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水海村ダンジョン③泥は嫌です

「二階層、とうちゃーく。一番乗り、いぇーい」


 一足先に氷織が二階層に踏み込む。護衛として先頭を歩き、脅威を排除するためだ。おちゃらけているが、ちゃんと仕事をしている。


「二階層も洞窟タイプのダンジョンなのは情報通りか。一階層と見た目の大きな違いは、なしか」

「進むの?」

「いや、壁とかを調べてからだ」

「一緒でしょ?」

「よーく見ろ、少し色が違う。見た目が似ているものに騙されるな」

「うーん、わかんない。一緒でしょ?」


 氷織は気づけなかったが、二階層の壁は一階層の壁と比べると少しだけ赤みがかっている。横に並べて比べれば気づけるだろうが、比較対象もなしに気づくのは難しい。

 曲がりなりにもダンジョンを調べる専門家。面目躍如といったところか。


「……これは面白いことになっているかもしれんぞ」


 壁を調べていた蘇鳥から喜色の声が浮かぶ。


「何か、あったの?」

「あったと言えば、あった。確証はまだないんだが、このダンジョン、お宝の宝庫かもしれん」

「よかったね」

「ああ、よかったよ。これで氷織への護衛料に頭を悩まなくて済む。貧乏は嫌だからな」

「気にしなくていいのに」


 蘇鳥のダンジョン再生屋としての実績はかなり乏しい。そのため、依頼料は成果報酬型にしている。

 信頼がないので依頼をしてもらえない可能性が高い。そこで、少しでも依頼をしてもらえるように料金は後払いを採用しているのだ。

 仮に蘇鳥が失敗しても、クライアントの懐は痛まない。

 クライアントに優しいということは、裏返せば蘇鳥に厳しいということ。成果を上げなければ赤字確定。足が出てしまえば、氷織の護衛料も払えなくなる可能性がある。

 氷織はお金に困っていないので、護衛料は気にしなくていいと言っているが、それはそれ、これはこれだ。

 仕事である以上、好意に甘えるわけにはいかない。蘇鳥は依頼が失敗したとしても、きちんと護衛料を払う。

 ダンジョン再生屋の仕事は滅多にないのだ。暇なときにバイトでもして稼ぐしかない。


「モンスター来た」

「二階層に出現するのは、クレイゴブリンだ。気をつけろよ」

「あいつ、嫌い。でも、大丈夫」


 氷織と同じくクレイゴブリンを嫌っている冒険者は多い。

 クレイゴブリンはちょっと特殊な事情から嫌われている。

 強いとか、落とす魔石の価値が低い、なんて王道な理由ではない。

 その理由とは、汚れるからだ。

 クレイゴブリンは泥をまとったゴブリンだ。攻撃する際に泥を投げつけるし、泥を使って防御をする。

 戦闘するとあちこちに泥が飛び散り、そこかしこがシンプルに泥で汚れる。

 特に近接戦闘を行うと、泥まみれになる。武器に防具に服、どれもこれも泥で汚れる。バッグが泥で汚れようものなら、持ち物を全部洗うことになる。

 ダンジョンを攻略している以上、汚れることは珍しくない。というより汚れるのは当たり前だ。

 しかし、クレイゴブリンは輪にかけて汚れる。

 戦闘するとありえないくらいに汚れる、という理由でクレイゴブリンは忌避されている。二階層にクレイゴブリンが出現するのも、水海村ダンジョンを忌避させ、過疎化を加速させる原因の一つだ。


「アイスランス」


 だが、強者からすると何も問題ない。遠距離スキルを使えば一発で沈む。

 汚れ? 何それ?

 モンスターを倒すと光の粒子となって消えてしまうが、泥は消えない。クレイゴブリンの泥はダンジョン中にある土を利用しているから、モンスターを倒しても泥だけは残るのだ。魔力で構成されたものは綺麗さっぱりなくなるが、魔力とは関係ないものは残る。

 もし、泥も一緒に消えるのなら、クレイゴブリンの評価は大きく異なっていただろう。弱いし、魔石もおいしい。


「終わった」

「そうだな」


 二階層にある新しい価値のことは横に一旦置いて、二人は攻略を再開するのだった。


 一切汚れることなく、クレイゴブリンを蹂躙した一行は苦も無く三階層に到着するのだった。蹂躙したのは氷織だし、苦も無く行動できたのも氷織のおかげです。


「三階層に、来たー。……来た、よね?」

「ああ、ちゃんと三階層だぞ」


 三階層も今までと同じ洞窟タイプのダンジョンとなっている。見た目に大きな変化がないため、氷織は三階層に到着したことに確信が持てなかった。

 構造が大きく変わらないタイプのダンジョンでは、よくあることだ。実は同じ階層の続きなのでは? とハテナマークを浮かべる冒険者は多い。

 しかし、ダンジョンを分析するスキルを持っていると、階層が変わっていることを知ることができる。

 蘇鳥はスキルを使用して、三階層に突入したことを確信する。


「今回も壁を調べる。警戒を頼む」

「はーい」


 蘇鳥はまず壁に手を触れ、感触を確かめる。次に、目を凝らして色を確認する。

 他にも、スキルを使って情報を取得したり、材質を調べたりして、詳細に情報を集める。


「やはり、このダンジョンにはお宝が眠っている可能性が高いな」

「そうなの? 二階と同じみたいだけど? 珍しい素材?」

「ん? いや、二階層とは別物だぞ。なるほど、氷織には三階層の壁は二階層と同じに見えるのか。でも、実際には大きく異なるぞ」

「どう違うのかな?」


 迷宮の素材に詳しい人が一発で見抜けるのだが、氷織には難しかったようだ。首をコテンと傾げる。とてもかわいいです。


「三階層の壁はだな、二階層と同系統の素材が隠されている。そのため、壁の色も……いや、普通に教えるのは面白くないな。せっかくだし、クイズにしよう」

「クイズ? いいよ、かかってきな」


 乗り気な氷織は手のひらを上に向け、蘇鳥に対してクイクイと指を立てる。自信満々に挑戦を受ける。


「そうこなくっちゃ。では、問題。三階層の壁は少しだけ色がついています。ずばり、その色とは何色でしょうか? シンキングタイムは15秒です。よーいスタート!」

「壁の色を当てるだけ。よゆーよゆー」


 氷織は壁に顔を近づけて、事細かに観察する。色を当てるだけの問題、頼れるのは自分の両目だけだ。


「5秒経過、残り10秒」

「むむむ」


 氷織の観察は続くが、答えがわからない。制限時間は無情にも減っていく。


「残り時間5秒、4、3、2、1、ゼロ。それでは氷織さん答えをどうぞ」

「うーん、白」

「氷織さんの答えは白色、はたして正解なのでしょうか? ダララララララララ、ダン、正解は、青色でした! 残念、またのお越しをお待ちしております」

「しょぼーん」


 クイズが外れて落ち込んだ氷織は蘇鳥から離れて、トボトボ歩いてダンジョンを引き返す。


TIPS

クレイゴブリン

泥にまみれたゴブリン。泥を飛ばす攻撃や泥を固めて防御力を高める。

戦うと泥で汚れる。衛生面から嫌われている珍しいモンスター。

別名、ダーティゴブリン。

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