StoryCode:“utsuroi”#1『フレックスタイムの王子』
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いつもと同じ。それは『日常』という言葉で片付けられる。
私は、そんな日常を繰り返すOL。
『日常を繰り返す』⋯それこそが日常だ。
家から歩いて、10分弱が経ったところで最寄りの駅に着く。駅に到着して、改札をピッとして、ホームへ行く。私にとってこれは日常。私以外のここにいる何人もの人間がこれを『日常』と捉えている。
「はぁ⋯⋯」
小さく吐息。これも私の日常の一部。ホームに流れるアナウンスで、列車接近のサインが下る。もう少しで私が乗る電車がやってくる。早く来て欲しいのか⋯もうちょっと待って欲しいのか⋯結局、会社には行かねばならない。じゃあさっさと行けばいい。
だとするなら、これは前者になるな。いや、でも、勝手に着く⋯ということを考えるなら、別に後者でもいいのかも。そんな正解不正解無き、自問自答を脳内で未完結のまま、記憶のゴミ捨て場へ。
もう二度と拾い上げる事は無いな。
「ドアが閉まります。ご注意ください」
自問自答していたら、私は電車の中に入っていた。無意識的な行動に少し怖くなる。
『この電車に乗らなきゃ』という使命感が常日頃あったせいで、今では考える事すらも放棄し、朝が終えていく。考えを外界に向けることは無くなった。
私の最寄り駅に着く電車。この時間帯は、比較的乗車率が低いので簡単に席をゲットする事が可能。通勤ラッシュに見舞われる事は滅多に無い。ていうか、無い。
それはとてもとっても嬉しい。朝から汗まみれのジジイにギューギューと押し付けられるのは最悪だ。本当は『ちかんです!』って言いたいけど恥ずかしくて言えなさそう⋯。私、おっぱい大きいから⋯。
席に座るなり、私はいつもの所定位置へ着く。端っこの席だ。開閉扉の真隣。開閉扉から電車に入って真っ先に目につくのはいつもの位置。視線を真正面へ向けても、まだ誰も居ない。そう、次の駅までは⋯。
次の駅に着くと、私の最寄り駅よりも多くの人間がこの車両に集まる。かといって、この車両がパンパンになるぐらいかぁ⋯と言われればそうでも無い。通勤ラッシュに見舞われるのは、もっと前のダイヤ。
フレックス出勤って最高だよね。マジ神だわ。
⋯あ、つい昔のくせが出てしまった。モノローグだとしても、もう過去と向き合いたくは無い⋯⋯なるべく。
「あ⋯⋯⋯」
私は小さくそう呟いてしまう。
まただ。また同じ人。この駅に着くまでは、真正面の席に人は居なかったが、この駅ではその席が埋まる。
必ず、埋まる。
このお兄さん、毎回見るんだよなぁ⋯。ビジネススーツでビシッと決めて、髪も七三分け。それに座着している時の、身なりも完璧。背もたれにかけず、背中ビッシーーって、直角なんじゃない??っと思ってしまう程のものだ。
良い人なんだろうなぁ⋯。
かっこいいなぁ⋯。あんな人と付き合いたいなぁ⋯。
もちろん、凝視なんて出来るはずも無く⋯チラッと⋯チラッと⋯私は真正面にいる男性に意識を向ける。
すると、、、、、
え、、、
あ、、ああああああああ、、、
彼と目が合ってしまった!!?
これ、目ェ合ってるよね!!?合ってしまったよね!?一瞬で合った瞬間に逸らしちゃったけど⋯⋯!!ドキドキした⋯⋯!!
ああ⋯あの人を真正面で見て⋯実に50回目の今日。
私は初めて、真正面の男性と目が合った。
んゲェ!!!!キモすぎ!ワタシいイイ!!




