と結婚して破滅の国を救います!  作者: カナタカエデ
第二章

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二十九話 長閑な地の影

その日、夕食が終わると同時に、氷狼騎士団は狼討伐へと出発した。

アメリアはシンシアたちの無事を祈りつつも、翌日ヴァルクと過ごせるという思いが胸を占め、なかなか眠りにつけなかった。


翌朝、身支度を整えて部屋を出ると、そこにはすでにヴァルクが待っていた。

ただそれだけで、“ここまで来た甲斐があった”とすら思えてしまう。


「アメリア、男爵に許可を取ったから遠乗りに行かないか?領地を見て回らせてもらおう」


「まあ……よろしいのですか?!」


同じ国の領主同士でも土地の争奪は常に水面下で行われている。

王の目もあるため表立った戦は起きないが、緊張は絶えない。

ここが公爵領でありながら、もとは男爵が代々治めてきた土地だからこそ、このような許可が出たのだろう。


急いで乗馬服に着替えると、シーリーンが用意してくれた軽食と飲み物を携え、美しい草原へと馬を走らせることになった。


この二年、アメリアは乗馬の練習を欠かさなかった。

今では“本物のアメリア王女”と遜色なく競技に参加できるほどの腕前になっている。

ヴァルクは自身の愛馬に、アメリアは男爵家の馬を借りていた。


草原を颯爽と走り、男爵邸を見下ろせる丘の上に到着すると、ヴァルクが振り返り声を掛けた。


「大丈夫か?」


アメリアの馬はヴァルクの馬ほど脚が速くない。

そのため彼は、時折こちらを気にしながら速度を調整してくれていた。


「はい! この子はずいぶんとゆっくり走るようでして……」


「穏やかな良い馬だよ。ユーリにも、今日はゆっくり走らせよう」


「ユーリ?」


「こいつの名だ」


そう言って、ヴァルクは黒鹿毛の馬の首筋を愛おしげに撫でた。


「初めて聞きました!」


「そうだったか? ――ノルディアへ来るとき、自分の馬を連れてくるのか?」


「馬……」


たしかに王宮にはアメリア専用の馬がいた。だが――。


「どうでしょう……もう年老いていますのでノルディアの気候に適応できるかどうか……」


「そうか。それなら新しい馬を贈ろう。何か希望はあるか?」


「希望ですか? 詳しくないので、お任せいたします」


「わかった。お前にぴったりの馬を探しておこう」


ヴァルクの声は柔らかく、どこか嬉しそうだった。

その響きが胸に広がり、アメリアは思わず頬を染めた。


丘から風を切るように駆け降りると、そこには牧草地帯が広がっていた。

牛や羊が放牧されている中に、赤い屋根の厩舎や倉庫がところどころにあり、白い煙をあげている。


「美しいですね。なんて長閑な場所なんでしょう。」


「ああ、本当だな。」


「ノルディアにもいますよね?」


「牛がか?そうだな、牛も羊も寒さには強いからいるにはいるが、こんな広い放牧地がないからな。それに飼料の問題もある。この土地のようにはいかないよ。」


「…でも、道が繋がったらきっと餌の問題は解決できると思います!

領地内で食料がしっかり確保できれば領民も増えますし、楽しみですね。」


生き生きと語るアメリアを見て、ヴァルクはふっと笑った。


「そんなにノルディアに来るのが楽しみなのか?」


「はいっ、もちろんです」


その答えに、ヴァルクの目元が柔らかくほころぶ。


ノルディアに行けば身の安全は確約される。

アメリアが死なないことは、この国の未来を大きく左右するはずだ。

アメリアとヴァルク、そして国王と二人の王子――。


この四人を失わない限り、王国は存続できる。


前世で国が滅びた日はまだ遠い。

けれど、ヴァルクと結婚しノルディアに行くことは――

まるで運命が大きく動き出す“転換点”のように思えてならなかった。



***


しばらく森に沿って馬を走らせると、急にヴァルクが手綱を引きユーリを止まらせた。

アメリアもそれに倣うようにヴァルクの隣に留まる。


「どうされました?」


「あれを」


ヴァルクが指を刺した先には、森林を大きく伐採された跡。

美しい木々が無造作に切り倒され、さらには燃え跡も確認できた。それもかなり長い距離が意味もなく、何者かの企みを感じさせられた。


「これは…一体どういうことでしょうか」


「男爵は詳しく話されなかったが、森林が伐採され森の生き物達の生態変化が起きているらしい。

開拓で森林を伐採することはよくあるが、ここまで無意味なやり方ははじめてみたな」


「それで狼が家畜を襲いに来ているのですね」


「森の動物に人間が手を下すのは、難しいことだ。狼のよう森の頂点に位置する動物は厄介だが、減らしすぎるのもまた森の生態系を崩してしまう。」


「だから、ジオに協力を依頼したのですね」


「しばらく数を減らしておくしかないのだが、森がこの状況では草食動物達も別の場所に移動せざる得ない状況だな」


「誰がこんなことをしたのでしょう」


「こんなことをできるのは領主の指示を得ている者だけだ。

でなければ男爵からの討伐依頼は”狼”のではなく”人間”になっていたはずだからな」


「ですが…モリス公爵がそのようなことを許すでしょうか。」


「フィリップ殿か…モリス公爵にどうにかして会うべきだが…」


ヴァルクが言いたいことが手に取るようにわかった。

モリス公爵はここ数年王都に訪れていないどころか公式な場にまったく姿を現していない。

フィリップは命に関わるものではないと言ったが真実かどうかも危うい。

モリス家の闇は想像よりもずっと深いのかもしれない。


「こんなことをなぜ自分の領地で…」


「彼にとってはこの地はいらないものなんだろう」


「え?」


「ただおびき寄せるために利用したのかもしれない」


ヴァルクの声が一層低く落ちた。

日差しがてっぺんに上りジリジリと肌を焼くのに、背筋は凍るように涼しくなっていった。





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