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【第二章】侍女が王女に転生?!英雄と結婚して破滅の国を救います!  作者: カナタカエデ
第二章

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二十四話 乱れ

抱きしめられた背中にじわりと汗がにじむのを感じ、アメリアはそっとヴァルクの腕から身を離した。


「そ、そろそろ……シンシアたちのところに行きますか?」


逃れようとするアメリアを、ヴァルクはもう一度強く抱き寄せた。首元に顔を埋め、低い声で囁く。


「我慢しなくていいと言っただろう」


「い、言いましたけど……」


息が触れるほどの距離。

心臓の音が聞こえてしまいそうで、不安になるほど近い。


横目でそっとヴァルクを見ると、わずか十センチもない距離で視線が絡む。

灰色の瞳に吸い込まれそうだと思った瞬間――狼のように素早く唇を奪われた。


ソファに倒れこむように横たえると、ゆっくりと唇が離れ、熱を帯びた視線が重なる。

二年ぶりのキスは、互いの空白を埋めるように切なさだけが募っていった。


誰も言葉を発さないまま、ヴァルクがさらに近づく。

アメリアは応えるように彼の首へそっと腕を回した。


――どれほど時間が過ぎただろう。


無我夢中でキスに応えていたのに、ふと冷静な思考が戻りはじめた時、ヴァルクが突然アメリアの腕から身を離した。


「そういえば、お前……なんでそんな格好をしてるんだ?」


瞬きをしてヴァルクを見つめ、それから自分の服を見下ろす。

白いドレスは胸元が大きく開き、細い肩紐が背中でクロスし、露出も多い。


「それは……暑いですので」


本当は――二年の空白が、どれほど自分を美しくしたか見せつけたかった。

だが口が裂けても言えず、もっともらしい嘘をつくと、ヴァルクは眉間に皺を寄せた。


「確かに暑いが、こんな姿は皆の目を奪うからやめてくれ。なんでもいいから着替えてくれ」


アメリアを組み敷いたままの真剣な声。

アメリアはヴァルクの頬を両手で掴み、身体を起こすと噛みつくようにキスを落とした。



***



アメリアとヴァルクがジオの部屋を訪れたのは、それから一時間以上あとだった。


アメリアは麻の緑のロングドレスに着替えていた。胸元は詰まっているが、肘までの袖が風に揺れ、火照った肌をひんやり冷ましてくれる。


「シンシア」


声をかけると、大きなテーブルで地図を広げていた三人が顔を上げた。


「仲直りしたのか?」


シンシアの問いに、アメリアはぎこちない笑みで返す。

隣ではヴァルクが黙ってガルドの側に立ち、いつも通りの表情で話し始めていた。


「あれ?着替えたのか?」


「え、ええ……その、ちょっと涼しくなってきたから」


曖昧な返答に、シンシアが不思議そうに首をかしげる。


「アメリア様」


「――あら、シーリーン。どうしてここに?」


「私が呼んだんだ!飲み物を用意してもらいたくてな。」


「そう、ありがとう」


シーリーンは会釈すると、アメリアの耳元でそっと囁いた。


「お髪とお化粧がかなり乱れております。奥でお直ししましょう」


「えっ……!」


アメリアの顔が一気に熱くなる。

しかしシーリーンは表情ひとつ変えず返事を待っている。


「わ、わかったわ。シンシア、少しお手洗いに行ってくるわ。またあとで話を聞かせてね」


部屋を出ると、アメリアは慌てて小声で尋ねた。


「そ、そんなにひどかったかしら? 鏡は見たつもりなのだけど……」


「……どうぞ」


手鏡を受け取り覗きこむと、アメリアは息を飲んだ。

口紅はほとんど落ち、丁寧に整えた髪もところどころ絡まっている。


(……こ、これは酷い……!)


姿見では服だけ確認し、顔まわりを完全に忘れていた自分を思い出す。

頬がさらに赤く染まった。


「……その、暑くて落ちちゃったのかしら……」


「承知しました。こちらでお直しいたします。どうぞお座りください」


淡々としながらも、事情を察したような気配。

別室で髪を整えてもらい、淡い桃色の口紅を引かれ、剥げていた白粉をキレイに補われる。


出来上がりを確認すると、シーリーンはやわらかく微笑んだ。


「アメリア様とヴァルク様は、とてもお似合いです」


シーリーンはこの二年、ずっと傍で仕えてきた。

前世での彼女の人柄を知っている分、アメリアにとっては数少ない“心配のいらない相手”だった。

誰が裏切るかわからない状況の中では、彼女を側に置く心配よりも安心の方が遥かに大きかった。


シーリーンと共にジオの部屋へ戻ると、ジオの苛立った声が響いた。


「なんで俺がそんなとこに行かないといけないんだよ!」


「だから、何度も説明しただろう?

モリス侯爵領のこの地域が、最近狼の被害で困っている。諸々理由があって、俺たちが駆除を担当することになったんだ。出来れば最小限にしたいから、お前らの力を借りたいって――」


「野生の狼と一緒にするな!」


「だけど狼を従わせることなら出来るだろ?山の狼も数が減ってるし、他の地域の狼を仲間に加えたっていいんじゃないか――」


ガルドとジオの押し問答に、シンシアが助け舟を出す。

次の任務でジオの力が必要らしい。


「協力できないなら仕方ない。

悪いがシンシアは連れて行く…またアメリアの警護を頼む」


黙って聞いていたヴァルクがそう言い、戻ってきたアメリアの前に立つと困ったように笑った。


「すまない。また任務で行かなくてはならない。ジオは置いていくから心配しないでくれ」


「ちょっ、ちょっと待て!!」


ジオが慌ててアメリアとヴァルクの間に割って入る。


「シンシアを連れて行く?その任務はガルドとシンシアで行くのか?!」


「シンシアの部隊から何名か合流する。だが中心になるのはガルドの第三部隊だ」


「そうじゃなくて――お前は?!行くつもりなのか?」


「……ああ、公爵領には気になることもあるからな」


沈むジオの横顔を見て、アメリアはふと思いついた。


「私も行きたいです!

モリス公爵領なら、ダリオンお兄様もよく訪れているので安全ですよね?」


「そ、それなら俺も行く!!」


アメリアに被せるように、ジオが勢いよく身を乗り出す。

ヴァルクは眉を寄せると大きく溜息を吐いた。

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