十一話 涙の再会
翌日、ヴァルクの愛馬で王都まで走ることになった。
途中に何度か休憩を挟みながらも、陽が沈む前には城門が見えてくる。
城門をくぐり、城へと戻ると――真っ先に駆け寄ってきた人を見て、アメリアの身体から力が抜けた。
いつも身なりの整った侍女頭ローラが、息を切らし、化粧もせずに立っていた。
「アメリアさまぁぁぁあ!」
いつも冷静沈着な彼女とは思えない声だった。
驚いて馬から飛び降りようとするアメリアを、咄嗟にヴァルクが制し、先に降りてから彼女を抱き下ろした。
「ローラ……ごめんなさい。心配をかけてしまって」
「ああ、こんなに……怪我をされて……!」
ローラはアメリアの手を取り、荒れた指先を見つめる。
森で擦り傷を負った肌に、ぽたりと涙が落ちた。
「ご無事で……本当に、よかった……」
その涙の温かさが、冷えた身体に沁みていく。
母を幼くして亡くしたアメリアにとって、ローラはずっと母のような存在で、友人のように仕えていたカリナとは違い、時には厳しくも深い愛情を与え続けた人だった。
しばし抱き合い、ようやく落ち着きを取り戻した頃、後ろから低い声が響いた。
「アメリア、私は王のもとへ行く。……終わったら、宮へ寄ってもいいか?」
振り返ると、ヴァルクが馬の手綱を引いて立っていた。
無骨な顔立ちの奥に、わずかな気遣いが見える。
「もちろんよ。私も一緒に――」
「いや、大丈夫だ。」
短くそう言うと、ヴァルクは背を向け、城の奥へと歩いていった。
その背を見送るうちに、アメリアの胸に朝の光景がよみがえる。
――陽の光に照らされて目を覚ましたとき、右手が誰かに包まれていた。
大きく、あたたかい手。その主は、椅子にもたれたまま静かに眠っていた。
(……寝てしまったのね、あのまま)
そっと体を起こし、左手で彼の頬に触れる。
ヴァルクの瞼がわずかに動き、やがてその瞳が開いた。
驚いたような表情のあと、気まずそうに視線をそらす。
「こんなところで、よく眠れましたね?」
冗談めかして言うと、彼は眉を下げて苦笑した。
「俺も……安心してしまったらしい。」
(うう……かっこいい……!)
思い出した途端、顔が熱くなる。
ヴァルクの言葉遣いは、もう以前のように他人行儀ではない。
ガルドや仲間たちと話すときのような自然な声――それが、今はアメリアに向けられている。
昨日は大変な一日だったが、ヴァルクのおかげで気分がいい。
晴れやかな心で自室に戻ると、神妙な面持ちのシーリーンが待っていた。
「大変申し訳ございませんでした!
アメリア様をこんな目に遭わせてしまい、どんな処分も覚悟の上でございます!!」
深々と頭を下げるシーリーンを見て、アメリアは驚き、隣のローラへ視線をやった。
「シーリーンは、アメリア様が部屋を抜け出されたのはマリア様の侍女からの手紙を読まれたからだと申しておりました。
そして、その手紙が渡ったとき目の前で見ていたのに、私に報告してなかった。きちんと対応していればこんなことにはならなかったと。」
「そんな……テティの手紙を受け取ったのは私の判断よ。あなたが気にすることはないわ。」
「ですが……!せめてアメリア様がマリア様の庭園へ向かわれたとき、お止めすべきでした。本当に申し訳ございません!」
「……私が部屋を出たとき、見ていたの?」
「はい。その、侍女の様子もおかしかったので気になって……
せめて後をつけるべきでしたが、ためらってしまい、探しに行くのが遅れました。すぐにでも追っていれば……」
「シーリーン、もうやめましょう?
あなたが私を探してくれたおかげで、すぐにいなくなったことがわかったのでしょう?」
「それは……」
「そうですね、シーリーンから報告を受けて城の警備がすぐに捜索を始めましたが、見つからず。
残っていた氷狼騎士団に伝えたところ、すぐに動いてくださいました。」
ローラが静かに補足する。
アメリアは頷き、もう一度シーリーンを見た。
「あなたの気持ちは嬉しいけれど、私に責める気はないわ。
それよりも、あなたのおかげで無事に帰ってこられたのだから――お礼を言いたいくらい。」
柔らかく笑むと、シーリーンの瞳が揺れた。
優秀な侍女と騎士団のおかげで、たった一日であの男から逃れることができたのだ。
一体、誰を責めるというのだろう。
「なんだか、アメリア様もずいぶん大人になられてしまわれましたね。」
シーリーンの肩を撫で、労っているアメリアを見て、ローラがそう呟く。
アメリアは照れくさそうに苦笑した。
「そういえば、テティはどうしてる?
先に助けられて城に戻っていると聞いたけど……」
テティの名に、ローラはわずかに表情を曇らせた。
そして、大きく息を吐くと、この数時間で起きた出来事を静かに語りはじめた。




