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絵似熊市ダンジョン番外編②みんなでプール

本日は絵似熊市ダンジョンの調査ではなく、みんなで大型のレジャープールに来ていた。柚木と氷織の強い希望により、プールで遊ぶことになった。移動の足は木皿儀夫婦が車を出してくれた。

 ダンジョン調査依頼があるとはいえ、休息は必要。毎日ダンジョンに通うことはない。

 それに何より、季節は真夏。つまり、プールの季節だ。


「夏だねぇ」

「ええ、夏ですね」


 一足早く着替えを済ませた男性陣は入口で女性陣を待っている。

 蘇鳥も康安も面白みのない短パンの水着を着用している。

 まあ、蘇鳥の左足は義足なので、移動を補助するための杖があるくらいだ。それ以外は特におかしな部分はない。

 蘇鳥の義足は特別製だ。ダンジョンに潜ることもあるので、かなり頑丈な仕様になっている。もちろん防水性もあり、このままプールに入っても問題ない。


「ああそうだ、蘇鳥君」

「何ですか?」

「氷織君と柚木君が来たら、ちゃんと水着を褒めるんだよ。女性はこういうのに敏感だからね」

「了解しました先輩」


 蘇鳥は人生の先輩の言葉をしっかりと胸に刻む。


「おっ待たせーっ」

「ん、来た」

「少し遅れたみたいですね」


 元気に登場したのは柚木。水色のビキニを着用しており、出るところは出て、引っ込むところは引っ込む。まるで女性が望む理想的な体型を具現化していた。

 氷織はオフショルダーのトップスとフリルのついたパンツを着用している。花柄模様の可愛い水着だ。

 和奏はセパレートタイプの水着を着用しており、パレオを巻いている。人妻ということもあって、かなり露出は少ない。


「氷織、かわいい水着だな。似合ってるぞ。柚木さんはビキニなんですね、とてもお似合いです」

「ありがとー、かわいいの選んだ甲斐があるよー」

「ん、ありがと、蘇鳥もいい感じだよ。でも、もう少し筋肉をつけたほうがいい」

「あー、そうですね。蘇鳥君のメインはダンジョン調査ですが、それでも体力は必要です。もっと筋肉があっても困らないでしょう」


 蘇鳥の体型は普通の大学生に比べると、がっちりしている。しかし、冒険者として考えるのなら、筋肉は少ないほうだ。

 もちろん、冒険者の種類によって、筋肉が必要かどうかは変わってくる。近接職なら多くても困らないが、後衛の場合は体力は必要でも、筋肉はそこまで必要にならない。


「そ、そうか。まあ、筋トレでもするか」

「うん、筋肉、かっこいい」


 なんだろうか、氷織の趣味が多分に含まれている気がしないでもない。


「和奏さんはいくつになっても美しいですね」


 普段からダンジョンに潜っていることもあって、和奏のスタイルは抜群だ。年齢を感じさせない肉体美がそこにはあった。


「ありがとう康安さん。あなたは少しお腹が出ていますね。もう少し運動するようにしましょうか。それと、お酒も控えましょう」

「……あの、その、えーっとですね。僕も頑張っていまして活力を得るにはお酒が必要でしてーー」

「あ・な・た」

「は、はいっ! 運動もしますし、お酒も控えます!」


 たった一言で完全に心が折れる康安。木皿儀夫婦、完全に奥さんが主導権を握っていた。


「きゃっほー、たーのしー」

「さ、さすがに、きつい。休もう」


 数えきれないほどウォータースライダーを滑っている柚木とそれに付き合っている蘇鳥だったが、蘇鳥の体力の限界が来た。

 最初の数回は蘇鳥も楽しめていた。しかし、両手の指で数えられない回数ともなると、さすがに体力が尽きる。むしろ、未だに限界が見えない柚木の体力のほうが恐ろしい。


「えー、もっと滑りましょうよ。楽しいですよ。それに、もしかしたらビキニがポロリしちゃうイベントが起きるかもしれませんよ。このこのー、スケベなんだから」

「ポロリイベントなんて期待してません。漫画の読み過ぎじゃないですか? ともかく、俺はもう休憩します。一人で滑るか、他の人を誘ってください」


 蘇鳥は柚木の元を離れ、ビーチチェアで休息している木皿儀夫婦の元に向かう。


「大変だったみたいね。飲み物があるから、自由に飲んで」

「ありがとうございます。いただきます」

「まあ、彼女も悪気があるわけじゃない。ただ、プールを全力で楽しんでいるだけだよ」

「ええ、そうですね。でも、こっちの体力のことも考えてほしいです」


 そんな柚木は流れるプールで浮き輪に乗ってプカプカ流されている氷織の腕を掴んで、ウォータースライダーのほうに引っ張っていた。あ~れ~、と言っているから氷織も問題ないだろう。

