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絵似熊市ダンジョン⑪打ち上げの時間です

●●●


 後日、絵似熊市ダンジョンの関係者の話題は銀色一色だった。銀色の悪魔の名称も改められ、シルバーデーモンと正式に命名された。

 蘇鳥の銀色の悪魔を英語にしただけだが、分かりやすさを重視した結果だ。

 それと、シルバーデーモンの詳しい出現方法も分かってきている。

 やはり、何もしないことが出現条件だった。部屋なり通路で何もせず、じっと待っているとシルバーデーモンは出現する。

 動かないだけでなく、声を出さないことも重要みたいで、本当にじっと固まっていると15分ほどで出現するみたいだ。

 どうして出現するのかは不明だが、何もしないペナルティなのかもしれない。絵似熊市ダンジョンでは冒険者に冒険してほしいのかもしれない。そのため、何もしていないとペナルティが課せられるのかもしれない。

 しかし、所詮は仮説。仮説が合っている証拠はない。調査はこれからも続く。このまま謎のまま放置されるのか、それとも天才が現れて謎を解明するのか。絵似熊市ダンジョンの今後に期待だ。


 シルバーデーモンだが、モンスターランクは6に決まった。上級の冒険者でないと対応できないレベルだ。

 また、生態についても少しは判明している。

 蘇鳥がやったように、近くにいる全員が動いているとステータスが下がることは間違いない。人数が多ければ多いほど、より機敏に動かないとステータスが下がらないことも判明している。

 要するに、じっとするな、常に全員動きながら戦え、ということだ。

 戦闘力はどう足掻いてもランク5未満にはならず、ステータス低下の下限は決まっている。初心者の冒険者でも倒せる、そんなことにはならない。最低でも中級の実力は必須だ。

 それと、シルバーデーモンが落とした銀色の素材だが、どうやら時間に干渉する性質があるらしい。何もせず、じっと待っていると『時間経過』でモンスターが出現するのだ。何かしら、時間との関連があっても不思議ではない。

 詳しいことは分かっていないので、今後分析が進んで解明されるかもしれない。

 時間に関連する素材はダンジョンからいくつか発見されているが、どれも芳しい成果は出ていない。絵似熊市ダンジョンから採れる素材も解明されない可能性は高い。期待はあまりできない。


 もう一点、蘇鳥たちに関連するものといえば、柚木のことだ。

 柚木は蘇鳥の護衛だが、シルバーデーモンに襲われた時、護衛を放棄していた。蘇鳥たちが一階層しか探索しないと告げていたので、情状酌量の余地ありとして本格的な懲罰はなかったらしいが、職務怠慢は間違いない。

 上司からお小言を言われて、減給処分もあったらしい。

 申し訳ないとは思うが、蘇鳥たちではどうしようもない。

 ただ、柚木がシルバーデーモンとの戦いに参戦していたら、結果はまた違っていただろう。戦闘で大活躍して、MVPを獲得したかもしれない。しかし、たらればの話だ。二人が戦闘中、柚木はホテルの部屋で惰眠を貪っていたのだから。


 とにもかくにも蘇鳥たちは楽しい8月を過ごした。最後には激動の展開を迎えたが、充実した一ヶ月間だった。


 現在8月31日。

 蘇鳥と氷織の絵似熊市ダンジョン調査は本日で終わりを迎える。まだ夏休みは残っているが、蘇鳥は夏の課題が手つかず状態。大学の講義についていくためにも、ひいては大学を卒業するために、調査を切り上げなければならない。

 蘇鳥だけならダンジョン調査を続けたいのだが、そうなれば氷織も拘束することになる。さすがに忍びない。

 それに伴い、柚木も護衛を終える。しかし、別の調査員が来るので、護衛の仕事はなくならない。

 木皿儀夫婦はまだダンジョン調査を続ける。ただし、頻度は減らすみたいだ。康安は最近ダンジョンストリーマーの活動を休止している。

 視聴者には夏休みと説明しているが、あまり休憩が長いと心配する声も出てくる。ダンジョンストリーマーとしての活動を再開しつつ、並行して絵似熊市ダンジョンの調査を進める。


