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燈火村ダンジョン④魔力草を育てよう

「魔力を好むのは何も冒険者に限りません」

「というと?」

「モンスターも好みます」


 モンスターの肉体は魔力によって構成されており、攻撃や防御にも魔力を使う。冒険者以上にモンスターにとって魔力は重要となる。

 なので、モンスターは魔力草を見つけると魔力を増やすために、即座に食べに行く。


「魔力草を育てていると、モンスターがわらわら寄ってきます。そのため、魔力草を育てるには、モンスターから魔力草を守るために冒険者を雇う必要があります。しかも、モンスターは24時間活動しますから、魔力草を育てている限り、冒険者も同時に24時間雇い続ける必要があります」

「それは、とても人件費がかかるのでは?」

「はい、そうです。魔力草が高いのは主に人件費の影響です」


 魔力草は勝手に育つが、放置はできない。常に見守っていないといけない。人件費がバカにならない。


「つまりだ、燈火村ダンジョンはゴブリンしか出ないから、冒険者でなくても魔力草を守れる。人件費が安く済む、という話かね?」

「申し訳ありませんが、まっっったく違います。確かに、ゴブリンなら冒険者を雇う必要はありません。一般人を24時間雇ったとしても、その費用はペイできるでしょう。しかし、違うのです」


 魔力草は高値で取引されている。人材を24時間雇っても、赤字になることはない。他のダンジョンでも24時間雇っていて問題がない以上、燈火村で同じことをしても問題ない。


「ゴブリンは魔力草を食べません」

「ん? どういうことかね?」

「文字通りの意味です。ゴブリンは魔力草を見つけても、なぜか食べません」

「魔力草を食べないモンスターは珍しいのかね?」

「いいえ、ゴブリンだけです。ゴブリンだけがモンスターで唯一魔力草に見向きもしません」


 モンスターは例外なく魔力草を好む。モンスターは魔力を求めてダンジョンを彷徨っていると言っても過言ではない。それくらいモンスターと魔力は密接な関係だ。

 だがゴブリンだけは例外だ。

 詳しいことは不明だが、ゴブリンは魔力草を求めない。目の前に魔力草を置いても、見向きもしない。そのため研究者の間では、ゴブリンに魔力は必要ないのでは、と考えれている。


「燈火村ダンジョンにはゴブリンしか出ません。そのため、魔力草を守る人を雇う必要がありません。人件費が圧倒的に安く済みます」


 人件費が安く済めば、それだけ安く市場に卸せる。安いので飛ぶように売れるだろう。

 しかも、燈火村ダンジョンには、もう一つ魔力草を育てるのに向いている点がある。


「魔力草を育てるのに大量の水が必要なことは先ほど申し上げました。魔力草はどこでも育てることが可能ですが、育てやすい場所は存在します」


 まず大前提として広いことだ。数を確保する上で、広い場所は必須となる。畑が狭いと、それだけ収穫量も減る。だが、ただ広いだけではダメだ。

 見通しが悪いとモンスターの襲撃に気づけなくなる。魔力草を守れないだけでなく、冒険者を危険に晒すことになる。

 ダンジョン内には、意外と見通しが良くて広い場所は少ない。仮に該当する場所があっても、それがダンジョンの奥深くだとすると、冒険者の移動も大変になる。収穫した魔力草を運ぶ手間も増える。魔力草を育てるのは入口に近い場所が好ましい。そんな好都合な場所は全国でも少ない。

 冒険者の能力ならダンジョンの奥深くでも案外なんとかなったりする。移動は大変になるが、冒険者ならモンスターを倒せる。しかし、もう一つ問題がある。


 それは、水だ。


 魔力草を育てるには大量の水が必要になる。広場の近くに水場があれば解決するが、そうそう都合よく水場は存在しない。

 魔力草を育てるために、どこからか水を運搬する必要がある。もしくは水を生み出せるスキル持ちの冒険者が必要になる。

 しかも、一日二回。魔力草は本当に水を吸う。一日に最低でも二回は水を与える必要がある。

 水問題を解決するだけでも人件費がかさばる。

 でも、燈火村ダンジョンは広場と水場がセットで存在する。水を運搬する手間が必要ない。これほど魔力草を育てるのに適したダンジョンは存在しない。

 燈火村ダンジョンは誇張なしに魔力草を育てるためのダンジョンだ。

 一応、肥料も必要だが、一度運んでしまえば当分持つ。人件費に大きな影響はない。


「よろしいですか? 燈火村ダンジョンでは魔力草を護衛する冒険者も必要もなければ、水を運搬する必要もありません。人件費が圧倒的に安く済むので、魔力草を育てるのをオススメします」

「なるほどのぅ……。いやはや、蘇鳥くんに依頼して良かったよ。これほど有効な話を聞けたのは幸いだ」


 村長は笑顔を浮かべているが、蘇鳥の話を完全に信用したわけではない。これから裏取りをして、情報の真偽を確定しなければならない。

 その仕事は村長ではなく、隣にいるダンジョン担当の孫娘の蛍明の仕事だろう。


「ちなみに、魔力草の上位互換として、魔剛草というものがあります。魔力草以上に高値で取引されるので、ゆくゆくはこちらも育てるといいでしょう」


 魔剛草は魔力草以上にモンスターに好まれるが、ゴブリンはやはり興味を持たない。燈火村ダンジョンなら問題ないだろう。

 とはいえ、魔剛草は濃い魔力が必要になる。燈火村ダンジョンで育てるのなら、質が低くなるか、育つのに時間がかかると思われる。

 蘇鳥の仕事はダンジョンの新たな活用法を考えること。実際に採用するかは村長や蛍の話で決めるだろう。

 ダンジョン関連の仕事して、ダンジョンの運用方法を考えてくれるコンサルタントのような仕事もあるが、それは蘇鳥の仕事の範疇ではない。

 あくまで、価値がないと思われるダンジョンで新しい価値を見つけるのが仕事だ。


「ダンジョン再生屋としての話は以上となります。何か質問はありますか?」


 魔力草の種の入手方法、魔力草の育て方、魔力草の売り方などの質問に答えて、ダンジョン再生屋としての仕事を完遂した。

 蛍村長の感触はかなり良かった。魔力草を育てることを前向きに考えている。おそらく、燈火村産の魔力草が売られるのも時間の問題だろう。


 時刻は夕方。

 蛍に駅まで車で送ってもらい、蘇鳥は自宅に帰宅した。

 なお、自宅に到着したのは日付が変わった深夜だった。田舎は遠い。


 蘇鳥はダンジョンに入る仕事をしているが、モンスターとの血沸き肉躍る戦いもなければ、未知のダンジョンを調査するワクワクもない。

 基本的な情報が出揃っているダンジョンで調査を行い、新しく価値を発見する仕事。危険もなければ、ワクワクもない。

 とても地味な仕事だ。しかし、大切な仕事だ。


TIPS

魔力草まりょくそう

魔力を含んでいる草。食べると魔力が回復する。ただし、効率は悪い。

魔力草を加工して、魔力ポーションにすると魔力を大きく回復できるようになる。

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