StoryCode:“suimu”#1『ディザスタープロテクト』
高架下のホームレス
StoryCode:“suimu”#1『ディザスタープロテクト』
眩しい人間。誇らしく歩く人間。汗を拭う人間。お喋りな人間。立ち止まって誰かを待つ人間⋯。
どれもこれも、俺には遠い存在のようで近しい存在だ。この高架下。今まで何度も高架下の工事を見てきた。壁の張り替え、補強作業、現場の人間には呆れられている。
「まだ、あんたいるのかよ」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯すみません」
「もうさ、とっととどっか行ってくれないか?邪魔なんだよ、じゃーーま!」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
「はぁ⋯⋯マジでさぁ⋯」
申し訳ないとは思っている。ただここから動くつもりは毛頭ない。だって他の行くところが無いから。ここが一番ちょうどいい暮らしが出来るから。なんてったって、荒天から身を守れるんだ。家の無い人間にとってこれ以上の嬉しみは無い。やっと見つけた俺の場所。ちょっとでもここを空白にしてみろ。直ぐだぞ。直ぐに、別の“俺に似た存在”がやってきた奪われてしまう。
ここを離れられない。たまに⋯極たまに、『チャリン』との音が聞こえる。俺の居場所の目の前に置いた、ワンカップ酒グラスの中に硬貨が入れられる音だ。
若者が多い。若者は乞食をしている人間に優しい。
何故か、優しい。だがその“何故か”という疑問は直ぐに、明瞭なものとなる。高架下を入って死角のような所から、笑い声が聞こえる。俺がワンカップ酒グラスを手に取ると、若者の笑い声は更に高くなる。高架下なので、それは良く響いた。
車も行き交うのに、若者の笑い声は俺の聴覚へ、ダイレクトに刺激を与えていく。いいものとは言えなかった。
馬鹿にするような笑い声。薄ら笑い。
人を、人じゃないと決めつけているような、寒々とした笑い声。
俺の今までの苦労も知らないクセに⋯良くもまぁそんな声音を向けれるな⋯。
だが、硬貨は本当に入っている。
「100円⋯⋯⋯」
笑い声の聞こえる死角の方を見ると、携帯を向けているではないか。そうか、俺のリアクションをSNSに上げるんだな。そうか⋯⋯俺のリアクションが面白いのか⋯そうか、硬貨をあげていく度に俺のリアクションが高くなっていくことを快感として認識しているのか⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯。
殺したくなる。
言葉では簡単に刃物を向ける事が出来るのに、実行に移すのは難しい。殺人って、なんなんだろうな。
どういった神経で、殺人者って誕生しているんだろうか。
こういった状況に陥ると、殺意を容易に芽生えさせる人っていうのは普通に、もう、行動している⋯⋯のかな。
『うぜぇ』ってなって殺すのかな。
今、俺が死角にいる⋯ぶっとい上の高架道路を支える柱のところにいる若者を一人残らず殺せたら⋯。
そんな勇気があれば。