 蘇鳥たちはホテルの小会場に来ていた。その理由は打ち上げだ。


「みなさん、飲み物は持ちましたか? では、ダンジョン調査、一端終了ということでカンパーイっ!」

「乾杯」

「カンパイ」

「ん」

「カンパイですー」


 蘇鳥の音頭に各々がグラスを掲げる。


「かああ、疲れた体にビールが染み渡るぅ」


 グラスの半分ほどを一気に飲み干した蘇鳥がおっさんくさいことを言う。まだ、ピチピチの大学生だというのに。


「蘇鳥君、お疲れさま。この一ヶ月、どうだったかな?」

「いやー、めっっつちゃ充実してました。絵似熊市ダンジョンには頭を悩まされましたが、康安さんとも知り合いになれましたし、何よりシルバーデーモンの発見という大成果。これで充実してないって言ったら、嘘でしょう」


 蘇鳥の8月は充実していた。絵似熊市ダンジョンでのことはもちろん。プールに行ったり、夏祭りに行ったりしている。

 それに、康安の紹介で田舎の無害ダンジョンでダンジョン再生屋としての活動も行った。しかも、二件だ。

 成果は上々。つまり、売り上げも期待できる。氷織の報酬には色をつけないといけない。


「それは何よりです。紹介した甲斐があるものだ」

「マジ、ありがとうございます。康安さんと知り合いになれて本当に良かったです」

「はは、ありがとう。こちらこそ、蘇鳥君と知り合えてよかったよ。蘇鳥君の視点はとても勉強になったよ。また、何かあったら、よろしくね」

「いつでも呼んでください。なんでもしますよ」


 康安は口角を少しだけ上げる。なんでもします、言質は取った。

 ダンジョン配信のゲストに呼ぶのも悪くない、そんなことを考えるのだった。


「そーとーりーくーん、飲んでるぅ」

「うわ、酒くさ」


 ジョッキ片手に柚木が蘇鳥に絡んでくる。

 打ち上げが始まって間もないというのに、既に柚木は出来上がっている。短時間でたくさん飲んだのか、それともお酒に弱いのか。柚木は後者だった。


「のまないとやってられんでふ。おねえさんはおかねがないんでふ。どうしてくれるんでふか」

「あー、いや、ホントすみません」


 迷宮省所属の冒険者、決して給料は安くない。単に柚木がお金を使いすぎているだけだ。ハイブランドの商品をいくつも買い、常に金欠状態。そこに今回の護衛のミスでの減給。

 かなり切羽詰まっているらしい。そのため、今は節制をしてお金を節約している。

 だからこそ、打ち上げという飲み放題の機会に日頃のストレス発散もかねて、たくさん飲んでしまった。


「まったくもー、そとりくんのバカぁ。もっとしごろさせろー」

「えー、なんで俺、脈絡もなく罵倒されてるんすか?」


 酔っ払いに理屈を求めるのは酷な話だ。なんだか分からないが、その後も柚木に変に絡まれる蘇鳥だった。


「蘇鳥君、食べているかな? 若いんだから、たくさん食べなさい。ほら、取ってあげよう」


 次にやって来たのは木皿儀和奏。柚木は酔い潰れて、そこら辺で眠ってしまった。

 和奏もお酒を飲んでおり、顔が赤らんでいるが、呂律はしっかりしている。柚木のように無茶な飲み方はしていない。


「あっ、はい、食べてます食べてます」


 どうしてこう、年上の人は若者にたくさん食べさせるのだろうか? この世の謎の一つだ。


「蘇鳥君、本当にありがとうね。あの人と仲良くなってくれて。実は、ホテルの部屋で年甲斐もなくはしゃいでいたよ」

「え? どういうことっすか?」

「どうやら、君のような若い子がダンジョンのことに興味を持ってくれて嬉しかったみたいだ。その上、知識もしっかりしているから、対等に話し合えたのが、よっぽど楽しかったみたいだよ。それで部屋では君の話ばかりさ」


