StoryCode:“shitunin”#1 『そこに居て、ずっと居て』
姉は独りになりたいのか、なりたくないのか。これではまだ分かりませんね。
StoryCode:“shitunin”#1 『そこに居て、ずっと居て』
「お姉ちゃん?」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
「この前さ、学校で体力テストがあったって話したじゃん?覚えてる?⋯⋯⋯⋯⋯んでさ、俺⋯なんと!1位をとったんだ!ねえ、その記録用紙気になるでしょ?」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
「お姉ちゃんに、見てもらいたいなぁ⋯って思って、今日持ってきたんだ。俺的には別にどうでもいいんだけどさ。ほら、お姉ちゃん、俺の運動能力凄い褒めてくれてたじゃん?⋯⋯⋯⋯⋯だからさ⋯」
「⋯⋯⋯⋯よかったね」
「⋯⋯⋯」
姉の居室に寄りかかる俺。居室からは姉の囁くような小さい小さい声が聞こえてきた。恐らく、雑音が入り混じっていたら聞こえないレベルの音量。
「うん、ありがとう」
俺も壁に背を掛ける。お姉ちゃんの声はかなり低めのボリュームだったので、可能性としては扉の近くに居ると俺は勝手に思った。
弟と姉。扉をサンドウィッチしているシチュエーションだ。
「⋯⋯ほんとに、1位になったんだよ!ただの1位じゃないよ。“総合”だよ!総合!これって凄くない?!」
元気に問い掛ける。取り敢えず、姉の声が聞きたかったから、こっちが無理にでも近づく必要性があると考えた。姉には少々、見苦しい姿を晒してしまうが⋯。とにかく、『良かったね』以外の文言を引き出すためだ。なんでもいい。罵倒でもいいから。
声をいっぱい聞かせて欲しい。
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
返って来ない。さっきは、あんな簡単に引き出せたのに⋯。
「⋯⋯あ!記録の紙!記録の紙、、見る?」
「⋯⋯⋯⋯」
「ここに置いとくからさ。⋯⋯よかっ、、たら⋯⋯みて、、ほしい、、な⋯⋯」
俺は姉の居室前に置こうと思ったが、扉と床の間に差し込むことにした。半分だけ。後の半分は、俺が今いる廊下に露出している形だ。
俺はその間。唯一、姉とのコンタクトが取れそうで絶対に取れない暗闇の隙間に記録用紙を差し込む。その場を後にしようとした次の瞬間、記録用紙が居室へ吸い込まれるように入っていった。
俺はその音を聞き逃すまい⋯と居室の扉前へ戻る。
「お姉ちゃん?どう??見てくれてる??」
「⋯⋯⋯すごい。⋯⋯⋯ほんと凄いね」
か細い声。それでいい。そんなんでいいんだよ。少しずつ、少しずつ、声を出していこう。焦らずゆっくりにね。透き通るような声の中には、“勇気”が入り混じっているような気がした。
「⋯⋯⋯入る?」
「え、、、」
「⋯⋯入って」
居室の扉が開く。そこには、姉の姿があった。
当たり前の事なのに、感動が止まらない。涙が出てくる。
1ヶ月ぶりに俺は、お姉ちゃんの顔を見た。




