絵似熊市ダンジョン④新たな仲間とダンジョン調査開始
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翌日、ホテルのラウンジには五人の姿があった。
蘇鳥輪火、氷織入瑠香、木皿儀康安、木皿儀和奏、柚木るるなの五人だ。
昨日、一緒にダンジョン調査をしないかと持ち掛けれた蘇鳥はフリーズから戻ると、二つ返事でOKを出した。氷織にも確認を取ったが問題がなかったので、木皿儀と固い握手を交わして、合同のダンジョン調査の約束をした。
木皿儀としても、何度かダンジョンに潜っているのに芳しい成果を得られていない。一人ではどうにもならなさそうなので、一緒に調査してくる人を探していた。
そこに調度よさそうな冒険者がいたので声をかけるに至ったのだ。もちろん、蘇鳥のダンジョンに関する知識が素晴らしかったのも声をかける要因の一つになった。
蘇鳥は氷織の胆力も密かに評価されたのでは、と考える。初対面の年上を前に、堂々と居眠りする姿は普通ではない。氷織の胆力が認められたのではないか、と邪推をするのだった(実際には、木皿儀は氷織のことをかわいいな、くらいにしか考えていない。完全に蘇鳥の勘違いだ)。
「みなさん、揃いましたね。軽く自己紹介を済ませましょう。初対面の人もいるみたいですし」
蘇鳥と氷織はセット、木皿儀夫婦ももちろんセット。合同でダンジョン調査をすることになったので、四人が揃っていることに不自然さはない。異物は残りの一人、柚木るるなだ。
「みなさん始めまして、迷宮省所属の冒険者、柚木るるなです。今回は蘇鳥さんの護衛として派遣されました。よろしくお願いします」
柚木はハキハキ喋る元気な女性だった。大学時代からダンジョンに潜っており、時おり迷宮省の仕事もしていた。今年、大学を卒業し、そのまま迷宮省に雇われることになった。
現役大学生の蘇鳥と氷織とはほぼ同世代となる。
「あたしはダンジョン調査の方針についてはノータッチです。ご自由に調査してください。もちろん、危険なことをしようとしているのなら止めますし、強制的に返っていただくこともあります。そちらはご了承ください」
蘇鳥もダンジョンで危険なことをするつもりはない。口を挟まないのはありがたい。
クライアントにあーだこーだ言われると、できる仕事もできなくなる。調査の仕事は現場に任せればいいのだ。餅は餅屋なのだ。
蘇鳥に護衛がつく一方で、木皿儀夫婦には護衛はいない。
もしかして、迷宮省からの監視か、と疑いの視線を向ける。どこの馬の骨とも知らぬ冒険者。不正や変なことをしないか見張るために迷宮省から派遣されたのだろうか?
疑いの視線が柚木に向く。
「蘇鳥さん、もしかしてあたしのこと疑ってます? 監視とかそういうのはないですよ。本当にただの護衛ですよ。木皿儀さんに護衛がいないのは、不要だと判断されたからですよ」
木皿儀夫婦はたくさんの実績がある。迷宮省から仕事を受けることもあった。信頼があるので、護衛は不要と判断されたみたいだ。
「それと冒険者って報告書を書く機会がないじゃないですか。だから報告書の書き方を知らない人が多いんですよ。同行すれば報告書に不備がないかチェックできますし、書き方も教えることができます」
冒険者の仕事はモンスターを倒したり、アイテムを持ち帰ること。報告書を書くことはない。そのため、迷宮省のフォーマットに従った報告書の書き方を知らない。
そんな困った冒険者を補助するためにも、迷宮省からのサポートが入るようだ。
蘇鳥は少ないながらも報告書を書き上げた経験がある。だから、そこのサポートは不要だ。柚木の仕事は本当に護衛だけらしい。
「嘘、ついてないと思う」
「そっか、疑って申し訳ありません。護衛のほど、よろしくお願いします。よろしくついでに自己紹介すると、蘇鳥輪火です。左足は怪我で失い、左腕もほとんど動きません。そのため、ダンジョン内での戦闘はできないと思ってください。その代わり調査のほうが任せてください。改めて、よろしくお願いします」
「ん、氷織入瑠香。氷系のスキルが得意。よろしく」