 蘇鳥の前ではしゃいでいる素振りは一切なかった。常に冷静沈着というイメージだが、愛する人と一緒の時にはまた違った一面を持っていたらしい。


「ともかくだ、これからもあの人と仲良くしてやってくれ」

「それはもちろんです」

「せっかくの打ち上げなんだ。もっと食べるんだよ」


 それじゃあ、と言って和奏は康安のいる場所に向かうのだった。


「ん、来た」


 次にやって来たのは氷織。


「順番かな、って思って」

「なんの順番だよ」


 代わる代わる蘇鳥の元に人がやって来るが、順番に話さなければならない理由はない。


「氷織、ありがとな。氷織のおかげで8月は楽しい時間を過ごせたよ」

「どういたしまして?」

「なぜに疑問形。まあいいや、シルバーデーモンの一件もあって、かなり報酬が期待できるから、氷織の報酬には色をつけておくな」

「……別にいつもの値段でいいのに」

「そういう訳にもいかん。頑張った人、活躍した人には、それだけ報いないとダメだ。だから、お金はちゃんともらいなさい」

「……わかった」


 お金の問題は業が深い。安い値段でこき使うのは言語道断。信用を失う原因となる。

 かといって、無尽蔵に報酬を支払っていいわけでもない。お金は有限だ。得られた額以上の報酬は支払えない。ない袖は振れない。

 それに、報酬を支払いすぎるとビジネスが立ち行かなくなる。

 相手に納得してもらえる金額を支払いつつ、稼いだ時にはより多くの報酬を支払う。それが蘇鳥のスタイルだ。


「どうだった?」

「また、アバウトな質問だな。それが8月のことを指しているのなら、楽しかったぞ。そういう氷織こそ、今回のダンジョン探索どうだったんだよ」

「いい経験になった。強くなった」

「そうか、互いに充実した夏を過ごしたみたいだな」


 蘇鳥も氷織も8月は成長した一ヶ月だった。

 絵似熊市ダンジョンでは、シルバーデーモン以外のこれといった功績はなかったが、木皿儀夫婦と柚木の指導によって調査員として、冒険者として大きく成長した。


「でも」

「でも、何?」

「次の仕事は、ダンジョン再生屋の仕事がいいな」


 蘇鳥の仕事は本来、ダンジョンの新たな価値を発見すること。決してダンジョンを調査することではない。

 二つは似ているようで、似て非なるもの。

 ダンジョン調査は面白かったし、いい経験になったが、蘇鳥は不完全燃焼だ。


「次こそは、ダンジョン再生屋に仕事が来ますように」

「仕事もいいけど、夏の課題は終わってるの?」

「……うっ、嫌なことを思い出させてくれるな」


 8月は充実した一か月間だった。それは嫌なことから目を背けていたからでもある。

 楽しいことだけしていたのだから、それはそれは充実した期間だった。

 その代償は、これから支払うことになる。


「はあ、課題、憂鬱だ。……今は、課題のことは忘れるぞ。今日はとことん飲むぞおおお!」


 本日は打ち上げ。

 課題のことを考えることにしない。課題については明日の蘇鳥がなんとかしてくれることに賭けるしかない。


 いずれにせよ、蘇鳥と氷織の8月は終わった。


TIPS

シルバーデーモン

絵似熊市ダンジョンの一階層に出現するモンスター。

人型の姿に、ねじ曲がった二本の角、巨大化させたコウモリのような羽を持つ銀色の悪魔。

とても強く、上級の冒険者でも苦戦する。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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