白のダンジョン③久しぶりの冒険です
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「久しぶりのダンジョン探索だ」
日曜日の昼過ぎ。蘇鳥と止木は白のダンジョンにやって来ていた。
白のダンジョンは二人の思い出のダンジョンだ。冒険者になって無害ダンジョン以外で初めて入ったのが白のダンジョンだ。
白のダンジョンのランクは1。冒険者になったばかりものでも入れる初心者向けダンジョンだ。
ここならランクも低いので蘇鳥でも問題なく冒険できる。大怪我を負って実力を大幅に落としたとはいえ、苦も無く探索が可能だ。
久しぶりの探索といえど、ここなら気負うこともなく、存分に探索できる。
「準備はいい? 武器は持った? 防具は装備した? ポーション持った?」
「お前は俺の母親かっ! ……これでもダンジョンには仕事で潜っているんだ。問題ない」
「そっか。じゃあ大丈夫だね」
蘇鳥の装備は市販品の剣と市販品の防具。剣は装飾のないシンプルなもの。防具は最低限の防御力しかない布製の物。潜るのがランク1で、経験者ならこれくらいで十分だ。
かつては左手に盾を装備していたのだが、動くようになったばかりの左手に持たせるのは心許ない。今回は盾はなしだ。
対して、止木の装備は物々しい。
止木は昔から黒い武具を使っており、全身黒一色だった。その黒一色は今も健在で、不穏な空気をまとっている。現に新人冒険者が止木を見て「ひぃぃぃ」と悲鳴を上げてそそくさと逃げていた。
蘇鳥、久しぶりにダンジョン内で冒険者とすれ違ったのだが、あまりいい出会いではなかった。(でも、人がいるダンジョンっていいよね)
そんな物々しい止木の装備はというと、黒曜石を思わせる漆黒の剣、銘を黒黎剣。真夜中を彷彿とさせる暗闇の鎧、銘を夜叉。白のダンジョンの真っ白さとは正反対のため、止木はダンジョンで浮いていた。
真っ白な紙に一点の黒い汚れがあると、必要以上に目立つのと同じだ。
にしても、武器も防具もランク1のダンジョンには過剰な装備である。
万が一のことを考えて、装備は妥協していないのかもしれない。蘇鳥という前例がある以上、ランク1とはいえ油断禁物だ。
ただし、止木の装備のランクは低く、どちらも中級の冒険者向けの装備だ。ランク1ということもあって、二軍の装備を使っている。武器や防具は消耗品だ。使えば使うほど壊れやすくなる。常に最強の武具を利用することもない。それに使用したら手入れも必要になる。実力より低いランクのダンジョンに潜る際に、手入れが楽な武具を使う冒険者は多い。
「進もうか」
「そうだね」
二人は確認もそこそこにダンジョン探索を開始する。
白のダンジョンに出現するモンスターは翼を持つウサギのウイングスラビット、とても柔らかい体を持つソフトゴーレム、出現した場所から移動しない木のモンスターのトレンディアなどだ。
「きゅきゅきゅ」
「おぉ、懐かしいな。ウイングスラビットがいるぞ」
ウイングスラビットは二人が初めて討伐したモンスターである。
最初は空を滑空するウサギに苦労したものだが、今ではただの雑魚モンスターだ。そして、近頃の蘇鳥とは無縁のモンスターだ。
「頑張ってね、輪ちゃん」
「はいはい、頑張りますよ」
蘇鳥はゆっくり歩いてウイングスラビットに近づく。蘇鳥の気配を感じたウイングスラビットは警戒を強めて、戦闘態勢に入る。
しかし、蘇鳥の歩みは止まらない。ウイングスラビットの一挙手一投足を観察しながら近づく。
先にしびれを切らしたのはウイングスラビットのほうだった。強靭な後ろ足で地面を蹴って、一気に蘇鳥に近づく。ウイングスラビットの代表的な攻撃のタックルが炸裂する。
「遅い」
ひらり、蘇鳥は体をわずかに捻り、タックルをかわす。そして、すれ違いざまに剣を振り、ウイングスラビットを一刀両断する。
ウイングスラビットは光の粒子を残して、そこにいたのが嘘だったかのように消え去る。モンスターがいた証拠として、魔石だけが残った。
「どう、楽しかった?」
「さすがに、ウイングスラビットを倒したくらいじゃ楽しさは感じないな」
最近は護衛に任せてモンスターなど倒していなかった。久しぶりにモンスターを倒したが、特に何も感じない。雑魚モンスターを倒したところで、得られたのは作業感だけだ。
「でも、懐かしいな」
「一緒にウイングスラビットを倒したよね」
「ああ……」
懐かしむのもそこそこに蘇鳥は魔石を拾う。
(白のダンジョン、見た目は変わっているけど、ダンジョンとしてはおいしんだよな。ウイングスラビットは弱い割に、魔石の買取は高い。ソフトゴーレムも簡単に倒せるし、魔石の価値がそこそこある。トレンディアは強いモンスターだが、近づかなければ脅威はない。それに、時おりドロップするトレントの枝は杖の素材として価値がある。どいつもこいつも人気のモンスターだ。ダンジョンに冒険者が来なくて過疎る、なんてことはないんだろうな)
蘇鳥は無意識のうちにダンジョンの価値を考えていた。ウイングスラピッドの魔石は買取価格がおいしい。蘇鳥のような不人気なダンジョンにしか行かないような奇特な冒険者からすると、出会うことがないモンスターだ。蘇鳥が出会うモンスターは強ったり、厄介だったりする。楽に稼げるモンスターとは縁遠い。
その後も白のダンジョンの探索を続けたが、蘇鳥は冒険者として楽しさを感じることはなかった。
ソフトゴーレムはゴーレムの癖に柔らかくて、敵にならなかった。少し厄介と言われているトレンディアも難なく討伐でき、しかもトレントの枝をドロップした。
実力に見合っていないことを除けば、冒険そのものは、とても順調だった。
特に何事もなく冒険を終えるのだった。
TIPS
ウイングスラビット
翼を持つウサギのモンスター。翼を使って、ちょっぴり浮ける。
弱い割にいい魔石を落とす。




