六畳一間ダンジョン④おわり
「なあ、二人とも何か思い至ることはないか? この泥、エネルギーを吸収するんだって」
「ん、スキルを吸収するとか?」
「それは、ありそうだな。早速試してみるか」
スキルを使うだけなので簡単に試せる。氷織にスキルを使ってもらい、実際にスキルを吸収する効果があるのか調べる。
「いく、【アイスランス】」
狙いたがわず、氷の槍は泥に着弾するが、スキルを吸収している様子はない。
よく漫画などではスキルや魔法を吸収して、一切合切を無効化してしまうような演出があるが、この泥では期待できないようだ。
氷の槍を観察してみると、目に見えて消えるスピードが速い。確かに魔力を吸い取る効果はあるようだ。性質が変化する前に比べて、魔力の吸収が早いようだ。
「咲華は何かないか?」
「活用法は分からないけど、吸い取ったエネルギーはどうなるの? 蓄積されているのなら、バッテリーになるかも? エネルギーが消えるのなら、エネルギー保存の法則に反逆するよね」
「電脳龍製小型汎用計算機から得られた情報から推測する限り、エネルギーは蓄えられるっぽいぞ。魔力バッテリーになる可能性はあるな」
ダンジョンでは魔力が全て。攻撃するにも防御するにも回復するにも探索するにも魔力が必要だ。冒険者は魔力に始まり、魔力に終わる。魔力とは切っても切り離せない。
そんな魔力のバッテリーを持ち運べるとなると冒険が格段に楽になるだろう。
しかし、あくまで可能性の話。実際に魔力バッテリーに加工できるかは不明だ。
もし、魔力バッテリーを実用化できれば、蘇鳥の名前が一気に広まることになるだろう。夢のある話だ。
「……ふぅ、少し疲れたな。今日はあんまり動いてないんだけどな。頭脳労働で疲れたか?」
蘇鳥は今日、疲れるようなことはしていない。駅からダンジョンまで歩いて来たとはいえ、長い距離ではなかった。ダンジョンでもほとんど活動してない。
ダンジョン再生屋として活動しており、体力はある。疲れるはずがない。
「もしかして、年か? いやいや、俺は華の大学生。体力の衰えを感じるには早い、早すぎる。康安さんじゃあるまいし……」
まあ、こんな日もあるか、そう蘇鳥は思う。ここにいない人が若干ディスられたが、些細な問題だ。
「輪ちゃん、疲れたの? 休憩する?」
「蘇鳥は貧弱だから」
「だれが、貧弱か! ……おっと」
思わずツッコミを入れた蘇鳥の体がよろける。
「本格的に疲れているな、ちょっと休憩するか。……でも、どうしてこんなに疲れているんだ?」
蘇鳥は地面に座って、休憩する。そして今一度、今日の行動を振り返る。
(朝は普通に起きただろ。特に変わったことなかったよな。調子が悪いってこともなかった。そっからご飯を食べて、電車を乗り継いでここまで来た。ダンジョンに入ってからは、新しい価値を考えたり、ダンジョンの壁を調べたりしただけ。変なことはしていないよな。違いとはいえば、電脳龍製小型汎用計算機くらいか。でも、特に体力を使うなんて仕様は聞いたことがないぞ)
やはり、再考しても体力を使うようなことはしていない。
もしかしたら、普段の疲れが溜まっており、一気に噴出したのかもしれない。
「ねぇねぇ輪ちゃん、その泥、触ってもいい?」
「ああ、いいぞ。エネルギーを吸収するらしいから、気を……つけろ…………待てよ。そうだよ、そうじゃねぇか、この泥、エネルギーを吸収するじゃねぇか。まさか、俺の体力を吸った、ってことか?」
今回の調査で変わっていたことといえば、初めて電脳龍製小型汎用計算機を使ったことと、未知の素材である祝泥を見つけたこと。
電脳龍製小型汎用計算機に問題がないのなら、畢竟祝泥のほうに問題があることになる。
祝泥はエネルギーを吸い取る効果がある。その対象は魔力だけでなく体力も含まれる可能性がある。
「えっ!? それじゃあ、あんまり触らないほうがいい? 魔力バッテリーとして持っていくとしても、代わりに体力が吸われちゃうね」
「どうだろうな? そこらへんの情報は調べてみたいと分からないな。直接触らなければ大丈夫な可能性もあるし、可能性だけなら無限大……かもな」
「ん、魔力バッテリーは欲しい。蘇鳥、頑張って」
「そういうのは専門外なんだがな、まあ、できる限りはやるさ」
蘇鳥の仕事はダンジョンの新しい価値を見つけることであって、素材を有効活用する方法を探ることではない。特に、未知の素材をどうこうする知識はない。
そういったことが得意なのは木皿儀康安だ。活用法を探るために、康安に素材を流したほうがいい。
「六畳一間ダンジョンが再生されるかは分からんが、祝泥は十分新しい価値だな。今回の仕事、完了だな。……にしても、エネルギーを吸い取る素材か、カロリーでも吸収してるのかね?」
「輪ちゃん、今なんて言ったの!」
「蘇鳥、それホント!」
カロリーは体を動かすエネルギーである。体力を吸い取るということはカロリーを吸い取っている可能性が存在する。あくまで蘇鳥の仮説だ。事実かどうかは分からない。
「体力が奪われるということはカロリーが吸われている可能性がある。あくまで仮説だ。実際に調べてみたら、全然違っている可能性もある。まあ、カロリーを吸い取ってくれるのなら、ダイエットに使えるかもな」
「ダイエットになる素材! すごい、すごいよ。喉から手が出るほど欲しいね」
「激しく同意。世の中の女性の強い味方になる」
ダイエットに活用できるかもしれない、と聞いて女性陣二人が大きく反応する。
止木も氷織も太っていないし、スタイルもいい。普段からダンジョンで運動していることもあって、いい感じに引き締まっている。それでも、ダイエットには興味津々だ。
「あくまで可能性の話だ。違うかもしれんぞ。期待はしないほうがいい」
「可能性があるなら、十分だよ。早く調べようね。ねっ! ねっ!」
「今すぐ調べて、絶対に調べて」
「いや、無理だから、今すぐ調べるのは。俺は正確な効果を調べる技術を持ってないから。この後、専門家に調べてもらうから、専門家の見解を待ちなさい」
「…………むぅ」
氷織が早急な調査結果を求めるが、蘇鳥はそれに応えられない。無理なものは、無理なのだ。
(本当にダイエット効果が得られるのなら、世の中の女性に喜ばれるんだろうな)
蘇鳥は軽く考えているが、実際にダイエット効果が確認されたら、世の中は大変なことになるだろう。ただ、泥を触っているだけでダイエットになるのなら、こんなに簡単なことはない。
運動も食事制限も必要ないのだ。自分の体重に納得していない人はこぞって欲しがるだろう。
本格的に調べてみないと効果が分からない。仮に確かな効果があっても安全性が確保されないと流通させることはできない。
今後、どうなるかは分からないが、とにもかくにも今回の調査は終わりだ。
六畳一間ダンジョンには未知の新素材があった。
「やっぱ、ダンジョンの新しい価値を見つけるのは楽しいな。これからもダンジョン再生屋、一本でいかせてもらう」
いずれまた、別の無価値なダンジョンで会いましょう。
ちなみに、祝泥はダイエット効果と安全性が確認され、大ヒット商品となった。それを見つけた蘇鳥の名は知れ渡り、ダンジョン再生屋の仕事も順調になるだった。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
今回のお話で完結となります。




