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燈火村ダンジョン③価値のないダンジョンの活用法

 ダンジョンを出た二人は車に乗り込み、燈火村の村役場までやって来ていた。

 蘇鳥は役場の応接室に通され、ダンジョンの決定権を持つ人を一人で待っていた。蛍が決定権を持つ人に話を通しているので、応接室に寂しく一人なのだ。

 程なくしてガチャリと扉が開き、見知らぬ男性と先ほどまで一緒にいた蛍が入室する。蘇鳥はソファから立ち上がり、挨拶をする。


「はじめまして、ダンジョン再生屋の蘇鳥と申します。この度はご依頼ありがとうございます」

「遅れて申し訳ない。燈火村で村長をしている蛍光三郎です」


 蛍光三郎は背は低く、腰が少し曲がっている。髪は白く、顔も手も皺だらけだ。

 くしゃくしゃとした笑顔は人を安心させる魅力がある。

 田舎の優しいおじいちゃん、それが蘇鳥の第一印象だ。


「え? 蛍さんですか?」


 蘇鳥の視線が蛍明と蛍光三郎の間でさまよう。


「明は私の孫です。美人じゃろ」

「あっ、お孫さんなんですね。ええ、とっても美しいと思います」

「……恥ずかし」


 蛍光三郎はほっほっほっと笑うと、蘇鳥にソファに座るよう促す。当の褒められた蛍明はボソッと呟いて、顔を少し赤らめる。恥ずかしさを隠すように、三人分のお茶とお菓子を用意するのだった。

 準備の間、蘇鳥と蛍光三郎は名刺を交換する。いつの時代になっても、名刺という文化はなくならない。特に田舎では。


「さて、蘇鳥くんや。明に聞いたところ、ダンジョンの使い道があるそうじゃないか? 詳しく聞かせてくれるかな」

「もちろんです。それが仕事ですから」


 蛍光三郎の眼光が鋭くなる。優しい田舎のおじいちゃんというイメージは変わらないが、為政者としての一面を持ち合わせているのは間違いない。

 蘇鳥の燈火村ダンジョンの新たな活用法の説明が始まる。


「まず確認したいのですが、村長さんはダンジョンを使って何をしたいのですか?」

「何を、というと?」

「たとえば、ダンジョンを使って村に人を呼びたい、特産品を作りたい、移住者を増やしたい、などの具体的なビジョンはありますか?」


 蘇鳥の頭にはダンジョンの活用法があるが、村長の目的によっては考えた活用法が使えない。使えたとしても、内容を一部変更したりする必要がある。

 そのため、最初に村長の目的を聞いて、最終的な着地点をすり合わせる必要がある。


「ふむ、恥ずかしながら、私はあまりダンジョンについては詳しくなくてな、これといって活用法があるわけではない。放置するのはもったいないのでな、何かしら有効活用できればいい、というのが素直な感想だ」

「ありがとうございます。理解しました」


 村長の言葉に内心ホッとする蘇鳥。仮にダンジョンに冒険者を呼びたい、とでも答えられたら、一から考えなおさなくてはいけなかった。蘇鳥が考えた新たな価値は冒険者を直接呼び寄せるようなアイデアではない。

 何でもいいのなら、考えた活用法で問題ない。


「では、燈火村ダンジョンの活用法を率直に伝えたいと思います。それはーー」


 もったいぶるように、一拍溜める。期待を持たせる演出は大事だ。


「魔力草を育てることです!」


「魔力草ですかっ! 魔力草が作れるのなら、すごいことですよ」


 大きなリアクションをしたのは孫の明のほう。彼女はダンジョン担当として魔力草が何なのかを知っているようだ。


「魔力草とは、何だったかな? 聞いたことはあるが、覚えていないな。ダンジョンのことは門外漢でな、説明してくれるかな?」

「魔力草とは、文字通り魔力を含んだ薬草のことです。摂取すると魔力を回復することができます。冒険者垂涎のアイテムです。おじいーー村長」


 明は魔力草に詳しい一方で、光三郎は魔力草を知らない。

 魔力草は冒険者が喉から手が出るほど欲するアイテムの一つだ。

 正確には、魔力草から作られる魔力ポーションが冒険者には重要なアイテムとなる。

 ダンジョンでは魔力がすべてだ。モンスターを攻撃するにも、モンスターからの攻撃を守るにも必要で、怪我の回復にも魔力を使う。

 ダンジョン探索において、魔力は絶対的に必要になる。

 そのため、冒険者として実力を高めるには、魔力の上手な運用と管理が必須になる。

 とはいえ、魔力にも限界がある。どんなに効率的に運用しても、ダンジョンを探索していたら、いつかは魔力が枯渇する。

 しかし、魔力ポーションがあれば、そんな枯渇した魔力を回復させることができる。魔力が潤沢にあれば、ダンジョン探索がはかどる。故に、冒険者は魔力ポーションを欲する。

 そして、魔力ポーションの重要で最大の素材が魔力草だ。魔力草は作れば作るだけ売れるし、高く買い取ってもらえる。魔力草を加工して、魔力ポーションにしてもいい。

 ともあれ、魔力草があればいくらでも稼げる。


「なるほど。しかし、だ。それだけ冒険者が欲するのなら、誰もが魔力草を育てるのではないかね? その上、高値で取引されているのなら、尚更な」

「そうですね、確かにその通りです。育てられるのなら、育てたいでしょう」

「含みがあるね。簡単には育てられないということかな? だとしたら、燈火村で育てるのも難しかろう」

「いえ、魔力草を育てるのはとても簡単です。育てるだけなら、ダンジョンならどこでも育てられますし、専門の知識がなくても育てることが可能です」


 魔力草の育て方は、本当に簡単だ。

 まず、最初にすることは魔力草の種をダンジョンに植えること。その際、肥料があるとすくすく育つが、肥料がなくてもいい。

 次に必要なのは、魔力だ。しかし、魔力はダンジョンならどこにでもある。ダンジョン内なら、実質どこでも育つ。

 あと、必要になるのは、水だ。魔力草はよく水を吸う。大量の水がないと枯れてしまう。

 この種、肥料、魔力、水の四つがあれば、種を植えるだけで魔力草は勝手に育つ。それ以外にすることはない。


「そんなに簡単に育つというのなら、燈火村でも育てられるだろう。ならば、多くのダンジョンで魔力草を育てているのではないかね?」

「魔力草を育てるのは簡単でも、そこにはいくつか乗り越えなければならない壁があります。そのため、育てたくても育てられないのです」


 魔力草を育てるハードルは高いが、燈火村ダンジョンなら楽に乗り越えることができる。燈火村ダンジョンは魔力草を育てるためのダンジョンと言っても過言ではない。


TIPS

蛍光三郎ほたる・こうざぶろう

燈火村の村長。燈火村で生まれ、燈火村と共に育った。燈火村を支える為政者。

ダンジョンを有効活用したい思惑を持つ。

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