「木皿儀康安です。戦闘はそこそこできますが、あまり期待しないでください。ダンジョン調査で尽力したいと思います。みなさん、よろしくお願いします」
「木皿儀和奏。戦闘については任せてほしい。蘇鳥君、氷織ちゃん、柚木ちゃん、よろしく」
五人の顔合わせも済み、柚木の誤解も解けた。早速絵似熊市ダンジョンの調査開始だ。
絵似熊市ダンジョンに入ったことがないのは蘇鳥と氷織の二人。残りの三人は経験済み。木皿儀夫婦はダンジョン調査で何度も入っているし、柚木も別の調査員を護衛する際に入ったことがある。
一階層には危険がないことが判明している。そこで、木皿儀夫婦は一階層の探索を蘇鳥と氷織に任せることにした。ダンジョンに慣れさせるという意味もある。柚木は護衛なので、特に何かを言うことはない。
絵似熊市ダンジョンは一緒に入らないと別々の入口に飛ばされてしまう。体が接触していれば問題がないので、五人は手を繋いで隔門を通り抜けるのだった。
成人している大人五人が手を繋ぐ姿は傍から見たらシュールだろう。しかし、絵似熊市ダンジョンではこれが通常運転だ。はぐれないために手を繋ぐ。
「みなさん、いますか? はぐれた人がいたら返事をしてください」
「はぐれた人は返事ができないと思います」
「あなた、何をやっているのかしら? こんなことをするためにダンジョンに入ったわけじゃないでしょう。それと、蘇鳥君も主人の変なことに付き合わないでちょうだい、調子に乗るから」
木皿儀康安はみんなの緊張(特に蘇鳥と氷織)を解そうと小ボケを挟んだのだが、和奏には不評だったみたいだ。
「一、二、三、四、ちゃんと全員いますね。本当にバラバラに飛ばされるのか、試してみたい気持ちもありますが、それはまたの機会とします。それではダンジョン調査を始めましょう」
絵似熊市ダンジョンでは一階層から驚かされる。というのも目を開くと銀色一色だからだ。地面、壁、天井、どこもかしこも銀色。
まるでアルミホイルを綺麗に貼り付けたようなダンジョンだ。事前に知っていても、インパクトは強烈だ。
「にしても、本当に銀一色ですね。少し、調べても構いませんか?」
「はい、問題ありません。一階層にはモンスターが出ませんから」
絵似熊市ダンジョンの一階層は銀一色の世界にも驚かされるが、もう一つおかしなことがある。それはモンスターが出現しないこと。
透明なモンスター、極小のモンスター、潜伏してるモンスターなど、色々と可能性を考慮したが、モンスターの痕跡は一切発見できなかった。現在ではモンスターが出現しない階層として扱われている。
だから、護衛の三人も本格的には周囲を警戒していない。それとなく周囲を探っているが、モンスターは警戒していない。
警戒しているのは他の冒険者。時折、冒険者同士でいざこざが起きることがある。今回は身元が確かな人しか集められていないが、警戒することに越したことはない。
ともあれ、安全は確保されている。蘇鳥は銀色の壁を存分に調べるのだった。
数分後。
「マジで何も分からんかった」
手触りは金属っぽいのだが、金属であるかも不明。材質すら分かっていない。
というのも採掘に成功していないからだ。掘削する機械、掘削できるスキル、攻撃スキルなどで採掘に挑戦したが一欠片も得られていない。完全にお手上げ状態だ。
しかも、不思議なことに触った場所によって、温度と柔らかさが異なる。温度によって柔らかさが変化する素材はあれど、ダンジョン内は一定の温度に保たれている。少し触った箇所が違うだけ温度や柔らかさが違うのは不思議でしかない。
蘇鳥も先人たちと同じく、何の成果も得られなかった。
しかし落ち込むことはない。未知の事象を解明するのも楽しいのだから。
康安は蘇鳥の姿を見て、うんうんと頷く。自身も同じ経験をしたからだ。
「モンスターが出ない理由も気になりますが、このまま二階層に行きましょう」
一行は歩いて二階層を目指すのだった。
TIPS
木皿儀和奏
木皿儀康安の妻。夫の護衛を担当している。冒険者としての実力が高く、また美人なので多くのファンがいる。
夫との出会いはダンジョン。
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