狭霧の竹藪ダンジョン③竹刀武士と竹刀銃士
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その日、蘇鳥は一人でダンジョンに来ていた。高校の卒業式を終え、大学の入学式を待つ春のこと。
普段は冒険者パーティ華鳥楓月のメンバーと一緒にダンジョンを探検しているのだが、今日は他の皆の予定が合わなかった。
せっかくの暇な時間、家でゆっくりするのもいいのだが、ダンジョン探索するのも悪くない。かくして、一人でダンジョン探索することにしたのだ。
蘇鳥が来ているのは狭霧の竹藪ダンジョン。ダンジョン内は霧に覆われており、見通しが悪い。しかし、その厄介な霧を差し引いても稼げるダンジョンとして知られている。
モンスターがドロップする魔石の価値が高く。迷宮省が高額で買い取ってくれるのだ。大学では色々と入用になる。入学前のお小遣い稼ぎのため、単身でダンジョンにやって来ていた。
「今日は一人だからな。無理しない程度に頑張ります……か」
蘇鳥とてもう高校を卒業する年齢。無茶をするような向こう見ずな年齢でもない。きちんと自分の実力を理解しているし、無理してもいいことがないのを理解している。
浅い階層で一人で倒せるモンスターを狩りつつ、魔石を集める。深い階層に行ったら、モンスターの強さが一段階アップする。単独で勝てるような相手ではない。安全マージンは大切だ。
「あっ、お疲れ様です」
「……ん、お疲れ様です」
現在、ダンジョンの入口。蘇鳥の他にも冒険者が数多くいる。近くにいたセーラー服を着た女性と目が合ったので軽く挨拶をする。
現在は三月の下旬。学生なら春休みだ。休みを活用してダンジョン探検にやって来る冒険者は蘇鳥以外にもちらほらいる。
セーラー服の彼女は特に気負うことなく、ダンジョンの奥に一人で向かっていった。かなり余裕がある様子だった。もしかしたら、強い冒険者なのかもしれない。
「世の中には、才能がある冒険者が多いな」
蘇鳥の頭の中に幼馴染みの冒険者の姿が思い浮かぶ。置いて行かれないように頑張らないとな、そんなことを考えるのだった。
「よし、そろそろ探索しようか」
今回の目的は一人で狩れるモンスターを倒して魔石を集めることだ。入口で他の冒険者を観察している場合ではない。
「おっ、バンブーブルーム発見」
バンブーブルームは竹製の箒の形をしたモンスター。地面を掃き掃除しながら、こちらに近づいてくる。そして冒険者を見つけると、砂埃を舞い上げて視界を奪う。ただでさえ、霧で視界が悪いのに、余計に視界が悪くなる。
鬼に金棒、獅子に鰭、虎に翼。要するに、相性最悪だ。
「先手必勝っ! はぁぁぁ」
蘇鳥はバンブーブルームに攻撃される前に先制攻撃をしかける。【身体強化】を使って攻撃力を高めて、袈裟懸けに剣を振る。
ざしゅ。クリティカルな一撃がバンブーブルームに入り、地面に倒れる。即座に追撃をしかけようとするが、それより先にバンブーブルームが逃げる。
距離を取ったバンブーブルームが地面に落ちている小石を掃いて、弾丸のように打ち出す。
ゴンゴン。蘇鳥は冷静に盾で小石をガードする。所詮は小石だが、小石とて高速で打ち出されると危険だ。当たると当然のごとく怪我をする。避けるか、守るか、もしくは怪我をしないくらい防御力を高めて対処しないといけない。いずれにせよ、対策は必要だ。
バンブーブルームはモンスターランク3だ。一筋縄ではいかない。
「仕切り直しか。一人だと、大変だな。まあ、負けねぇけどな」
バンブーブルームは時に本体で攻撃し、時に小石を掃いて高速で打ち出し、時に風を巻き起こす。しかし、それらの攻撃を蘇鳥は冷静に対処する。
隙を見つけては攻撃をして、着実にダメージを与えていく。
そして、遂にその時は訪れる。
「これで、終わりだぁぁぁっ!」
蘇鳥は気合を入れた一撃をバンブーブルームに見舞い、大ダメージを与える。バンブーブルームのHPはゼロになり、光の粒子となり消えていく。
バンブーブルームの痕跡はなくなり、そこに魔石だけが残る。
「ふぅ、ようやく終わったか。……思いのほか、疲れたな」
普段は華鳥楓月のメンバーと一緒にダンジョンを探索している。なので、バンブーブルームならもっと早く倒せる。
しかし、今は一人。改めて、仲間のありがたみを感じる。
その後、蘇鳥は適度に休憩を挟みながら、着実にモンスターを倒していく。ダンジョンでは油断禁物。調子に乗ったら、痛い目を見る。
慎重に慎重を重ねながら、魔石を一つずつ集めていく。
「ラッキー、またまた魔石ゲット」
バンブーガンを倒すと、そこには魔石が落ちていた。もちろん魔石は拾います。
「かなり集まったな。あと、一つか二つ集めたら、今日は帰るか」
蘇鳥は自分の体力と相談し、ダンジョンでの活動時間を決める。一人ということもあって、余裕をもって探索を切り上げることにする。疲れた体で探索してもいいことは起こらない。
