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絵似熊市ダンジョン⑩終わりというのは呆気ない

これまで氷織は何度も【アイスランス】放った。しかし、そのどれもが避けられるか、迎撃されていた。一度も当たっていないかったのに、さきほどの一撃は当たっていた。

 氷織のスキルが今になって向上した? いいやそんなことはない。むしろ、体力が減り疲労が溜まっているので、スキルの精度は落ちている。

 氷織が追い詰められて覚醒していない以上、銀色の悪魔のほうに原因があると考えられる。見る限り銀色の悪魔の体力が減っている様子はない。【アイスランス】が当たる理由がない。


(一瞬だけ、銀色の悪魔の能力が落ちた……とか。いや、そんなことあるか?)


 モンスターの能力が戦闘の途中で落ちるなんて、普通は考えられない。

 スキルの中にはモンスターの能力を下げるものがある。しかし、氷織も蘇鳥もそのようなスキルは使っていない。銀色の悪魔の能力が下がる理由に心当たりはない。


「はぁはぁ…………しんど。っ、【アイスウォール】…………ぐぅ」


 銀色の悪魔の攻撃に氷織の反応が一瞬遅れる。なんとか氷の壁が間に合い、大怪我を負わずに済んだが、悪魔の爪が腕に突き刺さる。


(ヤバいな。氷織の反応が遅れている。体力が底を尽きそうな証拠だ。早く対策を考えないと)


「氷織、無事か?」

「ん、余裕。でも、早く打開策考えて」


 大ダメージを避けても、小さなダメージが積み重なれば、隙を生む。口では余裕と言っているが、言葉ほど余裕がないのは百も承知だ。


(早く打開策を、か。分かってるさ。俺にはそれしかないんだ)


 蘇鳥はもう一度最初から考え直す。


(銀色の悪魔はダンジョンの壁から突然生まれた。その時、俺たちは何もしなかった。何もしていなかった。…………えっ!? 待てよ、ここにヒントが隠されてないか?)


「……そうだ、俺たちは部屋で何もせず、じっとしていた。もしかして、じっとしていることに反応したのか? じっとしている奴を排除するために、モンスターが生まれた、のか? まさか、そんなことがあるのか?」


 絵似熊市ダンジョンの一階層は何もしない奴を排除するためにモンスターを用意するシステムがあるのかもしれない。

 普通では考えられないが、普通のダンジョンじゃない以上、普通に考えるのがナンセンスだ。


「……何もしないことがダメ、なのか? ここに勝機がある? 待てよ、さっき銀色の悪魔が攻撃を食らった時、俺が動いた時だった。まさか、俺が動くとモンスターが弱くなる……のか?」

「さっきから、ぶつくさ言ってるけど、起死回生の策は思い浮かんだの?」

「分からん。が、とりあえず、試してみたいことがある。俺が動くから、サポートを頼む」


 鬼が出るか蛇が出るか。蘇鳥は自分の仮説を検証するため、動き出す。物理的に。

 護衛対象が適当に動き出すと護衛が難しくなる。仮説が間違っていたら、氷織に負荷をかけることになる。


「あれ、遅くなった」


 効果は覿面だった。

 蘇鳥が動けば動くほど、銀色の悪魔のスピードが目に見えて落ちる。


「おいおい、本当に効果があるのかよ! 意味が分からんが、とにかく攻撃だ。氷織、今のうちに倒してしまえ」

「任せて。【アイスランス】【アイスランス】、もういっちょ【アイスランス】。おまけにこれも食らいなさい【パニッシュメントアイスランス】!」


 どうやら、蘇鳥が動けば動くほど、銀色の悪魔は全部が弱くなるらしい。攻撃力、防御力、素早さ、スキルの威力など、氷織が楽に対処できるまで能力が落ちている。


「こんなダンジョン初めてだよ」


 冒険者が動けば動くほど、モンスターが弱くなるダンジョンなど、ここ以外に存在しない。本当に絵似熊市ダンジョンは謎ばかりだ。


「…………ガア」


 銀色の悪魔は虫の息。

 先ほどまでの威勢はなく、動きに精細さが微塵もない。ただの雑魚モンスターに成り下がっていた。


「これで、トドメ【アイスソード】」


 斬。

 氷織は氷の鋭い剣で、銀色の悪魔の首を刎ねる。今まで傷をつけることもできなかった肌が、容易く斬れる。豆腐かバターか、そのくらい抵抗が弱かった。


「終わり」

「終わったああああ」


 脅威は呆気なく排除された。銀色の悪魔は討伐され、元の静かなダンジョンに戻る。

 銀色の悪魔がいた場所には、銀色の素材と魔石が落ちている。魔石は特に変わった様子はない。他のモンスターが落とす魔石と同じだろう。

 銀色の素材は壁と同じものだと思われる。これを解析すれば、ダンジョンのことが少しは分かるようになるかもしれない。研究が捗ることを願うばかり。

 蘇鳥たちは、魔石と銀色の素材を拾うとそそくさとダンジョンから脱出する。ダンジョン内でゆっくりして、もう一度銀色の悪魔が出てこられても困る。銀色の悪魔と対峙する前に脱出するに限る。


「アイス、食べたい」

「いくらでも奢ってやる」

「高いの、美味しいやつ」

「かまへんかまへん。どんとこいや」


 地上に帰って来たら、こっちのもの。モンスターは隔門を通って、地球に来ることはできない。安全が確保できたので、二人に笑顔が戻ってくる。

 これから銀色の悪魔について報告しなければならないが、一つの区切りはついた。

 今回の依頼、ダンジョン再生屋の依頼とは異なるが、蘇鳥の実績となるだろう。今後、ダンジョン再生屋の仕事がやりやすくなるかもしれない。


TIPS

アイスソード

氷の剣を作成するスキル。飛ばすこともできるし、近接武器として活用することも可能。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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