 ちなみに、浮き輪はバナナでもなければ、イルカでもなく、白鳥でもない。普通の丸い浮き輪で、スイカ模様のものだ。林護町ダンジョンでの一幕は忘れ去られたのかもしれない。


 時刻はお昼。


「お腹ぺこぺこだよー」

「うん、お腹空いた」

「そうですね。そろそろお昼にしましょう」


 一同はプール内の飲食店が並んでいるエリアに向かう。

 蘇鳥と康安は席を確保し、女性陣でお昼ご飯を買いに行く。売店ではラーメン、ハンバーガー、カレーなどの定番メニューから中華やイタリアンまで揃っている。もちろん、デザートも揃っております。

 蘇鳥はチーズバーガーにフライドポテトにコーラ、氷織はドライカレー、柚木はネギたっぷりのラーメン、康安はチャーハンと餃子と唐揚げのセット、和奏はうどんをそれぞれチョイスしている。

 また、テーブルにはたこ焼きやピザなどの料理も置かれている。


「和奏さん、ご相談があるのですが……」

「なんでしょうか?」

「あの、ビールが飲みたいです」


 チャーハンに餃子に唐揚げだ、そりゃビールも飲みたくなる。


「……………………はぁぁぁ、分かりました。今日だけですよ」

「ありがとう和奏さん。買ってくる」


 深い深い溜め息の後、和奏は康安のわがままを受け入れる。

 昼からビールを飲むなんて、さっきビールを控えるように言ったのに、ビール飲んだら運転できないでしょ、などの思いが和奏の脳内を一瞬で駆け巡った。最終的には受け入れるのだから、和奏も夫には相応に甘い。

 なお車の免許を持っているのは、康安、和奏、柚木の三人だ。一人潰れても問題ない。


「あの人のことは放っておいて、先にご飯を食べましょう」

「そうですね。そろそろお腹と背中がくっつきそうです。では早速、いただきます」

「「「いただきます」」」


 各々頼んだ料理を食べ始める。


「おいしー。プールの売店も侮れませんなぁ。るるなが子供の頃はもっと、微妙な味だった気がするんだけどな」

「同意ですね。昔は本当に微妙な味でした。今でこそ美味しくなっていますが、冷凍食品などもレベルは低かったです」


 一昔前はプールに併設されている売店の料理はチープな味だったが、今では普通にレストランレベルになっている。


「そうなの? よくわかんない」

「えええ! 入瑠香ちゃんは昔の味を知らないのぉ!」


 柚木と氷織の年齢差はほとんどない。同世代と思いながらも、やはり差があるのだと感じた柚木だった。ここら辺の話は地域なども関係しているので、実際には世代だけで語れるものではない。


「ビール、ビール。ビールは最高だ」


 若干微妙な雰囲気になっているところに、何も事情を知らない能天気な康安がビールを持って戻ってくるのだった。


「あれ、どうしたの? 料理、美味しくなかった?」

「料理は美味しいですよ。ただ、昔の料理は美味しくなかったかもしれません」

「? まあ、美味しいなら、いっか」


 昔を懐かしむのもいいが、今は美味しい料理を食べることのほうが大事だ。一同は美味しい料理に舌鼓を打つのだった。


 時刻は夕方。

 一同はプールを出て、和奏が運転する車でホテルに戻っていた。


「はぁ、本当に楽しかったです。車も出していただき、ありがとうございます」

「超楽しかった」

「いい休息になりました。ありがとうございます」

「いやいや、こっちも楽しませてもらったからね。でも、楽しかったのならよかったよ」


 車内には夕日が差し込み、穏やかな時間が流れている。プールで遊び疲れて、柚木も含めて元気が少なくなっている。


「……ぐぅ、ぐぉ、ずぴ」

「やれやれ」


 助手席では顔を赤らめた康安が鼾をかいて、心地よさそうに熟睡している。

 和奏は「やれやれ」と呆れているが、その表情は我が子を見守るような穏やかなものだった。なんだかんだ仲のいい夫婦だ。


「君たちも疲れているなら、寝てもいいからね」

「はい、ありがとうございます」

「……あむ、ありゃりゃとです」


 最初に夢の世界に旅立ったのは氷織。程なくして、柚木と蘇鳥も夢の世界に旅立つ。

 静かな車内は四人の寝息に包まれるのだった。


「子供か……。かわいいな」


 子供というほどの年齢ではないが、大人からすると大学生くらいなら十分子供の範囲だ。


「この子たちのためにも、安全運転を心掛けないとな」

「ふがっ」


 助手席では夢の中で康安が同意するのだった。


「まったく、こっちにも子供がいるじゃないか」


 四人はホテルに到着するまで、ぐっすり眠り続けるのだった。


 後日、一同は一緒に夏祭りにも行くことになるが、それはまた別の話。


TIPS

プール

人工的に水を溜めた遊泳場。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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