しかし、ダンジョンというのは何が起こるか分からない。余裕をもった行動をしていても、一度ダンジョンに入れば誰にでも予想外なことは起こる。
そう、その予想外なことは蘇鳥にだって起こりうる。
「なっ!? なんで、ここに竹刀武士と竹刀銃士がいるんだよっ!?」
蘇鳥がいるのは狭霧の竹藪ダンジョンの浅い階層。出現するモンスターはバンブーブレード、バンブーブルーム、バンブーガンくらいだ。
モンスターランク4の竹刀武士と竹刀銃士は出現しない。普通なら。
あくまで、普通なら、だ。予想外のことが起きれば、その限りではない。
竹刀武士は、竹刀を持つ武士のモンスター。兜、鎧、陣羽織を装備した和テイストのモンスター。近接戦が滅法強いので近接戦に持ち込まれる前に叩くことが推奨される。
竹刀銃士は、竹の銃を持つモンスター。白いシャツに膝下のズボン、帽子にマントを装着している。遠距離攻撃の性能はピカ一。近接戦は苦手だが、普通にモンスターランク3程度の心得はある。遠距離が強い代わりに、近距離がそこそこ強い。
しかも、今回は運が悪いことに二体セットだ。ただでさえ、一体でも厄介なのに、二体になると厄介さは極大になる。
「まさか、侵出鬼没か」
侵出鬼没とは本来出現しない階層にモンスターが出現すること。一般的に深い階層にしか出現しないモンスターが浅い階層に出現することを言う。
一応、浅い階層にしか出現しないモンスターが深い階層に出現するという、反対の減少も侵出鬼没として扱われる。
バン、バン、バン。竹刀銃士が遠距離から竹の銃で攻撃してくる。
「……ぐぅ」
幸いにして、距離があったので攻撃は掠めるに留まる。軽く出血するが、致命傷には至らない。
だが、いつまでも幸運は続かない。
蘇鳥の実力ではモンスターランク4のモンスターに勝てない。モンスターが一匹でも勝てないのに、二体もいるのは絶望的だ。
「……は、早い」
竹刀銃士が遠距離で攻撃している間、竹刀武士が何もしないなんてことはない。距離を一気に埋めて、竹刀を振る。
運よく、盾で受け止めることに成功するも、その威力で盾が弾き飛ばされ、ダンジョンの奥深く、霧の向こうに消えていった。
「くそがっ! ここで、死ぬのか。死ぬっていうのか……」
蘇鳥はどうしようもなかった。彼我の戦力差は絶望的で、戦うことなど夢のまた夢。逃げることもできず、八方塞がり。
防御に徹すれば少しは時間が稼げるだろうが、ジリ貧が確定している。
「ぐ、がああああっ」
竹刀武士が振るった竹刀により、蘇鳥の左足がスパッと斬られる。切断面から大量の血が噴き出す。蘇鳥の体を使った血の噴水ショーの始まりだ。
「……あぁ」
自分の左足がダンジョンの宙を舞っている様子を、ただ茫然と眺める。まるで夢を見ているようだった。
(……もうダメだ。すまん、咲華。すまん、みんな)
バン、バン、バン。竹刀銃士の遠距離攻撃が炸裂する。
弾丸が的確に蘇鳥の左腕を襲い、三つの穴が貫通する。またしても血の噴水ショーを披露してしまう。
「……ぁぁ、もう……」
蘇鳥は大量に血を失ったことで、意識が薄れていく。
失血によって意識を失うか、それともモンスターによって意識を奪われるか。いずれにせよ、蘇鳥の意識はもう切れる寸前なのは間違いない。
「ん、大丈夫そう? ……大丈夫じゃなさそうや。助けなきゃ。お礼はアイスでいいよ」
(なにか、こえが……きこえた…………ような………………きが……………………する)
蘇鳥は意識を失う寸前、セーラー服を着た少女を見た気がする。
セーラー服を着た少女の名前は氷織入瑠香。蘇鳥は通りすがりの氷織のおかげで九死に一生を得たのだった。
ーー回想、終。
TIPS
竹刀武士
竹刀を持つ武士。兜、鎧、陣羽織を装備した和テイストのモンスター。
近接戦が滅法強い。近接戦に持ち込まれる前に叩くことが推奨される。
竹刀は適当に振り回されていると思わていたが、パターンがあることが判明している。敵との距離や振り下ろした時の姿勢などで次のパターンが決まる。ただし、パターンが多いのですべてを把握するのは至難である。
竹刀銃士
竹の銃を持つモンスター。白いシャツに膝下のズボン、帽子にマントを装着している。
遠距離攻撃はピカ一。近接戦は苦手だが、普通にモンスターランク3程度の心得はある。遠距離が強い代わりに、近距離はそこそこ強い。
弾丸を六発銃に補充し、胴体、左腕、右腕、左足、右足、頭をそれぞれ狙って撃つ。弾丸を補充してから、全てを撃ち出すまでの時間は約12秒。邪魔が入らなければルーティンは変わらない。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
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